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章1
その心に住む誰かさん(1)
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必要物資をすべてそろえた透は、子供用の面を被った詩絵里とルイーザに連れられて街はずれのダンジョンまでやってきていた。
ここしばらくずっと護衛してくれていた勝宏は、今回は別行動だ。
チームの頭脳を担う詩絵里と乙女ゲームのシナリオを把握している商人出のルイーザがいると、交渉が非常にスムーズに進む。
敵勢力に転生者はいまのところ見かけない。
元日本人がいれば詩絵里たちが被っているヒーローものの縁日のお面で待ったをかけるはずである。
ということは、この乙女ゲームの敵陣営には転生者は含まれていないか、もしくは表舞台まで出てくる必要のない幹部の立場にあるか。
どちらにせよ、今回の一件を解決するまでは転生者と遭遇することはなさそうだ。
詩絵里とルイーザが連れてきた女――透の手の甲には、冒険者の烙印が描かれている。
無論こちらは詩絵里の創作魔法によるカムフラージュだが、透が女性冒険者であると見るや、あっさり迎え入れられてしまった。
透の服装は普段のそれではなく、この世界の女性冒険者が好んで使用する軽装だ。
革鎧の類も装備したかったのだが、例によって透には装備不可能だったため再現できたのは服装のみである。
両手は胸の前で手錠をかけられており、首輪に鎖まで繋がれた恰好になっている。
手錠、首輪、鎖すべてジョークグッズだが、意外とバレないものだ。
「ちょうどいい。上から支給されたこの監視カメラという魔道具に侵入者が確認されたところだ。初仕事としておまえたちには、ネズミの始末をしてもらおう」
黒いフードを目深に、顔の見えない男が詩絵里とルイーザに任務を言い渡す。
「アタイらはそれで構いやしないけど、この女はどうすんのさ?」
「はあ、侵入者の相手とかマジ超たるいんですけどお」
こちらの台詞、順にルイーザと詩絵里のものである。
口調のすっかり変わった女性陣を横目に、演技派だなあと感心していると、男の手が透の鎖を掴んだ。
「この女は検体として問題ないか確認のうえ、施設に輸送する」
なんだかどこかで聞いたような話だ。
悪の組織ってどこでも人体実験してるもんなんだろうか。
ともかく、危なくなったら転移で逃げる。
できればマリウスたちと戦っている場所に飛び、あからさまに人質感を演出すべし。
それが詩絵里から言われた透の仕事だ。
以前は透が転移で逃げなかったばっかりに、勝宏によけいな心配をさせてSスキルを悪化させるはめになった。
今回は躊躇わず、安全第一で挑む。
と、そこで自分の失敗に気付いた。
危なくなったら逃げろと言われていたが、まず「危なくなったら」の基準を聞いていなかったのだ。
その事実に透が愕然としたのは、奥の部屋に連れていかれて服を剥ぎ取られた時だった。
ここまで前回と同じ展開だなんてさすがにおかしい。
が、今回に関しては身体チェックの名目で脱がされただけであり、性的な行為に及ぶような気配はなかった。
これは、逃げるべきなんだろうか。
口の中やら股の中やら、結局チェックが終わるまで逃げるタイミングが分からずに終わってしまう。
着てきた衣服は返してはもらえず、渡された薄布一枚に身を包む。
「問題ないだろう。連れていけ」
身体を確認していた男がそう指示を出すと、透を連れてきたフードの男はそのまま鎖を引いてアジトの奥に歩き始めた。
透は繋がれた鎖に引っ張られる形で付き従う。
通された部屋の中心には、非常に見覚えのある祭壇があった。
四隅に拘束具がついている。
いくらなんでもこれは分かる。
ここの人たち、ウルティナの一件で敵対した連中と関係のある組織だ。
しかし、あの時は確かスマホを用いての種の移植が目的だったはず。
スマホを使える転生者は既に倒され、そのスマホ自体も詩絵里の手の中だ。
ではここではいったい、何の人体実験が行われるというのだろう。
『おい透、また様子見しようとか言うんじゃねえだろうな』
(言いません)
ちょっと気になることは確かだが、今回の主目的は敵情視察ではない。
前回の二の舞になって勝宏のバグが進行する方がよっぽどまずい。
調べるなら、一通り片付いてしまってから詩絵里をまじえての調査が確実だ。
男に連れられて祭壇まで進む。
この間のように拘束されるのかと身構えたが、ただ座らされただけだった。
透の身体を確認していた男たちの言い分では、これまでにも何度か女性冒険者を捕らえて実験台にしたような口ぶりであった。
ウルティナの話では、<嫉妬の種>は成功したかどうかに関わらず、発動は一度限りだったはず。
ほかの大罪にあたる種があったとしても、最大で6つ。
捕らえられた女性冒険者たち全員が大罪の種を仕込まれ続けている、と考えるのはちょっと無理がある。
『まだ戻らないのか?』
(あ、うん。戻るよ)
思考の海に入りかけていた透を、ウィルが引き上げた。
透を連れてきた男は、持っていた鎖を祭壇の拘束具に一か所繋げただけで部屋を出て行ってしまった。
そして転移で逃げる瞬間、透は視界の端で一人の少年が部屋に入ってくる姿を目撃する。
(あ……)
『どうした?』
(いま、誰かさっきの部屋に入ってこようとしてたような)
『そりゃ、あれだろ。実験しようとしていた連中だろ』
そんな感じではなかったような気がする。
が、今更戻るわけにもいかない。
ウィルによって飛ばされた先は、詩絵里の指定通り、マリウスとデヴィッド、スキルで変身している勝宏の三人が戦っている地点である。
「トール! 無事だったか!」
「服装からして無事って感じには見えないが……彼女がこの場所で暴行を受けていたなら、マリウス、君がケアをしてあげなければいけないよ」
透のあられもない姿を見て、マリウスとデヴィッドが口々に言い放つ。
いや、今回に関しては本当に服を取られてしまっただけです。
ここしばらくずっと護衛してくれていた勝宏は、今回は別行動だ。
チームの頭脳を担う詩絵里と乙女ゲームのシナリオを把握している商人出のルイーザがいると、交渉が非常にスムーズに進む。
敵勢力に転生者はいまのところ見かけない。
元日本人がいれば詩絵里たちが被っているヒーローものの縁日のお面で待ったをかけるはずである。
ということは、この乙女ゲームの敵陣営には転生者は含まれていないか、もしくは表舞台まで出てくる必要のない幹部の立場にあるか。
どちらにせよ、今回の一件を解決するまでは転生者と遭遇することはなさそうだ。
詩絵里とルイーザが連れてきた女――透の手の甲には、冒険者の烙印が描かれている。
無論こちらは詩絵里の創作魔法によるカムフラージュだが、透が女性冒険者であると見るや、あっさり迎え入れられてしまった。
透の服装は普段のそれではなく、この世界の女性冒険者が好んで使用する軽装だ。
革鎧の類も装備したかったのだが、例によって透には装備不可能だったため再現できたのは服装のみである。
両手は胸の前で手錠をかけられており、首輪に鎖まで繋がれた恰好になっている。
手錠、首輪、鎖すべてジョークグッズだが、意外とバレないものだ。
「ちょうどいい。上から支給されたこの監視カメラという魔道具に侵入者が確認されたところだ。初仕事としておまえたちには、ネズミの始末をしてもらおう」
黒いフードを目深に、顔の見えない男が詩絵里とルイーザに任務を言い渡す。
「アタイらはそれで構いやしないけど、この女はどうすんのさ?」
「はあ、侵入者の相手とかマジ超たるいんですけどお」
こちらの台詞、順にルイーザと詩絵里のものである。
口調のすっかり変わった女性陣を横目に、演技派だなあと感心していると、男の手が透の鎖を掴んだ。
「この女は検体として問題ないか確認のうえ、施設に輸送する」
なんだかどこかで聞いたような話だ。
悪の組織ってどこでも人体実験してるもんなんだろうか。
ともかく、危なくなったら転移で逃げる。
できればマリウスたちと戦っている場所に飛び、あからさまに人質感を演出すべし。
それが詩絵里から言われた透の仕事だ。
以前は透が転移で逃げなかったばっかりに、勝宏によけいな心配をさせてSスキルを悪化させるはめになった。
今回は躊躇わず、安全第一で挑む。
と、そこで自分の失敗に気付いた。
危なくなったら逃げろと言われていたが、まず「危なくなったら」の基準を聞いていなかったのだ。
その事実に透が愕然としたのは、奥の部屋に連れていかれて服を剥ぎ取られた時だった。
ここまで前回と同じ展開だなんてさすがにおかしい。
が、今回に関しては身体チェックの名目で脱がされただけであり、性的な行為に及ぶような気配はなかった。
これは、逃げるべきなんだろうか。
口の中やら股の中やら、結局チェックが終わるまで逃げるタイミングが分からずに終わってしまう。
着てきた衣服は返してはもらえず、渡された薄布一枚に身を包む。
「問題ないだろう。連れていけ」
身体を確認していた男がそう指示を出すと、透を連れてきたフードの男はそのまま鎖を引いてアジトの奥に歩き始めた。
透は繋がれた鎖に引っ張られる形で付き従う。
通された部屋の中心には、非常に見覚えのある祭壇があった。
四隅に拘束具がついている。
いくらなんでもこれは分かる。
ここの人たち、ウルティナの一件で敵対した連中と関係のある組織だ。
しかし、あの時は確かスマホを用いての種の移植が目的だったはず。
スマホを使える転生者は既に倒され、そのスマホ自体も詩絵里の手の中だ。
ではここではいったい、何の人体実験が行われるというのだろう。
『おい透、また様子見しようとか言うんじゃねえだろうな』
(言いません)
ちょっと気になることは確かだが、今回の主目的は敵情視察ではない。
前回の二の舞になって勝宏のバグが進行する方がよっぽどまずい。
調べるなら、一通り片付いてしまってから詩絵里をまじえての調査が確実だ。
男に連れられて祭壇まで進む。
この間のように拘束されるのかと身構えたが、ただ座らされただけだった。
透の身体を確認していた男たちの言い分では、これまでにも何度か女性冒険者を捕らえて実験台にしたような口ぶりであった。
ウルティナの話では、<嫉妬の種>は成功したかどうかに関わらず、発動は一度限りだったはず。
ほかの大罪にあたる種があったとしても、最大で6つ。
捕らえられた女性冒険者たち全員が大罪の種を仕込まれ続けている、と考えるのはちょっと無理がある。
『まだ戻らないのか?』
(あ、うん。戻るよ)
思考の海に入りかけていた透を、ウィルが引き上げた。
透を連れてきた男は、持っていた鎖を祭壇の拘束具に一か所繋げただけで部屋を出て行ってしまった。
そして転移で逃げる瞬間、透は視界の端で一人の少年が部屋に入ってくる姿を目撃する。
(あ……)
『どうした?』
(いま、誰かさっきの部屋に入ってこようとしてたような)
『そりゃ、あれだろ。実験しようとしていた連中だろ』
そんな感じではなかったような気がする。
が、今更戻るわけにもいかない。
ウィルによって飛ばされた先は、詩絵里の指定通り、マリウスとデヴィッド、スキルで変身している勝宏の三人が戦っている地点である。
「トール! 無事だったか!」
「服装からして無事って感じには見えないが……彼女がこの場所で暴行を受けていたなら、マリウス、君がケアをしてあげなければいけないよ」
透のあられもない姿を見て、マリウスとデヴィッドが口々に言い放つ。
いや、今回に関しては本当に服を取られてしまっただけです。
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