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章1
明日世界が終わるなら、最後の夜は誰と過ごしたいですか?(1)
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詩絵里には申し訳ないが、彼女に打ち明けたことで気休めにはなった。
五日目の朝。
エリアスが滞在している宿へ頼まれていた避妊具を届けに行ったところ、彼らはちょうど宿を出るために荷物をまとめ始めていたところだった。
「あ、師匠! この間は拠点用ダンジョン見つけてくれてありがとうね。
早速エリアスがコア登録してきたから、今からお引越しなのよ」
真っ先に透を見つけたネールが駆け寄ってくる。
師匠はやめていただきたい。
透はただ、誰でも作れるかき揚げのレシピを渡しただけである。
「神の戦いは選ばれた人間同士の命をかけたものと聞いています。
いつかエリアスくんと戦うことになるかもしれないのに、ここまでしていただいて本当に感謝しています、師匠」
ヤヨイがネールに続いて透に軽く会釈する。
だから師匠はやめてください。
「うんうん。はあー、師匠が神の戦いの参戦者でなきゃ、エリアスとの愛の巣に遊びに来てほしいのに」
「ネールさん。私も居ますからね」
「分かってるわよー」
相変わらず、エリアスはこの可愛らしい女の子二人に愛されているようでなによりである。
「あの、これ……」
「ああ、透。これは例のアレか」
「は、はい」
「そのままアイテムボックスに突っ込むから、開けなくていいよ」
そういうことに使うための消耗品。
女の子には見られたくないですよね。
念のため、勝宏の分だけ取り出して、段ボールごと持ってきたが正解だったようだ。
まるで違法ドラッグの取引でもしているかのように体でさりげなく隠しながらの受け渡しを終える。
エリアスがアイテムボックスに収納を済ませたところで、ネールが透の手元を覗き込んできた。
「師匠、前から気になってたんだけど。その指輪、もしかして好きな人からのプレゼント?」
「えっ」
彼女が指したのは、透の左手につけられた指輪。
攻撃力がほんのちょっとだけ上がるしょっぱい性能の装備品だ。
ネールの言う通りプレゼントではあるが、これは勝宏が誤って渡してきたものをそのまま貰ってしまっただけであって。
深い意味なんて。
「寡黙な師匠が珍しく喋る時って、いつもその指輪触ってるでしょ? 恋人のこと考えながら喋ってるのかなーって思って」
「確かに、私もそれは気になっていました。高額ではありますがありふれた装備品ですので、確証は持てませんでしたけれど」
好きな人から贈られたものと誤解されるには、それなりに理由があったようだ。
いつの間にか指輪に触れる癖ができていたなんて、知らなかった。
考えてみれば、頑張って他人と話そうとしている時に勝宏に縋ろうとするのは不思議ないことだ。
無意識とはいえ、受験勉強の際に太宰府天満宮で神頼みしたくなるのと同種のもののように思う。
「こ、恋人、では……ないです……あの、俺」
「え! 師匠まさかの片思い!? お世話になったし、協力するよ!」
「私も、あまり積極的なほうではありませんけれど、むしろネールさんよりは師匠の性格に近いアドバイスができるかもしれません」
「ちょっとヤヨイ、それどういう意味!」
恋バナと見ると途端に盛り上がるのは、異世界でも日本でも変わらないらしい。
むしろ娯楽に触れることの少ない異世界の女性の方が食いつきがいいかもしれない。相手は勝宏、恋バナにはならないが。
「あ、あの……」
「ごめんな、時間があるなら付き合ってやってくれ。聞かれたくない話なら俺は席を外すから」
「え、あ、ちょっと……」
言い争いを始めた女性二人を前に、エリアスがそそくさと部屋から退散した。
彼の荷物がまだ部屋の隅にあることを考えると、ギルドかショップにでも向かったのだろう。
ひょっとしなくても、この場を押し付けられたか。
吠えるネールの声を無視して、ヤヨイが透の左手をそっと取る。
「師匠のお国ではどのような意味を持つか存じませんが、私の故郷では、左手にこれを付けるのは「私を見てほしい」という気持ちの現れと言われています。切ない恋をされているんですね」
してません。
「ええ、師匠! 女の子はね、そういう思わせぶりなのも好きだけど、もっとハッキリ言葉にした方がいいよ絶対。
プレゼントをそういう気持ちでつけてるの見て、その子嫌がってたり外してとか言ったりしてないでしょ?」
「あ、はい……えっと、このままつけてて、とは言われました、けど……でも、これはもともと、あの、間違えて渡されたもので」
この指輪は、透が女の体になったと知らずに裸を見てしまい、動揺した勝宏が勢いでプロポーズしてきた時のものである。
そこに、彼女たちの期待するような惚れた腫れたの愛憎劇などはない。
「ないない! 間違えて渡してたら、あとで回収してるよ! このままつけてて、なんて絶対言わないって。
だってそのまま付けさせてたら、他の男に勘違いされちゃうじゃん」
「私の伺う限りでは、十中八九、お二人は気持ちを同じくして想い合っておられますよ」
やはり、この指輪を渡してきた相手が、異性――女の子であると思われている。
大前提の性別が違うのでは、参考にはならないだろう。
話してしまったほうがいいかもしれない。
「あの、でも、この指輪は……勝宏から貰ったものなんです」
意を決して口に出すと、二人が一瞬閉口した。
「師匠と一緒に居た――マサヒロ? あの、なんかちょっと馬鹿っぽい男の人?」
「ネールさん、師匠のご友人に失礼です」
「おっと、ごめんごめん。でも、え、男の人に、指輪貰ったの?」
五日目の朝。
エリアスが滞在している宿へ頼まれていた避妊具を届けに行ったところ、彼らはちょうど宿を出るために荷物をまとめ始めていたところだった。
「あ、師匠! この間は拠点用ダンジョン見つけてくれてありがとうね。
早速エリアスがコア登録してきたから、今からお引越しなのよ」
真っ先に透を見つけたネールが駆け寄ってくる。
師匠はやめていただきたい。
透はただ、誰でも作れるかき揚げのレシピを渡しただけである。
「神の戦いは選ばれた人間同士の命をかけたものと聞いています。
いつかエリアスくんと戦うことになるかもしれないのに、ここまでしていただいて本当に感謝しています、師匠」
ヤヨイがネールに続いて透に軽く会釈する。
だから師匠はやめてください。
「うんうん。はあー、師匠が神の戦いの参戦者でなきゃ、エリアスとの愛の巣に遊びに来てほしいのに」
「ネールさん。私も居ますからね」
「分かってるわよー」
相変わらず、エリアスはこの可愛らしい女の子二人に愛されているようでなによりである。
「あの、これ……」
「ああ、透。これは例のアレか」
「は、はい」
「そのままアイテムボックスに突っ込むから、開けなくていいよ」
そういうことに使うための消耗品。
女の子には見られたくないですよね。
念のため、勝宏の分だけ取り出して、段ボールごと持ってきたが正解だったようだ。
まるで違法ドラッグの取引でもしているかのように体でさりげなく隠しながらの受け渡しを終える。
エリアスがアイテムボックスに収納を済ませたところで、ネールが透の手元を覗き込んできた。
「師匠、前から気になってたんだけど。その指輪、もしかして好きな人からのプレゼント?」
「えっ」
彼女が指したのは、透の左手につけられた指輪。
攻撃力がほんのちょっとだけ上がるしょっぱい性能の装備品だ。
ネールの言う通りプレゼントではあるが、これは勝宏が誤って渡してきたものをそのまま貰ってしまっただけであって。
深い意味なんて。
「寡黙な師匠が珍しく喋る時って、いつもその指輪触ってるでしょ? 恋人のこと考えながら喋ってるのかなーって思って」
「確かに、私もそれは気になっていました。高額ではありますがありふれた装備品ですので、確証は持てませんでしたけれど」
好きな人から贈られたものと誤解されるには、それなりに理由があったようだ。
いつの間にか指輪に触れる癖ができていたなんて、知らなかった。
考えてみれば、頑張って他人と話そうとしている時に勝宏に縋ろうとするのは不思議ないことだ。
無意識とはいえ、受験勉強の際に太宰府天満宮で神頼みしたくなるのと同種のもののように思う。
「こ、恋人、では……ないです……あの、俺」
「え! 師匠まさかの片思い!? お世話になったし、協力するよ!」
「私も、あまり積極的なほうではありませんけれど、むしろネールさんよりは師匠の性格に近いアドバイスができるかもしれません」
「ちょっとヤヨイ、それどういう意味!」
恋バナと見ると途端に盛り上がるのは、異世界でも日本でも変わらないらしい。
むしろ娯楽に触れることの少ない異世界の女性の方が食いつきがいいかもしれない。相手は勝宏、恋バナにはならないが。
「あ、あの……」
「ごめんな、時間があるなら付き合ってやってくれ。聞かれたくない話なら俺は席を外すから」
「え、あ、ちょっと……」
言い争いを始めた女性二人を前に、エリアスがそそくさと部屋から退散した。
彼の荷物がまだ部屋の隅にあることを考えると、ギルドかショップにでも向かったのだろう。
ひょっとしなくても、この場を押し付けられたか。
吠えるネールの声を無視して、ヤヨイが透の左手をそっと取る。
「師匠のお国ではどのような意味を持つか存じませんが、私の故郷では、左手にこれを付けるのは「私を見てほしい」という気持ちの現れと言われています。切ない恋をされているんですね」
してません。
「ええ、師匠! 女の子はね、そういう思わせぶりなのも好きだけど、もっとハッキリ言葉にした方がいいよ絶対。
プレゼントをそういう気持ちでつけてるの見て、その子嫌がってたり外してとか言ったりしてないでしょ?」
「あ、はい……えっと、このままつけてて、とは言われました、けど……でも、これはもともと、あの、間違えて渡されたもので」
この指輪は、透が女の体になったと知らずに裸を見てしまい、動揺した勝宏が勢いでプロポーズしてきた時のものである。
そこに、彼女たちの期待するような惚れた腫れたの愛憎劇などはない。
「ないない! 間違えて渡してたら、あとで回収してるよ! このままつけてて、なんて絶対言わないって。
だってそのまま付けさせてたら、他の男に勘違いされちゃうじゃん」
「私の伺う限りでは、十中八九、お二人は気持ちを同じくして想い合っておられますよ」
やはり、この指輪を渡してきた相手が、異性――女の子であると思われている。
大前提の性別が違うのでは、参考にはならないだろう。
話してしまったほうがいいかもしれない。
「あの、でも、この指輪は……勝宏から貰ったものなんです」
意を決して口に出すと、二人が一瞬閉口した。
「師匠と一緒に居た――マサヒロ? あの、なんかちょっと馬鹿っぽい男の人?」
「ネールさん、師匠のご友人に失礼です」
「おっと、ごめんごめん。でも、え、男の人に、指輪貰ったの?」
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