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章1
引きこもりに適したチート能力(2)
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なるほどそれで……と、詩絵里がひとり頷いている。
透はいまいち、話についていけていない。
「えっと、つまり、俺は何をすればいいんでしょうか……」
聞いた話を透なりに統合すると、透が篭城に適したダンジョンを見つけてくればよい、ということのように思われる。
だが、透には篭城に適したダンジョンの基準も見分け方も分からない。
透の問いかけには、エリアスが答えた。
「転移の様子を何度か見たが、透のスキルは、一度日本ないし日本に似た亜空間に転移して、再びこの世界に戻ってくる段階で細かく座標を指定できる……というものだろう?
この仕様を上手く使えば、ダンジョンスキルを持っていなくともダンジョンコアのある場所に直接侵入できる」
「そ、そう……ですね……」
実際は、透はこの世界の住人でも転生者でもないのだ。
正直、ダンジョンを見つけたところで、ダンジョンコアを扱いきれるとは思えない。
「私たちの分は一旦保留でいいわ、透くんのこともあるし、一緒に考えましょう。
とりあえず、エリアスに提供する分だけ”見つけて”くる、のでいいわね?」
「ああ。コアの所有者登録は、俺がどうにかしてポイントを貯めて、ダンジョン防衛系の安い下位スキルでも買うさ」
見つけさえすれば、あとは彼らがどうとでもしてくれるようだ。
あとは見分け方の問題だが……。
「コアのある部屋は、ダンジョン系のスキルを持っていない人間には入れないフロアなんだ。
マップで確認しつつ、結界で覆われていたり、入り口の存在しない部屋とかがあったら、そこがコアのフロアってことになる」
「所有者登録が済んでいるかどうかは?」
「そこは、行ってみないと分からないな。
知り合いに聞いた話だと、コアのあるフロアには必ず石版もあって、その石版にコアの登録方法や操作方法、管理画面をいじる方法なんかも書かれているらしい。
登録が済むと石版の文字は消える」
コアのあるフロアは入り口が存在しない空間で、石版が近くに置いてある。
そして、石版に何も文字が書かれていない場合は、所有者登録済み、となるようだ。
それだけヒントがあれば、どうにかなるかもしれない。
(ウィル、いけそう?)
『入り口がない空間を見つけるだけならそう難しいもんでもねえな。あとは数うちゃ当たる、だ』
転移能力の本来の保持者であるウィルにも話を聞けた。
大丈夫そうだ。
「それなら、どうにかなる、と思います」
「よし。なら契約を更新しよう。ルイーザ、契約のマジックアイテムはまだ在庫あるかな?」
透の言葉をうけて、エリアスが善は急げとばかりにルイーザを振り返る。
「ありますよお、でもこれで最後の一枚ですから、もっと必要なら入荷しなきゃです」
「現段階ではあと一枚で充分だ。これのおかげで、転生者四人組のパーティーと交戦なしで接触できるから助かるよ」
「えへへ。今後ともごひいきにどうぞなのです」
ルイーザへのマジックアイテム購入の支払いは、すべてエリアスが持ってくれている。
なるほど、詩絵里が指示していた「転生者でないことはバレないように」とは、こういうことを想定していたのだろう。
いくら七つの大罪に進化する<Sスキル>持ちとはいえ、全員が転生者で構成された四人組のパーティーとは事を構えるには荷が重い。
さらにこちらは前衛二人、後衛二人のバランスの取れた構成。
一方あちらは、転生者一人と、現地の一般冒険者二人のパーティーなのだ。
エリアスの戦闘をまだ見たことがないが、女性二人がそれぞれ前衛と後衛。
エリアスが後衛ならパーティー構成のバランスが悪いし、エリアスが前衛なら火力的に転生者のみで構成されたこちらの方に分がある。
透たちの方が戦力的に勝っている、と思わせているからこその、友好的な態度なのだろう。
「先の契約書の方もまだ有効だし、二重で発動させてしまおうか」
言って、エリアスが詩絵里の監視のもと契約書に条件を書き込んでいった。
先を進んでいるネールやヤヨイにも契約の承認をさせる必要があるため、「転生者」というワードは含まれていない。
お互いに希望のダンジョンを見つけるまで交戦ならびに危害を加えてはならない。
ダンジョンにマジックアイテムやトラップを仕掛けてはならない。
探索目的のため、単独行動による移動距離は問わない。
期限は希望のダンジョンを見つけ、提供した翌日まで有効。
どちらかのパーティーが全滅した場合、本契約は早期終了する。
こんなところか。
今回は協力や護衛の要素がないため問題ないはずだが、ルイーザとの契約書の失敗を踏まえて、念のため詩絵里がわざわざ移動距離に関する一文を付け足してくれた。
その節はたいへんご迷惑をおかけいたしました。
先ほどの食事以降からエリアスたちと透たちの間に継続されている契約のマジックアイテムには、単純にイベント終了プラス一日経過するまでお互い手出し不可、というだけの内容だった。
つまり、明日いっぱいまで有効な契約である。
ここに今回の新たな契約書を適用すると、手出し不可期間が延長されることになる。
こちらの相談はお構いなしでダンジョン攻略を続けているネールとヤヨイの快進撃をわざわざ止めるわけにはいかない。
契約内容はそれぞれ、歩いているクロの背中の上で取り決められた。
「それじゃあ、さっきの買い出しの件もだけど、透。よろしく頼む」
「は、はい」
ネールとヤヨイにも確認を取って、契約のマジックアイテムが発動する。
本日のイベントが終わり次第、まずは買い出し。
次にダンジョンコア探しだ。
ダンジョンコアがあれば、ひょっとすると勝宏や詩絵里、ルイーザもそこを拠点にすることで転生者ゲームをやりすごせるようになるかもしれない。
つまり、うまくいけばもうそれ以上戦う必要がないのだ。
ここにきて、初めて大役を仰せつかった気分である。
エリアスと接触できてよかった。
普段飯炊き係でしかない透としては、気合の入る頼られ方である。
「……透」
「なに?」
ひとりやる気に満ちていると、勝宏が肩を抱いてきた。
「えーと……チョコまだある?」
「ごめん、ルイーザさんにさっき全部あげちゃった……。日本まで取りに行こうか?」
「いや、そんならいい」
「そう?」
チョコレートが食べたくて声を掛けてきたのだと思ったが、違うのだろうか。
透が、今はあげられるものがないと告げてなお勝宏の腕は肩に回されている。
ダンジョンを歩きながら、なんとなく勝宏に引き寄せられているようだ。
エリアスとの距離が離れていく気がする。
そうだった。
相手は契約のマジックアイテムをかわしたとはいえ、基本的には敵対する存在。
気をつけろ、ということだろう。
……分かるんだけど、なんか、へんな気持ちになるからあんまりこういうのはやめてほしい、ような。
透はいまいち、話についていけていない。
「えっと、つまり、俺は何をすればいいんでしょうか……」
聞いた話を透なりに統合すると、透が篭城に適したダンジョンを見つけてくればよい、ということのように思われる。
だが、透には篭城に適したダンジョンの基準も見分け方も分からない。
透の問いかけには、エリアスが答えた。
「転移の様子を何度か見たが、透のスキルは、一度日本ないし日本に似た亜空間に転移して、再びこの世界に戻ってくる段階で細かく座標を指定できる……というものだろう?
この仕様を上手く使えば、ダンジョンスキルを持っていなくともダンジョンコアのある場所に直接侵入できる」
「そ、そう……ですね……」
実際は、透はこの世界の住人でも転生者でもないのだ。
正直、ダンジョンを見つけたところで、ダンジョンコアを扱いきれるとは思えない。
「私たちの分は一旦保留でいいわ、透くんのこともあるし、一緒に考えましょう。
とりあえず、エリアスに提供する分だけ”見つけて”くる、のでいいわね?」
「ああ。コアの所有者登録は、俺がどうにかしてポイントを貯めて、ダンジョン防衛系の安い下位スキルでも買うさ」
見つけさえすれば、あとは彼らがどうとでもしてくれるようだ。
あとは見分け方の問題だが……。
「コアのある部屋は、ダンジョン系のスキルを持っていない人間には入れないフロアなんだ。
マップで確認しつつ、結界で覆われていたり、入り口の存在しない部屋とかがあったら、そこがコアのフロアってことになる」
「所有者登録が済んでいるかどうかは?」
「そこは、行ってみないと分からないな。
知り合いに聞いた話だと、コアのあるフロアには必ず石版もあって、その石版にコアの登録方法や操作方法、管理画面をいじる方法なんかも書かれているらしい。
登録が済むと石版の文字は消える」
コアのあるフロアは入り口が存在しない空間で、石版が近くに置いてある。
そして、石版に何も文字が書かれていない場合は、所有者登録済み、となるようだ。
それだけヒントがあれば、どうにかなるかもしれない。
(ウィル、いけそう?)
『入り口がない空間を見つけるだけならそう難しいもんでもねえな。あとは数うちゃ当たる、だ』
転移能力の本来の保持者であるウィルにも話を聞けた。
大丈夫そうだ。
「それなら、どうにかなる、と思います」
「よし。なら契約を更新しよう。ルイーザ、契約のマジックアイテムはまだ在庫あるかな?」
透の言葉をうけて、エリアスが善は急げとばかりにルイーザを振り返る。
「ありますよお、でもこれで最後の一枚ですから、もっと必要なら入荷しなきゃです」
「現段階ではあと一枚で充分だ。これのおかげで、転生者四人組のパーティーと交戦なしで接触できるから助かるよ」
「えへへ。今後ともごひいきにどうぞなのです」
ルイーザへのマジックアイテム購入の支払いは、すべてエリアスが持ってくれている。
なるほど、詩絵里が指示していた「転生者でないことはバレないように」とは、こういうことを想定していたのだろう。
いくら七つの大罪に進化する<Sスキル>持ちとはいえ、全員が転生者で構成された四人組のパーティーとは事を構えるには荷が重い。
さらにこちらは前衛二人、後衛二人のバランスの取れた構成。
一方あちらは、転生者一人と、現地の一般冒険者二人のパーティーなのだ。
エリアスの戦闘をまだ見たことがないが、女性二人がそれぞれ前衛と後衛。
エリアスが後衛ならパーティー構成のバランスが悪いし、エリアスが前衛なら火力的に転生者のみで構成されたこちらの方に分がある。
透たちの方が戦力的に勝っている、と思わせているからこその、友好的な態度なのだろう。
「先の契約書の方もまだ有効だし、二重で発動させてしまおうか」
言って、エリアスが詩絵里の監視のもと契約書に条件を書き込んでいった。
先を進んでいるネールやヤヨイにも契約の承認をさせる必要があるため、「転生者」というワードは含まれていない。
お互いに希望のダンジョンを見つけるまで交戦ならびに危害を加えてはならない。
ダンジョンにマジックアイテムやトラップを仕掛けてはならない。
探索目的のため、単独行動による移動距離は問わない。
期限は希望のダンジョンを見つけ、提供した翌日まで有効。
どちらかのパーティーが全滅した場合、本契約は早期終了する。
こんなところか。
今回は協力や護衛の要素がないため問題ないはずだが、ルイーザとの契約書の失敗を踏まえて、念のため詩絵里がわざわざ移動距離に関する一文を付け足してくれた。
その節はたいへんご迷惑をおかけいたしました。
先ほどの食事以降からエリアスたちと透たちの間に継続されている契約のマジックアイテムには、単純にイベント終了プラス一日経過するまでお互い手出し不可、というだけの内容だった。
つまり、明日いっぱいまで有効な契約である。
ここに今回の新たな契約書を適用すると、手出し不可期間が延長されることになる。
こちらの相談はお構いなしでダンジョン攻略を続けているネールとヤヨイの快進撃をわざわざ止めるわけにはいかない。
契約内容はそれぞれ、歩いているクロの背中の上で取り決められた。
「それじゃあ、さっきの買い出しの件もだけど、透。よろしく頼む」
「は、はい」
ネールとヤヨイにも確認を取って、契約のマジックアイテムが発動する。
本日のイベントが終わり次第、まずは買い出し。
次にダンジョンコア探しだ。
ダンジョンコアがあれば、ひょっとすると勝宏や詩絵里、ルイーザもそこを拠点にすることで転生者ゲームをやりすごせるようになるかもしれない。
つまり、うまくいけばもうそれ以上戦う必要がないのだ。
ここにきて、初めて大役を仰せつかった気分である。
エリアスと接触できてよかった。
普段飯炊き係でしかない透としては、気合の入る頼られ方である。
「……透」
「なに?」
ひとりやる気に満ちていると、勝宏が肩を抱いてきた。
「えーと……チョコまだある?」
「ごめん、ルイーザさんにさっき全部あげちゃった……。日本まで取りに行こうか?」
「いや、そんならいい」
「そう?」
チョコレートが食べたくて声を掛けてきたのだと思ったが、違うのだろうか。
透が、今はあげられるものがないと告げてなお勝宏の腕は肩に回されている。
ダンジョンを歩きながら、なんとなく勝宏に引き寄せられているようだ。
エリアスとの距離が離れていく気がする。
そうだった。
相手は契約のマジックアイテムをかわしたとはいえ、基本的には敵対する存在。
気をつけろ、ということだろう。
……分かるんだけど、なんか、へんな気持ちになるからあんまりこういうのはやめてほしい、ような。
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