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章1
チートスキル持ちが勇者の息子だか孫だかに転生したら環境チートに分類されるんでしょうか(3)
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日本に戻って、リクエストどおりに揚げ物をひととおり用意してくる。
おなかをすかせた勝宏たちが待つダンジョン34層に再び転移すると、そこでは既に食事が始まっていた。
「ああ、お邪魔してるよー」
いまいち状況が掴めない。
離れて休憩を取っていたはずのエリアス一行が、勝宏たちの休憩していたあたりまで近付いてきて一緒に談笑していたのである。
勝宏やルイーザが、エリアスの持ち寄った魔物肉のからあげをつまんでいる。
「え、えっと……?」
困惑している透に、ステータス画面を見るのをやめた詩絵里が解説してくれた。
「透くんが準備に行った後、そこの女の子――ネールが、おすそわけに来てくれたのよ」
「そうなんですか」
「このからあげ、作ったのはエリアス本人らしいわ。ビーフロッグの肉ね」
ビーフロッグというのが牛なのか蛙なのか分からないが、魔物肉という予想は合っていたようだ。
「透さんの手料理、待ってましたー!」
「透のはマジでうまいんだぞ」
ルイーザと勝宏が口々に透の持参した料理を褒めてくれるが、エリアスと一緒に食事をすると分かっていれば違うものを用意してきたのに。
これでは、食卓が揚げ物だらけになってしまう。
余ったらクロあたりが処理してくれるだろうか。
揚げ物の大皿を手にしたまま俯いていると、勝宏が横から野菜のかき揚げを素手でつまんだ。
結構な大きさのそれを難なく口いっぱいに詰め込んで、もこもこ咀嚼する。
「うん、やっぱ透のが一番!」
「……あ、ありがとう」
揚げ物ばかりで飽きてくる頃だろうに、さりげなくこういう気遣いをしてくれるあたり、勝宏の優しさだ。
彼は透の手から大皿を奪い取って、ルイーザやエリアスたちの輪の中心に置きに戻った。
「どうだエリアス、これが透の作る飯だぞ」
「そっか、揚げ物ってったらかき揚げって手もあったか! ……って、なにこれうまっ。THEおふくろの味」
「ですです。透さんのごはんってなんか安心するんですよねー」
勝宏のフォローから、周囲の面子も透の料理に手をつけてくれるようになった。
エリアスの「おふくろの味」は言いすぎだと思うが、日本を思い出させるという意味ではあながち間違いでもない。
そして、エリアスに気があるのだろう彼の仲間――ネールやヤヨイが、「おふくろの味」に反応している。
「これが……エリアスの故郷の味……」
「確か、トールさんでしたね。秘伝の技であることは承知のうえですが、この料理の製法を教えていただけませんでしょうか」
「あっ、ちょ、ヤヨイ! 抜け駆けは禁止よ!」
恋は盲目、恋する少女は牛より強い。
女の子二人に熱烈に迫られるという稀有な状況に、しかし対人スキルくそざこなめくじの透は青ざめるばかりである。
「ごめんなさいね、透くんは人と話すのがあんまり得意じゃないの」
「そうでしたか、それは失礼しました。まさしく職人ですね」
見かねた詩絵里が先日の野外スパゲティ大会の時と同じように、間に入ってくれた。
「作り方が知りたいのよね? 作り方のコツは透くんに聞いて紙に書いておいてもらうから、それをあなたたちにあげるってことでいいかしら?」
「構わないわよ! ほんというと味とかできばえとかも確認してほしいとこだけど、そこまで師匠の手を煩わせるわけにもいかないものね!」
ファーストコンタクトから数分で師匠になってしまっている。
せっかく詩絵里が妥協案を用意してくれたのだ。
それまで断るわけにもいくまい。
「あ、でも俺まだ書き文字は……」
この世界の生活にも慣れてきたはいいが、まだ文字を書くことに関しては慣れていない。
読むだけならかろうじて、前後の文から意訳できるかな……という程度である。
透の心配に、詩絵里が頷く。
「言ってくれれば、私が書きとめるわ」
「すみません……」
「ていうか、いまこの世界の言語フォント作ってるところなのよね。私のノート、透くんも使ってくれていいからね」
フォントを作る。すごい。
パソコンと専門知識があれば、そんなことまでできてしまうのか。
大学の先生ってそんな知識まで有しているものなんだな。
改めて、透には絶対にできない職種だと実感する。
「あ、あの……揚げ物ばっかりは胃が疲れる、と思うから、何か追加でさっぱりしたものを作ってこようと思うんだけど」
揚げ物の食べ比べをしているメンバーに、おそるおそる声を掛けてみる。
歓声が上がった。
どうやら追加の品は歓迎してもらえそうである。
「あー、それなら透くん。ちょっとお願いしたいものがいくつかあるんだけど、メモ帳貸してくれる?」
「は、はい」
日本にもう一度転移を……というところで、詩絵里に呼び止められる。
そんなにたくさんあるのかな。
女体化してしまった時に使うメモ帳とペンを詩絵里に手渡すと、彼女はさらさらと何かを書き込んでいった。
買い出しの注文か、と思ったら、違う。
声に出して話すことのできない、チームの司令塔からの指示だ。
メモ帳には、走り書きでこのように書き込まれている。
エリアス要注意。
ポイント取得スキルリストに不死系スキル見当たらず。
おそらく<Sスキル>保持者。
透くんが転生者ではないことは極力悟られないようにすべし。
それさえバレなければ、イベント終了時までは安全と見てよし。
「頼めるかしら?」
「わ、わかりました……」
あくまでも、買い出しを頼まれた時のように。
できる限り自然にメモ帳を閉じてポケットに入れ、彼女の真剣な目に頷きを返す。
こちらの様子を知ってか知らずか、食事を続けているルイーザたちからは通常のお願いが来た。
「あ! 私もお願いしたいです! 食後にコーヒー! 揚げ物なので、ブラックでお願いします!」
「俺も俺も!」
のほほんとした二人のお願いに、はぁいと笑って返事をする。
「透くんの転移については、私がうまく説明しておくわ。いってらっしゃい」
詩絵里がそう言うなら、ここは任せても大丈夫なのだろう。
転移で世界間を移動する背中越しに、詩絵里の「ちょっと、お野菜のてんぷらは私の分も残してるでしょうね!」なんて声が聞こえてきた。
大丈夫……だよね。
おなかをすかせた勝宏たちが待つダンジョン34層に再び転移すると、そこでは既に食事が始まっていた。
「ああ、お邪魔してるよー」
いまいち状況が掴めない。
離れて休憩を取っていたはずのエリアス一行が、勝宏たちの休憩していたあたりまで近付いてきて一緒に談笑していたのである。
勝宏やルイーザが、エリアスの持ち寄った魔物肉のからあげをつまんでいる。
「え、えっと……?」
困惑している透に、ステータス画面を見るのをやめた詩絵里が解説してくれた。
「透くんが準備に行った後、そこの女の子――ネールが、おすそわけに来てくれたのよ」
「そうなんですか」
「このからあげ、作ったのはエリアス本人らしいわ。ビーフロッグの肉ね」
ビーフロッグというのが牛なのか蛙なのか分からないが、魔物肉という予想は合っていたようだ。
「透さんの手料理、待ってましたー!」
「透のはマジでうまいんだぞ」
ルイーザと勝宏が口々に透の持参した料理を褒めてくれるが、エリアスと一緒に食事をすると分かっていれば違うものを用意してきたのに。
これでは、食卓が揚げ物だらけになってしまう。
余ったらクロあたりが処理してくれるだろうか。
揚げ物の大皿を手にしたまま俯いていると、勝宏が横から野菜のかき揚げを素手でつまんだ。
結構な大きさのそれを難なく口いっぱいに詰め込んで、もこもこ咀嚼する。
「うん、やっぱ透のが一番!」
「……あ、ありがとう」
揚げ物ばかりで飽きてくる頃だろうに、さりげなくこういう気遣いをしてくれるあたり、勝宏の優しさだ。
彼は透の手から大皿を奪い取って、ルイーザやエリアスたちの輪の中心に置きに戻った。
「どうだエリアス、これが透の作る飯だぞ」
「そっか、揚げ物ってったらかき揚げって手もあったか! ……って、なにこれうまっ。THEおふくろの味」
「ですです。透さんのごはんってなんか安心するんですよねー」
勝宏のフォローから、周囲の面子も透の料理に手をつけてくれるようになった。
エリアスの「おふくろの味」は言いすぎだと思うが、日本を思い出させるという意味ではあながち間違いでもない。
そして、エリアスに気があるのだろう彼の仲間――ネールやヤヨイが、「おふくろの味」に反応している。
「これが……エリアスの故郷の味……」
「確か、トールさんでしたね。秘伝の技であることは承知のうえですが、この料理の製法を教えていただけませんでしょうか」
「あっ、ちょ、ヤヨイ! 抜け駆けは禁止よ!」
恋は盲目、恋する少女は牛より強い。
女の子二人に熱烈に迫られるという稀有な状況に、しかし対人スキルくそざこなめくじの透は青ざめるばかりである。
「ごめんなさいね、透くんは人と話すのがあんまり得意じゃないの」
「そうでしたか、それは失礼しました。まさしく職人ですね」
見かねた詩絵里が先日の野外スパゲティ大会の時と同じように、間に入ってくれた。
「作り方が知りたいのよね? 作り方のコツは透くんに聞いて紙に書いておいてもらうから、それをあなたたちにあげるってことでいいかしら?」
「構わないわよ! ほんというと味とかできばえとかも確認してほしいとこだけど、そこまで師匠の手を煩わせるわけにもいかないものね!」
ファーストコンタクトから数分で師匠になってしまっている。
せっかく詩絵里が妥協案を用意してくれたのだ。
それまで断るわけにもいくまい。
「あ、でも俺まだ書き文字は……」
この世界の生活にも慣れてきたはいいが、まだ文字を書くことに関しては慣れていない。
読むだけならかろうじて、前後の文から意訳できるかな……という程度である。
透の心配に、詩絵里が頷く。
「言ってくれれば、私が書きとめるわ」
「すみません……」
「ていうか、いまこの世界の言語フォント作ってるところなのよね。私のノート、透くんも使ってくれていいからね」
フォントを作る。すごい。
パソコンと専門知識があれば、そんなことまでできてしまうのか。
大学の先生ってそんな知識まで有しているものなんだな。
改めて、透には絶対にできない職種だと実感する。
「あ、あの……揚げ物ばっかりは胃が疲れる、と思うから、何か追加でさっぱりしたものを作ってこようと思うんだけど」
揚げ物の食べ比べをしているメンバーに、おそるおそる声を掛けてみる。
歓声が上がった。
どうやら追加の品は歓迎してもらえそうである。
「あー、それなら透くん。ちょっとお願いしたいものがいくつかあるんだけど、メモ帳貸してくれる?」
「は、はい」
日本にもう一度転移を……というところで、詩絵里に呼び止められる。
そんなにたくさんあるのかな。
女体化してしまった時に使うメモ帳とペンを詩絵里に手渡すと、彼女はさらさらと何かを書き込んでいった。
買い出しの注文か、と思ったら、違う。
声に出して話すことのできない、チームの司令塔からの指示だ。
メモ帳には、走り書きでこのように書き込まれている。
エリアス要注意。
ポイント取得スキルリストに不死系スキル見当たらず。
おそらく<Sスキル>保持者。
透くんが転生者ではないことは極力悟られないようにすべし。
それさえバレなければ、イベント終了時までは安全と見てよし。
「頼めるかしら?」
「わ、わかりました……」
あくまでも、買い出しを頼まれた時のように。
できる限り自然にメモ帳を閉じてポケットに入れ、彼女の真剣な目に頷きを返す。
こちらの様子を知ってか知らずか、食事を続けているルイーザたちからは通常のお願いが来た。
「あ! 私もお願いしたいです! 食後にコーヒー! 揚げ物なので、ブラックでお願いします!」
「俺も俺も!」
のほほんとした二人のお願いに、はぁいと笑って返事をする。
「透くんの転移については、私がうまく説明しておくわ。いってらっしゃい」
詩絵里がそう言うなら、ここは任せても大丈夫なのだろう。
転移で世界間を移動する背中越しに、詩絵里の「ちょっと、お野菜のてんぷらは私の分も残してるでしょうね!」なんて声が聞こえてきた。
大丈夫……だよね。
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