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章1

どっちかっていうと性能じゃなくて迷惑度がSランク(4)

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「あら、ポーション切れなら私たちが買ったやつ、使ってくれてもいいんだけど」

 勝宏のほうはちょくちょく使っているようなので、ルイーザから買い上げたポーションはあまり手元に残っていないらしい。

 だが、基本的に後衛でダメージを受けることがなく、MPすらも装備の関係で自然回復スピードが上がっている詩絵里は、買った時からほとんど丸々残っている状態だろう。

「ちがうんです。派遣の人たち、現場でポーション使うたびお金払ってくれるので……稼ぎ時だなあって思いまして」

 ルイーザが視線を泳がせながら告げる。
 契約書が凍結中だからといって、ダンジョン攻略に関係のない頼みごとをするのが躊躇われるようだ。

 使った分だけお支払い。

 ていうか、それ、完全にあれだ。置き薬だ。
 配置薬と呼ぶべきか、配置販売業というべきか。
 転移持ちの透ひとりではなく、詩絵里も含めて相談と言ったのは、アイテムボックスの有無の問題なのだろう。

 透が一人で何度か往復して数を揃えてもいいが、これまでのことを考えても他に選択肢のない場面以外では一人になるべきではない。
 ……建前としてはそうなるが、本音でいえば、ルイーザの両親が経営しているであろうお店に透一人が足を運んで事情を説明するという高難度ミッションをクリアできる気がしないのである。

 しかし、身を守る程度の戦う力とアイテムボックスがあるだけで、荷物持ちにも運び屋にもなれるあたり、スキル以外のこまごまとしたオプション機能もそれぞれ現地人からすればチート能力だ。

 アイテムボックス持ちで、自分のみを自分で守るどころか十二分に戦える商人が随行してのダンジョン攻略や行軍が、どれだけ快適なことか。

 これまで日本人な自分たちは知らずに恩恵を受けていたが、その要素だけでお金稼ぎ立身出世系のチート転生物語がひとつ出来上がってしまいそうな内容である。

「ダンジョンに同行する必要がないってんなら、まあ行ってきてあげてもいいけど。私たちの留守中、今の手持ちの在庫だけで足りるの?」

「ちょっと厳しいかもです……」

 バタフライ効果的に、ダンジョン攻略に無関係というわけでもなかろう。
 売り時に品薄になってしまうのでは、彼女も気がかりで攻略に集中などできないはずだ。

 ルイーザの返答を聞いて、詩絵里がアイテムボックスから消耗品類を根こそぎ取り出した。

「とりあえず、これを使っておいてちょうだい。……ああ、返品じゃないわよ。この分は在庫を持ってくる時に、あなたの実家から直接貰うわ。それでどうかしら」

「詩絵里さん……! ありがとうございます! 父にはその旨手紙を書いておきますので、ちょっと待ってくださいね」

 ルイーザが個数を確認しながら、床に置かれたポーションなどをアイテムボックスにしまっていく。

 しまい終えて、代わりに取り出されたのは便箋だ。
 一緒に取り出されたペンで、ルイーザがさらさらと手紙を綴る。

「これ、うちの商会の関係者しか文字が書けないマジックアイテムなんです。詩絵里さんに今ある消耗品類の在庫の半分と、それから借りてる分の個数をお渡しできるように書いておきました。見せるだけで大丈夫です」

「了解。マップに印つけてくれる?」

 詩絵里がステータス画面のマップを開示設定にして、ルイーザに見てもらっている。
 国から町を絞り込んで、表示されたマップでルイーザが指した建物をマークした。

 透にはステータスの類がないため分からないことだが、あらかじめ場所が分かっていれば自動車のナビのような機能もあるのかもしれない。

「勝宏くんは要る?」

「私ですかー? 別にいらないです」

「じゃあ勝宏くんもこっちね。起こしてちゃちゃっと出発しましょ」

 詩絵里の言葉にルイーザが敬礼のような仕草をみせて、眠っている勝宏の前まで歩み寄る。
 何をするのかと思ったら、そのまま遠慮なく勝宏の口と鼻を両手で押さえつけた。

「が……っもが!?」

「勝宏さんー、冒険の時間です。起きてくださいー、あなたの脳内に直接語りかけてまーす」

 脳内というかなんというか。
 楽しげなルイーザの両手の下で、勝宏がじたばたともがいている。

「あ、あの、それくらいに……」

 起こすどころか永遠の眠りについてしまいそうな気配がしてくる。
 顔面をおさえつけるルイーザの指が勝宏の顔にめり込んでいるが、大丈夫なのだろうか。
 とても言いにくいけれど、その、ステータス的に。

「もご……もご、ご……」

「ルイーザ、勝宏くんが弱ってきてるわ」

「おっと、失礼しました。あ、このお茶貰ってもいいですか?」

 ルイーザが勝宏から離れた。
 こちらが返事をする前に、テーブルの上の冷えたティーポットがルイーザによって奪われる。

 アイテムボックスから取り出されたカップに残りを全て注いで、男らしくぐびぐびと一気にあおった。女の子だけど。

 そのまま直飲みしないだけまだ女の子だ。うん。

「ふう。じゃあ私は扉の間に戻りますね。在庫の件、よろしくお願いします!」



 ルイーザによって圧殺されかけた勝宏を起こして、一旦尖塔をあとにする。

 ここから彼女と出会ったナトリトン地下遺跡までは馬車で二日ほどかかる距離。
 そこまで移動していては稼ぎ時どころかイベントが終了してしまうのでは、とも思ったが、杞憂だった。

 詩絵里によると、彼女の実家はこの国のすぐ国境線近くにある町なのだそうだ。

 父親の名前はギルネル。
 ルイーザが転生者であることは知らず、突如アイテムボックスの才能に目覚めたため毎晩こっそり寝る間を惜しんで冒険者としての修行をしていた娘……と思われているはず、との説明である。

 彼女自身が転生者であることを打ち明けていない以上、自分たちが口を滑らせるわけにはいかない。
 同じアイテムボックス持ちとして旅先で会った知人、という設定で通すことにまとまった。

 馬車に揺られて半日。
 途中、ダンジョンに入り浸っているはずのルイーザへ食事の差し入れを転移で置きに戻りながら、彼女抜きで彼女の故郷に到着した。

 時間からしてダンジョン1件攻略のたび尖塔の休憩部屋に戻ってきている形跡はあったため、テーブルの上に置いた食事にはきっと気付いてもらえることだろう。

 マップで見つけ出した商店を訪問し、在庫の件は詩絵里が話をつけてくれた。
 娘からの直筆の手紙――というより、ほぼ発注書だが――もあって、在庫が無事に詩絵里のアイテムボックスに収まるまで非常にスムーズにことが運んだ。

 食事時以外で転移を使うことがなかった透としては、自分のいらない子っぷりをひしひしと感じるおつかいであったが、尖塔の方に残っても戦力の足りているルイーザチームに非チートど素人は不要だろう。
 言ってて悲しくなってきたので、ここまでにしておきます。

「そうか。それで、娘はいったいどこで商売をしているんだ?」

「ダンジョンの前ですよ。そのダンジョンが結構な穴場らしくて、一時的に冒険者の入りが増えたのでダンジョン前に構えてポーションを売りさばいてるそうです」

 ルイーザの父、ギルネルに問われ、顔色一つ変えずにさらりと虚偽報告をしていく詩絵里は強い。

 多少戦いの才能があるとはいえ、まだ十二歳で戦闘経験もほとんどないはずの娘が、まさかダンジョン60連続踏破を目指している――などとは、言わない方がご両親の胃のためである。
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