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章1

魔物転生って理性を失ったらただの魔物じゃないですかね?(4)

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 昼食を食べ損ねることになりそうなルイーザには、ファーストフード店でハンバーガーとパイを購入してきてそれで済ませてもらう。
 詩絵里のアイテムボックスに入れてもらっていたため氷が溶けたりはしていないが、さすがにダンジョン内で氷入りの器を小分けに設置してそうめんは難しい。
 そうめんは、また今度作ります。

 尖塔の拠点に戻って、ルイーザ抜きで遅めの昼食をとる。
 ちなみに、ルイーザが食べるはずだった分はちゃっかりアルスラッドが食べていた。

「勝宏くんとルイーザの二人がかりで苦戦する魔物っていったいなんだったの?」

 そうめんをちゅるちゅる啜りながら、詩絵里が問いかける。
 勝宏に向けての質問だったそれに、アルスラッドが応えた。

「ちょっと失礼。実際にそれを見せた方が早いよね」

 立ち上がって、部屋の床にアイテムボックスから黒い獣を取り出した。
 サイズ感を考えなければ、黒い狼に角が生えたような魔物だ。

「……ねえ、今解析したら、この魔物、スキル持ってるんだけど」

「そうだよ。これは君たちと同じ転生者だ。ギルドの知る限りの経歴としては、人間ではなく魔物に転生してしまい、周辺の魔物たちを従えながら平和的に魔物の集落を作ろうとしていたようだね」

「それがどうしてダンジョンに現れるのよ。勝宏くんに襲い掛かった理由は、転生者ゲームの一環としてなら考えられなくもないけど」

 転生者なら苦戦しても仕方ないでしょうね。
 詩絵里が麺をもうひとかたまり、自分の取り皿に入れる。

「彼は転移スキルは持っていなかったはずだから、おそらく君たちが貸切にする前にもぐりこんだんじゃないかな?」

「……話半分に聞いておいてあげるわ。それで? 作ろうとしていた集落は?」

「本人によって滅んだよ。手持ちのスキルの暴走で、ある日突然味方の魔物を全て食い尽くした。理性をなくした彼は、勝宏くんやルイーザちゃんに襲い掛かり、通りがかった僕に倒された……という経緯だね」

「理性をなくした……スキルの暴走……ふーん。だからかしら? この魔物転生くん、ステータス欄が文字化け起こしてるわね」

 ごちそうさま。詩絵里の言葉に透もおそまつさまです、と言おうとして、声が出なかった。
 一時間もすれば元に戻る、とはいえ、不便だ。

 二人の会話に、勝宏がえっ、と声を上げた。

「文字化け? 俺もなってるけど、スキルの暴走はたぶんしてないぞ。そんなもんじゃないの?」

 なんか、条件満たしたら見えるようになる伏字的な。
 楽観的なその言葉に詩絵里ががたんと席を立った。

「違うわよ! どういうこと? 詳しく教えなさい!」

 彼女の剣幕に気圧されて、勝宏があわあわとステータス欄を開示して見せた。

 出会って間もない頃に見せてもらったのと同じ、空中のホログラムが浮かび上がってくる。

 彼がスーパースキルから<英雄>をタップして、詳細画面を開いた。



<英雄>
―― ?ィ。??)??ッ????????ヲ?????ウ??ォ??ェ???

【!】アリアルの種子スキルです。スキルの進化先が2通り用意されています。



①<?クサ?ココ??ャ>
―― ?????ケ??ヲ??ッ?????ソ??ョ?オ??????ク

*進化条件が揃っていません。

達成済:熟練度

未達成:<??イ??「>の討伐



②<?シキ?ャイ>
―― ?????ケ??ヲ??ョ?。????????????ョ?????ョ?クュ??ォ

*進化条件が揃っていません。

達成済:熟練度

未達成:??ッ????ャイ



「いや、僕にも躊躇い無く見せるんだね、君は」

 勝宏の警戒心のなさに、アルスラッドがあきれ返ったような声を出した。

「いまんとこ敵じゃないだろ」

「そうだけども。普通見せるかい? 僕には無理だよ。転生者のプライバシー中のプライバシー、女の子だったらスリーサイズを訊くようなものだろ?」

「自分のスリーサイズとか知らねえよ」

「君のを聞きたいとはつゆほども思わないから安心してくれたまえ」

 言い合う男二人を無視して、詩絵里は開示されっぱなしの勝宏のステータス画面を見つめている。

 床に放置された魔物の躯と勝宏のステータス画面を見比べて、彼女が苦々しく呟いた。

「そこの魔物転生くんと同じようなことになってるわね。文字化けする箇所も全く同じ……もし、文字化けがスキルの暴走の前兆なのだとしたら……」

 透が見た、あの廃教会での勝宏のことは詩絵里には包み隠さず伝えてある。

 文字化けが暴走によるもので、あの状態がそのまま続いていたら、倒れているのは黒い獣ではなく、勝宏だったかもしれない。

 背筋が凍る。
 部外者の透はもちろん、転生ゲームの当事者である詩絵里でさえ、「神から貰ったチートスキル」というものの詳細を知らなさすぎるのだ。

「なんだか面白いことになってるね。ギルドで話したいと言っていたのも、そのあたり掠ってると思うけど」

 勝宏との軽口をさっくり切り上げたアルスラッドが、食事が済んだらそろそろ行こうか、と促した。



 アルスラッドのマジックアイテムで彼の言う組織――冒険者ギルドへ転移する。

 冒険者ギルドが率先して転生者と関わっているわけではなく、このギルド支部だけが水面下で関わっているらしい。

 もともとは、転生者ゲームそのものに疑問を抱いた一部の転生者が、ギルドにとって有益な情報を渡す代わりに協力関係になろうと持ちかけたのが始まりなのだそうだ。

「有益な情報っていうのが、まあ、あれだね。一般冒険者は、転生者に倒されると冒険者の印がそのままポイントになっちゃうってやつ」

「転生者としては常識だけど、一般人からすると理不尽な話よね。まるで倒されるためだけに用意されたNPCじゃない」

 神々からすれば本当にゲームのNPCくらいの感覚なのかもしれないが。

 この世界でまっとうに生きている人からすれば、たまったものじゃないだろう。
 転生者にしたって、転生先で幼少期を育ったメンバーには親兄弟や友人がいるものだ。
 彼らをただのポイントだと認識するのは難しいはずである。

 アルスラッドの案内で通されたギルドの奥の部屋に、四人で座って待つ。

 話をするにあたってもう一人、紹介したい転生者がいるとのことだ。

 ややあって、応接室の扉が静かに開く。
 現れたのは、先ほどまで受付で冒険者たちの対応をしていた受付嬢だった。

「だー、疲れた。アルス、水」

「はいはい、たまには自分で用意したらどうなんだいクラリーネ」

 清楚で可愛らしい雰囲気をまとっていた表の彼女とはうってかわって、気の抜けたアルパカのような顔になっている。
 受付嬢の希望通り、アルスがアイテムボックスからペットボトル入りのコーラを取り出して手渡した。

 ぷしゃ、と蓋を開けて一気に中身をあおり、一息ついた彼女が透たちの向かいの席に腰を下ろす。

「あいつのことはなんて言ったんだ?」

「そのまんまだよ? チートをもらって転生したら、人間ではなく魔物になった件……ってね」

「ふーん」

 アルスラッドの話を気のない返事で聞き流し、受付嬢――クラリーネがもう一度手元のコーラをぐびっと飲む。

「じゃあ自己紹介しとくか。俺はあれだ。こいつの言葉通りにタイトルっぽくいくなら、「裏方での転生を願ったらうっかりTS転生するはめになったんだがどうすればいい?」……ってやつだな」

 日本での俺は、男だ。
 さらりと、受付嬢が衝撃の発言を投下する。

 あ、奇遇ですね、自分もです。

 なんの因果か、ここに性転換男が邂逅してしまったのであった。
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