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章1
人魚姫と悪役令嬢(4)
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気が付くと、透は古びた教会のような場所で寝かされていた。
手足を四隅に拘束されていて身動きが取れないが、自分が横たえられているのは祭壇の上だろう。
『透、大丈夫か』
(ウィル……これ、どういうこと?)
『おまえが歩いてるところを男四人組がとっ捕まえて、薬かがせてここに連れてきたってとこだな。ここならもう誰の目に入るでもねえし、転移で戻るか?』
(どれくらい時間経ってる?)
『日本基準だと三時間くらいか。ゴリ……ルイーザはおまえのこと探してると思うぜ』
見に行っちゃいないが、とウィルが付け足す。
彼は拘束された透を心配して、傍から離れないでいてくれたのだ。
(ひょっとして、さっきの男の人たちがウルティナを狙う誘拐犯だったりしないかな)
『……なくはないだろうが、調べるにしたっておまえ、一回転移でその拘束を抜けてからの方が』
ウィルと話している途中で、男が二人入ってきた。
舌打ちして、ウィルが黙り込む。
狸寝入りがどこまで通用するか分からないが、目を閉じておく。
「ほら見ろ、どう見ても日本人だろ」
「ああ。生前の姿をそのまま持ってくるタイプの転生だな……だが、起こして日本語喋らせた方が早くないか?」
「喉潰れてんのかスキルのせいか、喋れないみたいなんだよ」
透を拘束した祭壇の前で、男二人が話を続ける。
転生、日本人、とくると、この誘拐には転生者がかかわっているので間違いないだろう。
あとは、ウルティナの件とかかわりがあるかどうかだが。
「まあ、仕方ない。あとは苗床の母体条件だな。種は育つのか?」
「この女、ウルティナの婚約者になった男とデキてたらしい」
「へえ、貴族の権威に逆らえず男と別れさせられたってことか。あのアマ、余計なことをしてくれると思ったが……好都合だな」
「インヴィディアが成功すれば、検証は終わりだが、どうする?」
「女は適当に捨てとけ」
ウルティナの名前が出てきた。
インヴィディア、というと羨望の意味のイタリア語。嫉妬と訳すこともできる。
<嫉妬の種>というものの正体は分からないが、彼らがそれを持っていると考えて間違いなさそうだ。
(ウィル)
『なんだ』
(この場所のこと、詩絵里さんたちに伝えてきてくれないかな)
『……その間、おまえは無防備になるだろ』
(少しくらい大丈夫だよ。ここを叩けば少なくとも、誘拐犯たちがウルティナさんを狙うことはできなくなると思うし。俺が急にここからいなくなったら、相手は警戒するだろうから)
『わーった。すぐ戻るから、早まったことはすんなよ』
(ありがとう。よろしくね)
念話を終えると、そばにあったウィルの気配が消えた。
おそらく、詩絵里や勝宏たちのもとへ転移で向かってくれたのだろう。
彼女たちを連れてここまで転移で戻ってくることはできないが、透が男たちに捕まって三時間程度しか経過していないのなら、この建物は最長でも三時間で移動できる範囲内にある。
殺されそうになったら流石にカルブンクの魔法で抵抗するつもりでいるが、彼らの話では種を植えて様子を見ることが目的のようだ。
すぐに殺されることはない。
透を見ていた男のうち、片方が席を外す。
残った男が、さて、と笑った。
「おまえら、出てきていいぜ。お楽しみだ」
出てくる? 目を閉じたままの透には分からなかったが、入ってきたのは男二人ではなかったのだろうか。
男の呼びかけに、数人の足音が近付いてきた。
「いつまで狸寝入りしているつもりだ? これから何をされるか、分からないわけじゃないだろ?」
話を聞いていたのがバレていた。
目を開けると、祭壇のまわりを四人の男が囲んでいる。
町で透に声を掛けてきた連中だ。
何をされるか、種子を植えられるという話は聞いていたが、それ以外に何かあるんだろうか。
種蒔きの前に耕しがてらリンチに遭うとか……それは嫌だな。
「インヴィディアとイーラの種子は母体が不幸であればあるほど大きく育つらしい。別の女に男を奪われて、自分は好きでもない男にまわされる……きっと急激に成長するぞ」
彼らはどうも勝宏と自分の仲を勘違いしているようだが、嫉妬の種の適合条件がそれなら前提から合っていない気がする。
まわされるってなんだろう。
男一人を男四人で取り囲んで行うことといえばやっぱりリンチくらいしか。
顔をしかめていると、男が透の胸を掴んだ。
「……っ!」
「処女じゃねえんだろ? 男四人分くらいこの身体で受け止めてくれるよな。公爵令嬢に幸せを奪われた哀れなお嬢さん」
そうだった。
今の自分は女の身体だ。
それを思い出してようやく、彼らの言葉の意味をまとめて理解した。
青ざめる透に楽しげな笑みを向けて、男たちが服を脱がしにかかる。
拘束されたままの両腕に脱がされた服までまとわりついて、身をよじることすら難しくなってしまった。
あらわになった乳房に、男が手を伸ばす。
「他の男にみじめに犯されるおまえに、いったい誰が振り向いてくれるだろうな」
----------
急に現れたウィルに、ウルティナが小さく悲鳴を上げた。
今はウルティナの私室で、詩絵里と三人で襲撃を受けた場合のことを話し合っていたところだ。
彼女の両親はウィルが転移でやってきたのを見ていないから、彼女にだけ説明すればいい。
「あの、どなたですか……?」
「ああ、安心して。私たちの協力者よ。隠密みたいなスキル持ってるから急に現れたりするけど、敵じゃないわ」
転移とも転生者とも言わず、詩絵里がうまいとこ誤魔化してくれた。
「ていうか、こんな登場の仕方したらウルティナも驚くだろ。もうちょっと人のこと考えろよ」
どうしても、勝宏からするとウィルはいけすかない男、である。
ついとげとげしくなってしまう口調のままウィルを睨みつけるが、彼は鼻で笑ってそれを一蹴した。
「おい詩絵里」
「どうしたのかしら? 透くんは?」
「透からの伝言だ。敵のアジトが分かった。おまえらを案内してやれ、だとよ」
ウィルの言葉に詩絵里の顔色が変わる。
「すげえな透! どうやって見つけたんだ」
「単純だ。そこの貴族の女の代わりに、透が狙われた。今アジトで敵にとっ捕まってる」
勝宏が息を呑む。
詩絵里は大きく息を吐いて、そっち行っちゃったかあ、と呟いた。
「転生者の女――私たちの誰かが狙われる、というのは想定内ではあったわ。私か、ルイーザがターゲットになる予定でアイテムボックスの中に色々仕込んでたんだけど……見た目で一番転生者だって分かりやすい「女」は、透くんよねえ……」
「助けに行くぞ。ウィルが透のとこについてないってことは、透は……」
「回避手段の一切ない、この世界で言うところのレベル2相当の魔法使い職だわ」
詩絵里との会話に、ウルティナがおそるおそる入ってくる。
「あの……詩絵里さんたちと一緒にいた女性が、代わりに誘拐されてしまったのですか?」
「そうね。女性、うん、女性ね……」
「大変。今すぐ助けないと……!」
「そのつもりだけど、何かあるの?」
「ゲームのウルティナは、誘拐された時から……ええと、清らかな身体ではないんです」
それは、つまり。
そういうことか。
ウルティナの爆弾発言に、その場の空気が凍った。
手足を四隅に拘束されていて身動きが取れないが、自分が横たえられているのは祭壇の上だろう。
『透、大丈夫か』
(ウィル……これ、どういうこと?)
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(どれくらい時間経ってる?)
『日本基準だと三時間くらいか。ゴリ……ルイーザはおまえのこと探してると思うぜ』
見に行っちゃいないが、とウィルが付け足す。
彼は拘束された透を心配して、傍から離れないでいてくれたのだ。
(ひょっとして、さっきの男の人たちがウルティナを狙う誘拐犯だったりしないかな)
『……なくはないだろうが、調べるにしたっておまえ、一回転移でその拘束を抜けてからの方が』
ウィルと話している途中で、男が二人入ってきた。
舌打ちして、ウィルが黙り込む。
狸寝入りがどこまで通用するか分からないが、目を閉じておく。
「ほら見ろ、どう見ても日本人だろ」
「ああ。生前の姿をそのまま持ってくるタイプの転生だな……だが、起こして日本語喋らせた方が早くないか?」
「喉潰れてんのかスキルのせいか、喋れないみたいなんだよ」
透を拘束した祭壇の前で、男二人が話を続ける。
転生、日本人、とくると、この誘拐には転生者がかかわっているので間違いないだろう。
あとは、ウルティナの件とかかわりがあるかどうかだが。
「まあ、仕方ない。あとは苗床の母体条件だな。種は育つのか?」
「この女、ウルティナの婚約者になった男とデキてたらしい」
「へえ、貴族の権威に逆らえず男と別れさせられたってことか。あのアマ、余計なことをしてくれると思ったが……好都合だな」
「インヴィディアが成功すれば、検証は終わりだが、どうする?」
「女は適当に捨てとけ」
ウルティナの名前が出てきた。
インヴィディア、というと羨望の意味のイタリア語。嫉妬と訳すこともできる。
<嫉妬の種>というものの正体は分からないが、彼らがそれを持っていると考えて間違いなさそうだ。
(ウィル)
『なんだ』
(この場所のこと、詩絵里さんたちに伝えてきてくれないかな)
『……その間、おまえは無防備になるだろ』
(少しくらい大丈夫だよ。ここを叩けば少なくとも、誘拐犯たちがウルティナさんを狙うことはできなくなると思うし。俺が急にここからいなくなったら、相手は警戒するだろうから)
『わーった。すぐ戻るから、早まったことはすんなよ』
(ありがとう。よろしくね)
念話を終えると、そばにあったウィルの気配が消えた。
おそらく、詩絵里や勝宏たちのもとへ転移で向かってくれたのだろう。
彼女たちを連れてここまで転移で戻ってくることはできないが、透が男たちに捕まって三時間程度しか経過していないのなら、この建物は最長でも三時間で移動できる範囲内にある。
殺されそうになったら流石にカルブンクの魔法で抵抗するつもりでいるが、彼らの話では種を植えて様子を見ることが目的のようだ。
すぐに殺されることはない。
透を見ていた男のうち、片方が席を外す。
残った男が、さて、と笑った。
「おまえら、出てきていいぜ。お楽しみだ」
出てくる? 目を閉じたままの透には分からなかったが、入ってきたのは男二人ではなかったのだろうか。
男の呼びかけに、数人の足音が近付いてきた。
「いつまで狸寝入りしているつもりだ? これから何をされるか、分からないわけじゃないだろ?」
話を聞いていたのがバレていた。
目を開けると、祭壇のまわりを四人の男が囲んでいる。
町で透に声を掛けてきた連中だ。
何をされるか、種子を植えられるという話は聞いていたが、それ以外に何かあるんだろうか。
種蒔きの前に耕しがてらリンチに遭うとか……それは嫌だな。
「インヴィディアとイーラの種子は母体が不幸であればあるほど大きく育つらしい。別の女に男を奪われて、自分は好きでもない男にまわされる……きっと急激に成長するぞ」
彼らはどうも勝宏と自分の仲を勘違いしているようだが、嫉妬の種の適合条件がそれなら前提から合っていない気がする。
まわされるってなんだろう。
男一人を男四人で取り囲んで行うことといえばやっぱりリンチくらいしか。
顔をしかめていると、男が透の胸を掴んだ。
「……っ!」
「処女じゃねえんだろ? 男四人分くらいこの身体で受け止めてくれるよな。公爵令嬢に幸せを奪われた哀れなお嬢さん」
そうだった。
今の自分は女の身体だ。
それを思い出してようやく、彼らの言葉の意味をまとめて理解した。
青ざめる透に楽しげな笑みを向けて、男たちが服を脱がしにかかる。
拘束されたままの両腕に脱がされた服までまとわりついて、身をよじることすら難しくなってしまった。
あらわになった乳房に、男が手を伸ばす。
「他の男にみじめに犯されるおまえに、いったい誰が振り向いてくれるだろうな」
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急に現れたウィルに、ウルティナが小さく悲鳴を上げた。
今はウルティナの私室で、詩絵里と三人で襲撃を受けた場合のことを話し合っていたところだ。
彼女の両親はウィルが転移でやってきたのを見ていないから、彼女にだけ説明すればいい。
「あの、どなたですか……?」
「ああ、安心して。私たちの協力者よ。隠密みたいなスキル持ってるから急に現れたりするけど、敵じゃないわ」
転移とも転生者とも言わず、詩絵里がうまいとこ誤魔化してくれた。
「ていうか、こんな登場の仕方したらウルティナも驚くだろ。もうちょっと人のこと考えろよ」
どうしても、勝宏からするとウィルはいけすかない男、である。
ついとげとげしくなってしまう口調のままウィルを睨みつけるが、彼は鼻で笑ってそれを一蹴した。
「おい詩絵里」
「どうしたのかしら? 透くんは?」
「透からの伝言だ。敵のアジトが分かった。おまえらを案内してやれ、だとよ」
ウィルの言葉に詩絵里の顔色が変わる。
「すげえな透! どうやって見つけたんだ」
「単純だ。そこの貴族の女の代わりに、透が狙われた。今アジトで敵にとっ捕まってる」
勝宏が息を呑む。
詩絵里は大きく息を吐いて、そっち行っちゃったかあ、と呟いた。
「転生者の女――私たちの誰かが狙われる、というのは想定内ではあったわ。私か、ルイーザがターゲットになる予定でアイテムボックスの中に色々仕込んでたんだけど……見た目で一番転生者だって分かりやすい「女」は、透くんよねえ……」
「助けに行くぞ。ウィルが透のとこについてないってことは、透は……」
「回避手段の一切ない、この世界で言うところのレベル2相当の魔法使い職だわ」
詩絵里との会話に、ウルティナがおそるおそる入ってくる。
「あの……詩絵里さんたちと一緒にいた女性が、代わりに誘拐されてしまったのですか?」
「そうね。女性、うん、女性ね……」
「大変。今すぐ助けないと……!」
「そのつもりだけど、何かあるの?」
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