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章1
ウィリアムさんと所有者の話(3)*にょた・生理表現注意
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ウィルに町の見回りをしに行ってもらったその夜、透は恐怖体験をした。
発端は、夜、というよりは明け方に近い。
勝宏と自分、詩絵里とルイーザで分けられた部屋で眠っていると、急な腹痛で目が覚めた。
変なもの食べた記憶はないし、下腹部の鈍痛はこれまで経験したことのない類のものだ。
違和感を覚えて身体を起こしたその時、股間にぬるりとした感触が――。
そこで完全に眠気が飛んだ。
戦慄。
端然とそこにある、いやそこに無い事実を、頭が拒否している。
隣のベッドで大の字に転がっていた勝宏が、透に気付いてこちらの方へのそのそ寝返りを打つ。
「んー……透? どうかしたか……?」
なんでもない、なんでもないから起きてこないで。
とっさに言葉にしようとして、声が出てこない。
「透? ……透? おい、何だよそれ」
ぬるぬるしたもの、を確認すべく触ってしまっていたのがまずかった。
窓からわずかに差し込むほのかな光が、指先に付着した血液をばっちり照らしてしまっている。
顔色の変わった勝宏が、飛び起きてこちらのベッドに入ってくる。
指だけではない。
血痕はシーツにも付着しており、勝宏はそれを辿って、透の体から出血したものだと理解した。
「怪我してるんじゃないか! なんで言わないんだよ、ポーションならルイーザから買ったやついくらでもあるんだから」
違う、違う、これは怪我じゃない。
いっそ単純な怪我だったらどんなに良かったか。
説明しようとしても、先ほどからなぜか一言も声が出ない。
喉からはかひゅ、と声帯を動かせなかった息が漏れるだけだ。
「どこだよ? 怪我したことバレたくないんなら、俺しか居ない今治した方がいいだろ」
必死に首を振るが、勝宏は透が怪我を隠しているとしか見てくれなかった。
一向に答えようとしない透に、彼は強硬手段に出た。
半身を起こしていた透を押し倒し、体の上に乗り上げて服を脱がしにかかる。
「言わないなら俺が勝手にやるからな」
怪我はしてない、だから見ないで。
自分なりに叫んでいるつもりでも、囁き声にすらならない。
押しのけようにも、転生者ステータスである彼の力に一般人の透が敵うわけがなかった。
無論、外傷などどこにもない。
透の服を全て取り払うまで勝宏はあるはずのない外傷を探し回り、首を傾げて……そこでようやく、コトに気付いた。
「と、……透、」
改めて。
ほの明るいやわらかな光にさらされた透の身体を見て、勝宏の顔色が土気色になった瞬間、透の心が折れた。
「詩絵里ー! 詩絵里ー!」
早朝。
女子部屋に駆け込んでいった勝宏が、女の子の部屋にノックなしで入ってくるなんて、とルイーザに殴り飛ばされながらも二人を連れてきた。
最早服を着直す気力すらなかった透は、シーツを身体に巻きつけているだけである。
それに、もともと着ていた服は汚れてしまっているので抵抗がある。
「なによ、どしたの勝宏くん朝っぱらから……」
勝宏に続いて詩絵里が部屋に入り、ベッドの上で放心している透の姿を見て真顔になる。
振り返り、部屋に入ろうとしたルイーザを回れ右させた。
「ルイーザ、ちょっと女子部屋に戻っててくれない?」
「えー? なんでですかー?」
「他にも在庫あるんでしょ? 部屋にひととおりアイテムボックスの中身出しておいてくれないかしら。あとでちょっと買い物がしたくて」
「おっ! わかりました! お買い上げまってますー!」
うまいとこ言いくるめられて、ルイーザが部屋に入ることなく戻ってゆく。
あの様子では、しばらく部屋からは出て来れないだろう。
「……さて。勝宏くん、とうとうやっちゃったの?」
「い、いや……やったっていうか……や……その……」
「透くんレイプ目になってるけど」
「それは……なんていうか……お、俺が……」
勝宏が無体を働いた前提で話が進んでいる。
裸のまま呆然としている透とシーツの血痕がいかにもな雰囲気をかもし出しているのだ。
「強姦しましたって?」
「ち、違う! ちが……う……と思いたいけど」
「あのねえ、ちゃんと合意の上でじゃないと、なんとなく雰囲気でオッケーっぽかったからってそれはレイプに変わりないのよ。透くんは勝宏くん相手じゃろくに抵抗できないんだから」
「う……うう……でも、頼むから見てやってくれよ。透、身体が……」
弁明を諦めた勝宏が、詩絵里を透の目の前まで連れてきた。
事後にしてはぐちゃぐちゃになっていないシーツと、汗や体液のにおいのない透を見て、彼女は少し考える仕草を見せる。
「透くん、ちょっと触るわね」
一言断って、シーツの上から詩絵里が透の胸を触った。
触った、というより掴んだ。
むにゅ、と、元の透の身体にはなかった肉の塊が持ち上がる。
それから、ぼそりと呟く。
「……なるほど、分かりたくないけど分かったわ。後天性にょた化というやつね……」
「にょ? 詩絵里、これ病気じゃないよな……?」
「なんで女の子になったかは知らないわよ。でもまず、その血は怪我じゃなくて月のアレだろうから、気にしなくていいわ」
「月のアレ?」
ひとまずレイプ魔の疑いの晴れた勝宏は、詩絵里の言葉に不安そうに聞き返す。
「えええ、はっきり言うべき? 月経よ。生理。女の子が妊娠・出産するために毎月体をメンテナンスするアレね」
「お……おんなのこ……にんしん……しゅっさん……」
再び、彼はその場に硬直した。
「勝宏くんは役に立たないから置いといて……血が服を汚して大変だったでしょ? だからシーツ巻いてるのね」
勝宏へのケアは早々に放棄して、詩絵里が透のベッドに腰掛ける。
「この世界じゃ布を使い捨て、貧困層は洗って再利用してるんだけど、透くん、せっかく日本に行けるんだから衛生面考えると日本の生理用品買ってきたほうがいいわ。一人で買える?」
彼女の言葉をかろうじて飲み込んだ透は、横に小さく首を振る。
「男の子だもんね……。あ、じゃあこうしましょう。私の日本での住所を教えるわ。そこに転移して、私の部屋にある生理用品使いなさいな」
私が死んだ日は家族は時期が時期だったから皆出払ってたけど、一応実家住みだったし。
セールで買い溜めしてたから、まだ残ってるはずよ。
安心して任せてくれとばかりに笑顔を向けられているが、それはひょっとしなくても、女性の部屋に入って女性特有の消耗品を、ひょっとしたら開封済みで使いかけだったかもしれないものたちを、持ってこい、と、いうことではないだろうか。
無茶だ。
ハードルが高すぎる。
「遠慮しないで。そうだ、娯楽関係で透くんに頼みたいことがあったのよ。私ね、あっちで小説を書いてたんだけど、恥ずかしいからその小説のデータを家族に見られるの嫌なのよね。私のために、ノートパソコン持ち出してくれない?」
まあ、はい、それなら。それくらいなら。
「透くんは私の部屋から必要な物資を得る。私は透くんにおつかいしてきてもらう。交渉成立ね」
今しがた頷いてしまった自分を呪った。そういうことだったのか。
「女の子のまま戻れないかもしれないし、逆にもしかしたら数時間で戻れるかもしれないけど……現段階で出血してるんだから生理用品はあったほうがいいわ。私がよく買ってたのはエ○スっていう安いやつ。見た目はね、青い四角のビニールパッケージでね、大きさはこれくらい……お手洗いの横の棚に積んでたはずよ。大丈夫そう?」
具体的な説明まで始まってしまった。
もう、こうなると腹を括るしかないだろう。
「じゃあ、ウィルさんが帰ってきたらよろしくね。付け方は帰ってきたら説明するから」
つ、つけかた。つけかたですか。こんな学び方したくなかった。
「って、ああそっか、男の子の下着に直接つけられるかっていうと微妙ね……新品のショーツなら脱衣所のタンスの上に袋ごと置いてると思うけど」
下着は駄目だ。駄目すぎる。
いくら転移をなんにでも使うからといって、その一線を超えてしまったら駄目だろう。
「使用済みのものじゃなければ、私は気にしないわよ?」
無理です絶対に無理です。
出てこない声の代わりに泣きながら首を振ったが、詩絵里には取り合ってもらえない。
「ブラもセットの安いやつ束で買ってたはずだし、サイズ合うか分からないけど、一応持ってきて」
震えが止まらない。
勝宏に服をひん剥かれた時以上の底知れない恐怖が透を襲う。
「持ってきて」
念押しする彼女の言葉に、とうとう頷くしかなくなってしまった。
発端は、夜、というよりは明け方に近い。
勝宏と自分、詩絵里とルイーザで分けられた部屋で眠っていると、急な腹痛で目が覚めた。
変なもの食べた記憶はないし、下腹部の鈍痛はこれまで経験したことのない類のものだ。
違和感を覚えて身体を起こしたその時、股間にぬるりとした感触が――。
そこで完全に眠気が飛んだ。
戦慄。
端然とそこにある、いやそこに無い事実を、頭が拒否している。
隣のベッドで大の字に転がっていた勝宏が、透に気付いてこちらの方へのそのそ寝返りを打つ。
「んー……透? どうかしたか……?」
なんでもない、なんでもないから起きてこないで。
とっさに言葉にしようとして、声が出てこない。
「透? ……透? おい、何だよそれ」
ぬるぬるしたもの、を確認すべく触ってしまっていたのがまずかった。
窓からわずかに差し込むほのかな光が、指先に付着した血液をばっちり照らしてしまっている。
顔色の変わった勝宏が、飛び起きてこちらのベッドに入ってくる。
指だけではない。
血痕はシーツにも付着しており、勝宏はそれを辿って、透の体から出血したものだと理解した。
「怪我してるんじゃないか! なんで言わないんだよ、ポーションならルイーザから買ったやついくらでもあるんだから」
違う、違う、これは怪我じゃない。
いっそ単純な怪我だったらどんなに良かったか。
説明しようとしても、先ほどからなぜか一言も声が出ない。
喉からはかひゅ、と声帯を動かせなかった息が漏れるだけだ。
「どこだよ? 怪我したことバレたくないんなら、俺しか居ない今治した方がいいだろ」
必死に首を振るが、勝宏は透が怪我を隠しているとしか見てくれなかった。
一向に答えようとしない透に、彼は強硬手段に出た。
半身を起こしていた透を押し倒し、体の上に乗り上げて服を脱がしにかかる。
「言わないなら俺が勝手にやるからな」
怪我はしてない、だから見ないで。
自分なりに叫んでいるつもりでも、囁き声にすらならない。
押しのけようにも、転生者ステータスである彼の力に一般人の透が敵うわけがなかった。
無論、外傷などどこにもない。
透の服を全て取り払うまで勝宏はあるはずのない外傷を探し回り、首を傾げて……そこでようやく、コトに気付いた。
「と、……透、」
改めて。
ほの明るいやわらかな光にさらされた透の身体を見て、勝宏の顔色が土気色になった瞬間、透の心が折れた。
「詩絵里ー! 詩絵里ー!」
早朝。
女子部屋に駆け込んでいった勝宏が、女の子の部屋にノックなしで入ってくるなんて、とルイーザに殴り飛ばされながらも二人を連れてきた。
最早服を着直す気力すらなかった透は、シーツを身体に巻きつけているだけである。
それに、もともと着ていた服は汚れてしまっているので抵抗がある。
「なによ、どしたの勝宏くん朝っぱらから……」
勝宏に続いて詩絵里が部屋に入り、ベッドの上で放心している透の姿を見て真顔になる。
振り返り、部屋に入ろうとしたルイーザを回れ右させた。
「ルイーザ、ちょっと女子部屋に戻っててくれない?」
「えー? なんでですかー?」
「他にも在庫あるんでしょ? 部屋にひととおりアイテムボックスの中身出しておいてくれないかしら。あとでちょっと買い物がしたくて」
「おっ! わかりました! お買い上げまってますー!」
うまいとこ言いくるめられて、ルイーザが部屋に入ることなく戻ってゆく。
あの様子では、しばらく部屋からは出て来れないだろう。
「……さて。勝宏くん、とうとうやっちゃったの?」
「い、いや……やったっていうか……や……その……」
「透くんレイプ目になってるけど」
「それは……なんていうか……お、俺が……」
勝宏が無体を働いた前提で話が進んでいる。
裸のまま呆然としている透とシーツの血痕がいかにもな雰囲気をかもし出しているのだ。
「強姦しましたって?」
「ち、違う! ちが……う……と思いたいけど」
「あのねえ、ちゃんと合意の上でじゃないと、なんとなく雰囲気でオッケーっぽかったからってそれはレイプに変わりないのよ。透くんは勝宏くん相手じゃろくに抵抗できないんだから」
「う……うう……でも、頼むから見てやってくれよ。透、身体が……」
弁明を諦めた勝宏が、詩絵里を透の目の前まで連れてきた。
事後にしてはぐちゃぐちゃになっていないシーツと、汗や体液のにおいのない透を見て、彼女は少し考える仕草を見せる。
「透くん、ちょっと触るわね」
一言断って、シーツの上から詩絵里が透の胸を触った。
触った、というより掴んだ。
むにゅ、と、元の透の身体にはなかった肉の塊が持ち上がる。
それから、ぼそりと呟く。
「……なるほど、分かりたくないけど分かったわ。後天性にょた化というやつね……」
「にょ? 詩絵里、これ病気じゃないよな……?」
「なんで女の子になったかは知らないわよ。でもまず、その血は怪我じゃなくて月のアレだろうから、気にしなくていいわ」
「月のアレ?」
ひとまずレイプ魔の疑いの晴れた勝宏は、詩絵里の言葉に不安そうに聞き返す。
「えええ、はっきり言うべき? 月経よ。生理。女の子が妊娠・出産するために毎月体をメンテナンスするアレね」
「お……おんなのこ……にんしん……しゅっさん……」
再び、彼はその場に硬直した。
「勝宏くんは役に立たないから置いといて……血が服を汚して大変だったでしょ? だからシーツ巻いてるのね」
勝宏へのケアは早々に放棄して、詩絵里が透のベッドに腰掛ける。
「この世界じゃ布を使い捨て、貧困層は洗って再利用してるんだけど、透くん、せっかく日本に行けるんだから衛生面考えると日本の生理用品買ってきたほうがいいわ。一人で買える?」
彼女の言葉をかろうじて飲み込んだ透は、横に小さく首を振る。
「男の子だもんね……。あ、じゃあこうしましょう。私の日本での住所を教えるわ。そこに転移して、私の部屋にある生理用品使いなさいな」
私が死んだ日は家族は時期が時期だったから皆出払ってたけど、一応実家住みだったし。
セールで買い溜めしてたから、まだ残ってるはずよ。
安心して任せてくれとばかりに笑顔を向けられているが、それはひょっとしなくても、女性の部屋に入って女性特有の消耗品を、ひょっとしたら開封済みで使いかけだったかもしれないものたちを、持ってこい、と、いうことではないだろうか。
無茶だ。
ハードルが高すぎる。
「遠慮しないで。そうだ、娯楽関係で透くんに頼みたいことがあったのよ。私ね、あっちで小説を書いてたんだけど、恥ずかしいからその小説のデータを家族に見られるの嫌なのよね。私のために、ノートパソコン持ち出してくれない?」
まあ、はい、それなら。それくらいなら。
「透くんは私の部屋から必要な物資を得る。私は透くんにおつかいしてきてもらう。交渉成立ね」
今しがた頷いてしまった自分を呪った。そういうことだったのか。
「女の子のまま戻れないかもしれないし、逆にもしかしたら数時間で戻れるかもしれないけど……現段階で出血してるんだから生理用品はあったほうがいいわ。私がよく買ってたのはエ○スっていう安いやつ。見た目はね、青い四角のビニールパッケージでね、大きさはこれくらい……お手洗いの横の棚に積んでたはずよ。大丈夫そう?」
具体的な説明まで始まってしまった。
もう、こうなると腹を括るしかないだろう。
「じゃあ、ウィルさんが帰ってきたらよろしくね。付け方は帰ってきたら説明するから」
つ、つけかた。つけかたですか。こんな学び方したくなかった。
「って、ああそっか、男の子の下着に直接つけられるかっていうと微妙ね……新品のショーツなら脱衣所のタンスの上に袋ごと置いてると思うけど」
下着は駄目だ。駄目すぎる。
いくら転移をなんにでも使うからといって、その一線を超えてしまったら駄目だろう。
「使用済みのものじゃなければ、私は気にしないわよ?」
無理です絶対に無理です。
出てこない声の代わりに泣きながら首を振ったが、詩絵里には取り合ってもらえない。
「ブラもセットの安いやつ束で買ってたはずだし、サイズ合うか分からないけど、一応持ってきて」
震えが止まらない。
勝宏に服をひん剥かれた時以上の底知れない恐怖が透を襲う。
「持ってきて」
念押しする彼女の言葉に、とうとう頷くしかなくなってしまった。
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