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章1

スキルを作るスキル(2)

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 たとえば、「魔物を食べてその能力を複製する」内容のスキルを持つ転生者と、「魔物を食べてその姿を模倣する」内容のスキルを持つ転生者がそれぞれこの世界に存在する。
 どちらも、ありがちなものなのになぜか後天的にポイントで取得できるスキルではない。

 彼らの持っているスキルは、本来は「魔物を食べることで魔物の能力の継承と、その姿への変化能力を得られる」というひとつのスキルだったのではないか……という考察だ。

 前者はともかく、模倣と言っても力の伴わない後者に関しては「転生者特典チート」と表現するにはあまりにお粗末である。

「これについてはね、検証もできているんだよ。実際、能力を複製する<コピー>のスキル所持者は、姿を模倣する<フェイク>のスキル所持者を取り込んで、無事スキルを成長させている」

 勝宏と詩絵里の関係のように、リファスにも元日本人の協力者が居るような口ぶりだ。

「二分されたスキルが、それぞれどちらも転生者の手に渡っていればいい。あとは争ってどちらかの力を奪うだけだからね。だが、神々がこのゲームに招待した人間は数十名でしかない。スキルは山ほどあるのに、だよ」

『……なんか、どっかで聞いたような話だな』

 リファスの言葉に耳を傾けていたらしいウィルが呟く。
 透と一緒に日本で暮らすようになってからサブカルに詳しくなってきているので、漫画やゲームでそんな設定を見聞きしたことがあるのかもしれない。

「その数十名の中に、自分と対になる片割れのスキルを手にした者がはたして含まれているのか? そればかりはもう、いわゆる『運ゲー』じゃないか」

『おっと。劣化コピーが当たるかよ』

「私は、不確定要素に頼る気はない。だからこそ、新たなスキルを欲していた」

 シューティングゲームの弾幕のような攻撃が放たれ、ウィルが座り込んだままの透と一緒に難なく避けていく。

「まあ、せっかく片割れが目の前に現れてくれたんだ。この幸運を逃さない手はないよね」

『……誤解される頻度も増えたな、透』

 頻度「も」って何だろう。
 呆れ声のウィルに何も言い返せない。

 いっそ転生者ではないことを最初から公言して回った方がいいんだろうか。
 それはそれで、哲司の時のようになりそうだが。

(ねえウィル、それより……勝宏は、まだ生きてるの?)
『あー、生きてると思うぜ。わりと近くに反応あるし』

 どういう理屈だか分からないが、ウィル本人の能力は転生者のチートスキルと比べても遜色ない性能を誇っている。
 彼がそう言うなら少なくとも、今はまだ勝宏を助けられる見込みがあるのだろう。

 勝宏はあれで消滅してしまったものと思っていた。
 だからリファスのいう蘇生スキルに頼りたい一心で言いなりになろうとしたが、彼が生きているなら、今度は自分が勝宏を助けたい。

『その足でか?』
「それは……」

「最初から転移で避けていればいいものを、それができなかったということは、発動に条件があるんだろう?」

『ねえけどな。透、どうする? なんか持論展開してるが、日本に戻って昼寝でもしてれば諦めるんじゃねえかこいつ』
(う、うん、どうだろう……)

 ウィル不在からの帰還が戦闘中に偶然起こったため、透のスキルについてリファスからは完全に勘違いされている。

『どうせあいつらにまた飯用意してやるんだろ? だったらもう帰ろうぜ』
(でも、勝宏が生きてるなら探しに行きたいし……詩絵里さんたちもこの町のダンジョンに潜ったままだし)

 それに、この手では料理は無理だ。
 出来合いを用意するにしたって、立てないのでは買い物にすら行けない。

『いや、探すもなにも、全員すぐ近くにいるじゃねえか』

----------

 ルイーザによって研究資料が回収された頃、詩絵里は隠し通路の場所に見当をつけていた。

 悪趣味な氷のオブジェの並ぶ中を横切って、老婆の眠る氷の前に止まる。
 強力な攻撃魔法を使ってこの場にある無数の遺体を傷つけるのはしのびない。

 出力を抑えた風魔法で壁を切り裂くと、その先に階段が隠されていた。

 おそらく、リファスが通る際は壁が動くような仕組みになっていたのだろう。

「集め終わりましたー! あれ? 詩絵里さん、探してたものってこの隠し階段ですか?」
「そうね。まさか下にもあるとは思わなかったけど」

 そう、現れた階段は、上に続く階段だけではなく、そのまま下の階層にも繋がっていたのである。

「この氷の山がリファスの仕業なら、診療所もしくは自宅からこの場所まで行き来しやすいような通路を別口で絶対作ってるはずだと思ってね」

「確かに、悪だくみするたび町外れのダンジョンまで外出して、9層目まで降りてくるのもたいへんでしょうしね」

 まずは、上への階段を少しのぼってみることにする。
 容易に脱出が可能なようならそれでよし、難しければ下りの階段を使ってもう少し隠しフロアの探索だ。

「マッピングしてて、おかしいなとは思ってたのよ。なんだか横に長いこと移動させられてる感じがしたもの」

「ああ、そういえばフロア横長でした! ……え、じゃあひょっとして?」

 ルイーザの言葉に頷きを返す。

「このダンジョンは、入り口が町外れにあるだけで、大半が町の地下に広がってるわ」

 ……と、その時、階下から壁が崩落するような音が聞こえてくる。
 まるで、重機を使って古い建物を壊している時の音だ。

「えっ!? だ、ダンジョン崩れてます!?」
「馬鹿言わないで、ダンジョンは生き物みたいなもんよ! あんな派手な音の聞こえる崩落なんて――」

 慌て出したルイーザについ呑まれそうになったが、ふと立ち止まる。

「ルイーザ」
「なんですか!?」

「降りてみましょう」
「えええ!?」

 先ほどの氷のオブジェたちがリファスの仕業だとして、もうひとつ気になっていたことがあったのだ。

 あの大きさの氷を、どうやって運んだのか。

 患者たちの表情はほとんど、安心しきっている様子ばかりだった。
 こんな地下に連れ去られてから凍らされるとなったら、抵抗のあとが見られても不思議ない。

 なのにそれがないということは、魔法による治療がごく日常的に行われる場所で凍らされ、ここまで運ばれてきた……とするのが自然だろう。

 彼のスキルは、本当に「不要物を冷気に変える能力」だろうか?

 その疑問は、はたして階段を下りた先で解決した。

 階下には、見覚えのある形状をした大量の壁たち――おそらく、透の魔法によって作られたものだ――が無造作にうち捨てられていた。

 さっきの大きな音は、これが「転送」されて、ここに落下してきた音か。

「どわっ! あっぶね……って、なんだここ?」

 ついでに、その山の上に変身ヒーロー……勝宏が降ってきた。

「だいたい予想通りね……いや、勝宏くんまで降ってくるとは思ってなかったけど」
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