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章1

副作用と謎の張り合いの件(3)

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 親父さんに処分をお願いした大小様々な宝石たちは、道具屋で鑑定された結果、買取金額の金貨が四桁近くにまで上ったそうだ。

 特に先ほどのエメラルドは、サイズが大きく純度も高いため非常に高価だったらしい。
 たぶん、日本で売ると人工宝石扱いで安価だったりするんだろうなあ、と思いつつ、親父さんの話を聞き流す。

「ほら、売ったあとの金なら持っていけるだろ?」

 言って、親父さんが金貨の入った袋を差し出してきた。

「あ、あの……そのお金、」
「どうした、まだ何かあるのか?」

「町の、結界を張り直す、魔法使いを雇うのに、どうぞ」

 先ほどの宝石たちは、処分をお願いした時点で親父さんに譲ったようなものだ。
 スクロールで魔法を覚えても冒険者登録をしなければ使用できないのなら、大金を使ってスクロールを買う意味もない。

 透が持っているより、守護者の居なくなったこの町を守るための資金にしてもらった方がずっと有意義というものである。

「兄ちゃん……分かった。役所で話を通してこよう。もちろん、あんたらのことは伏せる」

 本国で捕まってもウィルに頼めば逃げられそうな気はするが、逃亡者として息を潜めながらの異世界生活はきっと不便だろう。
 ぜひそうしていただきたい。

 大金を抱えて出て行く親父さんを再び見送って、勝宏の眠るベッドのそばに椅子を寄せた。
 透自身にHPやMP、レベルという概念が適用されているのかどうかすら分からないまま、魔法もどきを習得することになってしまった。

 ぽろぽろ宝石が生まれる弊害はあるが、これからは戦闘にも参加できるだろう。
 殺虫剤で虫系魔物を倒す、なんて手段を取らなくても正攻法で戦闘経験が積める。

「ウィル」
『なんだ?』

「カルブンクの魔法って、やっぱり地属性に偏ってるの?」
『いや、やつのは厳密には練成術だ。岩や泥を作り出すだけじゃなく、水魔法の真似事もできるはずだぜ』

「そっか。地属性と水属性の魔法が使えるんだね」
『ていうか、その気になれば何でも――』

 ウィルと話をしている途中で、ベッドの中にいる勝宏が身じろぎした。
 会話を一旦中断する。

「……透……?」
「あ、勝宏。もう平気?」

 ウィルとの会話、聞かれてしまっただろうか。
 勝宏にはウィルの姿が見えていないので、聞かれていたら確実に頭がヤバいと思われてしまう。

「ん。悪い、透。俺が守るって言ったのに……」
「守ってくれたよ」

 勝宏がいたから、臆病者が勇気を出せた。
 そして彼が隣にいなければ、ひょっとしたら今もまだ土壁越しに鷹也と押し問答をしていたかもしれない。

 透の言葉を気遣いと受け取ったかそのまま受けてくれたかまでは分からなかったが、勝宏が大きく息を吐く。
 気合を入れるように、自分の頬を両手で叩いた。

「なあ透。さっきの戦いでいきなり魔法使えるようになってたけど、あれどうしたんだ?」

 今ので気持ちを切り替えたらしい。
 勝宏の問いかけに、すこしばかり逡巡する。

「えっと……」

 なんと伝えるべきか。
 作り話で誤魔化す、のは透のコミュニケーション能力では無理がある。
 正直に話す……しかないだろう、これは。

 悪魔が、なんていうと心配されてしまいそうだから、精霊として話すか。
 ウィルたちも悪魔なのか精霊なのか線引きが曖昧だと言っていることだし。

「冗談みたいな、話だけど……戦ってる最中に、急に時間が止まって、精霊の女の子が話しかけてきて」
「精霊! へえ、この世界、そういうの会えるもんなんだ」

「攻撃手段がないから、困ってるって言ったら、じゃあ魔法教えてあげるって、言われて」
「すげー、精霊から直接魔法を授かるって勇者っぽいじゃん」

 勇者っぽいのか。
 転生者ゲーム自動参加見送りの末の契約だったので、内情を知られればただのビビりなのだけれども。

「でも、対価……ふ、副作用みたいなのが、あるって」
「副作用? どんな?」

「た、たぶん、……一時的に、体液が宝石になる」

 宿の親父さんが宝石を売却しに行っている間、試しに汗ではなく唾液が宝石化するかどうか検証した。
 結果は汗と同様。宝石に変換された。

 だが、しばらくするとぴたりと変換が止まった。
 汗はもう引いたあとだったので確かめようがなかったが、唾液に関しては、今は変換されていない。

 宝石化が止まっている、ということだろう。
 時間にして、ちょうど一時間ほどだろうか。
 魔法を使ってから一時間くらいの間だけ、体液が宝石化するようだ。

「魔法が使えるようになる代わりに、体液が宝石になっちゃう、か……デメリット?」

 勝宏が首をかしげるのも分かる。
 確かに汗かくたびぽろぽろ固形物が落ちてくるのはめんどくさそうだけど、お金になるしデメリットってほどじゃないような気もするなあ。と続けられた。

「そ、そうだよね」

 その条件は単純に表面のみを推測しただけであって、本当は徐々に体内の血液なんかが石になっていくものなんじゃないかという不安はあるが。
 言ったところで彼に心配をかけさせるだけなので、そのあたりの憶測は差し控える。

「あ……いつでも、ってわけじゃないよ。魔法を使ってから、一時間くらいの間だけそうなるんだ」
「ふーん……俺が気を失ってからそんなことになってたんだ」
「確認できたのは、汗と涙と唾液くらいだけど」

 さすがにあの一時間で、自傷する勇気は出なかった。
 血液については調べられていない。

「確認したのはそんだけ?」
「へ?」

 ベッドから足を下ろした勝宏が、悪い笑みを浮かべた。

「汗と涙と唾液だけ? 血は仕方ないと思うけど、トイレとかどうした?」
「え、い、行ってない、から分か、らない」

 考えていなかった。それはなんか、わりと嫌だな。
 そして透をそういう身体にしたのが見た目十歳程度の少女であるという事実がまた羞恥に拍車をかけていく。

「じゃあアレは? 精液」
「せ、っ!」
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