聖女の証

とーふ(代理カナタ)

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第45話『この行為には愛がありません!!』①

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土の精霊に導かれるまま、獣人さんの森から東の果てへ移動し、オーガさんの住処へ来た私だったが、私は今オーガさんの近くであっちだこっちだと走り回っていた。

「はい。種! こっちも種! こっちにも種! そして、雨、行きますよー!」

私はオーガさんに抱き上げられ、ちょっと高い場所から水の魔術を応用して小さな雨を降らせる。

これを私はずっと繰り返していた。

確かに効率が良い。

土を掘るのはオーガさんの方が速いし、私の方がオーガさんより器用だから種をまく。

そして魔術が使えるから水の魔術で全体の水まきが出来る。

それは分かる。凄く分かる。

でも、こうじゃない。これじゃない。こんなのは楽しくない。

「ストップ! ストップ!! ストーップ!!」

私の声に反応してオーガさん達がみんな動きを止めた。

最大限効率化していた動きが、私を見るという行動に変わる。

「これでは駄目です!!」

「何が駄目なんだ。アメリア」

私の訴えに反応したのは一番大きなオーガさんだった。

全身が傷だらけで、いかにも強そうな雰囲気の漂うオーガさんである。

しかし、だからどうしたという話だ。

「この行為には愛がありません!! 愛ではなく作業の様です!」

「愛?」

「そう。愛です! 皆さんは何故お花を育てたいんですか!? 食べる為ですか!? 違いますよね!」

私は周囲を見渡しながら、オーガさんに言い放つ。

大切な事を。

決して忘れてはいけない事を。

「愛でる為でしょう! 大切にする為でしょう。より速く、より簡単に、より的確に。それはそれで確かに良い事なのかもしれません。しかし、忘れてはいけません。今私たちがやっている事は何ですか!? そう! これは好きでやっている事でしょう! であるならば、楽しくやらねば駄目じゃないですか!?」

「楽しく。と言われてもな。どうやれば良い」

「今まで通りやればよろしい!!」

「……だが、それでは花が咲かない。意味が無いだろう」

「確かに頑張ったのに結果が出ないというのは辛い物です。分かります。ですが、本当に意味がないですか!?」

「っ」

「私が来た時、皆さんは既に試行錯誤をしていた後でした。柔らかい土を選び、そこまで深くない穴を掘って種を埋める。そして水を適量かけて後はゆっくりと待つ。どうしてそんな行動をしたんですか!? 皆さんが挑戦していたからでしょう!? 諦めずに努力し続けていたからでしょう。何故それを捨てるんですか!? 結果だけ得られればそれで良いんですか!?」

「……それは、違う」

「そうでしょう。私もそう思います。ですから、断言しましょう!! ハッキリと。私は言います。不器用でも良い。不格好でも良い。ただ己のやれる事をやって、得た成果は! どんな綺麗な物よりも、どんな素晴らしい物よりも、皆さんの心に響くでしょう! それが大切な思い出になる!」

私は拳を握り締めながらそう断言した。

それがどれだけオーガさんに届いたかは分からない。

分からないが、私のすぐ横に居たオーガさんは、しゃがみ込むと先ほどよりも慎重な手つきで土を掘り、そこにゆっくりと種を置いた。

優しく、潰さず押し込まず、壊れない様に、そっと。

そしてまた優しく土をかけると、私を見た。

まぁ、それくらいは良いか。
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