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第42話『……私は神様なんかじゃないです』③
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私が放った言葉を聞いて、獣人さん達はざわざわと騒ぎながら、互いに小さな声で囁き合っていた。
その表情には恐怖が浮かんでいる。
「闇の力が暴走すれば……」
「世界は以前よりも濃い闇の世界となるでしょう」
「お、おぉぉお……なんという事だ」
「ですが、土の精霊に協力いただければこちらは問題なく解決出来ます」
「それは……! 承知いたしました。全種族力を合わせて、即座に探しましょう」
「ありがとうございます」
私は頭を下げながら、少し心が落ち着いて、安堵の溜息を吐いた。
緊張がやや消える。
「闇を封印された後は」
「仲間と旅をしようと考えていますが、目的地は決まってませんね。ただ、ゆるりと世界を巡ろうかと」
「……左様でございますか」
狸の獣人さんはやや、考える様な仕草をした後、重そうな瞼をグッと開いて、つぶらな瞳で私を見据えた。
「では、その旅に我ら獣人の若者を連れてゆく事は可能でしょうか?」
「婆さん!? 何を言ってるんだ!!」
「そうだ。アメリア様の仲間といえば、あの人間どもだろう!? 人間と旅をさせるなど!!」
「私は、構いません」
「……っ!? アメリア様!」
「そうですか。そうですか。では、我が子は人に化けるのが得意ですので、是非ともご同行をお願いいたします」
「私は構いませんが、本当によろしいのですか?」
「えぇ。無論ですよ。アメリア様」
ニコニコと笑う狸の獣人さんは、笑顔のまま頷いて、周囲はその反応に困惑している。
いや、困惑しているのは私も同じだ。
あれほど人間を憎み、敵対していたというのに、何故。
「アメリア様。不思議そうな顔ですね」
「はい。そうですね。正直理由が分からないので」
「理由ならば、一つしかありませんよ。我らはアメリア様の加護無しに二百年間この森で生きておりました。しかし、その数は年々減っております」
「……」
「我らはアメリア様の慈悲により力を得ました。しかし心は変わらず弱いままなのです。知らぬ物を恐れ、傷つかぬ様にと牙をむく。それしか出来ぬ臆病者なのです。だからこそ、アメリア様のご加護が欲しい。何もせずとも見守っていただきたいのです」
「……見守る」
「はい。ただ我らが道を間違えぬ様にと、見ていて下さる。それだけで我らは正しくあれるのです。しかし、今のままではまた、アメリア様に失望されてしまうでしょう。故に人間を、世界を知る為の旅へ御同行させていただきたいのです」
「分かりました。そういう事でしたら、私も協力させて下さい」
「おぉ! ありがたい! 感謝いたします。アメリア様」
「いえ。私などは大した力もありませんが、皆さんが望む限り、見守り続けましょう。それが平和に繋がるのであれば」
私はようやく安心して心からの笑みを浮かべたのだった。
その表情には恐怖が浮かんでいる。
「闇の力が暴走すれば……」
「世界は以前よりも濃い闇の世界となるでしょう」
「お、おぉぉお……なんという事だ」
「ですが、土の精霊に協力いただければこちらは問題なく解決出来ます」
「それは……! 承知いたしました。全種族力を合わせて、即座に探しましょう」
「ありがとうございます」
私は頭を下げながら、少し心が落ち着いて、安堵の溜息を吐いた。
緊張がやや消える。
「闇を封印された後は」
「仲間と旅をしようと考えていますが、目的地は決まってませんね。ただ、ゆるりと世界を巡ろうかと」
「……左様でございますか」
狸の獣人さんはやや、考える様な仕草をした後、重そうな瞼をグッと開いて、つぶらな瞳で私を見据えた。
「では、その旅に我ら獣人の若者を連れてゆく事は可能でしょうか?」
「婆さん!? 何を言ってるんだ!!」
「そうだ。アメリア様の仲間といえば、あの人間どもだろう!? 人間と旅をさせるなど!!」
「私は、構いません」
「……っ!? アメリア様!」
「そうですか。そうですか。では、我が子は人に化けるのが得意ですので、是非ともご同行をお願いいたします」
「私は構いませんが、本当によろしいのですか?」
「えぇ。無論ですよ。アメリア様」
ニコニコと笑う狸の獣人さんは、笑顔のまま頷いて、周囲はその反応に困惑している。
いや、困惑しているのは私も同じだ。
あれほど人間を憎み、敵対していたというのに、何故。
「アメリア様。不思議そうな顔ですね」
「はい。そうですね。正直理由が分からないので」
「理由ならば、一つしかありませんよ。我らはアメリア様の加護無しに二百年間この森で生きておりました。しかし、その数は年々減っております」
「……」
「我らはアメリア様の慈悲により力を得ました。しかし心は変わらず弱いままなのです。知らぬ物を恐れ、傷つかぬ様にと牙をむく。それしか出来ぬ臆病者なのです。だからこそ、アメリア様のご加護が欲しい。何もせずとも見守っていただきたいのです」
「……見守る」
「はい。ただ我らが道を間違えぬ様にと、見ていて下さる。それだけで我らは正しくあれるのです。しかし、今のままではまた、アメリア様に失望されてしまうでしょう。故に人間を、世界を知る為の旅へ御同行させていただきたいのです」
「分かりました。そういう事でしたら、私も協力させて下さい」
「おぉ! ありがたい! 感謝いたします。アメリア様」
「いえ。私などは大した力もありませんが、皆さんが望む限り、見守り続けましょう。それが平和に繋がるのであれば」
私はようやく安心して心からの笑みを浮かべたのだった。
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