聖女の証

とーふ(代理カナタ)

文字の大きさ
上 下
134 / 198

第42話『……私は神様なんかじゃないです』③

しおりを挟む
私が放った言葉を聞いて、獣人さん達はざわざわと騒ぎながら、互いに小さな声で囁き合っていた。

その表情には恐怖が浮かんでいる。

「闇の力が暴走すれば……」

「世界は以前よりも濃い闇の世界となるでしょう」

「お、おぉぉお……なんという事だ」

「ですが、土の精霊に協力いただければこちらは問題なく解決出来ます」

「それは……! 承知いたしました。全種族力を合わせて、即座に探しましょう」

「ありがとうございます」

私は頭を下げながら、少し心が落ち着いて、安堵の溜息を吐いた。

緊張がやや消える。

「闇を封印された後は」

「仲間と旅をしようと考えていますが、目的地は決まってませんね。ただ、ゆるりと世界を巡ろうかと」

「……左様でございますか」

狸の獣人さんはやや、考える様な仕草をした後、重そうな瞼をグッと開いて、つぶらな瞳で私を見据えた。

「では、その旅に我ら獣人の若者を連れてゆく事は可能でしょうか?」

「婆さん!? 何を言ってるんだ!!」

「そうだ。アメリア様の仲間といえば、あの人間どもだろう!? 人間と旅をさせるなど!!」

「私は、構いません」

「……っ!? アメリア様!」

「そうですか。そうですか。では、我が子は人に化けるのが得意ですので、是非ともご同行をお願いいたします」

「私は構いませんが、本当によろしいのですか?」

「えぇ。無論ですよ。アメリア様」

ニコニコと笑う狸の獣人さんは、笑顔のまま頷いて、周囲はその反応に困惑している。

いや、困惑しているのは私も同じだ。

あれほど人間を憎み、敵対していたというのに、何故。

「アメリア様。不思議そうな顔ですね」

「はい。そうですね。正直理由が分からないので」

「理由ならば、一つしかありませんよ。我らはアメリア様の加護無しに二百年間この森で生きておりました。しかし、その数は年々減っております」

「……」

「我らはアメリア様の慈悲により力を得ました。しかし心は変わらず弱いままなのです。知らぬ物を恐れ、傷つかぬ様にと牙をむく。それしか出来ぬ臆病者なのです。だからこそ、アメリア様のご加護が欲しい。何もせずとも見守っていただきたいのです」

「……見守る」

「はい。ただ我らが道を間違えぬ様にと、見ていて下さる。それだけで我らは正しくあれるのです。しかし、今のままではまた、アメリア様に失望されてしまうでしょう。故に人間を、世界を知る為の旅へ御同行させていただきたいのです」

「分かりました。そういう事でしたら、私も協力させて下さい」

「おぉ! ありがたい! 感謝いたします。アメリア様」

「いえ。私などは大した力もありませんが、皆さんが望む限り、見守り続けましょう。それが平和に繋がるのであれば」

私はようやく安心して心からの笑みを浮かべたのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異界冒険譚シリーズ外伝【ミラ編前日譚】-その恋の始まりは、暗闇へと繫っている-

とーふ(代理カナタ)
ファンタジー
その日、世界に一人の少女が誕生した。 彼女の誕生に人々は歓喜し、世界へ感謝を告げた。 その整った容姿、素晴らしい精神性は人々の心を惹きつけ、奪う。 しかし彼女の誕生は喜びばかりを人々に与えはしなかった。 そう。彼女を求め、争いが始まってしまったのだ。 これは一人の少女を巡り、戦う者たちの物語(かもしれない) ☆☆この物語は『異界冒険譚シリーズ【ミラ編】-少女たちの冒険譚-』の前日譚となっております。 単独でも読めますが、本編の方も読んでいただけると、より一層楽しめるかと思います!☆☆

異界冒険譚シリーズ 【エリカ編】-迷い子の行く先-

とーふ(代理カナタ)
ファンタジー
少女はその世界で孤独だった。 家族は彼女を疎み、友人は彼女から離れていった。 孤独は人の命を容易く奪う。 少女はその世界で生きる事を諦めていたが、たった一つ、残された糸が少女を生かし続けていた。 そしてその糸は、世界を超え、異世界へと繋がる。 これは孤独に潰されそうな少女が、新しい世界に希望を見出す物語。 ☆☆本作は異界冒険譚シリーズと銘打っておりますが、世界観を共有しているだけですので、単独でも楽しめる作品となっております。☆☆ その為、特に気にせずお読みいただけますと幸いです。

異世界で世界樹の精霊と呼ばれてます

空色蜻蛉
ファンタジー
普通の高校生の樹(いつき)は、勇者召喚された友人達に巻き込まれ、異世界へ。 勇者ではない一般人の樹は元の世界に返してくれと訴えるが。 事態は段々怪しい雲行きとなっていく。 実は、樹には自分自身も知らない秘密があった。 異世界の中心である世界樹、その世界樹を守護する、最高位の八枚の翅を持つ精霊だという秘密が。 【重要なお知らせ】 ※書籍2018/6/25発売。書籍化記念に第三部<過去編>を掲載しました。 ※本編第一部・第二部、2017年10月8日に完結済み。 ◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。

異界冒険譚シリーズ 【オリヴィア編】-語られぬ者たちの物語-

とーふ(代理カナタ)
ファンタジー
聖女アメリアによって、大いなる闇の力が封印された平和が訪れた世界。 しかし、闇は完全に消えてはいなかった! 闇は意思を持ち、『魔王』という名の存在になって復活したのだ。 そして、聖女アメリアが次代の聖女として選んだ少女オリヴィアは聖女として魔王を倒す為の旅に出て……遂にその魔王を討伐する事に成功した。 しかし、聖女オリヴィアを含めた勇者一行は、魔王を完全に消し去る事が出来ず、その復活まで予言されてしまう。 また時が来れば復活してしまう魔王に、聖女オリヴィアは滅ぼすのではなく、封印という手段を取る……! そして、聖女オリヴィアは自身の力により子供となった魔王の力を奪い、善き魔王として生まれ変わらせる為に『教育』を始めるのだった。 これは聖女アメリアの素晴らしさを教え込む為にあらゆる手段を取る聖女オリヴィアと、そんなアメリア狂信者のオリヴィアから逃げようと奮闘する魔王の戦いの記録である。 ☆☆本作は異界冒険譚シリーズと銘打っておりますが、世界観を共有しているだけですので、単独でも楽しめる作品となっております。☆☆ その為、特に気にせずお読みいただけますと幸いです。

異界冒険譚シリーズ【ミラ編】-少女たちの冒険譚-

とーふ(代理カナタ)
ファンタジー
この世界には数多の謎が存在する。 少女は未知を求めて、世界を駆ける。 抱えきれない程の本から得た知識と、何処までも世界を照らす希望を胸に。 これは世界に夢見る少女と、そんな少女に魅せられた者たちが織りなす物語。 ☆☆本作は正異界冒険譚シリーズと銘打っておりますが、世界観を共有しているだけですので、単独でも楽しめる作品となっております。 その為、特に気にせずお読みいただけますと幸いです。☆☆

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します

華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~ 「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」  国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。  ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。  その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。  だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。  城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。  この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。

追放された偽物聖女は、辺境の村でひっそり暮らしている

ファンタジー
辺境の村で人々のために薬を作って暮らすリサは“聖女”と呼ばれている。その噂を聞きつけた騎士団の数人が現れ、あらゆる疾病を治療する万能の力を持つ聖女を連れて行くべく強引な手段に出ようとする中、騎士団長が割って入る──どうせ聖女のようだと称えられているに過ぎないと。ぶっきらぼうながらも親切な騎士団長に惹かれていくリサは、しかし実は数年前に“偽物聖女”と帝都を追われたクラリッサであった。

処理中です...