聖女の証

とーふ(代理カナタ)

文字の大きさ
上 下
134 / 143

第42話『……私は神様なんかじゃないです』③

しおりを挟む
私が放った言葉を聞いて、獣人さん達はざわざわと騒ぎながら、互いに小さな声で囁き合っていた。

その表情には恐怖が浮かんでいる。

「闇の力が暴走すれば……」

「世界は以前よりも濃い闇の世界となるでしょう」

「お、おぉぉお……なんという事だ」

「ですが、土の精霊に協力いただければこちらは問題なく解決出来ます」

「それは……! 承知いたしました。全種族力を合わせて、即座に探しましょう」

「ありがとうございます」

私は頭を下げながら、少し心が落ち着いて、安堵の溜息を吐いた。

緊張がやや消える。

「闇を封印された後は」

「仲間と旅をしようと考えていますが、目的地は決まってませんね。ただ、ゆるりと世界を巡ろうかと」

「……左様でございますか」

狸の獣人さんはやや、考える様な仕草をした後、重そうな瞼をグッと開いて、つぶらな瞳で私を見据えた。

「では、その旅に我ら獣人の若者を連れてゆく事は可能でしょうか?」

「婆さん!? 何を言ってるんだ!!」

「そうだ。アメリア様の仲間といえば、あの人間どもだろう!? 人間と旅をさせるなど!!」

「私は、構いません」

「……っ!? アメリア様!」

「そうですか。そうですか。では、我が子は人に化けるのが得意ですので、是非ともご同行をお願いいたします」

「私は構いませんが、本当によろしいのですか?」

「えぇ。無論ですよ。アメリア様」

ニコニコと笑う狸の獣人さんは、笑顔のまま頷いて、周囲はその反応に困惑している。

いや、困惑しているのは私も同じだ。

あれほど人間を憎み、敵対していたというのに、何故。

「アメリア様。不思議そうな顔ですね」

「はい。そうですね。正直理由が分からないので」

「理由ならば、一つしかありませんよ。我らはアメリア様の加護無しに二百年間この森で生きておりました。しかし、その数は年々減っております」

「……」

「我らはアメリア様の慈悲により力を得ました。しかし心は変わらず弱いままなのです。知らぬ物を恐れ、傷つかぬ様にと牙をむく。それしか出来ぬ臆病者なのです。だからこそ、アメリア様のご加護が欲しい。何もせずとも見守っていただきたいのです」

「……見守る」

「はい。ただ我らが道を間違えぬ様にと、見ていて下さる。それだけで我らは正しくあれるのです。しかし、今のままではまた、アメリア様に失望されてしまうでしょう。故に人間を、世界を知る為の旅へ御同行させていただきたいのです」

「分かりました。そういう事でしたら、私も協力させて下さい」

「おぉ! ありがたい! 感謝いたします。アメリア様」

「いえ。私などは大した力もありませんが、皆さんが望む限り、見守り続けましょう。それが平和に繋がるのであれば」

私はようやく安心して心からの笑みを浮かべたのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

転生幼女はお願いしたい~100万年に1人と言われた力で自由気ままな異世界ライフ~

土偶の友
ファンタジー
 サクヤは目が覚めると森の中にいた。  しかも隣にはもふもふで真っ白な小さい虎。  虎……? と思ってなでていると、懐かれて一緒に行動をすることに。  歩いていると、新しいもふもふのフェンリルが現れ、フェンリルも助けることになった。  それからは困っている人を助けたり、もふもふしたりのんびりと生きる。 9/28~10/6 までHOTランキング1位! 5/22に2巻が発売します! それに伴い、24章まで取り下げになるので、よろしく願いします。

召喚されたけど要らないと言われたので旅に出ます。探さないでください。

udonlevel2
ファンタジー
修学旅行中に異世界召喚された教師、中園アツシと中園の生徒の姫島カナエと他3名の生徒達。 他の三人には国が欲しがる力があったようだが、中園と姫島のスキルは文字化けして読めなかった。 その為、城を追い出されるように金貨一人50枚を渡され外の世界に放り出されてしまう。 教え子であるカナエを守りながら異世界を生き抜かねばならないが、まずは見た目をこの世界の物に替えて二人は慎重に話し合いをし、冒険者を雇うか、奴隷を買うか悩む。 まずはこの世界を知らねばならないとして、奴隷市場に行き、明日殺処分だった虎獣人のシュウと、妹のナノを購入。 シュウとナノを購入した二人は、国を出て別の国へと移動する事となる。 ★他サイトにも連載中です(カクヨム・なろう・ピクシブ) 中国でコピーされていたので自衛です。 「天安門事件」

ヘンリエッタの再婚約

桃井すもも
恋愛
ヘンリエッタは学園の卒業を半年後に控えたある日、縁談を打診される。 それは王国の第二王子殿下からの勧めであるらしく、文には王家の金色の封蝋が見えていた。 そんな事ってあるだろうか。ヘンリエッタは第二王子殿下が無理にこの婚約を推し進めるのであれば、一層修道院にでも駆け込んで、決して言うがままにはされるまいと思った。 それもその筈、婚約話しの相手とは元の婚約者であった。 元婚約者のハロルドとは、彼が他に愛を移した事から婚約を解消した過去がある。 あれ以来、ヘンリエッタはひと粒の涙も零す事が無くなった。涙は既に枯れてしまった。 ❇短編から長編へ変更致しました。 ❇R15短編にてスタートです。R18なるかな?どうかな? ❇登場人物のお名前が他作品とダダ被りしておりますが、皆様別人でございます。 ❇相変わらずの100%妄想の産物です。史実とは異なっております。 ❇外道要素を含みます。苦手な方はお逃げ下さい。 ❇妄想遠泳の果てに波打ち際に打ち上げられた妄想スイマーによる寝物語です。 疲れたお心とお身体を妄想で癒やして頂けますと泳ぎ甲斐があります。 ❇座右の銘は「知らないことは書けない」「嘘をつくなら最後まで」。 ❇例の如く、鬼の誤字脱字を修復すべく公開後から激しい微修正が入ります。 「間を置いて二度美味しい」とご笑覧下さい。

異界冒険譚シリーズ外伝【ミラ編前日譚】-その恋の始まりは、暗闇へと繫っている-

とーふ(代理カナタ)
ファンタジー
その日、世界に一人の少女が誕生した。 彼女の誕生に人々は歓喜し、世界へ感謝を告げた。 その整った容姿、素晴らしい精神性は人々の心を惹きつけ、奪う。 しかし彼女の誕生は喜びばかりを人々に与えはしなかった。 そう。彼女を求め、争いが始まってしまったのだ。 これは一人の少女を巡り、戦う者たちの物語(かもしれない) ☆☆この物語は『異界冒険譚シリーズ【ミラ編】-少女たちの冒険譚-』の前日譚となっております。 単独でも読めますが、本編の方も読んでいただけると、より一層楽しめるかと思います!☆☆

幼女に転生したらイケメン冒険者パーティーに保護&溺愛されています

ひなた
ファンタジー
死んだと思ったら 目の前に神様がいて、 剣と魔法のファンタジー異世界に転生することに! 魔法のチート能力をもらったものの、 いざ転生したら10歳の幼女だし、草原にぼっちだし、いきなり魔物でるし、 魔力はあって魔法適正もあるのに肝心の使い方はわからないし で転生早々大ピンチ! そんなピンチを救ってくれたのは イケメン冒険者3人組。 その3人に保護されつつパーティーメンバーとして冒険者登録することに! 日々の疲労の癒しとしてイケメン3人に可愛いがられる毎日が、始まりました。

駆け落ちした姉に代わって、悪辣公爵のもとへ嫁ぎましたところ 〜えっ?姉が帰ってきた?こっちは幸せに暮らしているので、お構いなく!〜

あーもんど
恋愛
『私は恋に生きるから、探さないでそっとしておいてほしい』 という置き手紙を残して、駆け落ちした姉のクラリス。 それにより、主人公のレイチェルは姉の婚約者────“悪辣公爵”と呼ばれるヘレスと結婚することに。 そうして、始まった新婚生活はやはり前途多難で……。 まず、夫が会いに来ない。 次に、使用人が仕事をしてくれない。 なので、レイチェル自ら家事などをしないといけず……とても大変。 でも────自由気ままに一人で過ごせる生活は、案外悪くなく……? そんな時、夫が現れて使用人達の職務放棄を知る。 すると、まさかの大激怒!? あっという間に使用人達を懲らしめ、それからはレイチェルとの時間も持つように。 ────もっと残忍で冷酷な方かと思ったけど、結構優しいわね。 と夫を見直すようになった頃、姉が帰ってきて……? 善意の押し付けとでも言うべきか、「あんな男とは、離婚しなさい!」と迫ってきた。 ────いやいや!こっちは幸せに暮らしているので、放っておいてください! ◆小説家になろう様にて、先行公開中◆

処理中です...