127 / 143
第40話『私はただ状況に流され、人に流され、それが嫌になり逃げて、今、こうしてここにいるだけですから』②
しおりを挟む
深い深い眠りの中から目覚めた私は、突っ伏していたテーブルから上半身を起こし周囲を見渡した。
死屍累々という言葉が一番似合いそうな惨状が目の前に広がっている。
誰も彼もが、寝息を立てながら床に転がり、テーブルに突っ伏し、壁に寄りかかりながら眠っていた。
リアムさん達も同じな様で、少し離れた所で固まって眠っている様だった。
「起きたか」
「……大佐さん。おはようございます」
「あぁ。おはようアメリア」
「はい」
誰も彼もが夢の世界へと旅立っている中、大佐さんだけは未だにご飯を食べながらお酒を飲んでいた。
「皆。随分と楽しんでいたようだ。久しぶりに来た客人が、楽しそうに自分たちの話を聞いてくれるんだからな。これ以上の幸福は無いだろう」
「……」
「それに、その相手が暗黒時代を終わらせた魔法使いの姫君だというのなら、その喜びもひとしおというものだ」
「っ! 気づいていたんですね」
「当然だ。俺たちは精霊だぜ? 魔力の流れには敏感なのさ。お前さんが普通の人間とは違うという事はすぐに気づいた。そしてどういう存在か探ってみれば、やはりというか魔法使いだ。そして魔法使いでありながら人と共に生き、強力な癒しの力を持っていた存在はアメリア姫。お前さんだけだ。名前も同じだしな」
「素晴らしい洞察力です」
「それでだ。お前さんがアメリア姫だというのなら、一つ頼みがある」
「頼みですか?」
私は首を傾げながら大佐さんを見据えた。
「アメリア姫。俺にお前さんの武勇伝を聞かせちゃくれねぇか?」
「武勇伝、ですか」
「あぁ。そうさ。全てが混沌とした暗黒時代から世界の中心にいた存在! そんなお前さんがどんな世界で生きてきたのか興味があるのさ。駄目かい?」
「いえ。お話しする事は構いませんが、私には人に話せる様な武勇伝はありませんよ」
「……! そうなのか」
「はい。私はただ状況に流され、人に流され、それが嫌になり逃げて、今、こうしてここにいるだけですから」
「例のアルマの奇跡についてはどうだ。アレはお前さんがやったんだろう? あの時、あの国に俺たちの同胞も居て、確かにお前が光の剣を地面に突き刺し、終わらない光を世界に広げたのを知っているぞ」
「あれは、アルマを、魔法使いのみんなを、家族を助けたくてやっただけです。でも、結局あれが切っ掛けとなり、アルマもみんなも命を落としました」
「……そうか。そうだったな。じゃあ、シャーラペトラの件は」
「あの子に元々才能があっただけですよ。私はあの子を拾って育てただけ。ただ、それだけです。せめてもの贈り物とあの子の前を去る時に精霊の力を借りる術を授けましたが、それが切っ掛けとなり、シャーラも亡くなったそうです。私が矢面に立っていれば悪意ある人々からシャーラを護る事出来たのに、それも出来ず、ただあの子が失われてから気づいた様な愚か者です」
「辛い事を聞いたな」
「いえ。これは全て私の罪ですから」
そう。全ては私の罪だ。
逃げてばかりだった私の罪。
だからこそ、今回だけは逃げたくない。
今度こそ。
私を慕うリリィを護る。
それを成す事で、過去の罪が消えるとは思わないが。
それでも、あの子達が光を求めたこの世界に少しでも多くの安寧をと、私は願ってしまうのだ。
死屍累々という言葉が一番似合いそうな惨状が目の前に広がっている。
誰も彼もが、寝息を立てながら床に転がり、テーブルに突っ伏し、壁に寄りかかりながら眠っていた。
リアムさん達も同じな様で、少し離れた所で固まって眠っている様だった。
「起きたか」
「……大佐さん。おはようございます」
「あぁ。おはようアメリア」
「はい」
誰も彼もが夢の世界へと旅立っている中、大佐さんだけは未だにご飯を食べながらお酒を飲んでいた。
「皆。随分と楽しんでいたようだ。久しぶりに来た客人が、楽しそうに自分たちの話を聞いてくれるんだからな。これ以上の幸福は無いだろう」
「……」
「それに、その相手が暗黒時代を終わらせた魔法使いの姫君だというのなら、その喜びもひとしおというものだ」
「っ! 気づいていたんですね」
「当然だ。俺たちは精霊だぜ? 魔力の流れには敏感なのさ。お前さんが普通の人間とは違うという事はすぐに気づいた。そしてどういう存在か探ってみれば、やはりというか魔法使いだ。そして魔法使いでありながら人と共に生き、強力な癒しの力を持っていた存在はアメリア姫。お前さんだけだ。名前も同じだしな」
「素晴らしい洞察力です」
「それでだ。お前さんがアメリア姫だというのなら、一つ頼みがある」
「頼みですか?」
私は首を傾げながら大佐さんを見据えた。
「アメリア姫。俺にお前さんの武勇伝を聞かせちゃくれねぇか?」
「武勇伝、ですか」
「あぁ。そうさ。全てが混沌とした暗黒時代から世界の中心にいた存在! そんなお前さんがどんな世界で生きてきたのか興味があるのさ。駄目かい?」
「いえ。お話しする事は構いませんが、私には人に話せる様な武勇伝はありませんよ」
「……! そうなのか」
「はい。私はただ状況に流され、人に流され、それが嫌になり逃げて、今、こうしてここにいるだけですから」
「例のアルマの奇跡についてはどうだ。アレはお前さんがやったんだろう? あの時、あの国に俺たちの同胞も居て、確かにお前が光の剣を地面に突き刺し、終わらない光を世界に広げたのを知っているぞ」
「あれは、アルマを、魔法使いのみんなを、家族を助けたくてやっただけです。でも、結局あれが切っ掛けとなり、アルマもみんなも命を落としました」
「……そうか。そうだったな。じゃあ、シャーラペトラの件は」
「あの子に元々才能があっただけですよ。私はあの子を拾って育てただけ。ただ、それだけです。せめてもの贈り物とあの子の前を去る時に精霊の力を借りる術を授けましたが、それが切っ掛けとなり、シャーラも亡くなったそうです。私が矢面に立っていれば悪意ある人々からシャーラを護る事出来たのに、それも出来ず、ただあの子が失われてから気づいた様な愚か者です」
「辛い事を聞いたな」
「いえ。これは全て私の罪ですから」
そう。全ては私の罪だ。
逃げてばかりだった私の罪。
だからこそ、今回だけは逃げたくない。
今度こそ。
私を慕うリリィを護る。
それを成す事で、過去の罪が消えるとは思わないが。
それでも、あの子達が光を求めたこの世界に少しでも多くの安寧をと、私は願ってしまうのだ。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
捨てられ従魔とゆる暮らし
KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設!
冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。
けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。
そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。
クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。
一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。
─魔物を飼うなら最後まで責任持て!
─正しい知識と計画性!
─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい!
今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。
転生幼女はお願いしたい~100万年に1人と言われた力で自由気ままな異世界ライフ~
土偶の友
ファンタジー
サクヤは目が覚めると森の中にいた。
しかも隣にはもふもふで真っ白な小さい虎。
虎……? と思ってなでていると、懐かれて一緒に行動をすることに。
歩いていると、新しいもふもふのフェンリルが現れ、フェンリルも助けることになった。
それからは困っている人を助けたり、もふもふしたりのんびりと生きる。
9/28~10/6 までHOTランキング1位!
5/22に2巻が発売します!
それに伴い、24章まで取り下げになるので、よろしく願いします。
転生するのにベビー・サタンの能力をもらったが、案の定魔力がたりない~最弱勇者の俺が最強魔王を倒すまで~
葛来奈都
ファンタジー
大館ムギト。底辺大学生。「神の使い」と名乗るノアの誘導的な契約によりうっかり魔王を討伐する勇者となる。
だが、ノアが本来契約したかったのはムギトではなく彼の優秀な弟のほうだった。しかも現実世界のムギトはすでに死んでしまっているし、契約は取り消せないと言う。
「魔王を討伐できた暁には、神に生き返らせるよう取り繕ってやる」
ノアにそう言われ仕方がなく異世界に転生するムギトだったが、彼が神から与えられた能力は謎のクラス【赤子の悪魔《ベビー・サタン》】」だった。
魔力は僅か、武器はフォーク。戦闘力がない中、早速ムギトは強敵な魔物に襲われる。
そんな絶体絶命の彼を救ったのは、通りすがりのオネエ剣士・アンジェだった。
怪我の治療のため、アンジェの故郷「オルヴィルカ」に連れられるムギトたち。
そこを拠点に出会った筋肉隆々の治療師神官やゴーレム使いのギルド受付嬢……明らかに自分より強い仲間たちに支えられながらも、ムギトは魔王討伐を目指す。
だが、ギルドで起こったとある事件を境に事態は大きく変わっていく――
これは、理不尽に異世界に転生してしまった勇者と仲間たちによる魔王討伐冒険記である。
◆ ◆ ◆
※カクヨムにプロト版を掲載。
上記と内容が多少変わっております。(キャラクターの設定変更、矛盾点の修正等)
プライベート・スペクタル
点一
ファンタジー
【星】(スターズ)。それは山河を変えるほどの膂力、千里を駆ける脚力、そして異形の術や能力を有する超人・怪人達。
この物語はそんな連中のひどく…ひどく個人的な物語群。
その中の一部、『龍王』と呼ばれた一人の男に焦点を当てたお話。
(※基本 隔週土曜日に更新予定)
転生幼児は夢いっぱい
meimei
ファンタジー
日本に生まれてかれこれ27年大学も出て希望の職業にもつき順風満帆なはずだった男は、
ある日親友だと思っていた男に手柄を横取りされ左遷されてしまう。左遷された所はとても忙しい部署で。ほぼ不眠不休…の生活の末、気がつくとどうやら亡くなったらしい??
らしいというのも……前世を思い出したのは
転生して5年経ってから。そう…5歳の誕生日の日にだった。
これは秘匿された出自を知らないまま、
チートしつつ異世界を楽しむ男の話である!
☆これは作者の妄想によるフィクションであり、登場するもの全てが架空の産物です。
誤字脱字には優しく軽く流していただけると嬉しいです。
☆ファンタジーカップありがとうございました!!(*^^*)
今後ともよろしくお願い致します🍀
追放から始まる新婚生活 【追放された2人が出会って結婚したら大陸有数の有名人夫婦になっていきました】
眼鏡の似合う女性の眼鏡が好きなんです
ファンタジー
役に立たないと言われて、血盟を追放された男性アベル。
同じく役に立たないと言われて、血盟を解雇された女性ルナ。
そんな2人が出会って結婚をする。
【2024年9月9日~9月15日】まで、ホットランキング1位に居座ってしまった作者もビックリの作品。
結婚した事で、役に立たないスキルだと思っていた、家事手伝いと、錬金術師。
実は、トンデモなく便利なスキルでした。
最底辺、大陸商業組合ライセンス所持者から。
一転して、大陸有数の有名人に。
これは、不幸な2人が出会って幸せになっていく物語。
極度の、ざまぁ展開はありません。
【完結】魔王と間違われて首を落とされた。側近が激おこだけど、どうしたらいい?
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
旧題【竜王殺しの勇者は英雄か(仮)】
強大な魔法を操り、人族の領地を奪おうと戦いを挑んだ魔族。彼らの戦いは数十年に及び、ついに人族は聖剣の力を引き出せる勇者を生み出した。人族は決戦兵器として、魔王退治のために勇者を送り込む。勇者は仲間と共に巨大な銀竜を倒すが……彼は魔王ではなかった。
人族と魔族の争いに関わらなかった、圧倒的強者である竜族の王の首を落としてしまったのだ。目覚めたばかりで寝ぼけていた竜王は、配下に復活の予言を残して事切れる。
――これは魔王を退治にしに来た勇者が、間違えて竜王を退治した人違いから始まる物語である。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
※2023/10/30……完結
※2023/09/29……エブリスタ、ファンタジートレンド 1位
※2023/09/25……タイトル変更
※2023/09/13……連載開始
転生幼女具現化スキルでハードな異世界生活
高梨
ファンタジー
ストレス社会、労働社会、希薄な社会、それに揉まれ石化した心で唯一の親友を守って私は死んだ……のだけれども、死後に閻魔に下されたのは願ってもない異世界転生の判決だった。
黒髪ロングのアメジストの眼をもつ美少女転生して、
接客業後遺症の無表情と接客業の武器営業スマイルと、勝手に進んで行く周りにゲンナリしながら彼女は異世界でくらします。考えてるのに最終的にめんどくさくなって突拍子もないことをしでかして周りに振り回されると同じくらい周りを振り回します。
中性パッツン氷帝と黒の『ナンでも?』できる少女の恋愛ファンタジー。平穏は遙か彼方の代物……この物語をどうぞ見届けてくださいませ。
無表情中性おかっぱ王子?、純粋培養王女、オカマ、下働き大好き系国王、考え過ぎて首を落としたまま過ごす医者、女装メイド男の娘。
猫耳獣人なんでもござれ……。
ほの暗い恋愛ありファンタジーの始まります。
R15タグのように15に収まる範囲の描写がありますご注意ください。
そして『ほの暗いです』
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる