聖女の証

とーふ(代理カナタ)

文字の大きさ
上 下
80 / 143

第26話『いえ。それが私にもサッパリ。何も分からないですね』①

しおりを挟む
陰魔とは実に不思議な存在だ。

獣が人の様な知恵と言葉を手に入れたものが獣人。

魔物が新たなる種族として変化したものを魔族。

そして世界に溶け込んだ魔力が自然界の存在と結びつく事で意思を持ったものを精霊。

では、陰魔とは何者なのか。

その答えを私は知らない。

何故なら、陰魔の元となった存在を私は知らないからだ。

一応昔聞いた話では、陰魔は神の世界で語られる神話とその神話に繋がる人の想いに魔力が結びついて形となったと言っていたけれど、その神話というのがそもそも謎だ。

魔力が結びついたという事は精霊に近い存在なのかとも考えたが、存在しない物に結びついて形となる事が出来るのか。

その正確な答えを私は持っていない。

そもそも、神話とその神話に繋がる人とは何なのか。

神の世界に人が居たのか。

分からない事だらけだ。

もしその答えを知る事が出来れば、この世界にある最も大きな秘密に迫れるのかもしれない。

なんて……魔王様じゃないのだから、変な事を考えるのは止めよう。

この世界は神様が作り出して、そして私たちはその世界に生まれて今を生きている。

ただそれだけで良いじゃないか。



という訳で、私はマーセさんとマーセさんのお姉様に連れられて、陰魔の村の長が住まう家に来ていた。

旅立ちの許可を貰う為。との事なのだが……いや、本当に付いてくるのだろうか。

「アメリア!!」

「ん。この声は、リアムさん?」

「お前、ようやく見つけたぞ。ったく。一人でフラフラどこかへ行きやがって」

「ごめんなさい」

「いや、良い」

リアムさんは私をグッと引き寄せると抱きしめながら溜息を吐いた。

どうやら大分心配させてしまったらしい。

申し訳ない気持ちだ。

「ひゃー。お、お姉様、あれ。アレは伝説の」

「えぇ。ワルとお姫様よ! 本来は相容れないハズの二人が、愛によって強く結ばれる! 普段は人を寄せ付けないタイプの彼が、お姫様に出会う事でその閉ざされた心をお姫様にだけ開いて、甘々な生活を送るのよ! もう俺にはお前しか見えねぇみたいな感じだわ!」

「出会いはやはり、捨てられた子犬をワルが拾っている所をお姫様が目撃したからでしょうか!?」

「いえ。もしかしたら別のワルにお姫様が絡まれている所をワルが助けたのかもしれないわ。それで! 『別にお前を助けたかったワケじゃねぇぜ』とか言うのよ!」

「キャー!!」

私はリアムさんから離れ、リアムさんを見上げる。

リアムさんは様々な事に詳しいし、あの陰魔さん達が言っている事も理解出来るのではないかと思ったからだ。

しかし眉をひそめて、奇妙な物でも見るような目で陰魔さん達を見ているリアムさんにも、恐らく彼女たちが言っている事は理解出来ないだろう。

こうなってくると陰魔さん特有の会話である可能性が高そうだ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約者は、今月もお茶会に来ないらしい。

白雪なこ
恋愛
婚約時に両家で決めた、毎月1回の婚約者同士の交流を深める為のお茶会。だけど、私の婚約者は「彼が認めるお茶会日和」にしかやってこない。そして、数ヶ月に一度、参加したかと思えば、無言。短時間で帰り、手紙を置いていく。そんな彼を……許せる?  *6/21続編公開。「幼馴染の王女殿下は私の元婚約者に激おこだったらしい。次期女王を舐めんなよ!ですって。」 *外部サイトにも掲載しています。(1日だけですが総合日間1位)

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

愚かな父にサヨナラと《完結》

アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」 父の言葉は最後の一線を越えてしまった。 その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・ 悲劇の本当の始まりはもっと昔から。 言えることはただひとつ 私の幸せに貴方はいりません ✈他社にも同時公開

父が死んだのでようやく邪魔な女とその息子を処分できる

兎屋亀吉
恋愛
伯爵家の当主だった父が亡くなりました。これでようやく、父の愛妾として我が物顔で屋敷内をうろつくばい菌のような女とその息子を処分することができます。父が死ねば息子が当主になれるとでも思ったのかもしれませんが、父がいなくなった今となっては思う通りになることなど何一つありませんよ。今まで父の威を借りてさんざんいびってくれた仕返しといきましょうか。根に持つタイプの陰険女主人公。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

【完結】試される愛の果て

野村にれ
恋愛
一つの爵位の差も大きいとされるデュラート王国。 スノー・レリリス伯爵令嬢は、恵まれた家庭環境とは言えず、 8歳の頃から家族と離れて、祖父母と暮らしていた。 8年後、学園に入学しなくてはならず、生家に戻ることになった。 その後、思いがけない相手から婚約を申し込まれることになるが、 それは喜ぶべき縁談ではなかった。 断ることなったはずが、相手と関わることによって、 知りたくもない思惑が明らかになっていく。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

処理中です...