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第19話『この世界に広がる悲しみを止める為には!』③
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そして私は、ジーナにも、お母様にも、村の人たちにも内緒で、ようやく使える様になった転移の魔法を使い、アルマの居る城へと来ていた。
己の起こしてしまった事に責任を持つ為に。
「……アルマ」
星々が照らす静かな夜に、私はアルマの寝ている部屋に来て、ベランダからアルマの名を呟いた。
呼んだ訳ではない。
ただ、心に湧き上がる様々な感情を整理する為に、その名を口にしただけだ。
しかし、どうやら私は大分甘い人間であったらしい。
こっそりと部屋に入った瞬間に、部屋の中から伸びて来た手に捕まり、ベッドに押し倒されてしまった。
「っ!?」
「貴女なら、再びここへ来ると思っていましたよ。母様」
「アルマ……!」
私は魔法で相手を燃やそうとして、その手を止める。
ここへ来たのは話し合いをする為だからだ。
「アルマ。話を聞いてください」
「良いですよ。一応聞いてあげましょう。例えそれが、森へ攻めないで欲しいという様な無理な願いでもね」
「っ!」
「本当に甘い人だ。貴女は。私は既に言いましたよ。貴女こそが我が目的だと。私の全てだと! そして貴女を全て私のモノにする為に、貴女を縛り付けるモノは全て滅ぼすと!」
「なぜ、その様な」
「ふ。ふふふ。ふははははは!! まったく母様は本当に、何も分かっていない!!」
「私が、何も……?」
「そう! 何も、何もだ! 何故多くの者が貴女を求めるのか。その手を血に染めてでも、奪おうとするのか! それはな、貴女がこの世界における唯一の光だからだ。暗闇に生きる我らには貴女の光が無ければ、まともに生きてゆく事も出来ない!!」
「世界は、アルマが光で照らしたではないですか」
「まやかしだ! この様なものは! 分からないか!? 母様には、見えないか!? この世界を覆う闇が! 我らは未だ闇の世界に生きている! 人には勝てぬ強大な生物! 傷を負えば、病になれば、明日には命を落とす! 食料とて安定せず、奪い合わねばただ生き続ける事すら出来ぬのだ! この世界は、そういう世界なのだ!!」
「でも、それは……私が居ても、何も変わらないでしょう……?」
「そうですね。それだけは母様の言う通りです。しかし、人には希望が必要なのですよ。母様」
「き、ぼう……?」
「そう。希望です。森の奥に住まう女神がここに居る。それが人類の希望なのです。明日が分からずとも、その希望があれば人は戦える。前を向いて、生きてゆける!!」
アルマは必死に訴えていた。
その言葉は私の心を揺らし、大きな使命感を生む。
しかし、アルマの言葉に従う事は出来なかった。
アルマの言葉に頷けば、きっと待っているのは大きな争いだから。
「……そうですか。分かりました」
「母様?」
「この世界に広がる悲しみを止める為には!」
私は転移魔法でベランダにとび、かつてアルマが私の中から生み出した光の剣を、今度は自らの意思で作り出す。
この剣は、魔法の剣だ。
常に周囲の魔力を喰らい、光を放つ。
人々に希望を与える光を。
「アルマ。もうこれで怖くないからね」
「まさか……! 止めろ!! 違う!! 俺が貴女に求めていたのは!!」
「っ!」
私はベランダから飛び降りて、地面に光の剣を突き刺した。
そして周囲の魔力を喰らいながら暴力的な光で周囲を照らす。
やがて、剣から生まれた光は世界に広がってゆくだろう。
世界を埋め尽くすほどに広がる事は無いだろうけど、人が生きてゆく為には十分な広さの筈だ。
大きな魔力を持った生き物が近づく事の出来ない、人の楽園がここに出来る。
「……さようなら。みんな」
「かあさ……母様!!!」
そして私の意識は光の中に消えていった。
己の起こしてしまった事に責任を持つ為に。
「……アルマ」
星々が照らす静かな夜に、私はアルマの寝ている部屋に来て、ベランダからアルマの名を呟いた。
呼んだ訳ではない。
ただ、心に湧き上がる様々な感情を整理する為に、その名を口にしただけだ。
しかし、どうやら私は大分甘い人間であったらしい。
こっそりと部屋に入った瞬間に、部屋の中から伸びて来た手に捕まり、ベッドに押し倒されてしまった。
「っ!?」
「貴女なら、再びここへ来ると思っていましたよ。母様」
「アルマ……!」
私は魔法で相手を燃やそうとして、その手を止める。
ここへ来たのは話し合いをする為だからだ。
「アルマ。話を聞いてください」
「良いですよ。一応聞いてあげましょう。例えそれが、森へ攻めないで欲しいという様な無理な願いでもね」
「っ!」
「本当に甘い人だ。貴女は。私は既に言いましたよ。貴女こそが我が目的だと。私の全てだと! そして貴女を全て私のモノにする為に、貴女を縛り付けるモノは全て滅ぼすと!」
「なぜ、その様な」
「ふ。ふふふ。ふははははは!! まったく母様は本当に、何も分かっていない!!」
「私が、何も……?」
「そう! 何も、何もだ! 何故多くの者が貴女を求めるのか。その手を血に染めてでも、奪おうとするのか! それはな、貴女がこの世界における唯一の光だからだ。暗闇に生きる我らには貴女の光が無ければ、まともに生きてゆく事も出来ない!!」
「世界は、アルマが光で照らしたではないですか」
「まやかしだ! この様なものは! 分からないか!? 母様には、見えないか!? この世界を覆う闇が! 我らは未だ闇の世界に生きている! 人には勝てぬ強大な生物! 傷を負えば、病になれば、明日には命を落とす! 食料とて安定せず、奪い合わねばただ生き続ける事すら出来ぬのだ! この世界は、そういう世界なのだ!!」
「でも、それは……私が居ても、何も変わらないでしょう……?」
「そうですね。それだけは母様の言う通りです。しかし、人には希望が必要なのですよ。母様」
「き、ぼう……?」
「そう。希望です。森の奥に住まう女神がここに居る。それが人類の希望なのです。明日が分からずとも、その希望があれば人は戦える。前を向いて、生きてゆける!!」
アルマは必死に訴えていた。
その言葉は私の心を揺らし、大きな使命感を生む。
しかし、アルマの言葉に従う事は出来なかった。
アルマの言葉に頷けば、きっと待っているのは大きな争いだから。
「……そうですか。分かりました」
「母様?」
「この世界に広がる悲しみを止める為には!」
私は転移魔法でベランダにとび、かつてアルマが私の中から生み出した光の剣を、今度は自らの意思で作り出す。
この剣は、魔法の剣だ。
常に周囲の魔力を喰らい、光を放つ。
人々に希望を与える光を。
「アルマ。もうこれで怖くないからね」
「まさか……! 止めろ!! 違う!! 俺が貴女に求めていたのは!!」
「っ!」
私はベランダから飛び降りて、地面に光の剣を突き刺した。
そして周囲の魔力を喰らいながら暴力的な光で周囲を照らす。
やがて、剣から生まれた光は世界に広がってゆくだろう。
世界を埋め尽くすほどに広がる事は無いだろうけど、人が生きてゆく為には十分な広さの筈だ。
大きな魔力を持った生き物が近づく事の出来ない、人の楽園がここに出来る。
「……さようなら。みんな」
「かあさ……母様!!!」
そして私の意識は光の中に消えていった。
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