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エピローグ『新たな物語の始まり』
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ヴェルクモント王国の人間だけでなく、外国の人間も居る前で、癒しの力を使ってしまったミラは聖女に……はならなかった。
彼女を聖女とする事にべべリア聖国が反対したのである。
それゆえ、彼女は暫定的には聖女としつつも、正式な聖女ではない為、未だヴェルクモント王国に留まり、メイラー伯爵家の末娘として日々を過ごしていた。
一応ギリギリの所で踏みとどまった形にはなるが、いずれ聖国も圧力に負けミラを聖女として認める日が来るだろう。
そうなれば、ミラは世界国家連合議会に行かねばならない日が来る。
そして一度行ってしまえば、二度と母国へは帰れない。
いや、帰ることは出来るが、それは聖女として仕事をしに来ただけで、家族や友人と語らう様な事は出来ないのだ。
それがミラの前に用意された終わりへの道であった。
故に。
ミラは父に頼み、書状を国王に向けて送っていた。
「……」
「陛下。手紙にはなんと」
「セオとの婚約を破棄して欲しいとの事だった。聖女として世界国家連合議会へ行けば、セオと共に過ごす事は出来ぬからと」
「何という事だ」
「陛下」
「なんだ。レンゲント」
「俺は、いや、俺たちはもう既に準備が出来ているぞ。騎士団も今までにない程に気力が高まっている」
「駄目だ」
「レギー!!」
「駄目だと言っているだろう!! 勝つ負けるでは無いのだ! 聖女を独占する国など、世界が許しはしない。同じことをしようとした国がどうなったか。忘れた訳じゃないだろう? 狙われるのは聖女に近しい人間だ。多くを殺す必要は無い。ただそれだけで、聖女の心は砕ける」
「クソっ!!」
「……まったく。なんだってこんな決まりを作ったんでしょうねぇ。かつてのヴェルクモント王国は」
「分からんよ。ただ、当時は必要な事だったのだろう。だが、時代が進めば人の感情など変わってゆくものだ。今の世では聖女など一人の人間を世界の為に生きたまま殺す名前でしかない」
「それで? 陛下はどの様になさるのですか?」
「認める訳が無かろう。あの子はセオの婚約者だ。未来のヴェルクモント王国を照らす光でもある」
「承知いたしました。では打てる策は全て打ちましょう」
「そうだな」
絶望の中にあっても、ヴェルクモント王国の中枢は変わらず未来へ向けて動いており、それは若き者たちも変わらなかった。
秘密の会合が行われている場所とは別の部屋にて、セオドラーとハリソンは必死に本を見ながら提案書を作成していた。
ミラが長年かけて調べていた事をまとめ、より魅力的な言い回しで書き写してゆく。
「……っ」
「ハリソン。少し休め」
「そういう君も休んだらどうだい? セオ。酷い顔だ」
「寝ている間に聖国が折れたらと考えると、とてもじゃないが眠る様な気にはなれない」
「そうだね。それに関しては私も同意見だよ」
「今は少しでもミラの素晴らしさを世界に知らしめるんだ。聖女として終わらせてはならないのだと」
「あぁ。そうだね!」
何日も、何日も二人は書き連ね、そして出来上がったそれを様々な場所へ持って行き、少しでもミラが救えるのならと奔走するのだった。
しかし、残酷にも時間はただ静かに進んでゆく。
ミラは、世界国家連合議会から届いたペンダントを少し悩みながらも付け、国家連合議会からの使者に微笑んだ、
「はい。これでよろしいでしょうか」
「えぇ。確かに。これでミラさんの居場所や危機的状況はすぐに伝わります。何かあれば私を呼んでくだされば対処します」
「ありがとうございます。えと、世界国家連合議会の災害対策局局長さん、でしたか」
「はい。その通りですが、長いですし。ミクとお呼びください」
「ミクさん、ですか。何だか名前が近くて親近感が湧いてしまいますね」
「そうですね」
ミクと呼ばれたミラとそれほど変わらない見た目の年齢に見える少女は、書類をまとめながら短く息を吐いた。
そして、ミラをジッと見据える。
「緊張されていますか?」
「えと、はい。そうですね。少し」
「そうですか。ですが、そこまで心配しないで下さい。貴女の身柄は災害対策局の預かりとなります。その為、私の直属の部下という形にはなりますが、制限はそこまで多くありません。無論大規模災害が起こった際には協力して頂く事もありますが……」
「……えと?」
「あーっと、申し訳ない。簡単に言いましょう。ミラさん。私は貴女の夢を奪うつもりはありません。世界を巡り旅がしたいという事でしたら、その手伝いをしましょう。そして、貴女が愛する方と共にありたいという事でしたら、私が何とかします。ですから、そこまで不安にならないで下さい。ちょっとした出張の多いお仕事程度に思っていただければ十分です」
「でも」
「と、まぁ。悪名高い世界国家連合議会の人間が言っても何も頷けないでしょう。ですから、これからの行動で貴女に私の正義を示してゆきます」
「……はい」
「あまり長々と話をしていても迷惑になりますね。そろそろ私は帰ります」
「えと、はい。ありがとうございました」
「いえ。では、次に会う時は国連議会でになるでしょうが、また会いましょう。ミラさん」
「はい。また」
そして、少女は間近に迫ってきた自分の未来を想って、一つの決断をする。
「……セオ殿下の事は、陛下にお願いしました。何故かまだ婚約者候補という風な形でしたが、それでももう大丈夫です。家族やお友達への挨拶も終わりました」
ミラはベッドの上で指を折りながら一つ、一つとやり残しが無いか考える。
そして、枕のすぐ横に置かれたミラにとって一番大切な本に目を向ける。
『旅人ルークの冒険譚』と書かれた一冊の本を。
「ミクさんの言葉を信じるなら、私は未来でも夢を叶える事が出来ます。でも……」
自分の首に掛けられた、実際の重さ以上に重いペンダントを握り締めながら唇をキュッと締める。
「私は、私自身の手で夢を叶えましょう。それで、全ての迷いを断ち切り、聖女として世界へ」
ミラはベッドの上で立ち上がりながら拳を強く握りしめて天に突き上げた。
「アイラさん。私も行きます! 未知なる世界へ」
「そう。自分の夢は自分自身の手で叶えるもの! 私は……私は!!」
「私は、冒険者になります!!」
かくして物語は動き出す。
幾多の出会いと、運命の歯車に導かれて。
ミラは世界への一歩を踏み出すのだった。
※『異界冒険譚シリーズ【ミラ編】-少女たちの冒険譚-』に続く
彼女を聖女とする事にべべリア聖国が反対したのである。
それゆえ、彼女は暫定的には聖女としつつも、正式な聖女ではない為、未だヴェルクモント王国に留まり、メイラー伯爵家の末娘として日々を過ごしていた。
一応ギリギリの所で踏みとどまった形にはなるが、いずれ聖国も圧力に負けミラを聖女として認める日が来るだろう。
そうなれば、ミラは世界国家連合議会に行かねばならない日が来る。
そして一度行ってしまえば、二度と母国へは帰れない。
いや、帰ることは出来るが、それは聖女として仕事をしに来ただけで、家族や友人と語らう様な事は出来ないのだ。
それがミラの前に用意された終わりへの道であった。
故に。
ミラは父に頼み、書状を国王に向けて送っていた。
「……」
「陛下。手紙にはなんと」
「セオとの婚約を破棄して欲しいとの事だった。聖女として世界国家連合議会へ行けば、セオと共に過ごす事は出来ぬからと」
「何という事だ」
「陛下」
「なんだ。レンゲント」
「俺は、いや、俺たちはもう既に準備が出来ているぞ。騎士団も今までにない程に気力が高まっている」
「駄目だ」
「レギー!!」
「駄目だと言っているだろう!! 勝つ負けるでは無いのだ! 聖女を独占する国など、世界が許しはしない。同じことをしようとした国がどうなったか。忘れた訳じゃないだろう? 狙われるのは聖女に近しい人間だ。多くを殺す必要は無い。ただそれだけで、聖女の心は砕ける」
「クソっ!!」
「……まったく。なんだってこんな決まりを作ったんでしょうねぇ。かつてのヴェルクモント王国は」
「分からんよ。ただ、当時は必要な事だったのだろう。だが、時代が進めば人の感情など変わってゆくものだ。今の世では聖女など一人の人間を世界の為に生きたまま殺す名前でしかない」
「それで? 陛下はどの様になさるのですか?」
「認める訳が無かろう。あの子はセオの婚約者だ。未来のヴェルクモント王国を照らす光でもある」
「承知いたしました。では打てる策は全て打ちましょう」
「そうだな」
絶望の中にあっても、ヴェルクモント王国の中枢は変わらず未来へ向けて動いており、それは若き者たちも変わらなかった。
秘密の会合が行われている場所とは別の部屋にて、セオドラーとハリソンは必死に本を見ながら提案書を作成していた。
ミラが長年かけて調べていた事をまとめ、より魅力的な言い回しで書き写してゆく。
「……っ」
「ハリソン。少し休め」
「そういう君も休んだらどうだい? セオ。酷い顔だ」
「寝ている間に聖国が折れたらと考えると、とてもじゃないが眠る様な気にはなれない」
「そうだね。それに関しては私も同意見だよ」
「今は少しでもミラの素晴らしさを世界に知らしめるんだ。聖女として終わらせてはならないのだと」
「あぁ。そうだね!」
何日も、何日も二人は書き連ね、そして出来上がったそれを様々な場所へ持って行き、少しでもミラが救えるのならと奔走するのだった。
しかし、残酷にも時間はただ静かに進んでゆく。
ミラは、世界国家連合議会から届いたペンダントを少し悩みながらも付け、国家連合議会からの使者に微笑んだ、
「はい。これでよろしいでしょうか」
「えぇ。確かに。これでミラさんの居場所や危機的状況はすぐに伝わります。何かあれば私を呼んでくだされば対処します」
「ありがとうございます。えと、世界国家連合議会の災害対策局局長さん、でしたか」
「はい。その通りですが、長いですし。ミクとお呼びください」
「ミクさん、ですか。何だか名前が近くて親近感が湧いてしまいますね」
「そうですね」
ミクと呼ばれたミラとそれほど変わらない見た目の年齢に見える少女は、書類をまとめながら短く息を吐いた。
そして、ミラをジッと見据える。
「緊張されていますか?」
「えと、はい。そうですね。少し」
「そうですか。ですが、そこまで心配しないで下さい。貴女の身柄は災害対策局の預かりとなります。その為、私の直属の部下という形にはなりますが、制限はそこまで多くありません。無論大規模災害が起こった際には協力して頂く事もありますが……」
「……えと?」
「あーっと、申し訳ない。簡単に言いましょう。ミラさん。私は貴女の夢を奪うつもりはありません。世界を巡り旅がしたいという事でしたら、その手伝いをしましょう。そして、貴女が愛する方と共にありたいという事でしたら、私が何とかします。ですから、そこまで不安にならないで下さい。ちょっとした出張の多いお仕事程度に思っていただければ十分です」
「でも」
「と、まぁ。悪名高い世界国家連合議会の人間が言っても何も頷けないでしょう。ですから、これからの行動で貴女に私の正義を示してゆきます」
「……はい」
「あまり長々と話をしていても迷惑になりますね。そろそろ私は帰ります」
「えと、はい。ありがとうございました」
「いえ。では、次に会う時は国連議会でになるでしょうが、また会いましょう。ミラさん」
「はい。また」
そして、少女は間近に迫ってきた自分の未来を想って、一つの決断をする。
「……セオ殿下の事は、陛下にお願いしました。何故かまだ婚約者候補という風な形でしたが、それでももう大丈夫です。家族やお友達への挨拶も終わりました」
ミラはベッドの上で指を折りながら一つ、一つとやり残しが無いか考える。
そして、枕のすぐ横に置かれたミラにとって一番大切な本に目を向ける。
『旅人ルークの冒険譚』と書かれた一冊の本を。
「ミクさんの言葉を信じるなら、私は未来でも夢を叶える事が出来ます。でも……」
自分の首に掛けられた、実際の重さ以上に重いペンダントを握り締めながら唇をキュッと締める。
「私は、私自身の手で夢を叶えましょう。それで、全ての迷いを断ち切り、聖女として世界へ」
ミラはベッドの上で立ち上がりながら拳を強く握りしめて天に突き上げた。
「アイラさん。私も行きます! 未知なる世界へ」
「そう。自分の夢は自分自身の手で叶えるもの! 私は……私は!!」
「私は、冒険者になります!!」
かくして物語は動き出す。
幾多の出会いと、運命の歯車に導かれて。
ミラは世界への一歩を踏み出すのだった。
※『異界冒険譚シリーズ【ミラ編】-少女たちの冒険譚-』に続く
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