2 / 31
第2話『私の泣き落としで落ちない奴は居ない!!』
しおりを挟む伊調は一人ではなく、神楽部隊の女性を一人伴っていた。そちらも、高耶とは顔見知りだ。お互い小さく礼をして挨拶しておく。
その間に、伊調は高耶と共に声を上げた武雄の存在に気付いたようだ。
「そちらは、女将のお孫さんでしたね」
伊調が武雄に声をかける。すると、武雄は勢いよく頭を下げた。
「お久しぶりですっ」
「大きくなられましたね。今日御当主と一緒……ということは、同級生でしたか?」
伊調には、メールの折りになぜこの場に居るのかというのも話していたのだ。これには、高耶が答えた。
「ええ。その縁で同窓会の会場として、旅館を使わせてもらえることに」
「そうでしたか。ああ、お席はこちらでどうです?」
伊調の隣りのテーブルとその奥を示す。
高耶と武雄、俊哉と時島の四人が、伊調の隣りの席に座る。そして、伊調は高耶にお気に入りらしいメニューを教えた。
「ここは、季節の天ぷら蕎麦がオススメですよ」
すると、武雄も頷く。
「ここはそれがオススメ」
「なら是非それで」
俊哉達も同じものを頼んだ。
注文を終えると、高耶は伊調に尋ねる。
「この辺りに扉はないと聞いていましたが」
「ええ。そうなのです。それで、近くにある彼女の実家から車を出してもらうのですよ」
そうすると、女性の方が答えた。
「何度か、扉を繋げられる場所の候補を上げてはいたのですが、中々難しいようです。元々、わたくし達もここへは仕事ではなく休養にというものでしたから」
個人的な休養地への移動のために、連盟がその粋を集めた扉の技術を使うことはできない。どこにでも、いつでも扉を繋げられる高耶が異常なのだ。
本来は何十人と術者を集めて、力を結しなくては繋げられないもの。管理も大変だった。
そういえばとその事を思い出した高耶に、伊調は微笑む。まるで、世間知らずなところのある可愛い孫を見るような目だ。そんな顔を見せるのは、高耶と居る時くらいだろう。
「ここの土地神様はしっかりされている方ですから、私達の力は必要ないようでしたので、扉の申請もしておりません」
「そうでしたか……」
許可がそう簡単に出るものでもないというのも思い出し、高耶は苦笑した。
これに女性が尋ねる。
「ふふっ。昔は、駅から送迎のバスも出ていましたけれど、今回御当主様はタクシーで?」
「あ、いえ。源龍さんの所の車で送ってもらいました」
「おや」
「まあ」
二人して目を丸くされた。
「帰りも連絡することになっています……」
「榊の御当主も御執心なようでしたからね。他にも話をすれば、御当主の為ならと、車を出してくれる方は多いでしょう」
伊調もそれを当たり前のように受け入れていた。高耶がその対応に恐縮する方がおかしいような気さえしてくる。
「有り難いですが……最近は、免許を取ろうか迷っています」
高耶としては、それこそ、連盟の管理する扉によって大抵の所には行けるため、必要性を感じていなかった。
そもそも、高耶は仕事でしか出掛けなかったのだ。その場合、扉が使える。よって、不便さを感じたことがなかったというわけだ。
最寄りの場所から何キロか距離があったとしても、そこまでの道中を歩くのが普通だった。問題となる場所の周りも視ながら移動することも大事なこと。何より、高耶には長距離を歩くことが苦にならない。
寧ろ、歩くのは好きな方だ。だからこそ、車やバイクの免許を取ろうと考える事もなく生きてきたというわけだ。
この考えに、伊調と神楽部隊の女性だけでなく、俊哉までも反応した。
「「それは必要ないですよ」」
「高耶には必要ないっ」
「え……」
俊哉が続けた。
「俺が免許取るから、高耶は要らん。車が必要な時は、俺が送り迎えしてやる!」
「……」
これは喜べば良いのか反応に困る。
「あらあら」
「御当主には良い友人がいらっしゃるようですね」
年長の二人は呑気なものだ。
微妙な表情をする高耶の心情が分かったのではないだろうが、今の高耶の思いを言葉にしたのは、満と嶺だった。
「俊哉……それ、女に言ったら満点……とまではいなくても、高得点出たかも」
「俊哉。ここに腐った女子居たらヤバかったぞ。旅館で言わんくて良かったな」
「ん? え? なんで? いや、今高耶に言わないと、免許取っちゃうじゃん。そうなると、俺も優希ちゃんも困るし」
俊哉は本気らしい。
「なんで俊哉が困るの?」
武雄が心底不思議そうに尋ねた。
因みにこの会話を、伊調達は微笑ましそうに聞いている。
「だって、ただでさえ高耶は仕事で時間取れねえんだもん。コレに車校に通う時間も入れられたら、ほぼ会えなくなるじゃん」
「……確かに……」
高耶は納得した。
「だろ!? だから、高耶は免許取らんくて良い。ってか、そういえば、船とかセスナの操縦が出来るって聞いたけど、あれマジ?」
「誰に聞いた……」
「エルさん」
エルラントとも、俊哉は普通に話しをする仲だ。高耶は今更ながらに、俊哉の社交性の高さに驚く。
「……緊急時用に、ちょっと教わっただけだ……免許はない」
舞踏会でのダンスもそうだが、エルラントは高耶に色々と教えてくれている。余裕のある経験豊富な大人とは、有り難い存在だ。
「でも出来るんだ? ずりぃ」
「だから、緊急時用だ」
「エルさんとはそうやって遊んでたんだろ? ずりぃよっ。俺も一緒に遊びたかった!」
「……」
そっちかと高耶は小さくため息を吐いた。俊哉は本当にブレない。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
その間に、伊調は高耶と共に声を上げた武雄の存在に気付いたようだ。
「そちらは、女将のお孫さんでしたね」
伊調が武雄に声をかける。すると、武雄は勢いよく頭を下げた。
「お久しぶりですっ」
「大きくなられましたね。今日御当主と一緒……ということは、同級生でしたか?」
伊調には、メールの折りになぜこの場に居るのかというのも話していたのだ。これには、高耶が答えた。
「ええ。その縁で同窓会の会場として、旅館を使わせてもらえることに」
「そうでしたか。ああ、お席はこちらでどうです?」
伊調の隣りのテーブルとその奥を示す。
高耶と武雄、俊哉と時島の四人が、伊調の隣りの席に座る。そして、伊調は高耶にお気に入りらしいメニューを教えた。
「ここは、季節の天ぷら蕎麦がオススメですよ」
すると、武雄も頷く。
「ここはそれがオススメ」
「なら是非それで」
俊哉達も同じものを頼んだ。
注文を終えると、高耶は伊調に尋ねる。
「この辺りに扉はないと聞いていましたが」
「ええ。そうなのです。それで、近くにある彼女の実家から車を出してもらうのですよ」
そうすると、女性の方が答えた。
「何度か、扉を繋げられる場所の候補を上げてはいたのですが、中々難しいようです。元々、わたくし達もここへは仕事ではなく休養にというものでしたから」
個人的な休養地への移動のために、連盟がその粋を集めた扉の技術を使うことはできない。どこにでも、いつでも扉を繋げられる高耶が異常なのだ。
本来は何十人と術者を集めて、力を結しなくては繋げられないもの。管理も大変だった。
そういえばとその事を思い出した高耶に、伊調は微笑む。まるで、世間知らずなところのある可愛い孫を見るような目だ。そんな顔を見せるのは、高耶と居る時くらいだろう。
「ここの土地神様はしっかりされている方ですから、私達の力は必要ないようでしたので、扉の申請もしておりません」
「そうでしたか……」
許可がそう簡単に出るものでもないというのも思い出し、高耶は苦笑した。
これに女性が尋ねる。
「ふふっ。昔は、駅から送迎のバスも出ていましたけれど、今回御当主様はタクシーで?」
「あ、いえ。源龍さんの所の車で送ってもらいました」
「おや」
「まあ」
二人して目を丸くされた。
「帰りも連絡することになっています……」
「榊の御当主も御執心なようでしたからね。他にも話をすれば、御当主の為ならと、車を出してくれる方は多いでしょう」
伊調もそれを当たり前のように受け入れていた。高耶がその対応に恐縮する方がおかしいような気さえしてくる。
「有り難いですが……最近は、免許を取ろうか迷っています」
高耶としては、それこそ、連盟の管理する扉によって大抵の所には行けるため、必要性を感じていなかった。
そもそも、高耶は仕事でしか出掛けなかったのだ。その場合、扉が使える。よって、不便さを感じたことがなかったというわけだ。
最寄りの場所から何キロか距離があったとしても、そこまでの道中を歩くのが普通だった。問題となる場所の周りも視ながら移動することも大事なこと。何より、高耶には長距離を歩くことが苦にならない。
寧ろ、歩くのは好きな方だ。だからこそ、車やバイクの免許を取ろうと考える事もなく生きてきたというわけだ。
この考えに、伊調と神楽部隊の女性だけでなく、俊哉までも反応した。
「「それは必要ないですよ」」
「高耶には必要ないっ」
「え……」
俊哉が続けた。
「俺が免許取るから、高耶は要らん。車が必要な時は、俺が送り迎えしてやる!」
「……」
これは喜べば良いのか反応に困る。
「あらあら」
「御当主には良い友人がいらっしゃるようですね」
年長の二人は呑気なものだ。
微妙な表情をする高耶の心情が分かったのではないだろうが、今の高耶の思いを言葉にしたのは、満と嶺だった。
「俊哉……それ、女に言ったら満点……とまではいなくても、高得点出たかも」
「俊哉。ここに腐った女子居たらヤバかったぞ。旅館で言わんくて良かったな」
「ん? え? なんで? いや、今高耶に言わないと、免許取っちゃうじゃん。そうなると、俺も優希ちゃんも困るし」
俊哉は本気らしい。
「なんで俊哉が困るの?」
武雄が心底不思議そうに尋ねた。
因みにこの会話を、伊調達は微笑ましそうに聞いている。
「だって、ただでさえ高耶は仕事で時間取れねえんだもん。コレに車校に通う時間も入れられたら、ほぼ会えなくなるじゃん」
「……確かに……」
高耶は納得した。
「だろ!? だから、高耶は免許取らんくて良い。ってか、そういえば、船とかセスナの操縦が出来るって聞いたけど、あれマジ?」
「誰に聞いた……」
「エルさん」
エルラントとも、俊哉は普通に話しをする仲だ。高耶は今更ながらに、俊哉の社交性の高さに驚く。
「……緊急時用に、ちょっと教わっただけだ……免許はない」
舞踏会でのダンスもそうだが、エルラントは高耶に色々と教えてくれている。余裕のある経験豊富な大人とは、有り難い存在だ。
「でも出来るんだ? ずりぃ」
「だから、緊急時用だ」
「エルさんとはそうやって遊んでたんだろ? ずりぃよっ。俺も一緒に遊びたかった!」
「……」
そっちかと高耶は小さくため息を吐いた。俊哉は本当にブレない。
**********
読んでくださりありがとうございます◎
0
お気に入りに追加
5
あなたにおすすめの小説
聖女の証
とーふ(代理カナタ)
ファンタジー
後の世界で聖女と呼ばれる少女アメリア。
この物語はアメリアが世界の果てを目指し闇を封印する旅を描いた物語。
異界冒険譚で語られる全ての物語の始まり。
聖女の伝説はここより始まった。
これは、始まりの聖女、アメリアが聖女と呼ばれるまでの物語。
異界冒険譚シリーズ【アメリア編】-聖女の証-
☆☆本作は異界冒険譚シリーズと銘打っておりますが、世界観を共有しているだけですので、単独でも楽しめる作品となっております。☆☆
その為、特に気にせずお読みいただけますと幸いです。
異界冒険譚シリーズ外伝【ミラ編前日譚】-その恋の始まりは、暗闇へと繫っている-
とーふ(代理カナタ)
ファンタジー
その日、世界に一人の少女が誕生した。
彼女の誕生に人々は歓喜し、世界へ感謝を告げた。
その整った容姿、素晴らしい精神性は人々の心を惹きつけ、奪う。
しかし彼女の誕生は喜びばかりを人々に与えはしなかった。
そう。彼女を求め、争いが始まってしまったのだ。
これは一人の少女を巡り、戦う者たちの物語(かもしれない)
☆☆この物語は『異界冒険譚シリーズ【ミラ編】-少女たちの冒険譚-』の前日譚となっております。
単独でも読めますが、本編の方も読んでいただけると、より一層楽しめるかと思います!☆☆
異界冒険譚シリーズ【ミラ編】-少女たちの冒険譚-
とーふ(代理カナタ)
ファンタジー
この世界には数多の謎が存在する。
少女は未知を求めて、世界を駆ける。
抱えきれない程の本から得た知識と、何処までも世界を照らす希望を胸に。
これは世界に夢見る少女と、そんな少女に魅せられた者たちが織りなす物語。
☆☆本作は正異界冒険譚シリーズと銘打っておりますが、世界観を共有しているだけですので、単独でも楽しめる作品となっております。
その為、特に気にせずお読みいただけますと幸いです。☆☆
異界冒険譚シリーズ 【オリヴィア編】-語られぬ者たちの物語-
とーふ(代理カナタ)
ファンタジー
聖女アメリアによって、大いなる闇の力が封印された平和が訪れた世界。
しかし、闇は完全に消えてはいなかった!
闇は意思を持ち、『魔王』という名の存在になって復活したのだ。
そして、聖女アメリアが次代の聖女として選んだ少女オリヴィアは聖女として魔王を倒す為の旅に出て……遂にその魔王を討伐する事に成功した。
しかし、聖女オリヴィアを含めた勇者一行は、魔王を完全に消し去る事が出来ず、その復活まで予言されてしまう。
また時が来れば復活してしまう魔王に、聖女オリヴィアは滅ぼすのではなく、封印という手段を取る……!
そして、聖女オリヴィアは自身の力により子供となった魔王の力を奪い、善き魔王として生まれ変わらせる為に『教育』を始めるのだった。
これは聖女アメリアの素晴らしさを教え込む為にあらゆる手段を取る聖女オリヴィアと、そんなアメリア狂信者のオリヴィアから逃げようと奮闘する魔王の戦いの記録である。
☆☆本作は異界冒険譚シリーズと銘打っておりますが、世界観を共有しているだけですので、単独でも楽しめる作品となっております。☆☆
その為、特に気にせずお読みいただけますと幸いです。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる