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第69話『宵闇の魔王』(レナ視点)②

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私に向かって放たれた魔法の影響で崩れ始めた塔の中を一筋の光が駆け抜けて、シーラちゃんを抱える女に剣を振り下ろした。

そう。オリヴァーさんだ。

現存する人類の中で最も強いと言われる人は、閃光の様に駆け抜けると、女の腕を切り落とし、シーラちゃんを抱えてこちらに飛ぶ。

「エミリー! シーラ様だけでも」

「言われなくても」

「……俺もか? 悪いな」

「貴方ならここから地面に落ちても無事でしょうけど。今は戦力が欲しいからね」

「そうだな!」

私はエミリーさんからシーラちゃんを託され、しっかりと抱えながら、私の前に並び立つ二人の背中を見る。

遥かな昔にシーラちゃんと出会い、そして今日まで研鑽を続けて来た、おそらくはシーラちゃんがこの世界で最も信頼している二人だ。

例え、あの危ない女が相手でも何とかなるだろう。

なら。私は私のやるべき事をやらなければいけない。

そう。シーラちゃんを助けるのだ。

シーラちゃんさえ元気になれば、あんな変な女に負けるはずがない!

「っ、お願い! 治って!!」

私は精一杯魔力を注いで魔法を使うが、シーラちゃんは苦しそうに血を吐くばかりで一向に治ってくれなかった。

私に治癒の力が無くなったのか? と自分の腕に出来た傷に魔法を使うが、アッサリと治る。

つまりは、シーラちゃんにだけ使えないのだ。

おそらくはあの女が言った通り。

私は悔しさに歯噛みしながら、女を睨みつけた。

「ふふ。まぁ、良いでしょう。今日はこんな所で終わってあげるわ」

「逃げるつもりか!?」

「逃げる? 違いますよ。全てを終わらせる為の準備をしに行くんです。先輩が私の愛を無視して、こんな世界を見るから。先輩が悪いんですよ」

「……!」

「今からちょうど一日後。この学園に世界中の人間たちが武器を持って押し寄せるでしょう! そしてあなた達は……死ぬ! 彼らには先輩を奪い合い様に命令しているから、ここで最後の一人になるまで殺し合いが行われるわ。そして、私は最後の一人を消して。先輩を永遠の物にする」

「そんな事! 出来るはずがない!」

「出来るはずがない? 何を言っているのかしら。あなた達は知っているでしょう? それを可能にする魔法を」

「傀儡魔法か! しかし、あの魔法は!」

「人形遣いの魔王だけが使える魔法……ですか? でも残念ながら私には使えるんです。何故なら、あの魔王の力を奪ったので」

「奪った……だと!?」

「そう。そして永遠の魔王も私が力を奪って殺した。もう誰にも先輩の魔法を解くことは出来ない。傀儡魔法は解けても、結局近くの人間に殺されるから無意味。ふふ。あなた達はこの状況を先輩無しでどう切り抜けるのかしら」

「おのれ!!」

「所詮は物語の登場人物。先輩無しじゃあ出来る事なんて何もない。そうね。ふふ。アハハ。アハハハハハ!!」

女は高笑いをしながら消え、私たちは星空の浮かぶ夜に、絶望だけを抱いてその消えた空間を見つめ続けるのだった。
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