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第54話『君の瞳には世界が映る』(トリスタン視点)③

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「ふふ」

「そのにやけ面。すぐに歪ませてやる!」

レナは開始の合図と同時に魔法をほぼ同時にいくつか放ち、俺の逃げ場を奪う様に次から次へと魔法を打ち出した。

俺はそれを見極めながら、飛び込み、魔力を指先に集めて、レナが顔に付けているスカウターを壊そうと撃ち出した。

しかし、それはレナに気づかれて避けられてしまう。

「惜しいな」

スカウターさえ壊してしまえば、魔法使い同士の戦いはほぼ終わりなんだけど。

流石というべきか、そういう所はよく分かっているらしい。

『特別教室の狂戦士』なんて呼ばれているだけの事はあるね。

まぁ、正直全然好きな名前じゃないけど。

どいつもこいつも、レナの言動にだけ囚われ過ぎている。

そう。レナは誰よりも優しくて、美しい少女なんだと。

いや……それは俺だけが知っていれば良い事か。

俺はこれからレナと過ごす日々に想いを馳せながら走り、水の魔法を放ち続け、それを数十回と繰り返して、ようやくその準備が終わった事で立ち止まった。

「……諦めたの?」

「いいや。準備が終わっただけさ」

「準備……?」

警戒する様に俺を見つめるレナに俺は笑みを深めた。

純粋で、疑う事を知らず、ただ真っすぐに世界を見据える瞳。

美しく気高い。

だからこそ、俺以外がその瞳に映るのは許しがたい。

「成長しろ」

俺は水の魔法の中に紛れさせた種を一気に芽吹かせて、成長させる。

それはまるで巨大な一つの巨木の様になり、レナを飲み込んでゆくのだった。

「っ!!? これは!」

「力押しばかりが魔法じゃないって事さ」

体のほぼ全てが巨木に飲み込まれ、レナは胸像の様に、顔と胴体だけを出した状態で閉じ込められた。

「くっ、この! こんなの!」

「無駄だよ。一本の木の様に見えて、内部では絡み合っている。力で抜け出す事は不可能だ」

「……」

「そして魔法も対象へと手を向けなければ放てない。君の負けだね。レナ」

俺は勝ちを確信して、レナに近寄るとその頬に手を当てて笑う。

可愛い顔に傷がついたら大変だ。

しかし、どうやら大きな傷は無いようだった。

「さ。降参するんだ。レナ」

俺は堂々とレナに勝利宣言をするのだった。
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