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第15話『私にとって、殿下と過ごした時間は何物にも代え難い宝物です』(セオドラー視点) 2/3
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「君はその意味が分かっているのか!? 聖女となれば世界の為に生きる事になる。個である君を捨て、ただ聖女として言われるままに癒しの力を使うだけの存在だ! ミラではなく、ただ聖女という存在になってしまうんだぞ」
「それでも、それは私にしか出来ない事です」
私の婚約者であったミラが、光の精霊と上位契約をしてしまい、癒しの力を手に入れてしまった時と同じ顔で私を見据える。
「私は、私のしていた事は、私と過ごした時間は無駄だったのか?」
「そんな訳、無いじゃないですか」
「ミラ」
静かに、震える様な声で、涙を流しながら、変わらず私を見つめるミラはとても美しく、思わず息をのんでしまう程であったが、それと同時に心が切り裂かれてしまう様な悲しさがあった。
「私にとって、殿下と過ごした時間は何物にも代え難い宝物です。殿下との思い出があるからこそ、私はこれから先、どの様な苦難があろうとも、前を向いて、生きてゆけるのです」
「ミラ……!」
そんな悲壮な覚悟を決めて欲しかったわけじゃない。
ただミラと共に生涯を過ごしたかった。あの輝くような時間を永遠に過ごしたかった。
ミラの素晴らしさは癒しの魔術だけではないと、聖女としての役割以外にもあるのだと世界に示したかった。
だというのに、私のやっていた事は結局ミラを追い詰めていただけだった。
本人は違うと否定していても、そうなのだ。
彼女の瞳がそう語っている。
「殿下。私は必ず戻ります。己の役目を果たす為に。ですから、もう少しだけ。もう少しだけお願いします」
「……ミラ。君たちはこれからどこへ向かうつもりだ?」
「私たちはヘイムブル領へ向かうつもりです」
「例の神刀か。次はどうする?」
「次はございません。その地で私は旅を終わらせるつもりです。その後は聖国の説得を」
「分かった。では、我らはヘイムブル領で君たちを待とう。もはや止めはせぬ。君の旅を十分に完遂させると良い」
「……ありがとうございます。殿下」
「あぁ」
私はそれから再び翼を作って飛び去ってゆくミラを目で追いながら、大きく息を吐いた。
そして、控えていた者たちに声を掛ける。
「皆。聞いての通りだ。決戦の地はヘイムブル領となる」
「セオ。準備はミラが旅に出た時からずっと出来てるよ。覚悟もね」
「そうか。流石はフレヤだな」
「ハリソンに比べれば大した事は無いさ。今日までミラを奪われずに済んだのは、ハリソンが聖国と裏で繋がり、表面上は敵対している様に見せながら、ミラを聖女とさせなかったからだろう?」
「思っていたよりも聖国が協力的だったからな。私はそれほど苦労していない」
「それでもだ。私は頭を使うのがそれほど得意では無いからな。ハリソンには助かっている」
「そういう意味で言うなら、私の方が助かっている。国連議会からの刺客もフレヤには何度も排除して貰ってるからな」
「いやいや」
私は、幼き頃からの友たちを見ながら、フッと笑う。
「それでも、それは私にしか出来ない事です」
私の婚約者であったミラが、光の精霊と上位契約をしてしまい、癒しの力を手に入れてしまった時と同じ顔で私を見据える。
「私は、私のしていた事は、私と過ごした時間は無駄だったのか?」
「そんな訳、無いじゃないですか」
「ミラ」
静かに、震える様な声で、涙を流しながら、変わらず私を見つめるミラはとても美しく、思わず息をのんでしまう程であったが、それと同時に心が切り裂かれてしまう様な悲しさがあった。
「私にとって、殿下と過ごした時間は何物にも代え難い宝物です。殿下との思い出があるからこそ、私はこれから先、どの様な苦難があろうとも、前を向いて、生きてゆけるのです」
「ミラ……!」
そんな悲壮な覚悟を決めて欲しかったわけじゃない。
ただミラと共に生涯を過ごしたかった。あの輝くような時間を永遠に過ごしたかった。
ミラの素晴らしさは癒しの魔術だけではないと、聖女としての役割以外にもあるのだと世界に示したかった。
だというのに、私のやっていた事は結局ミラを追い詰めていただけだった。
本人は違うと否定していても、そうなのだ。
彼女の瞳がそう語っている。
「殿下。私は必ず戻ります。己の役目を果たす為に。ですから、もう少しだけ。もう少しだけお願いします」
「……ミラ。君たちはこれからどこへ向かうつもりだ?」
「私たちはヘイムブル領へ向かうつもりです」
「例の神刀か。次はどうする?」
「次はございません。その地で私は旅を終わらせるつもりです。その後は聖国の説得を」
「分かった。では、我らはヘイムブル領で君たちを待とう。もはや止めはせぬ。君の旅を十分に完遂させると良い」
「……ありがとうございます。殿下」
「あぁ」
私はそれから再び翼を作って飛び去ってゆくミラを目で追いながら、大きく息を吐いた。
そして、控えていた者たちに声を掛ける。
「皆。聞いての通りだ。決戦の地はヘイムブル領となる」
「セオ。準備はミラが旅に出た時からずっと出来てるよ。覚悟もね」
「そうか。流石はフレヤだな」
「ハリソンに比べれば大した事は無いさ。今日までミラを奪われずに済んだのは、ハリソンが聖国と裏で繋がり、表面上は敵対している様に見せながら、ミラを聖女とさせなかったからだろう?」
「思っていたよりも聖国が協力的だったからな。私はそれほど苦労していない」
「それでもだ。私は頭を使うのがそれほど得意では無いからな。ハリソンには助かっている」
「そういう意味で言うなら、私の方が助かっている。国連議会からの刺客もフレヤには何度も排除して貰ってるからな」
「いやいや」
私は、幼き頃からの友たちを見ながら、フッと笑う。
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