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第6話『一つルールを作ろうか。ミラ』 2/3

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怒りだ。

私は今、全身に感じる怒りを身に纏っていた。

そして怒りのままに森をズンズンと進む。

「なぁ、ミラ。そろそろ怒るのは止めないか?」

「別に怒ってません!!!」

「そうか……お、こんな所に、あー。なんだ? 何か、変な虫が居るぞ?」

「変な虫ではありません! フォレストミルシルクワームです!」

「ふぉれ、何だって?」

「ですから、フォレストミルシルクワームです」

私はオーロさんに貰ったリュックに本を入れながら、腰に手を当てる。

そして、何の事やらという様な顔をしている二人に、説明をする事にした。

「フォレストミルシルクワームはその名の通り、森の中で生きる白いシルクという布の原料を吐き出す虫の事です。わざわざ森という名称が付いているのは、この虫が森で生息する事がもはや珍しい虫だからですね」

「ほぅ」

「何故ならこの虫は現在、人類によって養殖されており、貴族やお金持ちの方が着る服を作る為の原料として、飼われているからです。その為、こうして森で生きる自然のミルシルクワームは、非常に珍しいと言えるでしょう。そして、それと同時に非常に希少かつ、店で売れば非常に高価な虫である事でも有名です」

「養殖している虫が売れるのか?」

「良い質問ですね! オーロさん。そう。人は確かにミルシルクワームを養殖し、安定したシルクの原料を手に入れる事に成功しました。しかし、その結果ミルシルクワームは、空気に含まれる魔力量を制限している人間の領地で生きる事になり、魔力を多く取り込む事が出来なくなってしまったのです。こうした環境の変化で生態系が変わる事を、偉大な学者テオドール博士は、『適応・進化』と名付けましたが、それと同じ事がミルシルクワームにも起こったという事ですね」

私は木の幹を元気に登ってゆく虫を見ながら微笑む。

元気な子だ。きっと様々な魔力を多く含んだ糸を吐き出す事だろう。

「現在養殖されているミルシルクワームの殆どは、魔力含有量の少ない糸しか吐き出せず、布としては高価で貴重ですが、どこか面白味とでも言うのでしょうか。色や個性のない個体ばかりになってしまったのです。それゆえに、自然の中で生きるミルシルクワームの鮮やかな色彩と、空気の中に含まれる魔力に反応して色を変える糸は非常に希少で、高価になっているという訳ですね。貴族やお金持ちは他者と違うものを求める所がありますから」

うんうんと頷きながら、ミルシルクワームの姿を見てニッコリと微笑んだ。

ひょこひょこ動くのが非常に可愛い。

この辺りは風の精霊が多く居るのか、白い体に僅か緑色が混じっているのも綺麗だ。
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