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第2話『それは現実ですよ。殿下』 4/4

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「な、なら私が強くなれば!」

「それこそ、世界を甘く見ているとしか言いようがない。君は城壁に囲まれ、多くの騎士に守られた街で生まれ育ち、一歩も外に出た事がなく、常に優秀な兄や規格外の戦闘力を持った姉に護られて生きてきた。そんな箱入りの中の箱入りである君は、何年戦いの練習をしようとも、角ウサギにすら勝つ事は難しいだろう。戦いは君が頭で思い描いた物とは違う。向こうは君の、のんびりとした攻撃魔術など待ってはくれないし、当てる事すら出来ないだろう」

「そう、かもしれません。そうなのかもしれません。ですが、私は、諦めたくありません」

「ミラ!」

「殿下! 私は幼き頃よりずっと夢を見てきたのです! この手で未知に触れ、この足で世界をめぐる夢を。その為に惜しまず努力だってしてきました! これは自慢になりますが、私はこの世界の誰よりも、歴史について詳しい自信があります!」

「知識があるから何だというのだ。先ほども言ったが、君が傷つく可能性がある以上、君を外に出す事は出来ん。もう良い。既にフレヤへ連絡済みだ。君の頭が冷えるまでメイラー家で過ごすと良い」

「殿下! 私、ヘイムブル伯爵家の初代当主様が使ったとされる『神刀』が眠っていると思われる場所だって分かってるんです! 他にも、聖女セシル様が残された死者を蘇らせる為の魔術とか! 殿下! その遺跡に入るには私の知識が必要なんです! なら、私が行くべきでしょう!?」

私は我が家のメイドさん達に捕まりながら、必死に殿下に訴えるが、殿下は首を振るばかりであった。

「ミラ。その辺りはいずれ騎士団を率いて調査を行おう。どの道、君が冒険者にならずとも済む問題だ」

「いえ、それだけでは、国内だけならそうですが、国外にも様々な物が!」

「では連れて行ってくれ」

「殿下ー!」

結局私はメイドさん達と、遅れてやってきたお姉様に捕まって、領地へ、そして家に戻る事になった。

少々やり過ぎてしまった時の様に、部屋に閉じ込められて多くの騎士さんに部屋を囲まれる。

脱走しない様にという事だろう。

部屋から外に出る事は叶わず、お気に入りの本を抱きしめながら、私はベッドの上で眠る事しか出来ないのだった。

目尻から頬を伝う感触には……気づかないふりをして。
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