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第8話『えー。加奈子お姉ちゃん。行っちゃうのー!? なんでなんでー!?』
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かつて朝陽さんに聞いた言葉がある。
『必ずしも世界の全てを好きになる必要は無いんですよ』
『どうしても好きになれない人や物があっても良いんです』
それは、私が無理をして、あの人たちを愛するために傷つく必要はないという言葉だったのだろう。
そしてそれだけではなく、気の合わない人と無理して接する必要もない。という言葉でもあったのだと思う。
だから私はとりあえず噂を信じて、騒ぐ人たちに関わらない事にした。
廊下で会った紗理奈達にはまた騒がれたが、関わった所で百害あって一利なしとそのまま無視する事にする。
そんな風に過ごして、何とか心の平穏を保ち、私は中学校を卒業した。
晄弘くんのお母さんから、おそらく倉敷に行くと聞いていた私は、まぁまぁ偏差値の高いその高校を目標として死ぬ気で勉強を頑張っていた。
おそらく晄弘くんと同じ推薦である光佑くんは、陽菜ちゃんたちと日々楽しそうに遊んでいたが、こっちは頭で入るしかない。
小学校三年生から続く幼馴染の関係を私が崩すわけにはいかない。いや、崩したくないのだ。
だから必死に勉強し、勉強し、受験に主席で合格して、何故か光佑くんは別の学校だと知らされた。
正直意味が分からない。
だって、推薦は貰っていたハズだ。
なのに。なんで。
問い詰める事は簡単であったが、そんな事をしなくても答えは分かっていたため、私は何も言わなかった。
恐らくは東雲先輩と、まだ兄離れ出来ていない陽菜ちゃんや綾ちゃんの為。
いや、冷静に考えると妹離れ出来ていない光佑くん自身のせいかもしれない。
なんて事を、私はこれから寮に向かうホームで思うのだった。
「えー。加奈子お姉ちゃん。行っちゃうのー!? なんでなんでー!?」
「やだ。行っちゃやだ」
「ごめんね。陽菜ちゃん。綾ちゃん。また長い休みには帰ってくるから」
「ぜったいだよ! やくそく!」
「ん。約束」
「はい。綾ちゃんも」
「やくそく」
二人と別れの挨拶をし、幸太郎さんや朝陽さんとはまた電話しますとか、色々と話をする。
そして、いよいよずっと黙っていた光佑くんの番となったのだが。
「やっぱり心配だ。遠すぎるし、何かあったら、駆け付けられない。加奈子ちゃん。何かありそうだったら、早めに連絡して。すぐに向かうから」
「いやいや。私は予言者じゃないから」
「そうかもしれないけど、心配なんだよ」
「光佑お兄ちゃんは、いい加減妹離れをして。陽菜ちゃんや綾ちゃんの時、どうするの」
「あ、あぁ、まさか、そんな未来が待っているかもしれないなんて」
「かも。じゃなくて確定の未来だからね? まったく、こっちが心配になってくるよ。三年は帰らないからね。基本的に」
「加奈子ちゃん。本当に! 本当に、気を付けて!」
「分かってるよ。光佑お兄ちゃんも、精々妹離れの練習でもして」
「……分かった。努力する」
なんて、気合いっぱいの光佑くんとも別れの挨拶をして、私は時間通りに来た電車に乗り込んだ。
ホームでは泣いている立花家の人々。まるで今生の別れである。
それが恥ずかしくもあるが、少しだけ安心する気持ちもあった。
これで多分三年後も、同じ家族として迎えてもらえるだろう。という思いだ。
そして、最後に貰った温かい気持ちを胸に私は新天地へと向かって旅立つのだった。
倉敷高校野球部と言えば、この辺りの地方では有名な野球の強豪校である。
その練習のハードさは言うまでもないが、マネージャーもまた大変な忙しさだ。
日々やることは山積みで、勉強と部活と両立するのは本当に大変なんだと思い知らされた。
それでも晄弘くんのプレーをすぐ近くで見る事が出来る喜びや、夫婦なんて言ってからかわれるのも嬉しくあった。
まぁ晄弘くんはあんまり気にしている感じは無いんだけど。
勢いのままに大池で告白したけれど、失敗したのかなぁ。
もう少し関係を深めてからにするべきだった? いやでも、もっと深めるって言っても、もう分からん。
襲うくらいしか思いつかない自分の貧弱な恋愛戦闘力が情けなかった。
しかしここで諦めてはいられない。だってもう一歩踏み出したのだから。
ずっと、ずっと憧れていた。
困難な状況にあっても一歩先へと踏み出す勇気がある晄弘くんに。
私を守りたいと、初めて言ってくれた人に。
晄弘くんが居なければ私は今もあの家でくすぶっていただろう。
あの家を飛び出す勇気を貰えず、朝陽さん達にだって出会えなかったかもしれない。
だから、私を変えてくれた晄弘くんに、私も精一杯の想いを返したい。
好きなんだ。と私はいつもの格好いい顔でボールを投げる晄弘くんを見るのだった。
「おらー。旦那ばっかり見てないで働けー! 千歳! いちゃつくなら部活終わってからにしろ!」
「すみません! 先輩!」
私は先輩に怒られながらも日々を過ごしていた。
そんな忙しくも楽しい日々の中で、私たちは遂に、その日を迎えた。
甲子園を目指し駆け上がる倉敷高校野球部の前に立ちはだかる壁。
光佑くんが率いる山海高校とぶつかる日だ。
晄弘くんは朝からずっと緊張していて、現地に来てもそれは変わっていない様だった。
「千歳! ちょっと来い!」
「なんですか?」
「大野の緊張ほぐしてやってくれ!」
「いや、緊張ほぐせって言われても」
「胸でも尻でも触らせてやれば緊張くらい消し飛ぶだろ!」
「嫌ですよ! 何言ってるんですか!」
「とにかくだ。すぐに試合も始まる。このまま大野がガチガチじゃあ、勝てるもんも勝てん。頼むぞ」
私は監督に無茶ぶりをされ、そのまま晄弘くんの横に座った。
そして、その手を握る。
「加奈子?」
「目、覚めた?」
「うん。悪い。集中してた」
「だろうね。でも、肩の力、入りすぎだよ」
「うん」
「手、もんであげる」
「うん」
「胸、触る?」
「うん……うん!? な、なに!?」
「ふふ。顔真っ赤」
「か、からかうな!」
「ごめんね。でも少しは気が逸れたでしょ? あんまり考えすぎてもさ。良くないよ。今日まで晄弘くんだって遊んでた訳じゃない。そうでしょ?」
「あぁ」
「ならさ、やれるだけやってみようよ。負けられないじゃなくて、挑戦するんだ。晄弘くん」
「挑戦か」
「そう、挑戦。私もさ、晄弘くんもまだまだ完璧じゃない。だからさ。二人で光佑くんに挑もうよ」
「そうだな。うん。そうだな。俺たちの力、光佑に見せてやろう」
しかし、そんな風に言っていた私たちの願いは打ち砕かれた。
光佑くんはやっぱり強くて、晄弘くんは追い詰められ、最後には勝負すら出来ない決定的な敗北を叩きつけられた。
晄弘くんは、悲しくて、悔しくて、叫びだしたいような、暴れたいような気持ちのまま、まだ戦いたいと叫ぶ様にグラウンドに立っていた。
闘志はまだ消えていない。まだ晄弘くんは戦っているんだとよく分かった。
だから、私は何が自分に出来るのか考える。
今晄弘くんに必要な言葉を、行動を。
私に何が出来るのかを。
「今日の試合。惜しかったね。負けて悔しいかもしれないけど。次があるよ」
当たり前の様に、私が今感じている様な悔しさは無力感などしまい込んで、朝陽さんの様に晄弘くんへ話しかけた。
常に考えるのは朝陽さんならどうしただろうか。という事だ。
こんな傷ついて、今にも泣き崩れてしまいそうな晄弘くんに、私は何が出来るだろうか。
それだけを考えて、この人に笑ってほしいと、幸せになって欲しいとそれだけを想って言葉を紡ぐ。
そして、私は一番大切な想いを、願いを口にして晄弘くんへと届けた。
「加奈子は、まだ次があるって、思うのか?」
「当然だよ。だって四球目。きっと晄弘くんが勝ってたもの」
それは紛れもない本心。
あの場面で、晄弘くんはきっと勝っていた。
根拠なんてない。ただそう確信しているだけだ。
でも、それでいいと思う。
私は泣き崩れる晄弘くんを抱きしめながら、その思いが、いつか届くようにと願う。
遥か遠い星の彼方に居る光佑くんに、こんな、一人で誰もいない地上から手を伸ばす晄弘くんの気持ちが。
いつか、彼に届けば良いなと。そう願うのだった。
『必ずしも世界の全てを好きになる必要は無いんですよ』
『どうしても好きになれない人や物があっても良いんです』
それは、私が無理をして、あの人たちを愛するために傷つく必要はないという言葉だったのだろう。
そしてそれだけではなく、気の合わない人と無理して接する必要もない。という言葉でもあったのだと思う。
だから私はとりあえず噂を信じて、騒ぐ人たちに関わらない事にした。
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そんな風に過ごして、何とか心の平穏を保ち、私は中学校を卒業した。
晄弘くんのお母さんから、おそらく倉敷に行くと聞いていた私は、まぁまぁ偏差値の高いその高校を目標として死ぬ気で勉強を頑張っていた。
おそらく晄弘くんと同じ推薦である光佑くんは、陽菜ちゃんたちと日々楽しそうに遊んでいたが、こっちは頭で入るしかない。
小学校三年生から続く幼馴染の関係を私が崩すわけにはいかない。いや、崩したくないのだ。
だから必死に勉強し、勉強し、受験に主席で合格して、何故か光佑くんは別の学校だと知らされた。
正直意味が分からない。
だって、推薦は貰っていたハズだ。
なのに。なんで。
問い詰める事は簡単であったが、そんな事をしなくても答えは分かっていたため、私は何も言わなかった。
恐らくは東雲先輩と、まだ兄離れ出来ていない陽菜ちゃんや綾ちゃんの為。
いや、冷静に考えると妹離れ出来ていない光佑くん自身のせいかもしれない。
なんて事を、私はこれから寮に向かうホームで思うのだった。
「えー。加奈子お姉ちゃん。行っちゃうのー!? なんでなんでー!?」
「やだ。行っちゃやだ」
「ごめんね。陽菜ちゃん。綾ちゃん。また長い休みには帰ってくるから」
「ぜったいだよ! やくそく!」
「ん。約束」
「はい。綾ちゃんも」
「やくそく」
二人と別れの挨拶をし、幸太郎さんや朝陽さんとはまた電話しますとか、色々と話をする。
そして、いよいよずっと黙っていた光佑くんの番となったのだが。
「やっぱり心配だ。遠すぎるし、何かあったら、駆け付けられない。加奈子ちゃん。何かありそうだったら、早めに連絡して。すぐに向かうから」
「いやいや。私は予言者じゃないから」
「そうかもしれないけど、心配なんだよ」
「光佑お兄ちゃんは、いい加減妹離れをして。陽菜ちゃんや綾ちゃんの時、どうするの」
「あ、あぁ、まさか、そんな未来が待っているかもしれないなんて」
「かも。じゃなくて確定の未来だからね? まったく、こっちが心配になってくるよ。三年は帰らないからね。基本的に」
「加奈子ちゃん。本当に! 本当に、気を付けて!」
「分かってるよ。光佑お兄ちゃんも、精々妹離れの練習でもして」
「……分かった。努力する」
なんて、気合いっぱいの光佑くんとも別れの挨拶をして、私は時間通りに来た電車に乗り込んだ。
ホームでは泣いている立花家の人々。まるで今生の別れである。
それが恥ずかしくもあるが、少しだけ安心する気持ちもあった。
これで多分三年後も、同じ家族として迎えてもらえるだろう。という思いだ。
そして、最後に貰った温かい気持ちを胸に私は新天地へと向かって旅立つのだった。
倉敷高校野球部と言えば、この辺りの地方では有名な野球の強豪校である。
その練習のハードさは言うまでもないが、マネージャーもまた大変な忙しさだ。
日々やることは山積みで、勉強と部活と両立するのは本当に大変なんだと思い知らされた。
それでも晄弘くんのプレーをすぐ近くで見る事が出来る喜びや、夫婦なんて言ってからかわれるのも嬉しくあった。
まぁ晄弘くんはあんまり気にしている感じは無いんだけど。
勢いのままに大池で告白したけれど、失敗したのかなぁ。
もう少し関係を深めてからにするべきだった? いやでも、もっと深めるって言っても、もう分からん。
襲うくらいしか思いつかない自分の貧弱な恋愛戦闘力が情けなかった。
しかしここで諦めてはいられない。だってもう一歩踏み出したのだから。
ずっと、ずっと憧れていた。
困難な状況にあっても一歩先へと踏み出す勇気がある晄弘くんに。
私を守りたいと、初めて言ってくれた人に。
晄弘くんが居なければ私は今もあの家でくすぶっていただろう。
あの家を飛び出す勇気を貰えず、朝陽さん達にだって出会えなかったかもしれない。
だから、私を変えてくれた晄弘くんに、私も精一杯の想いを返したい。
好きなんだ。と私はいつもの格好いい顔でボールを投げる晄弘くんを見るのだった。
「おらー。旦那ばっかり見てないで働けー! 千歳! いちゃつくなら部活終わってからにしろ!」
「すみません! 先輩!」
私は先輩に怒られながらも日々を過ごしていた。
そんな忙しくも楽しい日々の中で、私たちは遂に、その日を迎えた。
甲子園を目指し駆け上がる倉敷高校野球部の前に立ちはだかる壁。
光佑くんが率いる山海高校とぶつかる日だ。
晄弘くんは朝からずっと緊張していて、現地に来てもそれは変わっていない様だった。
「千歳! ちょっと来い!」
「なんですか?」
「大野の緊張ほぐしてやってくれ!」
「いや、緊張ほぐせって言われても」
「胸でも尻でも触らせてやれば緊張くらい消し飛ぶだろ!」
「嫌ですよ! 何言ってるんですか!」
「とにかくだ。すぐに試合も始まる。このまま大野がガチガチじゃあ、勝てるもんも勝てん。頼むぞ」
私は監督に無茶ぶりをされ、そのまま晄弘くんの横に座った。
そして、その手を握る。
「加奈子?」
「目、覚めた?」
「うん。悪い。集中してた」
「だろうね。でも、肩の力、入りすぎだよ」
「うん」
「手、もんであげる」
「うん」
「胸、触る?」
「うん……うん!? な、なに!?」
「ふふ。顔真っ赤」
「か、からかうな!」
「ごめんね。でも少しは気が逸れたでしょ? あんまり考えすぎてもさ。良くないよ。今日まで晄弘くんだって遊んでた訳じゃない。そうでしょ?」
「あぁ」
「ならさ、やれるだけやってみようよ。負けられないじゃなくて、挑戦するんだ。晄弘くん」
「挑戦か」
「そう、挑戦。私もさ、晄弘くんもまだまだ完璧じゃない。だからさ。二人で光佑くんに挑もうよ」
「そうだな。うん。そうだな。俺たちの力、光佑に見せてやろう」
しかし、そんな風に言っていた私たちの願いは打ち砕かれた。
光佑くんはやっぱり強くて、晄弘くんは追い詰められ、最後には勝負すら出来ない決定的な敗北を叩きつけられた。
晄弘くんは、悲しくて、悔しくて、叫びだしたいような、暴れたいような気持ちのまま、まだ戦いたいと叫ぶ様にグラウンドに立っていた。
闘志はまだ消えていない。まだ晄弘くんは戦っているんだとよく分かった。
だから、私は何が自分に出来るのか考える。
今晄弘くんに必要な言葉を、行動を。
私に何が出来るのかを。
「今日の試合。惜しかったね。負けて悔しいかもしれないけど。次があるよ」
当たり前の様に、私が今感じている様な悔しさは無力感などしまい込んで、朝陽さんの様に晄弘くんへ話しかけた。
常に考えるのは朝陽さんならどうしただろうか。という事だ。
こんな傷ついて、今にも泣き崩れてしまいそうな晄弘くんに、私は何が出来るだろうか。
それだけを考えて、この人に笑ってほしいと、幸せになって欲しいとそれだけを想って言葉を紡ぐ。
そして、私は一番大切な想いを、願いを口にして晄弘くんへと届けた。
「加奈子は、まだ次があるって、思うのか?」
「当然だよ。だって四球目。きっと晄弘くんが勝ってたもの」
それは紛れもない本心。
あの場面で、晄弘くんはきっと勝っていた。
根拠なんてない。ただそう確信しているだけだ。
でも、それでいいと思う。
私は泣き崩れる晄弘くんを抱きしめながら、その思いが、いつか届くようにと願う。
遥か遠い星の彼方に居る光佑くんに、こんな、一人で誰もいない地上から手を伸ばす晄弘くんの気持ちが。
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