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第14話『新しい魔王なら、もう居るぞ』

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ソフィアの襲撃から三日ほど経ち、オリヴィアの教会には勇者の仲間たちが全員集まっていた。

そして、今度は中庭ではなく客間で勇者たちと魔王たちが向かい合い、話をする。

「闇の魔王エースブ。飢えの魔王ペイナ。僕達は君たちの事を勘違いしていた様だ。無条件で人間の味方をしてくれる様な気がしていた。特にエースブとはそれなりに長い付き合いになっているからね。余計そう思ったのかもしれない。だから正式にお願いする。僕らに協力してくれないか?」

「イヤダ」

エースブが椅子の上に寝ころびながら、綺麗に座っているペイナの太ももを枕にしつつ、いい加減に答えると、ルークのすぐ横に座っていたソフィアが強く床を足で叩いた。

「っ!?」

「返事は?」

「はい! 協力させて貰います!!」

「エースブ様。なんとお労しい」

「まったくだね。可哀想な魔王様」

エースブはソフィアとのアレコレがすっかり恐怖として根付き、ソフィアの怒りに触れると過剰に反応する様になってしまった。

しかし、体は正直になっても心はまだ負けておらず、悔しそうにソフィアを見るのだった。

「まぁまぁ、そんなに喧嘩をしないでください。協力して下さいましたら、アメリア様のお話をして差し上げますから」

「オリヴィア! お主、それが本気で褒美になると思っているんじゃなかろうな!? 誰がアホリアの話なんぞ、おおお!? ぐぁあああ!!」

「よく聞こえなかったのですが。今なんと?」

「あ、アメリア様の、話は、大丈夫なので、協力しますです」

「あぁ……エースブ様。なんとお可哀想」

「本当に」

「分かりました。ではとっておきのお話をして差し上げますね」

「っ!!? な、なぜ」

エースブの疑問にオリヴィアはいつもの笑みで返し、エースブはただただ項垂れるだけであった。

哀れ。

「あー。えっと。協力してくれて助かるよ。エースブ。二人も、あんまり脅さないで上げて。何だか可哀想になってきた」

「そうだな。これじゃどっちが魔王か分かったもんじゃないぜ」

「フン。まぁルークがそう言うんなら良いけど!」

「分かりました」

「お、お主ら……勇者ルーク、騎士レオン。お主らだけは本当に世界の希望なのだな。我は感動したぞ」

魔王は苦しみながらも救いを見つけた様にルークとレオンを見つめる。

そして、ルークとレオンもボロボロの魔王に同情し、穏やかな視線を送っていたのだが、それを遮る者が現れた。

そう。飢えの魔王ペイナである。

「エースブ様! エースブ様が私以外を頼るだなんて! 駄目ですわ! その様に見つめ合って! もう目を取ってしまおうかしら」

「離さんか!! ペイナ!! 何をしれっと怖い事を言っておる!」

「もう離しませんからね! ぎゅー!! ぎゅー!!」

「あぶっ、おぼれてっ、しぬ!」

ペイナに強く、背中が歪むほどに強く抱きしめられて、魔王はジタバタと暴れているが、逃げ出す事は出来ないようだった。

そしてそんなエースブをペイナの隣に座っていたノルンは救出し、そのまま自らの足の上に座らせる。

「まったく酷い目にあった」

「アハハ。ペイナも変わらないねぇ」

「ホントに、昔からこの女は、我を何だと思ってるのか」

「む。これもそれも、全部エースブ様が私だけを見てくれないから悪いんですからね」

「なんでだ!!」

ワイワイと楽しそうに話す魔王一行に、勇者一行はやや呆れながら、また話を投げかけた。

「あー。楽しそうな所、申し訳ないんだけど。そろそろ僕らの話を聞いてもらっても良いかな?」

「あぁ、構わんぞ。話せ」

エースブは偉そうに、ノルンに抱きかかえられたまま鼻を鳴らした。

そんなエースブの様子に、ルークは特に気分を害した様子もなく口を開く。

「うん。お願いしたいのは、魔王についてなんだ」

「魔王について?」

「そう。新しい魔王がいつ現れるのか分からないのはしょうがない。でも、もし現れたらすぐに教えて欲しいんだ。対処はこちらでするからさ」

「そうか。分かった」

「ありがとう」

「では、勇者ルークよ」

「ん?」

「新しい魔王なら、もう居るぞ」

「え!? どこに!!」

「何を言っておる。ここに居るだろうが。なぁ。未知の魔王。ノルンよ」

「っ!?」

エースブがそう言いながら、振り返り、忠誠的なその者に笑いかけた瞬間、勇者ルークとその仲間たちは一斉に武器を持ちながら立ち上がった。

緊張を隠せない様子で、ジッとその魔王を見つめる。

いつの間にか、この場に居て、当たり前の様に話をしていた未知の魔王ノルンを。

「おやおや。気づいていなかったのかい。それは驚きだね。ボクは別に逃げも隠れもしていないし。初めからここに居たというのにね」

「まったくだな」

「それはそうと、ノルン。あなた、いつまでエースブ様を抱きかかえているおつもりですか?」

「さて、いつまでかな。分からないというのは恐怖だろう。ペイナ」

「相変わらずイラっとする言葉遣いをしますね。あなたは!」

「それがボクさ。そうだよね? エースブ様」

「あー? まー、そーだな。ノルンはなーんも分からんからなー」

「もう! エースブ様!いい加減なお返事をしないで下さいな!」

意味のない、いい加減な会話をしている魔王たちを見て、互いに状況を確認していた勇者達だったが、ノルンという魔王が現れたという事以外には何もおかしな所が無いという事に気づき、とりあえずの落ち着きを取り戻す。

そして、ルークが代表してノルンに話しかける事にした。

「君は……君も魔王なのか」

「そうかもしれないし。違うかもしれないね」

「っ、どういう意味だ」

「そのままの意味さ。魔王かもしれないし。魔王ではないかもしれない」

「この期に及んで面倒な会話をするな。ノルン。ちゃんと話せ」

「分かったよ。エースブ様。勇者ルーク。そうだよ。ボクが未知の魔王ノルンだ。未知への恐怖がボクの核だからね。情報は大事なのさ」

「そう、か。それで」

「ボクが人間へ危害を加えるかどうか。かい?」

「っ!」

「何故分かったとでも言いたげな顔だね。ふむ。ではこう答えようか。『教えてあげないよ』」

「相変わらず性格が悪いのう。お前」

「アハハ。しょうがないさ。ボクなんだから」

悪態をつく魔王を軽く左右に揺らしながら、ノルンは笑う。

無邪気な子供の様に。

しかし、その笑顔はルークたちにとって、どんな物よりも奇妙で気味の悪いものだった。

「あぁ、そう言えば質問に答えていなかったね。答えはノーだ。ボクは人間に危害を加える事は無いよ。それどころか他の魔王を封印、もしくは無力化するのに協力しようじゃないか!」

「……何が」

「目的なんだ。って? うーん。そうだね。それは教えてあげようかな。勇者ルーク。この世界で君の事を知る人は多く居るだろう。横に居る魔術師ソフィアは君以上に君の事を知っているだろうし、反対側に座っている騎士レオンも、聖女オリヴィアも君の事はよく知っているだろう。だからこそ、君が人類の守護者であり、絶対に裏切らないという信頼が生まれる。そこには、ひとかけらの恐怖も生まれない。だからボクは未知であり続けなくてはいけないし。未知である事が僕の全てだ」

「……」

「よく分かっていないという様な顔だね。うんうん。とてもいい顔だ。君たちのそんな顔を見る事が出来ただけでも、ボクは満足だよ。ふふ。このまま行けばいずれ闇を超えるかな? そしたらどうなるかな。エースブ様。君がボクのモノになるのもそう遠くない日かもね」

「へっ、相変わらず訳の分からん事ばっかり言いおって」

「それが僕さ」

「もう! いい加減、エースブ様を私に返しなさい!」

「もう少し良いじゃないか。中々良い抱き心地なんだ」

「コラ!! 我はお前らの玩具じゃないんだぞ!!」

怒りに震える魔王エースブと、それを取り合う魔王たちという何とも言えない光景が広がる中で、ルーク達もまた、別の意味で何とも言えないまま立ち尽くしているのだった。
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