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第7話『我こそ、最強の……魔王!! 恐れろ、人間どもめ』
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騎士レオンにとって魔王討伐というのは、そこまで重要な事項では無かった。
何故なら魔王に明確な敵意を感じなかったからだ。
彼の親友であり、幼馴染であり、初恋の人であり、今もなお片思いの相手であるアディが、魔王に襲われ国が崩壊したにも関わらず、ほぼ無傷でレオンの元へ来たからだ。
自分と同じ騎士であり、忠誠心の強いアディが敵を前にして逃げる訳がなく、ましてや途中で諦めるわけもない。
という事はアディも最後の瞬間まで戦ったのだろう。
その結果が、これだ。
ほぼ無傷での生還。
それからも魔王を狙う者たちは多く居たが、そのどれもが無事に帰還している。
魔王は、人の命を奪うつもりが無いらしい。
そうレオンが考えるのは自然な事だった。
そしてその考えは魔王と直接対峙した時も変わらず、魔王がオリヴィアの居る教会に入ってからも変わらなかった。
魔王はレオンが思ったままの魔王であったのだ。
だからこそ、勇者ルークの言葉を聞いても特に疑問は無かったし。素直に子供と戯れる魔王とやらを見てみたい気持ちになったのだった。
「んで。アレが魔王って訳か」
「そう。信じられないかもしれないけどさ」
「ふぅん」
遠くで、幾人かの男の子たちの前で腕を組みながら偉そうに笑う魔王を見て、騎士レオンはなるほどなと頷いた。
「フハハハ! その程度か! 騎士どもめ! その程度の攻撃では我に傷一つ与えられんぞ!」
「くっ!」
「なんて強いんだ! まおー!」
「ふふふ。そう! 我こそ、最強の……魔王!! 恐れろ、人間どもめ」
「なんてぱわーだ。まおー!」
「あっ! おーいリック! リックも一緒にまおー退治やろうぜ!」
「え!? ぼ、ぼくはいいよぉ」
「んだよー。折角誘ってやったのにさ」
「ジョーイよ。そう言うでない。人には向き不向きという物があるのだ。確かにお主等は、こういう荒事が得意であろう。しかし、リックは荒事が得意では無いのだ」
「んん? じゃあ、リックは何が得意なんだよ」
「その、荒事が得意ではないという事が、長所なのだ」
「はぁ?」
「どういう事だよ、まおー」
「ふむ。そうだな。例えば、そうだな。ジョーイはよくセレスと喧嘩をするが、喧嘩をした後にどうするつもりだ?」
「どうするって、えと、どうする?」
「答えが出んか」
「……うん。よくわかんない」
「そうだろう。争いとはそういう物だ。拳を握れば、もはやそれを振り下ろす事しか出来ん。そして相手が拳を握るのであれば、こちらもとお主等も握るだろう。そうなれば争いの始まりだ。そして先ほどのジョーイの様に争いを止める事は難しい」
「……」
「だがそこで、リックの様に拳を握らぬ強さを持つ者が居たならどうだ。分かり合おうと、話し合おうと手のひらを差し出してくる相手に、お主等は拳を握るのか?」
「……ううん」
「うむ。そうだな。そうなれば争いを止める事が出来る。お主等が出来ん事を、リックは出来るのだ。それは凄い事だと思わんか?」
「たしかに」
「リック。お前って凄い奴だったのか?」
「い、いやっ、そんな事は、無いけど、でも、そんな風に言ってくれるのは……その、嬉しい」
「まぁ、とは言ってもだ。やはり何かを護る為に拳を握る事も重要。お主等の戦う勇気も、それはそれで素晴らしい物だと我は思うがな!」
「へへっ」
「そうかな」
「そう。護るために戦う事を選ぶ者も、また始まってしまう争いを止める事も、共に勇気のいる事だ。己を誇れ、そして友を誇れ。他者を認められる強さを誇れ。さ。話は終わりだ。続きをしようじゃないか。人間ども! 我を倒してみよっ!! ワーッハッハッハッハ!!」
「よっしゃー! 今日こそ倒してやるー!」
「俺が勇者だー!」
「じゃ、リックまたな!」
「……待って!」
「ん? どうした?」
「僕も、一緒に、いいかな!?」
「おー。良いぜ! ほれ、勇者の剣だ! 受け取れリック!」
「うん!!」
「ふふふ。ふはははは。何人増えようと関係ないわ!! 我が超絶最強パワーの前に消え去るが良い!!」
高らかに笑う魔王に、挑む子供たち。
何も知らない者が見れば、心温まる光景に見えるだろう。
しかし、勇者ごっこの相手をしているのは正真正銘の魔王であり、つい先日まで真実魔王としてこの世界に君臨していた者である。
だからこそ、ルークは迷っていた。
一度は出した結論だとしても、それが正しいのか、未だに悩んでいた。
「僕は、あの魔王を信じても良いのか。まだ迷っている」
「そうか」
「あのまま、ただ無害な存在であるなら、何もしなくて良いとすら考えている」
「まぁ、そうだな」
「レオンは、どう思う?」
「俺はいつも変わらない答えさ。世界が平和であればそれで良い。必ずしも魔王を倒さなきゃいけないって訳じゃ無いだろうさ」
「でも! 魔王によって大きな被害が出たのは確かだ」
「そうだな。だが、人の被害はない」
「……っ」
「確かにデルトラント王国は焼かれた。家や金、仕事を失った奴は数えきれない程居るだろう。だが、そんな物はこの世界でありふれている不幸だ」
「それは」
「家族を魔物に食われた奴だっている。クソったれな盗賊や貴族に金や家族を奪われた奴だっている。だが、それに比べりゃ魔王に命を奪われた奴はいない。大した事じゃないのさ。お前の憤りも分かるけどな。冷静に見りゃ。魔王は俺たち人間よりもお優しいって事だ」
騎士レオンの言葉に勇者ルークは何も言えず、ただ黙り込んでしまった。
そして拳を強く握りしめる。
「そういや魔王が面白い事を言っていたな」
「……え?」
「拳を握ったままじゃ、誰とも手を繋げないって話だ。魔王にしちゃ随分と面白い考えだと思うぜ」
「そう、だね」
「ま。ルークの気持ちも分かるし。俺自身も確かめたい事があるし。行ってくるか」
「え!? どこにだ」
「決まっているだろう? 魔王様の所さ」
レオンはそう言うと、地面を強く蹴り、魔王のすぐ傍に跳んだ。
跳んだ瞬間、レオンの接近に気づいたのだろう。魔王はすぐさま子供たちの前に移動し、片腕を横に広げ、真剣な表情でレオンを見据えた。
「お主は」
「よう。久しぶりだな。魔王」
「確か、勇者と共に居た騎士だったか? ふん。ここに姿を現すという事は、我を狙いに来たか」
「あーいや。違う違う。実はアンタに相談しに来たんだよ」
「は? 相談だと?」
「そう。実はさー。俺がずっと片思いしてるアディちゃんって子が居るんだけどさー。そろそろ俺らも良い年だし。友人から次のステップに進んでも良い頃だと思うんだよなぁ」
「ほぅ。まぁ、お主ら人間は命が短いからな。番を求めるのも当然か。それで? 我に何を求める? 我の首でも欲するか!」
「いや。プレゼント選びを手伝ってくれ」
「は?」
「アディちゃんってはちっと嗜好が子供っぽくてな。話が出来るガキの意見が欲しかったんだ。いやー。魔王。君は実にちょうどいい人材だ」
「おっ、お前、お前!! 我を何だと思ってるのだ!! 我は魔王だぞ!! 偉いんだぞ!! 魔王様だぞ!!」
「おー。分かってる分かってる。まおーさま。だろ。ハハハ。んじゃよろしく」
「舐めるなよ!! 我の凄さを分からせてやろうか!? あぁん!?」
「明日また迎えに来るからさ。ちゃんと夜は早く寝て、朝早起きするんだぞ。まおーくん」
「お前!!!! 我をなんだと!!」
「分かった。分かった。買い物が終わったらお駄賃に飴をやるから。好きだろ? 飴」
「~~~!!!!? っ!!!!」
「ハハハ。じゃあ、またなー」
魔王は憤慨し、激怒し、怒髪天を衝く様な状態となって地団太を踏んだ。
しかし騎士レオンは何ごとも無かったかの様にその場を去り、颯爽と家に帰るのだった。
何故なら魔王に明確な敵意を感じなかったからだ。
彼の親友であり、幼馴染であり、初恋の人であり、今もなお片思いの相手であるアディが、魔王に襲われ国が崩壊したにも関わらず、ほぼ無傷でレオンの元へ来たからだ。
自分と同じ騎士であり、忠誠心の強いアディが敵を前にして逃げる訳がなく、ましてや途中で諦めるわけもない。
という事はアディも最後の瞬間まで戦ったのだろう。
その結果が、これだ。
ほぼ無傷での生還。
それからも魔王を狙う者たちは多く居たが、そのどれもが無事に帰還している。
魔王は、人の命を奪うつもりが無いらしい。
そうレオンが考えるのは自然な事だった。
そしてその考えは魔王と直接対峙した時も変わらず、魔王がオリヴィアの居る教会に入ってからも変わらなかった。
魔王はレオンが思ったままの魔王であったのだ。
だからこそ、勇者ルークの言葉を聞いても特に疑問は無かったし。素直に子供と戯れる魔王とやらを見てみたい気持ちになったのだった。
「んで。アレが魔王って訳か」
「そう。信じられないかもしれないけどさ」
「ふぅん」
遠くで、幾人かの男の子たちの前で腕を組みながら偉そうに笑う魔王を見て、騎士レオンはなるほどなと頷いた。
「フハハハ! その程度か! 騎士どもめ! その程度の攻撃では我に傷一つ与えられんぞ!」
「くっ!」
「なんて強いんだ! まおー!」
「ふふふ。そう! 我こそ、最強の……魔王!! 恐れろ、人間どもめ」
「なんてぱわーだ。まおー!」
「あっ! おーいリック! リックも一緒にまおー退治やろうぜ!」
「え!? ぼ、ぼくはいいよぉ」
「んだよー。折角誘ってやったのにさ」
「ジョーイよ。そう言うでない。人には向き不向きという物があるのだ。確かにお主等は、こういう荒事が得意であろう。しかし、リックは荒事が得意では無いのだ」
「んん? じゃあ、リックは何が得意なんだよ」
「その、荒事が得意ではないという事が、長所なのだ」
「はぁ?」
「どういう事だよ、まおー」
「ふむ。そうだな。例えば、そうだな。ジョーイはよくセレスと喧嘩をするが、喧嘩をした後にどうするつもりだ?」
「どうするって、えと、どうする?」
「答えが出んか」
「……うん。よくわかんない」
「そうだろう。争いとはそういう物だ。拳を握れば、もはやそれを振り下ろす事しか出来ん。そして相手が拳を握るのであれば、こちらもとお主等も握るだろう。そうなれば争いの始まりだ。そして先ほどのジョーイの様に争いを止める事は難しい」
「……」
「だがそこで、リックの様に拳を握らぬ強さを持つ者が居たならどうだ。分かり合おうと、話し合おうと手のひらを差し出してくる相手に、お主等は拳を握るのか?」
「……ううん」
「うむ。そうだな。そうなれば争いを止める事が出来る。お主等が出来ん事を、リックは出来るのだ。それは凄い事だと思わんか?」
「たしかに」
「リック。お前って凄い奴だったのか?」
「い、いやっ、そんな事は、無いけど、でも、そんな風に言ってくれるのは……その、嬉しい」
「まぁ、とは言ってもだ。やはり何かを護る為に拳を握る事も重要。お主等の戦う勇気も、それはそれで素晴らしい物だと我は思うがな!」
「へへっ」
「そうかな」
「そう。護るために戦う事を選ぶ者も、また始まってしまう争いを止める事も、共に勇気のいる事だ。己を誇れ、そして友を誇れ。他者を認められる強さを誇れ。さ。話は終わりだ。続きをしようじゃないか。人間ども! 我を倒してみよっ!! ワーッハッハッハッハ!!」
「よっしゃー! 今日こそ倒してやるー!」
「俺が勇者だー!」
「じゃ、リックまたな!」
「……待って!」
「ん? どうした?」
「僕も、一緒に、いいかな!?」
「おー。良いぜ! ほれ、勇者の剣だ! 受け取れリック!」
「うん!!」
「ふふふ。ふはははは。何人増えようと関係ないわ!! 我が超絶最強パワーの前に消え去るが良い!!」
高らかに笑う魔王に、挑む子供たち。
何も知らない者が見れば、心温まる光景に見えるだろう。
しかし、勇者ごっこの相手をしているのは正真正銘の魔王であり、つい先日まで真実魔王としてこの世界に君臨していた者である。
だからこそ、ルークは迷っていた。
一度は出した結論だとしても、それが正しいのか、未だに悩んでいた。
「僕は、あの魔王を信じても良いのか。まだ迷っている」
「そうか」
「あのまま、ただ無害な存在であるなら、何もしなくて良いとすら考えている」
「まぁ、そうだな」
「レオンは、どう思う?」
「俺はいつも変わらない答えさ。世界が平和であればそれで良い。必ずしも魔王を倒さなきゃいけないって訳じゃ無いだろうさ」
「でも! 魔王によって大きな被害が出たのは確かだ」
「そうだな。だが、人の被害はない」
「……っ」
「確かにデルトラント王国は焼かれた。家や金、仕事を失った奴は数えきれない程居るだろう。だが、そんな物はこの世界でありふれている不幸だ」
「それは」
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騎士レオンの言葉に勇者ルークは何も言えず、ただ黙り込んでしまった。
そして拳を強く握りしめる。
「そういや魔王が面白い事を言っていたな」
「……え?」
「拳を握ったままじゃ、誰とも手を繋げないって話だ。魔王にしちゃ随分と面白い考えだと思うぜ」
「そう、だね」
「ま。ルークの気持ちも分かるし。俺自身も確かめたい事があるし。行ってくるか」
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「あーいや。違う違う。実はアンタに相談しに来たんだよ」
「は? 相談だと?」
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「ほぅ。まぁ、お主ら人間は命が短いからな。番を求めるのも当然か。それで? 我に何を求める? 我の首でも欲するか!」
「いや。プレゼント選びを手伝ってくれ」
「は?」
「アディちゃんってはちっと嗜好が子供っぽくてな。話が出来るガキの意見が欲しかったんだ。いやー。魔王。君は実にちょうどいい人材だ」
「おっ、お前、お前!! 我を何だと思ってるのだ!! 我は魔王だぞ!! 偉いんだぞ!! 魔王様だぞ!!」
「おー。分かってる分かってる。まおーさま。だろ。ハハハ。んじゃよろしく」
「舐めるなよ!! 我の凄さを分からせてやろうか!? あぁん!?」
「明日また迎えに来るからさ。ちゃんと夜は早く寝て、朝早起きするんだぞ。まおーくん」
「お前!!!! 我をなんだと!!」
「分かった。分かった。買い物が終わったらお駄賃に飴をやるから。好きだろ? 飴」
「~~~!!!!? っ!!!!」
「ハハハ。じゃあ、またなー」
魔王は憤慨し、激怒し、怒髪天を衝く様な状態となって地団太を踏んだ。
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