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第1話『フハハハハハ!! 我は魔王!! お前たち人類を支配する者だッ!!』
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かつて世界の果てには大きな闇の力が眠っていた。
そいつはゆっくり、ゆっくりとその力を増してゆき、数十年に一度その力を大きく膨れ上がらせて、世界中に大いなる災いを齎すと言われていた。
しかし、その力が大きくなる度に、聖人と呼ばれる者たちが闇の力を削り封印してきた為、実際に災いを起こした事はない。
さらに言うのであれば先代の聖人であるアメリアという女性が、この闇の力を全て消し去る事に成功し、人類は遂に闇の脅威から逃れる事に成功したのである。
彼女はそれ以降も多くの傷ついた人に手を差し伸べ、いつしか彼女を聖女……聖女アメリアと呼ぶようになっていた。
そんなアメリアの救済から十数年。
世界のどこにも闇の力は観測されず、人々はこれからも永く続いていくであろう平和の世界に喜び、日々を笑顔で過ごしていた。
人類はこのまま平和が永遠に続くと、誰もがそう信じていた。
闇の時代は終わったのだと。
しかし、そんな中、ソイツは生まれてしまった。
「フハハハハハ!! 我は魔王!! お前たち人類を支配する者だッ!!」
東の外れにあるデルトラント王国の王都にて、突如現れたその魔王なる存在は圧倒的な力で王都騎士団を全滅させ、王都から民や王族を追い出して、王都を火の海に変えた。
事態を重く見た各国は、それぞれに魔王を討伐するべく人を集め向かわせたが、魔王の圧倒的な力の前に逃げ出す事しか出来なかった。
時間と共に悪化してゆく状況に、各国は自国だけが生き残る方法を模索し始める。
デルトラント王国を見捨て、次に狙われない様にと、魔王に交渉しようとする者まで現れたくらいだ。
そんな中、一人の男が表舞台に現れた。
彼の名はルーク。
類まれなる剣の才能を持ち、極大の勇気と共に立ち上がった男である。
そして、そんな彼の元に三人の英雄が集まった。
一人は彼の幼馴染であり、世界最高の魔術師を自称するソフィア。
二人目は彼が所属する国で最も有名な男、不死身の騎士レオン。
そして最後に、光の聖女アメリアの弟子にして、彼女と同じ光の力による癒しの魔術を使う聖女、オリヴィアだ。
彼らは少数ながら魔王を目指し、苦しむ人々を救いながら平和を願い、駆けた。
途中魔王によって狂暴化した魔物も多数現れたが、一歩たりとも引く事なく、ただ前を見て進み続ける。
そして、魔王に支配された王国へと辿り着いた彼らは、魔王に奇襲を仕掛け、遂にその闇を打ち払う事に成功するのだった。
【ふ、はは、ははは。よくぞ我を打ち破ったな。人間】
荒い呼吸を繰り返しながら、闇が人の形を成している様な魔王が崩れ、消えていくのを見守るルークたち。
彼らの目に油断はなく、魔王がこの世界から消え去るその瞬間まで、一瞬も目を逸らさずその最期を見据えるのだった。
【今回は、貴様らの勝ちだ。しかし、次に我が復活する時こそ、人類は、我に支配され、滅びる事になる】
「なんだと!? 復活!?」
【ふははは。絶望したか? 闇の力はお前たち人間が、心に宿した闇が存在する限り消える事はない。我は永遠だ!】
「……」
【だが、今はこの場を去ろう。安心すると良い。我はしばし眠りにつこうじゃないか。フハハハ。次に目覚めた時は、お前たち人類の終わりだがな!! ハハハハハ!】
高笑いをする魔王に対して、ルークたちは悔しそうに顔を歪ませながら、先ほどまで魔王が居た場所を睨みつけた。
そんな中、一人だけ魔王が居た場所を睨みつける事なく、冷静に周囲を見て、破壊された城の中を歩き回る者が居た。
そう。聖女オリヴィアだ。
彼女は魔王の言葉に一切の興味を示す事なく、淡々と何かを探して廃墟と化した城の中を捜し歩いた。
【む? なんだ。貴様! 何をしている!!】
「オリヴィア? どうしたんだ」
オリヴィアの行動にルークたちすらも不思議そうな顔をしていたが、オリヴィアはある壁の裏を覗くと、ニッコリと微笑んだ。
「やっぱりここに居たんですね」
そして、そこに居た小さな少年を捕まえると、抱きかかえてルークたちの元へと戻る。
「オリヴィア……? この子は」
「魔王さんですよ」
「は?」
「おい! 離せ! 貴様!! 我にこんな事をして、許されると思っているのか!?」
「まさか、本当に本物か!? ならば!!」
「うぉぉおお!! 止めろ! 貴様ァ! 卑怯だとは思わんのか! 正々堂々と戦え!!」
「魔王。僕は世界を救う為ならどんな誹りも受ける覚悟だよ」
「妙な覚悟を決めるな!! お、おい! そこの魔術師、我を助けたら、最高の魔術を教えてやろう! どうだ?」
「火の精霊よ。風の精霊よ。魔王の魂を完全に焼き尽くしたまえ」
「なんだその詠唱は!!! なんで我にそんな殺意凄いのだ!! おい! そこの騎士! どうだ!? 金をやろうか!? 国を買えるほどの金だぞ!? この二人を止めるだけで良い! どうだ!?」
「なぁ。魔王。実はな。俺の相棒がよ。このデルトラント王国に居たんだわ」
「ほぅ……?」
「国への忠誠が果たせず、相棒は苦しんでる。だが、それも相棒が弱かったからだ。お前は悪くない。だから……せめて苦しまずに逝かせてやるよ」
「のわぁぁあああああ!!! や、やめろぉー! 我は、我を離せぇぇ!!」
もはや魔王の命は風前の灯火……という様な状態であったが、それぞれの武器を構える彼らを止める人物が居た。
何を隠そう。先ほどからずっと魔王を抱えている聖女オリヴィアである。
「皆さん。武器を下ろしてください」
「……どういうつもりだ? オリヴィア」
「どういうも何も。魔王さんをここで完全に滅ぼしても意味がないと思うのです」
「意味が、ない?」
「はい。魔王さんの体を見て、こうして持っていると、彼からは強い闇の魔力を感じます。おそらくここで滅ぼしても、また別の形になって復活するだけかと。しかも今回、こうして敗北していますから、次回はもっと慎重に、そして狡猾に動く可能性があります。このままここで命を絶つのは得策とは言えません」
オリヴィアの言葉にルークたちはひとまず武器を下ろした。
確かにその言い分には一理あると感じたからだ。
しかしオリヴィアの言葉にルークは、だが、と言う。
「その魔王をそのまま放置という訳にはいかないだろう? それに今は子供の姿だが、先ほどまでの様な強大な魔物の姿になるかもしれない」
「はい。その事については、私に考えがあります」
「考え……?」
オリヴィアはルークの問いに笑顔で応えると、魔王を捕まえたまま近くのちょうどいい高さの瓦礫に座り、魔王の体を反転させ、その胸に人差し指と中指を軽く突き立てた。
瞬間、魔王の体から光が溢れ、それが魔王の体に向かって収束してゆく。
「な、何をした!?」
魔王はオリヴィアの行動に怯えた様に、オリヴィアの傍から離れようとしたが、体が動かなくなり、それでも無理に動こうとすれば胸に激しい痛みを感じる様になった。
「魔王さんの体の中には闇の魔力だけでなく、アメリア様の光の魔力も感じましたので、魔王さんが何か悪い事をしようとした時、光の魔力が強く反応する様にしました。光の魔力が強くなれば闇の魔力と反発し合い、魔王さんに痛みを与える様ですね」
「様ですねって、貴様ァ! よくも、そんなよく分からんモンを我に使ったな!? このクソ女ぁ! 我を解放しろ!!」
「罵るのならば、どうぞ好きに罵って下さい。私も自分が正しい事をしているとは思っていませんから」
淡々と魔王に言い放つオリヴィアにルークは、頭を下げながら申し訳ないと謝った。
「……何故ルークさんが謝罪を?」
「いや、君にこんな事をさせてしまった事が申し訳ないんだ。僕にもっと力があれば、魔王を、この世界に存在する全ての闇を消し去る事が出来たかもしれないのに」
「気にしないでください。むしろ良かったかもしれません。アメリア様ならきっと、魔王さんも救いたいと言ったでしょうから」
「そうか。二人は、問題ないか?」
「問題……と言われてもな。俺は別に世界が平和になりゃ、それで良いさ」
「私も、別に大丈夫だけど。オリヴィアさんの負担とかが気になるかな。魔王の監視とかする訳じゃん?」
「そういう事でしたら、問題ないですよ。私はこの後、教会に戻りますから。他の子供たちと一緒に過ごしていただければ良いかと考えております」
「そっか。なら、何か困ったことがあったら言ってね。協力するからさ。ルークも。良いよね?」
「当然だよ!」
「そういう事なら、俺も協力するぜ。オリヴィア」
「皆さん……! ありがとうございます。私、頑張って、魔王さんにもこの世界の素晴らしさ。そしてアメリア様の、聖女アメリア様の素晴らしさを分かっていただこうと……」
「ハン!! アメリアだと!? 誰があんな女の事を、うがっ!!」
オリヴィアは両手を組んで祈りのポーズをしていたが、魔王がアメリアの事をあんな女と言った瞬間に笑顔のまま、右手の人差し指と中指を魔王に向けた。
瞬間、魔王は先ほど以上に胸の痛みを訴えながら、地面に転がった。
「魔王さん。私の事はなんと言ってくださっても構いません。ですが、アメリア様の事を貶す事は許しません。良いですね? アメリア様の名をお呼びする際には、しっかりと敬称をつけて、その存在に感謝しながら口にしなければいけません」
「ゼェ……ゼェ……こ、この、狂信者め……」
「良いですね?」
「ぐぁぁあああ!! 分かった! 分かったから、それを止めろ!!」
オリヴィアは苦しむ魔王を静かに見下ろし言葉を待った。
そして先ほどから笑顔のまま一切表情の変わらないオリヴィアに、魔王は少しの恐怖を感じながらも、荒い呼吸を整えて、ニヤリと笑う。
「アメリアってのはな。能天気で、後先考えない、頭空っぽのお人好しなただの女だ」
「……残念です」
オリヴィアは笑顔を崩し、残念そうな顔をしてから魔王に指を再び向けた。
そして、魔王はその一撃で完全に意識を失い、地面に倒れてしまう。
「皆さん。私、頑張って、魔王さんにも分かってもらいますね!」
「……まぁ、うん。ほどほどにね」
ルークは少しだけ魔王に同情したが、それを口にする事は無かった。
そして、物語は始まる。
これは勇者が魔王を倒す物語ではなく――
少々頭のネジがおかしな刺さり方をしている聖女が、小生意気なショタ魔王を、ちょうきょ……いや、教育するお話である。
アメリア様万歳
そいつはゆっくり、ゆっくりとその力を増してゆき、数十年に一度その力を大きく膨れ上がらせて、世界中に大いなる災いを齎すと言われていた。
しかし、その力が大きくなる度に、聖人と呼ばれる者たちが闇の力を削り封印してきた為、実際に災いを起こした事はない。
さらに言うのであれば先代の聖人であるアメリアという女性が、この闇の力を全て消し去る事に成功し、人類は遂に闇の脅威から逃れる事に成功したのである。
彼女はそれ以降も多くの傷ついた人に手を差し伸べ、いつしか彼女を聖女……聖女アメリアと呼ぶようになっていた。
そんなアメリアの救済から十数年。
世界のどこにも闇の力は観測されず、人々はこれからも永く続いていくであろう平和の世界に喜び、日々を笑顔で過ごしていた。
人類はこのまま平和が永遠に続くと、誰もがそう信じていた。
闇の時代は終わったのだと。
しかし、そんな中、ソイツは生まれてしまった。
「フハハハハハ!! 我は魔王!! お前たち人類を支配する者だッ!!」
東の外れにあるデルトラント王国の王都にて、突如現れたその魔王なる存在は圧倒的な力で王都騎士団を全滅させ、王都から民や王族を追い出して、王都を火の海に変えた。
事態を重く見た各国は、それぞれに魔王を討伐するべく人を集め向かわせたが、魔王の圧倒的な力の前に逃げ出す事しか出来なかった。
時間と共に悪化してゆく状況に、各国は自国だけが生き残る方法を模索し始める。
デルトラント王国を見捨て、次に狙われない様にと、魔王に交渉しようとする者まで現れたくらいだ。
そんな中、一人の男が表舞台に現れた。
彼の名はルーク。
類まれなる剣の才能を持ち、極大の勇気と共に立ち上がった男である。
そして、そんな彼の元に三人の英雄が集まった。
一人は彼の幼馴染であり、世界最高の魔術師を自称するソフィア。
二人目は彼が所属する国で最も有名な男、不死身の騎士レオン。
そして最後に、光の聖女アメリアの弟子にして、彼女と同じ光の力による癒しの魔術を使う聖女、オリヴィアだ。
彼らは少数ながら魔王を目指し、苦しむ人々を救いながら平和を願い、駆けた。
途中魔王によって狂暴化した魔物も多数現れたが、一歩たりとも引く事なく、ただ前を見て進み続ける。
そして、魔王に支配された王国へと辿り着いた彼らは、魔王に奇襲を仕掛け、遂にその闇を打ち払う事に成功するのだった。
【ふ、はは、ははは。よくぞ我を打ち破ったな。人間】
荒い呼吸を繰り返しながら、闇が人の形を成している様な魔王が崩れ、消えていくのを見守るルークたち。
彼らの目に油断はなく、魔王がこの世界から消え去るその瞬間まで、一瞬も目を逸らさずその最期を見据えるのだった。
【今回は、貴様らの勝ちだ。しかし、次に我が復活する時こそ、人類は、我に支配され、滅びる事になる】
「なんだと!? 復活!?」
【ふははは。絶望したか? 闇の力はお前たち人間が、心に宿した闇が存在する限り消える事はない。我は永遠だ!】
「……」
【だが、今はこの場を去ろう。安心すると良い。我はしばし眠りにつこうじゃないか。フハハハ。次に目覚めた時は、お前たち人類の終わりだがな!! ハハハハハ!】
高笑いをする魔王に対して、ルークたちは悔しそうに顔を歪ませながら、先ほどまで魔王が居た場所を睨みつけた。
そんな中、一人だけ魔王が居た場所を睨みつける事なく、冷静に周囲を見て、破壊された城の中を歩き回る者が居た。
そう。聖女オリヴィアだ。
彼女は魔王の言葉に一切の興味を示す事なく、淡々と何かを探して廃墟と化した城の中を捜し歩いた。
【む? なんだ。貴様! 何をしている!!】
「オリヴィア? どうしたんだ」
オリヴィアの行動にルークたちすらも不思議そうな顔をしていたが、オリヴィアはある壁の裏を覗くと、ニッコリと微笑んだ。
「やっぱりここに居たんですね」
そして、そこに居た小さな少年を捕まえると、抱きかかえてルークたちの元へと戻る。
「オリヴィア……? この子は」
「魔王さんですよ」
「は?」
「おい! 離せ! 貴様!! 我にこんな事をして、許されると思っているのか!?」
「まさか、本当に本物か!? ならば!!」
「うぉぉおお!! 止めろ! 貴様ァ! 卑怯だとは思わんのか! 正々堂々と戦え!!」
「魔王。僕は世界を救う為ならどんな誹りも受ける覚悟だよ」
「妙な覚悟を決めるな!! お、おい! そこの魔術師、我を助けたら、最高の魔術を教えてやろう! どうだ?」
「火の精霊よ。風の精霊よ。魔王の魂を完全に焼き尽くしたまえ」
「なんだその詠唱は!!! なんで我にそんな殺意凄いのだ!! おい! そこの騎士! どうだ!? 金をやろうか!? 国を買えるほどの金だぞ!? この二人を止めるだけで良い! どうだ!?」
「なぁ。魔王。実はな。俺の相棒がよ。このデルトラント王国に居たんだわ」
「ほぅ……?」
「国への忠誠が果たせず、相棒は苦しんでる。だが、それも相棒が弱かったからだ。お前は悪くない。だから……せめて苦しまずに逝かせてやるよ」
「のわぁぁあああああ!!! や、やめろぉー! 我は、我を離せぇぇ!!」
もはや魔王の命は風前の灯火……という様な状態であったが、それぞれの武器を構える彼らを止める人物が居た。
何を隠そう。先ほどからずっと魔王を抱えている聖女オリヴィアである。
「皆さん。武器を下ろしてください」
「……どういうつもりだ? オリヴィア」
「どういうも何も。魔王さんをここで完全に滅ぼしても意味がないと思うのです」
「意味が、ない?」
「はい。魔王さんの体を見て、こうして持っていると、彼からは強い闇の魔力を感じます。おそらくここで滅ぼしても、また別の形になって復活するだけかと。しかも今回、こうして敗北していますから、次回はもっと慎重に、そして狡猾に動く可能性があります。このままここで命を絶つのは得策とは言えません」
オリヴィアの言葉にルークたちはひとまず武器を下ろした。
確かにその言い分には一理あると感じたからだ。
しかしオリヴィアの言葉にルークは、だが、と言う。
「その魔王をそのまま放置という訳にはいかないだろう? それに今は子供の姿だが、先ほどまでの様な強大な魔物の姿になるかもしれない」
「はい。その事については、私に考えがあります」
「考え……?」
オリヴィアはルークの問いに笑顔で応えると、魔王を捕まえたまま近くのちょうどいい高さの瓦礫に座り、魔王の体を反転させ、その胸に人差し指と中指を軽く突き立てた。
瞬間、魔王の体から光が溢れ、それが魔王の体に向かって収束してゆく。
「な、何をした!?」
魔王はオリヴィアの行動に怯えた様に、オリヴィアの傍から離れようとしたが、体が動かなくなり、それでも無理に動こうとすれば胸に激しい痛みを感じる様になった。
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「様ですねって、貴様ァ! よくも、そんなよく分からんモンを我に使ったな!? このクソ女ぁ! 我を解放しろ!!」
「罵るのならば、どうぞ好きに罵って下さい。私も自分が正しい事をしているとは思っていませんから」
淡々と魔王に言い放つオリヴィアにルークは、頭を下げながら申し訳ないと謝った。
「……何故ルークさんが謝罪を?」
「いや、君にこんな事をさせてしまった事が申し訳ないんだ。僕にもっと力があれば、魔王を、この世界に存在する全ての闇を消し去る事が出来たかもしれないのに」
「気にしないでください。むしろ良かったかもしれません。アメリア様ならきっと、魔王さんも救いたいと言ったでしょうから」
「そうか。二人は、問題ないか?」
「問題……と言われてもな。俺は別に世界が平和になりゃ、それで良いさ」
「私も、別に大丈夫だけど。オリヴィアさんの負担とかが気になるかな。魔王の監視とかする訳じゃん?」
「そういう事でしたら、問題ないですよ。私はこの後、教会に戻りますから。他の子供たちと一緒に過ごしていただければ良いかと考えております」
「そっか。なら、何か困ったことがあったら言ってね。協力するからさ。ルークも。良いよね?」
「当然だよ!」
「そういう事なら、俺も協力するぜ。オリヴィア」
「皆さん……! ありがとうございます。私、頑張って、魔王さんにもこの世界の素晴らしさ。そしてアメリア様の、聖女アメリア様の素晴らしさを分かっていただこうと……」
「ハン!! アメリアだと!? 誰があんな女の事を、うがっ!!」
オリヴィアは両手を組んで祈りのポーズをしていたが、魔王がアメリアの事をあんな女と言った瞬間に笑顔のまま、右手の人差し指と中指を魔王に向けた。
瞬間、魔王は先ほど以上に胸の痛みを訴えながら、地面に転がった。
「魔王さん。私の事はなんと言ってくださっても構いません。ですが、アメリア様の事を貶す事は許しません。良いですね? アメリア様の名をお呼びする際には、しっかりと敬称をつけて、その存在に感謝しながら口にしなければいけません」
「ゼェ……ゼェ……こ、この、狂信者め……」
「良いですね?」
「ぐぁぁあああ!! 分かった! 分かったから、それを止めろ!!」
オリヴィアは苦しむ魔王を静かに見下ろし言葉を待った。
そして先ほどから笑顔のまま一切表情の変わらないオリヴィアに、魔王は少しの恐怖を感じながらも、荒い呼吸を整えて、ニヤリと笑う。
「アメリアってのはな。能天気で、後先考えない、頭空っぽのお人好しなただの女だ」
「……残念です」
オリヴィアは笑顔を崩し、残念そうな顔をしてから魔王に指を再び向けた。
そして、魔王はその一撃で完全に意識を失い、地面に倒れてしまう。
「皆さん。私、頑張って、魔王さんにも分かってもらいますね!」
「……まぁ、うん。ほどほどにね」
ルークは少しだけ魔王に同情したが、それを口にする事は無かった。
そして、物語は始まる。
これは勇者が魔王を倒す物語ではなく――
少々頭のネジがおかしな刺さり方をしている聖女が、小生意気なショタ魔王を、ちょうきょ……いや、教育するお話である。
アメリア様万歳
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