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9 もうお前に教えることはなくなった
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トアルの才は剣術や体術、武術に極まっている。
魔術の才が一切ないわけではないが、この世界の主人公ことトアルの成長パターンは戦士寄りみたいだ。
一方、アリルの才は魔術に置かれているが、体術もまた凄まじい勢いで成長している。
二人での組み手ではアリルのほうが勝ちが多く、最近では俺にも追いついている。
魔術も使える武闘家の成長パターンは相当珍しく、ゲーム本編においては当たりの部類だ。
ヒロインの一人だけあって強くなれる才に満ちている。
それら二人の才を容易く凌駕するのが、メイだ。
「……ここまでとは正直驚いた」
「そ、そうですか? なんか嬉しいです、ロックさんに褒められるの」
照れくさそうに微笑むメイの後ろには原型を留めていない巨大猪だった遺体が転がっている。
焦げ臭いこともさることながら、帯電しているのかバチバチと未だに鳴っている。
メイは膨大な魔力を内包しておきながら、精密の極みも持ち合わせていて、まさしく魔術のスペシャリストとしての側面を強く持っている。
そして、この猪を真正面から受け止め、投げ飛ばしたのも、メイだ。
肉体強化しているとはいえ、一切の傷もなく受け止めきれるのは、正直言って、おかしい。
鍛え上げている俺ですら多少の傷覚悟な相手だ。
それを無傷で受け止め、投げ飛ばし、雷の魔術で倒す。
俺が教えたとおりに倒してしまった。
(さすがはラスボス……)
元々メイを鍛える理由は体内の魔力生成の量を増加させることが目的だった。
繰り返し訓練をすれば、ポーションによる回復をせずとも独力でどうにかできるようになる……そんな目的で始めた訓練は、わずかひと月でその役目を終えてしまった。
メイは既に俺よりも強くなっていて、魔力欠乏の心配も一切なくなっていた。
正直に言えば、もう俺の指導はいらないレベルだ。
教えたとおりにできるってのは、裏を返せば、自分で思った通りにできる、ってことでもある。
つまるところ。
「……メイ、もうお前に教えることはなくなった」
こう言うしかなかった。
しかし。
「え、駄目ですよ。まだまだ教えてもらうことは一杯ありますから!」
と頑なにメイが拒否し続けてくる。
これで三日連続だ。
いや本当に教えることないんだよ。
これ以上は専門の魔術師呼んで訓練したほうが絶対にいいって。
俺が使える魔術って、基本は阻害系ばかりだから。
幅広く扱えるためには、ちゃんとした知識と経験がある相手をだな……と言っても聞く耳を持たない。
なんでだろうか、トアルとアリルから伝わってくるのは純粋な信頼や慕いだと感じる。
だが。
「……それとも、ロックさんは、もう私たちのことはどうでも良くなったんですか?」
メイから向けられている、この感情は、間違いなく、重く、どす黒い。
ラスボスちっくなオーラを垂れ流しながら光なき瞳で見つめてくるのはやめてくれ。
心臓とか諸々に悪い。
メイは俺に対して信仰にも近いものを持っているらしい。
ただ本来エルダがしていたことを代わりにやっただけなのにも関わらず……。
なんていうか。
ちょっと悪くないな、って思う気持ちと、申し訳ない、っていう罪悪感が入り混じっている。
変に知識があるせいで素直に受け止めきれない。
難儀な性格をしてるな、俺も。
「ロックさん」
「え、あ、ちょ、近い近い」
気が付けば真正面に立っていたメイが覗き込むようにこちらを見ていた。
瞳は光が戻っていた。
「返事がなかったので……大丈夫ですか?」
お前のことを考えていたんだよ、って言ったら大変なことになるな、と胸の内にしまい。
「いや、少しだけ考え事をしていた……なんでもない」
「ふーん……そうですか」
そういいながら左腕に抱き着いて、体を寄せてくる。
このひと月で、恐ろしいほどスキンシップをとってくるようになったメイ。
凄まじい猛攻とアピールに気づけないほど俺は馬鹿じゃない。
確実にこれは好意だとは見抜いている。
だが元童貞の俺には、このアピールはつらい。
我慢ができなくなる。
自制心が続く限り、抵抗しようと誓った。
もう瓦解しそうだけど。
「メイ、やめなさい」
「やめたら、訓練続けてくれますか?」
「……ああ」
そういうとニコリと笑って、メイは離れた。
からかい上手の美少女と化したラスボスさんは、強かで、手ごわい。
魔術の才が一切ないわけではないが、この世界の主人公ことトアルの成長パターンは戦士寄りみたいだ。
一方、アリルの才は魔術に置かれているが、体術もまた凄まじい勢いで成長している。
二人での組み手ではアリルのほうが勝ちが多く、最近では俺にも追いついている。
魔術も使える武闘家の成長パターンは相当珍しく、ゲーム本編においては当たりの部類だ。
ヒロインの一人だけあって強くなれる才に満ちている。
それら二人の才を容易く凌駕するのが、メイだ。
「……ここまでとは正直驚いた」
「そ、そうですか? なんか嬉しいです、ロックさんに褒められるの」
照れくさそうに微笑むメイの後ろには原型を留めていない巨大猪だった遺体が転がっている。
焦げ臭いこともさることながら、帯電しているのかバチバチと未だに鳴っている。
メイは膨大な魔力を内包しておきながら、精密の極みも持ち合わせていて、まさしく魔術のスペシャリストとしての側面を強く持っている。
そして、この猪を真正面から受け止め、投げ飛ばしたのも、メイだ。
肉体強化しているとはいえ、一切の傷もなく受け止めきれるのは、正直言って、おかしい。
鍛え上げている俺ですら多少の傷覚悟な相手だ。
それを無傷で受け止め、投げ飛ばし、雷の魔術で倒す。
俺が教えたとおりに倒してしまった。
(さすがはラスボス……)
元々メイを鍛える理由は体内の魔力生成の量を増加させることが目的だった。
繰り返し訓練をすれば、ポーションによる回復をせずとも独力でどうにかできるようになる……そんな目的で始めた訓練は、わずかひと月でその役目を終えてしまった。
メイは既に俺よりも強くなっていて、魔力欠乏の心配も一切なくなっていた。
正直に言えば、もう俺の指導はいらないレベルだ。
教えたとおりにできるってのは、裏を返せば、自分で思った通りにできる、ってことでもある。
つまるところ。
「……メイ、もうお前に教えることはなくなった」
こう言うしかなかった。
しかし。
「え、駄目ですよ。まだまだ教えてもらうことは一杯ありますから!」
と頑なにメイが拒否し続けてくる。
これで三日連続だ。
いや本当に教えることないんだよ。
これ以上は専門の魔術師呼んで訓練したほうが絶対にいいって。
俺が使える魔術って、基本は阻害系ばかりだから。
幅広く扱えるためには、ちゃんとした知識と経験がある相手をだな……と言っても聞く耳を持たない。
なんでだろうか、トアルとアリルから伝わってくるのは純粋な信頼や慕いだと感じる。
だが。
「……それとも、ロックさんは、もう私たちのことはどうでも良くなったんですか?」
メイから向けられている、この感情は、間違いなく、重く、どす黒い。
ラスボスちっくなオーラを垂れ流しながら光なき瞳で見つめてくるのはやめてくれ。
心臓とか諸々に悪い。
メイは俺に対して信仰にも近いものを持っているらしい。
ただ本来エルダがしていたことを代わりにやっただけなのにも関わらず……。
なんていうか。
ちょっと悪くないな、って思う気持ちと、申し訳ない、っていう罪悪感が入り混じっている。
変に知識があるせいで素直に受け止めきれない。
難儀な性格をしてるな、俺も。
「ロックさん」
「え、あ、ちょ、近い近い」
気が付けば真正面に立っていたメイが覗き込むようにこちらを見ていた。
瞳は光が戻っていた。
「返事がなかったので……大丈夫ですか?」
お前のことを考えていたんだよ、って言ったら大変なことになるな、と胸の内にしまい。
「いや、少しだけ考え事をしていた……なんでもない」
「ふーん……そうですか」
そういいながら左腕に抱き着いて、体を寄せてくる。
このひと月で、恐ろしいほどスキンシップをとってくるようになったメイ。
凄まじい猛攻とアピールに気づけないほど俺は馬鹿じゃない。
確実にこれは好意だとは見抜いている。
だが元童貞の俺には、このアピールはつらい。
我慢ができなくなる。
自制心が続く限り、抵抗しようと誓った。
もう瓦解しそうだけど。
「メイ、やめなさい」
「やめたら、訓練続けてくれますか?」
「……ああ」
そういうとニコリと笑って、メイは離れた。
からかい上手の美少女と化したラスボスさんは、強かで、手ごわい。
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