悪役に転生してたみたいだけど、なんか展開がおかしい。

雨だれ

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7・チョコショコラ

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 あの日以降、俺はほぼ毎日トアルたちの家にお邪魔している。
 マナポーションの提供と稽古、そして、トアルたちの家族との交流。
 この数週間は濃密な時間だった。
 メイは日に日に顔色が良くなっていき、それに伴ってトアル達も明るくなっていった。
 しかし、根本的な解決にはまだなっていない。
 魔力欠乏を発生する理由として『周囲の魔力を吸収する力が弱い』というものが多いが、メイの場合は『魔力保有量が圧倒的過ぎて吸収では追い付いていない』というものだ。
 今はマナポーションで補えてはいる……しかし、このマナポーションはかなり上質なもので本来であれば簡単には手に入らない。
 俺の知り合いに無理を言って作ってもらっている状態だ。
 今、俺が抜けたらメイはまた魔力欠乏になる。
 ここまで関わったのなら見捨てるつもりもないし、なんていうか……かつての所属していた傭兵団を彼らから感じていて、居心地がいい。
 そういうのもあって俺は出来るだけトアルたちの味方であり続けようと考えた。
 なにより。
 俺が頑張れば、原作には突入しない、かもしれないからだ。
 頑張ろう。
 で、だ。
 原作のゲームにおいて『ロストメモ』と収集要素がある。
 これは本編では語られないサイドストーリーや裏話などが書かれているものだ。
 その中で、最も有名なメモと言われているものがある。

 『とある聖女の一生』

 簡単に書けば以下のようになる。

 『魔力欠乏で死にかけているところを赤毛の女冒険者(エルダ)に助けられる』
 『そして、ある日聖女としての力に目覚め、とある組織の目に留まり、家族の支援と引き換えに聖女として生きる道を選ぶ』
 『多くの人々を助けていく聖女の影響力はすさまじく、組織が望んでいた道とは異なる筋書きになったがゆえに、聖女は疎ましい存在となってしまい、最期は無実の罪で幽閉され、魔力欠乏で死ぬ』

 というクソみてえな酷い内容なのだが、これがメイのことだろうと確信した。
 またエルダもこの際に関わっているからこそ、彼女の最期に思い出すような発言をした、と俺は考えた。
 更に上では省いたが、途中で聖女の力の一つとして「邪念邪心を見通す力」という一文がある。
 これがメイの発言と結びついた……というか、脳に電撃が走った。
 間違いない、と思う。
 まあ公式が何も答えてくれないから、全部ほぼ推測だが。
 では、どうして『先代聖女』と呼ばれているのか?
 それはアリルが覚醒した際に目覚めるのが『聖女の力』だからだ。
 そしてファンの間で聖女の話する際に混乱を避けるため、ロストメモの聖女は先代と呼ばれるようになった。
 公式では、一切、言われていないことを、ここに宣言する。
 あれ、このゲーム原作、本当に名作か?
 なんてことを考えていたら小さな何かが足を掴む感覚。
 下を見るとオレンジ色の髪と共に犬の耳と尻尾を振ってこちらを見上げる赤眼の少女がいた。
「ショコラ」
 トアルたちの家族の一人、ショコラがそこにいた。
「ろっく、だいじょぶか?」
「なにがだ?」
「なんか、かお、こわかった」
「……そんなに?」
「うん」
「……ちょっと考え事してただけだ、安心しろ」
「ん……じゃあ、だっこ」
「なにがどうじゃあ何だよ……はいはい」
 そういって俺はショコラを抱きかかえようとして屈む。
「すきありー!」
 元気な声と共に背中に強烈な何かがぶつかる。
 後ろを向けば、ショコラによく似た少女がにかっと笑いながら抱き着いていた。
「チョコ」
「ろっくー! ちょこもおんぶー! だっこー!」
 ショコラとうり二つの顔に銀色の髪、犬耳と尻尾と青い瞳を持つ双子の妹、チョコだ。
 姉と比べてかなり元気で、ちょっと手が付けられないくらいはしゃぐ。
「ほら、抱っこしてあげるから、こっち来なさい」
「はーい!」
 右腕にショコラ、左腕にチョコを抱え、抱き上げる。
 字面にすればお菓子を持っていて、視覚で見れば、ちょっと危ない絵面になる。
 俺の人相、ちょっと怖いからな。
「ろっくのうで、かたい!」
「……ろっく、あったかい」
 双子だが正反対の反応をする様は、なんていうか面白い。
 子を持つお父さんってのはこういう気持ちなんだろうか。
 この家に来てから、なんていうか、その。

 なんだろう、休日のお父さんみたいなことしてるな、俺。
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