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3・二人の師
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ロックです。
現在、主人公とヒロインを鍛えています。
「トアル、お前の打ち込みは実直すぎる。敵は素直に受け止めてしまうぞ」
「はいっ!」
「アリル、お前は魔力の練り方が雑だ。ここを疎かにするとあらぬ方向に魔術が飛ぶぞ」
「っ……はい!」
トアルに剣術を教えるためにチャンバラをしながら、その合間にアリルに魔術の基礎を教えていた。
そも、何故こんなことをしているのか。
一週間前に話はさかのぼることになる。
〇
あの日二人を助けた、翌日のことだった。
宿泊している場所に二人が押し掛けてきたのである。
正直、関わりたくなかった。
何故なら二人は今の俺じゃない原作のロックの死因であるためだ。
よくあるじゃないか、この手の作品……作中のキャラクターに転生した物語で『全く違う生き方をしているのに、歴史を修正するために死んでしまう』ような話が。
俺はそんな死に方はしたくない。
何よりこの世界のロックは真っ当に生きてきている。
それが主人公たちに関わったせいで死んでしまう……そんなのは御免蒙りたい、というか折角好きなゲームの世界に生まれ変わってるのなら、好きに生きてみたい。
正直な話、そういうことなので、断る気満々だった。
だが。
「なるほど、彼を師事するのは慧眼だな」
こじれる原因が、同じ宿に泊まっているだなんて思わなかった。
「……エルダ?」
「おはよう、ロック」
長い赤髪に真っ赤なワンピースに、足首までしっかりした藍色のサンダル。
普段着の姿を見た瞬間、記憶が解放されたかのように思い出されていく。
原作におけるエルダに対する憎悪も出てきたがまあどうでもいいとして、正直他人事だし。
問題は今の俺は『エルダと親交が深い間柄』だということだ。
付き合っているとかそういうのではなく、戦場で背中を任せられるような仲みたいだった。
戦友といえばいいのだろうか、顔を合わせれば他愛ない話をしたり、時には共にクエストに出かけたりはするような……これで付き合ってないのか……。
ともかく、エルダと知り合いなら丁度いい。
「なあエルダ、俺の代わりに彼らを鍛えたいと思わないか?」
「? どうしてだ?」
「ああ、いや、何か光るものを、感じないか?」
「……ふむ」
原作のエルダは主人公とヒロインの中に何かを感じたおかげで、師匠として動くようになった。
可能性は限りなく低いが、もしかしたらエルダが彼らを鍛えたいと思うようになり、どうにか原作の方向へと向かっていけるのでは……いや待てよ?
原作通りにいったとして、そうなった場合。
俺は、エルダを、殺すことになるのか?
「悪くないな……だが」
「だが?」
「ここで私が君から大事な仕事を奪ってはならないだろう?」
そういってエルダは、微笑みながら俺を見てくる。
「仕事って……」
「そうともさ。依頼者の要望は正しくあるべきだ」
「……俺が頼まれてるから、俺が引き受けるべきだと?」
「ああ。未来ある彼と彼女の力を引き出す、とても重要な仕事だ」
エルダは真面目な女性だ。
物事を正面から受け止めて、その通りに返す。
良くも悪くもまっすぐな奴だ。
だから、俺の頼みも断ったのだろう。
深読みはしなくてもよさそうだった。
「……すまん、なんか悪かった」
「? 今日のロックは変だな?」
「うるせえ、いつもこんなんだよ……それで」
再び、エルダからトアルとアリルに視線を移す。
物事が自分たちの思うようになってくれることをめちゃくちゃ期待した、子供特有のまぶしい視線と表情だ。
正直、引き受けたくない。
関わらないほうがいいと思うからだ。
けれども……ガッツリ影響を与えてしまっているのも事実だ。
ここで「はい俺知らねーw」と手を跳ね除けられるほど面は厚くない。
大丈夫だ、俺は、原作のロックじゃない。
俺の、ロックなんだ。
こうして俺は、朝から押しかけてきた主人公とヒロインの、師匠になった。
現在、主人公とヒロインを鍛えています。
「トアル、お前の打ち込みは実直すぎる。敵は素直に受け止めてしまうぞ」
「はいっ!」
「アリル、お前は魔力の練り方が雑だ。ここを疎かにするとあらぬ方向に魔術が飛ぶぞ」
「っ……はい!」
トアルに剣術を教えるためにチャンバラをしながら、その合間にアリルに魔術の基礎を教えていた。
そも、何故こんなことをしているのか。
一週間前に話はさかのぼることになる。
〇
あの日二人を助けた、翌日のことだった。
宿泊している場所に二人が押し掛けてきたのである。
正直、関わりたくなかった。
何故なら二人は今の俺じゃない原作のロックの死因であるためだ。
よくあるじゃないか、この手の作品……作中のキャラクターに転生した物語で『全く違う生き方をしているのに、歴史を修正するために死んでしまう』ような話が。
俺はそんな死に方はしたくない。
何よりこの世界のロックは真っ当に生きてきている。
それが主人公たちに関わったせいで死んでしまう……そんなのは御免蒙りたい、というか折角好きなゲームの世界に生まれ変わってるのなら、好きに生きてみたい。
正直な話、そういうことなので、断る気満々だった。
だが。
「なるほど、彼を師事するのは慧眼だな」
こじれる原因が、同じ宿に泊まっているだなんて思わなかった。
「……エルダ?」
「おはよう、ロック」
長い赤髪に真っ赤なワンピースに、足首までしっかりした藍色のサンダル。
普段着の姿を見た瞬間、記憶が解放されたかのように思い出されていく。
原作におけるエルダに対する憎悪も出てきたがまあどうでもいいとして、正直他人事だし。
問題は今の俺は『エルダと親交が深い間柄』だということだ。
付き合っているとかそういうのではなく、戦場で背中を任せられるような仲みたいだった。
戦友といえばいいのだろうか、顔を合わせれば他愛ない話をしたり、時には共にクエストに出かけたりはするような……これで付き合ってないのか……。
ともかく、エルダと知り合いなら丁度いい。
「なあエルダ、俺の代わりに彼らを鍛えたいと思わないか?」
「? どうしてだ?」
「ああ、いや、何か光るものを、感じないか?」
「……ふむ」
原作のエルダは主人公とヒロインの中に何かを感じたおかげで、師匠として動くようになった。
可能性は限りなく低いが、もしかしたらエルダが彼らを鍛えたいと思うようになり、どうにか原作の方向へと向かっていけるのでは……いや待てよ?
原作通りにいったとして、そうなった場合。
俺は、エルダを、殺すことになるのか?
「悪くないな……だが」
「だが?」
「ここで私が君から大事な仕事を奪ってはならないだろう?」
そういってエルダは、微笑みながら俺を見てくる。
「仕事って……」
「そうともさ。依頼者の要望は正しくあるべきだ」
「……俺が頼まれてるから、俺が引き受けるべきだと?」
「ああ。未来ある彼と彼女の力を引き出す、とても重要な仕事だ」
エルダは真面目な女性だ。
物事を正面から受け止めて、その通りに返す。
良くも悪くもまっすぐな奴だ。
だから、俺の頼みも断ったのだろう。
深読みはしなくてもよさそうだった。
「……すまん、なんか悪かった」
「? 今日のロックは変だな?」
「うるせえ、いつもこんなんだよ……それで」
再び、エルダからトアルとアリルに視線を移す。
物事が自分たちの思うようになってくれることをめちゃくちゃ期待した、子供特有のまぶしい視線と表情だ。
正直、引き受けたくない。
関わらないほうがいいと思うからだ。
けれども……ガッツリ影響を与えてしまっているのも事実だ。
ここで「はい俺知らねーw」と手を跳ね除けられるほど面は厚くない。
大丈夫だ、俺は、原作のロックじゃない。
俺の、ロックなんだ。
こうして俺は、朝から押しかけてきた主人公とヒロインの、師匠になった。
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