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第二章 抗う種付けおじさん
8 自然迷宮
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目を覚ます。
同時に全身の痛みが覚醒し、苦悶の声をかみ殺した。
そして左手で支えている巨大な盾の内側を、つまるところ左腕の下あたりを見る。
椿内あかりが太ももを枕にしてすうすうと寝息を立てていた。
ホッとする。
まだ生きている。
この子も、俺も。
周囲を見渡し警戒するが、結界は壊れておらず、敵も見当たらない。
右手近くに置いていた斧を握り直す。
痛みが走る。
掌がボロボロで血まみれで傷だらけだった。
包帯なんてなく、昨日よりも多少は出血が抑えられているが、それでも酷い。
だが。
「……ふふっ」
思わず笑みがこぼれる。
か細く小さな可愛く愛らしいキャラ絵のついた絆創膏が手の甲に、薄汚れていても、まだ付いていた。
この子が、あかりが付けてくれた意味のない、でもとても心強い気遣いだ。
まだ、俺は頑張れる。
この子を生きて自然迷宮から脱出させるまで。
俺は戦い抜いてやる。
〇
事の始まりは、椿内あかりのお願いからだった。
シゲさんちの近くにある山に咲いている花を取りに行くことになり、特に険しくもない山道を歩いて、目的のものは結構簡単に見つかった。
喜ぶあかりに「よかったね。さあ帰ろう」と声をかけた瞬間。
自然発生の天然型迷宮……通称『自然迷宮』が突如目の前に発生し、周囲のものを、俺たちごと吸い込み、強制的に入れられてしまった。
そこはツルやツタが壁を這って、ところどころに怪しく光る実が生っている洞窟だった。
俺はゲーム内に登場する自然迷宮の植物型だ、とすぐに理解できた。
それと同時にひどく絶望した。
武器も装備もない、ただのTシャツ短パンのおっさんという事実。
今、魔物に襲われたら、どうあがいても、死ぬしかない。
そして。
「お、おじさん……ここ、どこ?……なんで?……」
怯えすくみ、必死に縋り付いて今にも泣きそうな椿内あかりがいた。
幼さの残る小さな子が泣いている。
しかし、妙に色気の香る、どこか蠱惑的な、どうしようもない危うさが溢れていた。
あかりがこちらを見上げてくる。
涙目で、懇願するかのような顔で、こちらに助けを求めている。
その角度と構図とその顔はとあるスチルを彷彿とさせて――。
「――――」
俺は。
その姿に。
ひどく。
心が――。
「…………大丈夫だ」
あかりの頭に手を置き、少しだけ撫でた。
小さな子が一人、恐怖に怯え、頼れる存在に頼ろうとしている。
その唯一の頼れる存在が不安な態度をとってはいけない。
この子を更に不安にさせてしまう。
俺が気張らないで、誰がこの子を安心させてやれるんだ。
「おじさんが、どうにかするよ」
「…………おうちに、おばあちゃんちに、帰れる?」
「ああ。だから、離れずに、ね?」
「……うん!」
少女の顔は未だに晴れ切っていない。
でも返事は力がこもっていた。
諦めは微塵も見えない。
なら、俺もそうであらねばならない。
この子を無事にシゲさんのところまで届けなければ――。
だが俺は。
先程のあの時に――何を思っていた?
同時に全身の痛みが覚醒し、苦悶の声をかみ殺した。
そして左手で支えている巨大な盾の内側を、つまるところ左腕の下あたりを見る。
椿内あかりが太ももを枕にしてすうすうと寝息を立てていた。
ホッとする。
まだ生きている。
この子も、俺も。
周囲を見渡し警戒するが、結界は壊れておらず、敵も見当たらない。
右手近くに置いていた斧を握り直す。
痛みが走る。
掌がボロボロで血まみれで傷だらけだった。
包帯なんてなく、昨日よりも多少は出血が抑えられているが、それでも酷い。
だが。
「……ふふっ」
思わず笑みがこぼれる。
か細く小さな可愛く愛らしいキャラ絵のついた絆創膏が手の甲に、薄汚れていても、まだ付いていた。
この子が、あかりが付けてくれた意味のない、でもとても心強い気遣いだ。
まだ、俺は頑張れる。
この子を生きて自然迷宮から脱出させるまで。
俺は戦い抜いてやる。
〇
事の始まりは、椿内あかりのお願いからだった。
シゲさんちの近くにある山に咲いている花を取りに行くことになり、特に険しくもない山道を歩いて、目的のものは結構簡単に見つかった。
喜ぶあかりに「よかったね。さあ帰ろう」と声をかけた瞬間。
自然発生の天然型迷宮……通称『自然迷宮』が突如目の前に発生し、周囲のものを、俺たちごと吸い込み、強制的に入れられてしまった。
そこはツルやツタが壁を這って、ところどころに怪しく光る実が生っている洞窟だった。
俺はゲーム内に登場する自然迷宮の植物型だ、とすぐに理解できた。
それと同時にひどく絶望した。
武器も装備もない、ただのTシャツ短パンのおっさんという事実。
今、魔物に襲われたら、どうあがいても、死ぬしかない。
そして。
「お、おじさん……ここ、どこ?……なんで?……」
怯えすくみ、必死に縋り付いて今にも泣きそうな椿内あかりがいた。
幼さの残る小さな子が泣いている。
しかし、妙に色気の香る、どこか蠱惑的な、どうしようもない危うさが溢れていた。
あかりがこちらを見上げてくる。
涙目で、懇願するかのような顔で、こちらに助けを求めている。
その角度と構図とその顔はとあるスチルを彷彿とさせて――。
「――――」
俺は。
その姿に。
ひどく。
心が――。
「…………大丈夫だ」
あかりの頭に手を置き、少しだけ撫でた。
小さな子が一人、恐怖に怯え、頼れる存在に頼ろうとしている。
その唯一の頼れる存在が不安な態度をとってはいけない。
この子を更に不安にさせてしまう。
俺が気張らないで、誰がこの子を安心させてやれるんだ。
「おじさんが、どうにかするよ」
「…………おうちに、おばあちゃんちに、帰れる?」
「ああ。だから、離れずに、ね?」
「……うん!」
少女の顔は未だに晴れ切っていない。
でも返事は力がこもっていた。
諦めは微塵も見えない。
なら、俺もそうであらねばならない。
この子を無事にシゲさんのところまで届けなければ――。
だが俺は。
先程のあの時に――何を思っていた?
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