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第二章 抗う種付けおじさん

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 シゲさんちにお世話になってから一か月は経った。
 近所の人と全く関わることなく生活することは不可能に近かったので、どう言い訳しようと思っていたらどうやらシゲさんが先手を打っていたらしく『親戚から紹介された住み込みのお手伝いさん』という扱いになっていた。
 おかげで話はスムーズに進み、今では普通に挨拶を交わせてもらったり、物をくれたり、一緒に何かの作業をしたこともあった。
 なんていうか、この周辺の一人として生きていっているなという実感は強まった。
 まだゲームという感覚は……いやもう何かお婆ちゃんと田舎に暮らしている一人っていう感じで。
 実はそれっぽい世界でゲームの世界に転生したとかウソなんじゃないか?なんて思っていた。
 だが残念なことにこの世界は地球ではなく『アストル』という星であり、この国も『和国』だったりする。
 猫耳のついた女性や二足歩行する牛の男性が近所にいるが、決してコスプレではない。
 間違いなく、俺はゲームの世界の住人にはなっていた。
 そんな感覚が薄れつつあった、ある日のこと。
「ジオや、今日からしばらく孫が来るからな」
 庭で竹刀を使った素振りをしていた時、突然そんなことを言われたのだった。
「えっ、シゲさんのお孫さんですか?」
「ああ……かんなり可愛いからな、覚悟せえよ」
「覚悟しないといけないレベルなんですか……?」
「そらもう、あれはお前さん、動く可愛いとしか言いようがないよ」
「動く可愛い……?」
「まあ、そろそろ来ると思うからな。一応風呂入って身綺麗にしとき」
「あ、はい……あの」
「なんや?」
「あ、いえ……なんでもないです」
「?」
 会ってもいいのかな?という言葉を飲み込み思い返す。
 シゲさんの孫、という話題が出て、そういえばそういう話は全然しなかったなと。
 他愛ない話をしながら、一緒にテレビを見て、ああだこうだという会話はしても、お互いの過去については触れることはなかったな……と思ったところでシゲさんが俺に対して――正確にはジオの素性や過去について――触れないようにしてくれていたとわかり、心の中で感謝と礼を言った。
 手早くシャワーを浴びて身綺麗にし、シゲさんが用意してくれたを着た。
 そのタイミングだった。

「おばあちゃあああああああああああん!!!!!」

 幼さの残るでっけえ声が家の中を貫くように響いた。
 おそらく、シゲさんの孫だろう……じゃなかったらちょっと怖い。
 玄関のほうへと足を運んでいくと、オシャレな見た目の真っ赤な髪の少女がシゲさんに抱き着きながらキャッキャとはしゃいでいた。
 シゲさんは相変わらず変化に乏しいが、少しだけ口角が上がっているのを俺は見た。
「ようきたね、あかり」
「大変だったよ~……あれ?」
「ああ、まだ言うてなかったね。この人は私の家のお手伝いさん」
 そういってシゲさんは俺をと呼ばれた少女に教えた。
「お手伝いさん?」
「ああそうさ。もう私も歳だからね、男手が欲しかったのさ」
「ふーん……」
 そういって、少女はこちらに近づいてくると丁寧に頭を下げてきて――。
椿内つばきうちあかりです! よろしくお願いします!」
 元気な声と笑顔で答えてくれた。





 メインヒロインの一人と同じ名前と、笑顔で――。
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