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第二章 抗う種付けおじさん

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 あの日、目を覚ましてから一週間。
 俺がジオとして生きていくことを覚悟してから一週間。
 シゲさんという親切な老婆の好意に甘んじながら、俺は家事手伝いをさせてもらっていた。
 というのも、怪我が治って世話になりましたと出ようとしていたら――。

『あんた、行くところないんなら、ウチで手伝いしてくれんか』

 という提案をシゲさん側から提案してくれたのだった。
 俺はそのご厚意に甘え、同時に深く感謝と礼を申し上げた。
 そうして俺はシゲさんの手伝いしながら日々を過ごしている。
 今日は庭の草むしりをしている、のだが。

(体が……重い!)

 前世は肥満体系になったことがなかったせいか、肥満の人間の動きにくさは初体験だった。
 ただ肉体系の祝福である『頑強』のおかげで「膝や腰などが壊れない」という力があるため、何とかなっている。
 それを差し引いても、重い。
 加重率が凄まじい。
 この丈夫さがなければ三回は死んでしまっているんじゃないだろうか。
 体力も相当なくて、すぐに息が上がってしまう。
「ふう……ふう……」
 額の汗をタオルでしっかりと拭う。
 そう、汗っかきにもなっている。
 汗を大量にかいた経験はある……が、それがほぼ常に起きている。
 首にかけた三枚目のタオルがビショビショになってしまった。
 シゲさんにはまた迷惑をかけてしまうな、と思いながら草むしりを再開する。
「おおい、ジオや」
 顔を上げるとシゲさんが縁側から呼びかけていた。
「な、なんですか?」
「そろそろ昼や、休憩にせんか」
「え……あ、本当だ」
 庭先から見える掛け時計は十二時に針を重ねていた。
「わかりました」
 畳んでいた足と体をゆっくりと伸ばしていく。
 ビキビキとバキバキと肉体が悲鳴を上げながら、ようやく立ち上がった。
 痛い、辛い、動きたくない。
 祝福があってこれとか、肥満の人、大変すぎるだろ……。
「だ、大丈夫か?」
 思わずシゲさんがその様を見て心配してくれた。
「大丈夫っす……」
 苦悶の表情を浮かべながら立ち上がる様は、人を心配させる。
 俺、学んだ。

   〇

「あー……おいしい」
 口いっぱいにほうばった塩味の利くおにぎりのうまさが広がっていく。
 程よく噛んだ後にすすり流し込んでいく玉ねぎの味噌汁が、また、うまい。
 合間に手で摘み食べるナスときゅうりの漬物がアクセントになる。
 最高だ。
 労働の後の食事は、特に肉体労働後の食事は、うまい。
 この肉体になってからとてもよく理解できた。
 これは肥満になってしまう。
「ただの塩にぎりと味噌汁と漬物なんに、そんなに喜べるんか?」
「そうですよ、こういうのが、とてもありがたい」
「……そういうもんか」
 シゲさんは疑問を消化できたのか、そのあとは特に聞かれることなく黙々と食事を続けた。
 古民家と呼べるシゲさんの家の庭は広く、風が吹けば、草と遠くの川と花々や木々の入り混じった香りが共に通り抜け、そういうものを感じながら縁側に座って食べるご飯とこの時間は、最高に良い。
 今は夏。
 そして本編が始まる五年前。
 俺は、いくつかの計画を立てた。
 その内のひとつであり、一番重要なもの……肉体改造である。
 つまるところ、痩せて鍛えていく、というものだ。
 この世界、現実的な部分もあるが同時にゲーム的部分もしっかりと存在する。
 一週間、家事手伝いという形でいろんな雑用を行ってきた。
 正直肉体的にかなりしんどいものになっていたが、その分、しっかりとステータスに反映されていた。
 微々たるものであるが上昇されていたのである。
 今はまだ、こんなにも弱々しいが鍛え上げることのできる基礎部分ができれば、化けていけるだろう。
 なにより実年齢の部分がかなりの強みになる。
 ここら辺はゲームシステムに関することになる……この仕様をうまく利用できればと考えている。
 そうこう考えていく内に、おにぎりは無くなり、味噌汁は椀から消え、漬物は姿を消していた。
「ごちそうさまでした」
「お粗末様でした……ようけ食べたな」
「シゲさんの料理は全部うまいですから」
「はっ、褒めても何もでんわい」
 実際シゲさんの料理はかなり美味い。
 この家の世話になれて本当に良かったと思っている一つだ。
 当初では迷宮にこもってどうこうするというほぼ野宿のつもりだったので、とても助かっている。
「さて……残りも頑張ろう」
 冷えた麦茶を飲み干し、俺は再び草をむしっていく。
 夕方ごろになるまで作業は続いた。
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