神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第3章 誕生日の夜

第24話 お酒と寝顔

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「え!? なんで、ここで寝てるの!?」

ソファーの上で寝息をたてる兄の珍しい姿に、華は驚いた。まさか、一晩ここに寝ていたのだろうか?

「もしかして父さん、兄貴に酒のませた?」

すると、兄がここにいる原因をいち早く理解した蓮が父に、疑惑の目を向けた。

「あはは、バレたか。いや、もう飛鳥も二十歳だしさ。親としては、息子がお酒のんだらどうなるのか、ちゃんと見極めとかなきゃなーと、思ってね?」

「……」

包丁の音をトントンとリズムカルに響かせながら、父は平然と言い放つ。

そして、改めて兄を凝視すると、お酒とは、なんて恐ろしいものなのだろうかと、二人は息をのむ。

この時間には、大体起きているが、珍しく目を覚まさないばかりか、無防備にソファーに横たわっているのだ。

しかもその姿は、実に色っぽかった。

父がかけたのだろう。体に毛布が掛けられてはいるが、髪は結われておらず、ソファーの上には、金色の柔らかそうな髪が、無造作に散らばっていた。

100人にアンケートをとったら100人が美人だと答えるであろう、兄の寝顔の破壊力は抜群で、薄く開いた柔らかそうな口元に、服の隙間から覗く形のよい鎖骨。そして、男性にしては白い頬に、髪がかかる姿がやたらと艶かしい。

「あー。しかしどうしようー! 飛鳥さ、ホントダメだわ!! この子、メチャクチャ酒弱いの!!」

すると、そんな『美人すぎる息子』をみつめ、侑斗が深くため息をつく。

「はぁ、ただでさえ、こんな顔してんのにさ。更にお酒弱いとか、お父さん、心配でハゲそうなんだけど? てか、神様、どんだけうちの子に試練与えれば気がすむの? なんか恨みでもあんの? それともドSなの? 可愛い子には意地悪したくなっちゃう~とか、そんな感じ? なんかお父さん、神様呪いたくなってきた!!」

「とりあえず、落ち着け」

キッチンで、朝食をつくりながら、次第に、黒い笑顔を作り始めた父をみて、蓮が冷静につっこむ。

神様呪っちゃ、ダメだろ。

「へー飛鳥兄ぃ、そんなにお酒弱いの?」

すると、酒が弱いと放つ父の言葉を聞いて、華が兄を見つめ、といかける。

「あー俺も、いきなりとばすのは良くないと思って、少ししか、すすめてないんだけど、コップ半分も飲まずに、酔ちゃったみたいで、いきなり“熱い"とか言って、もたれ掛かってきたかと思えば、いきなり寝ちゃったんだよね……」

昨夜のことを思いだし、苦笑いを浮かべる侑斗。

初めて飲んだのもあるかもしれないが、あの後、飛鳥と大学の話や、クリスマスの出来事などを色々と話をした。

だが、急に黙り込んだかと思えば、飛鳥は、あっけなく眠ってしまったのだ。

「え?それだけ?」

だが、その話に華と蓮はさほど驚きもせず、キョトンと首を傾げる。

弱い──なんて言うのだから、てっきり暴れたり、絡んだりするのかと思っていたが…

「いやいやいや! コップ半分だよ!? コップ半分も飲めないとか、いくらなんでも弱すぎるだろ!? お前たち、飛鳥が酒の席でいきなり寝ちゃうのが、どんだけなことかわかってる!? 寝てる間になんかあったらどうすんの!? 女の子に既成事実とか、作らされちゃったりしたらどうすんの!!?」

「既成事実!? なにその怖い響き!!?」

息子の今後を危惧して、慌てふためく父の言葉に、華は顔を青くする。

確かに見た目がこれだけ綺麗なのだ。お酒に弱って、寝てしまっては、そのあと何が起きてもおかしくはない。

「じゃぁ、兄貴なんとかした方がいいんじゃないの?」

「ホント。このままじゃ、パパ心配であっち帰れない!」

「いや、帰って。仕事あるでしょ」

「でも、まさか、お酒に弱いなんて……」

兄を心配する弟と父の会話を聞きながら、華は一人ソファの前まで足を運ぶと、その場にしゃがみこみ、兄の顔をマジマジと見つめた。

いつも余裕そうに、笑顔を浮かべている兄。だからか「お酒に酔うなんてことも、きっとないだろう」と、勝手決めつけていた。


(寝顔、久しぶりに見たかも?)

そして華は、兄の寝顔を見つめながら、物思いにふける。

昔はもっと、女の子みたいな顔をしていた。それが、背も高くなり、手も顔つきも大分男性らしくなった。

勿論、今でも、時折女性に間違えられるため、中性的ではあるのだろうが、華は幼い頃、三人で川の字になり、寝ていた頃に、妙な懐かしさを感じた。

あの頃に比べたら、自分達は確かに成長しているねだろう。少しずつ……でも確実に。


「華、寝かせとけよ。外ではいつも気を張ってるんだから、家族の前くらい無防備になってもいいだろう」

すると、兄の顔をじっと見つめる華に、父が声をかける。

外では気を張ってる……確かに、兄がこうして気を許すのは、きっと自分たち「家族」だけ。

華は、そう思うと、久しぶりに見た兄の寝顔をみて、小さく笑みをうかべた。

その顔は、なんだかとても、安らかなものに感じたからだ。

「飛鳥兄ぃってさ、寝てる時は天使だよね!」

「なに言ってんの、今更?」

「起きてる時も、天使だよ~♪」

華が笑うと、蓮と侑斗もそれに言葉をかぶせてきた。

いつもと変わらない、家族の会話。

華は、それを聞いてスクスクと笑いだすと、目の前にある兄のその寝顔見つめ、ほんの少しだけ、得をした気分になったのだった。
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