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第6章 転校生と黄昏時の悪魔【過去編】
第40話 転校生と黄昏時の悪魔 8
しおりを挟む黄昏時の公園で、突然背後から声をかけられ、飛鳥が振り向くと、そこには人の良さそうな男性が一人、にこやかに笑って立っていた。
清潔感のある白のシャツにグレーのスラックスを着た40代前半のスレンダーな男性。
飛鳥は、その見知らぬ人に少しだけ警戒心を高めるが、男はその後、飛鳥の前にあるものを差し出してきた。
「もしかして、探しているのはコレかな?」
「え?」
これと差し出された手の中には、今まさに探していた「ウサギのぬいぐるみ」がにぎられていた。それを見て、飛鳥はほんの少しだけ気を許す。
「あ、ありがとうございます」
「やっぱり、君の『妹さん』のかな?」
「え?」
ぬいぐるみを受け取り、中腰になるその男を再度見上げれば、その男は先程三人で遊んでいた時にも、見かけた男性だった。
「あれ? おじさん、さっきもいた?」
「ああ、この辺に来たのは、はじめてなんだけどね。たまたま通りかかったら綺麗な公園があったから、暫く紅葉を楽しんでいたんだ」
「そう……」
言われてみてば、公園にある木々は確かに色づきはじめていた。
だが、紅葉を楽しめるほど、鮮やかに彩られている訳ではなく、飛鳥は少しだけ疑問を抱く。
「そうだ、君にひとつお願いがあるんだが…」
「?」
男が飛鳥を見つめ、にっこりと微笑みかける。
「実はいきたい所があるんだが、道がわからなくなってしまってね、君に教えてもらいたいんだが…」
「……別にいいけど、どこに行きたいの?」
「ありがとう。あっちに、車を停めてあるから、ちょっとついてきてくれるかい?」
「……」
──車?
それを聞いて、飛鳥は一気に不信感を高めた。
自分より遥かに背の高い男。
確かに、身なりも綺麗で物腰も柔らかく人が良さそうな男性ではあるが、どことなく「嫌な予感」がしたのも確かだった。
「おいで。もうすぐ暗くなるし、道を聞いたら、そのまま家まで送り届けてあげよう…」
「……」
男性はそういうと、車の方へと歩き出し“ついてこい”と言わんばかりに手招きをする。
だがそれに、おいそれと従うような、飛鳥ではなく──
「ゴメン、俺もう帰らなくちゃ……」
飛鳥の言葉を聞いて、男の体がピタリと止まる。
「車できてるなら、公園を出て右に真っ直ぐいったら、パン屋が見えてくるから、そこを左折して。そしたら交番があるから、そっちで聞くといいよ」
「……そうかい」
ピタリと動きをとめたまま、男はこちらを振り向くことなく、そう言った。
どこか、感情のない返事。
飛鳥は、手にした華のぬいぐるみをギュッと握りしめると…
「──じゃ、俺急ぐから。ぬいぐるみ、ありがとうね」
といって、公園をでて歩道へと走り出した。
(──なんだろう。なんか、よくわからないけど、すごく嫌な感じがした)
漠然とした不安。
その不安に急かされるように、飛鳥は歩道を走る速度を早めると、自宅へと急ぐ。
パキッ──
「!?」
だが、その不安は一向に拭いきれず、飛鳥は時折後ろを振り返り、背後を警戒する。
(──考えすぎ、だよね?)
ドカッ──!!?
「痛ッ!?」
「イッテー!!?」
だが、その瞬間。
身体に酷く鈍い痛みが走った。
それは飛鳥が背後を気にしていたために起きた、出会い頭の事故だった。歩道を曲がった先に現れた人物に気づかなかったからか、飛鳥は目の前の人物と正面からぶつかり、頭に酷い衝撃を受ける。
「あれ?神木?」
「……え?」
ぶつかった頭を押さえながら、視線をあげると、そのぶつかった相手はクラスメイトの橘 隆臣だったようで、飛鳥は隆臣を見ると、あからさまに嫌そうな顔をした。
「橘…っ」
「ぃてー、神木ッ…お前、なにやってんだよ! ちゃんと前見て走れよな!?」
「っ…うるさいな、急いでたんだよ!」
ぶつかった拍子に、崩れた体制を整えると、飛鳥は一緒に手から離れた華のぬいぐるみを拾い上げた。
だが、その瞬間。ふと隆臣が行こうとしていた方向に気づいて、飛鳥は隆臣に早急に問いかける。
「っ、ちょっとまって、お前こっち行くの!?」
「は? だからなに?」
「あっちの道、いけば?」
「何で!? そっち遠回りなんだけど!」
「っ……そうかも……しれな…けど」
ただ、何となくだが、飛鳥は行かせるべきではないと思い、隆臣を引き止める。
だが、それをどう説明するべきか、不確かなそれでは、上手く言葉にできなかった。
「神木? お前なんかあったの?」
その瞳にどこか不安げな色が混じっているように見えて、隆臣は不思議そうに飛鳥をみつめ問いかける。
だが…
「……いや、大丈夫。なんでもな──」
ユラ──
「!?」
その時。立ち尽くしている二人の姿を、ひとつの大きな影が覆った。
背後に現れた"何か"
飛鳥はその影に気づいた瞬間、とっさに離れようと身を翻すが、その影は隆臣の目の前で、いとも簡単に飛鳥の腕を捕らえると、逃げようとする飛鳥の身体を強引に引きよせる。
「──ッ!!?」
腕を掴まれた瞬間、一気に全身の毛が総毛立つ。突然のことに、思考が──追い付かない。
「こんな所に、いたのか?」
二人の前に現れたのは、先程、飛鳥にぬいぐるみを手渡した
「あの男」だった──
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