神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
41 / 509
第6章 転校生と黄昏時の悪魔【過去編】

第37話 転校生と黄昏時の悪魔 5

しおりを挟む

「うーん、ないなー?」
 
 時は戻り、華と蓮の高校の合格発表を無事に終えた、その日の午後。

 隆臣や大河と別れ、自宅に戻ってきていた飛鳥は、昼食をとったあと、父の書斎で何やら脚立を持ち出し、探し物を始めたようで、妹の華は何事かと兄に問いかけた。

「飛鳥兄ぃ、何やってんの?」
 
「あー、蓮も無事高校に合格したし、俺が使ってたブレザー、クリーニングに出しとこうと思ったんだけど……」

「でた!! お兄ちゃんのお下がり!」
 
「まー、それは下の宿命だよねー」

 どうやら、兄は今、高校のブレザーを探しているらしい…

 父の書斎を見回せば、タンスの上にしまっていた段ボールをいくつか確認したのだろう。両手に抱えるくらいの大きなダンボール箱が数箱、床に散乱していた。
 
「もう! 飛鳥兄ぃってば 片付け下手すぎ! 仕舞う時、ちゃんとしないから、見つからないんだよ!」
 
「うるさい。俺にそこまで完璧を求めるな」

 飛鳥は一通りのことは何でもこなすし、掃除が苦手な訳でもない。

 だが、こと片付けに関しては、目に見えなければいいか、と言った感じでよく手抜きする癖がある。

「華、ごめん。これ持って!」
 
「……もう!」

 飛鳥は、脚立の上から、華に少し小ぶりの段ボールを手渡す。

 すると華は、渋々それを受け取ると、興味本意から、その段ボールを床に置き、中を確認し始める。

「あ~なにこれ~」

 するとその箱の中には、画用紙にかかれた絵や折り紙で作ったお花、小さい靴や服などが、たくさん入っていて、華は顔を誇ろばせた。


「それ、お前たちが幼稚園の頃のだね?」

 飛鳥が脚立からおり、箱の中を覗きこむと、なつかしそうに目を細める。
 
「まだ、とってあったんだ…」

「へー……あ! これ。覚えてる!」

 華は相槌をうち、また箱の中を漁りはじめた。

 その箱の中にある物は、妙に懐かしさを感じるものばかりだった。幼い時の物だが、どれも確かな記憶として残っているものだ。
 
「あ……これ……」
 
「ん?」

 すると、タンスの上をやめてクローゼットの中をさがし始めた飛鳥の元に、少し上ずった華の声が聞こえてきた。

「どうした?」

「う、うんん……何でもない!」

 いつもと変わらないで笑顔で、兄に取り繕うと、その瞬間、華はとっさに手にしていたものを背後に隠した。

 兄に見えないようにと隠したそれは、華の手の平くらいの大きさをした『小さな ウサギのぬいぐるみ』だった。

 
(っ…これ……まだ、とってあったんだ…)


 微動だにせずせず、華はその額にじわりと汗をかく。

 これは、幼い時、とても大切にしていたものだった。

 誕生日に買ってもらって、寝るときも出掛けるときも、肌身はなさず持っていた、ウサギのぬいぐるみ。

 だが、いつしか、このぬいぐるみは…

目にするのが辛くなって、でも捨てられなくて、おもちゃ箱の奥にひっそりとおいやられていった


そんな、可哀想なぬいぐるみ…



「あ、あった」

 華が神妙な面持ちで考え事をしていると、クローゼットの前で再び飛鳥が声をあげた。
 
「そういえば、クリーニングにだした後、そのままクローゼットにしまったんだっけ?」

 どうやら、お探しのブレザーが見つかったらしい。

  飛鳥はその後「一応、またクリーニングに出しとくかな…」と呟くと、部屋をそのままに、今度はセカセカと出掛ける準備を始めた。

 
「……飛鳥兄ぃ、出掛けるの?」
 
「うん。後になると忘れそうだし。ちょうど夕飯の材料で買い忘れたものもあったから、ついでにね? とりあえず、部屋はまた帰ってから片付けるから、そのままにしてて」

「……うん、分かった」
 
「じゃ、すぐ戻ってくるから…」
 
「……」

 そう言うと兄は、華を置いてそそくさと部屋から出ていった。

 



(……嫌なモノ、見つけちゃった)

 華は、一人残された書斎の中で、手にしていた「ウサギのぬいぐるみ」に、改めて視線を戻すと、なんとも辛そうに、眉根をよせた。


"すぐ、戻ってくるから…"


 も兄は、そう言って出ていった。

 あの日、自分は大切にしていたこのぬいぐるみを、公園に忘れてきてしまって、泣いてわがままを言って、家族を困らせた。

 泣きやまない妹の頭を撫でて、兄はわざわざ公園まで、このぬいぐるみを探しにいってくれた。

 言葉の通り、すぐに帰ってくるだろう……そう思ってた。

 またいつもように、笑顔の兄に会えると疑わず、窓の外を見つめながら、兄とぬいぐるみの帰りを待ち続けた。

 だけど、その後兄は──


門限をすぎても、日が沈みかけた空が次第に暗くなりはじめても、ついには日が落ちても


いくら待っても──……帰ってはこなかった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...