39 / 554
第6章 転校生と黄昏時の悪魔【過去編】
第35話 転校生と黄昏時の悪魔 3
しおりを挟む「神木 飛鳥」という人間は、今でこそ、よく笑っているが、当時はいつも無表情で、あまり人と話すことのない人間だった。
友人を作ることもなく、休み時間には、いつも決まって、一人で本を読んでいるような、そんな大人しい奴──
だが、その孤立する姿さえも、どこか納得してしまうほど、”浮世離れした存在感”を放っていて、周囲からは一線を画す存在でもあった。
だが、だからと言って、いじめの対象になることはなかった。でもそれも、今思えばそれなりに上手く立ち回っていたからなのだろう。
時折その容姿のせいで、嫌がらせをされているのを、何度か見かけたことがあった。
◇◇◇
「おい神木! お前、スカート履いてみろよ!」
それは、学校の休み時間、隆臣が教室に戻ってきたタイミングだった。
教室の入口に立った隆臣の耳に突如飛び込んできたのは、相手をなじるような不愉快な言葉。
(なにやってんだ、アレ…)
馬鹿にするような抑揚のある声。隆臣がその声の主に視線を向けると、机に座り本を読んでいる飛鳥に、どこから持ち出したのか、スカートを持って命令する男子生徒二人の姿があった。
「神木、お前さ。マジで女みたいな顔してるんだし、絶対コレ似合うって!」
目の前で、赤いプリーツスカートを平つかせる、クラスメイトの山田と、その横でクスクスと笑う斎藤。
それは、明らかな「いじめ」の現場だった。そして、その教室中の響き渡るような二人の声量に、ほかのクラスメイトたちも一斉にそちらに視線を向ける。
だが、目撃する人間は何人もいたが、みんなして口を噤むので、きっと今、嫌がらせをしている男子達は、どちらかと言えば、厄介な奴らなのだろう。心配そうに飛鳥を見つめるその視線が、物言わずとも、隆臣にそれを教えてくれた気がした。
「なぁ、神木。スカート穿いてみろって、そしたら今度からお前のこと"飛鳥ちゃん"って読んでやるからさー!」
「てか山田、お前スカートとか、どっからもってきたんだよ!」
「妹の借りてきたんだよ。ミニだぜ、ミニ!」
「はは、お前バカだな~」
飛鳥をとり囲むようにして、ケラケラと笑う男子たち。それを見て、隆臣は焦燥し、ぐっと奥歯を噛み締めた。
確かに見た目は女の子のようだが、それでもアイツは男の子だ。それなのに、わざわざ、嫌がらせのために妹のスカート拝借してくるなんて、質の悪いにも程がある。
(あれ、やめさせた方がいいよな。でも俺、転校してきたばかりだし、あまり目立つのも……)
心の中に微かに宿る正義感。だが、先日、転校してきたばかりの隆臣。あまり目立つ行動は控えたい思うあまり、なかなか言葉に出せなかった。
漫画なら、ここできっと救世主が現れるのかもしれないが、現実はそんなに甘くない。
隆臣が未だ教室の入口から動けずにいると、席に座わり、ずっと黙ったままだった飛鳥が、読んでいた本はそのままに、ゆっくりと視線をあげた。
「……いいよ」
「!?」
か細い声ではなった飛鳥のその言葉に、教室内が一気にどよめく。
”いいよ”ということは、スカートを履くとことを、承諾したということだろう。
(──なんで……っ)
隆臣は、そんな飛鳥の返答にゴクリと息を飲む。
そこには、まさに『弱肉強食』といっていいくらいの世界が広がっていて、その弱い対象が、見事に強者に虐げられた姿に、胸の奥がズキリとなった。
だが──
「じゃぁ。一人千円ね?」
(……え?)
再び、飛鳥から放ったれた言葉に隆臣は耳を疑った。
教室の端、いつもの窓際の席で、平然と放つその声は、全く「弱者」を思わせる声ではなく……
「俺にスカート穿けって言うなら、一人千円──払ってね?」
そう言うと、飛鳥はまるで挑発でもするかのように、クスリと綺麗な笑みを浮かべた。
そして、それと同時に隆臣は瞬きひとつできず瞠目する。
せ……千円??
「はぁ!?」
するとその瞬間、山田が弾かれたような声を発した。
「ふざけんな! 金とるとかありえねーし!!」
「なんで? 俺にスカート穿いてほしいんでしょ? なら、それなりの『対価』払うべきじゃないの?」
さっきまでの「弱肉強食の世界」はどこへいったのか、一瞬にして場の空気は変わり、ほかのクラスメイトたちも戸惑っているのか、ポカンと口を開けたまま、飛鳥と山田の姿を見つめていた。
「つーか、お前、スカート履いて金とるとか、恥ずかしくねーの!?」
山田かひどい剣幕で捲し立てる。だが、肝心の飛鳥は、特段怯む様子もなく相手を見据えると
「じゃぁ、逆にきくけど……お前らこそ、男にスカート履かせて楽しむとか、恥ずかしくないの?」
と、机に体を預けたまま、山田が手にしたスカートを流し見て、冷ややかにそう吐き捨てた。
(あれ? なんか、神木って……)
──見かけによらず、強い?
そして、それを見た隆臣は、その見た目とのギャップにたじろく。
線が細く華奢なため、触れたら折れてしまいそうな、そんな儚さや脆さを垣間見せているにも関わらず、どうやら、その中身は一切、儚くも脆くもなかった。
これは、ライオンを前にした小動物では、まずない。明らかに、ライオンと同等、もしくはそれよりも知性の高い猛獣の、何か──
だが、隆臣がそんな二人から目をそらせずにいると、全く怯まない飛鳥にむけて、山田が再び怒号を発した。
「っ、誰も楽しもうなんて!! 嫌がらせに決まってんだろ!!?」
「そう。なら俺も、その嫌がらせに答える気はないよ。わかったら、あっち行って。すごい迷惑」
「はぁ? お前、状況わかってんの!?」
言葉を荒らげる山田を無視し、再び机の上の本に視線を戻すと、飛鳥は読みかけの本をパラリと捲り、また読書を再開する。
「……くっ」
涼し気な表情で本を読み始めた飛鳥。
それをみて、山田は苦虫を噛み潰したような顔をすると、ある意味、意地になり始めていたのだろう。
バン!──と、勢いよく飛鳥の机を叩きつけると、山田は叫ぶ。
「あぁ、分かったよ!! じゃぁ、払えばいいんだな!」
「……は?」
山田のその言葉に、今度は飛鳥が短く反応する。
「だから、千円払えば、スカート穿くんだろ!!」
「……」
山田は更に詰め寄りそういうと、手にしたスカートを、飛鳥の眼前に、ずいっと突きつけてきたのだった!
1
あなたにおすすめの小説
ト・カ・リ・ナ〜時を止めるアイテムを手にしたら気になる彼女と距離が近くなった件〜
遊馬友仁
青春
高校二年生の坂井夏生(さかいなつき)は、十七歳の誕生日に、亡くなった祖父からの贈り物だという不思議な木製のオカリナを譲り受ける。試しに自室で息を吹き込むと、周囲のヒトやモノがすべて動きを止めてしまった!
木製細工の能力に不安を感じながらも、夏生は、その能力の使い途を思いつく……。
「そうだ!教室の前の席に座っている、いつも、マスクを外さない小嶋夏海(こじまなつみ)の素顔を見てやろう」
そうして、自身のアイデアを実行に映した夏生であったがーーーーーー。
伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい
マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。
最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡)
世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
少しの間、家から追い出されたら芸能界デビューしてハーレム作ってました。コスプレのせいで。
昼寝部
キャラ文芸
俺、日向真白は義妹と幼馴染の策略により、10月31日のハロウィンの日にコスプレをすることとなった。
その日、コスプレの格好をしたまま少しの間、家を追い出された俺は、仕方なく街を歩いていると読者モデルの出版社で働く人に声をかけられる。
とても困っているようだったので、俺の写真を一枚だけ『読者モデル』に掲載することを了承する。
まさか、その写真がキッカケで芸能界デビューすることになるとは思いもせず……。
これは真白が芸能活動をしながら、義妹や幼馴染、アイドル、女優etcからモテモテとなり、全国の女性たちを魅了するだけのお話し。
天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】
田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。
俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。
「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」
そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。
「あの...相手の人の名前は?」
「...汐崎真凛様...という方ですね」
その名前には心当たりがあった。
天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。
こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。
ずっとヤモリだと思ってた俺の相棒は実は最強の竜らしい
空色蜻蛉
ファンタジー
選ばれし竜の痣(竜紋)を持つ竜騎士が国の威信を掛けて戦う世界。
孤児の少年アサヒは、同じ孤児の仲間を集めて窃盗を繰り返して貧しい生活をしていた。
竜騎士なんて貧民の自分には関係の無いことだと思っていたアサヒに、ある日、転機が訪れる。
火傷の跡だと思っていたものが竜紋で、壁に住んでたヤモリが俺の竜?
いやいや、ないでしょ……。
【お知らせ】2018/2/27 完結しました。
◇空色蜻蛉の作品一覧はhttps://kakuyomu.jp/users/25tonbo/news/1177354054882823862をご覧ください。
むっつり金持ち高校生、巨乳美少女たちに囲まれて学園ハーレム
ピコサイクス
青春
顔は普通、性格も地味。
けれど実は金持ちな高校一年生――俺、朝倉健斗。
学校では埋もれキャラのはずなのに、なぜか周りは巨乳美女ばかり!?
大学生の家庭教師、年上メイド、同級生ギャルに清楚系美少女……。
真面目な御曹司を演じつつ、内心はむっつりスケベ。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる