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第5章 救世主と事件
第30話 隆臣と大河
しおりを挟む「俺、ずっと神木くんに、会いたかったんです!!」
国道沿いの歩道のど真ん中で、男の声がこだまする。
(あれ?もしかして……)
茶髪の男も、ヤバいやつだった?
飛鳥は、その男のあまりの剣幕に一瞬たじろいた。だが、そんなことはお構いなしにと、熱くなった男は、まるでつめよるように話を続けた。
「神木くんと初めてあったのは、かれこれ3年ほど前なんですが、あの時は、ただすれ違っただけで、話なんて一切してないのですが、神木くんの美しさに目を奪われて、買ったばかりの焼きそばを、物の見事に廊下にぶちまけてしまったのは今でも忘れません! 一度でいいから、神木くんとお話してみたいと思っていました! お友達になってなんていいません! 下僕で構いませんから俺と」
「いや、あの、ちょ……待って!」
少しくいぎみに身を乗り出してくる青年に、身の危険を感じた飛鳥は、その場から一歩後ずさる。
だが、僅かに距離は取れたものの、手を握られていては、それも限界があった。助けてもらったからか、完全に油断していた。まさか、こっちもヤバいやつだったとは、一度に二人なんて、なんてついてない。
(最悪……なんとかして、逃げないと)
飛鳥は、先程助けてもらった恩など忘れ、男をしっかりと「ヤバイ奴」認定すると、隙を見て逃げようと画策する。
「神木くん、今から時間ありますか! よかったら――」
「いや、ない。全くない。とりあえず、離し――」
だが、あろう事かお茶を進めようとする男に、飛鳥はじわりと嫌な汗をかく。
「おい、大河!!」
だが、その時だった。ガシッと男の首ねっこを掴み、諌める男が現れた。
赤毛でスラリとした長身の男。その男が茶髪の男を勢いよく飛鳥から引き剥がすと、掴まれていた手は難なく離れた。
「いった……橘、痛いって!!」
「全く、飛鳥が困ってんだろ!!」
「……」
だが、新たに現れたその赤毛の男は、飛鳥もよく知る人物で…
「た……隆ちゃん?」
なんとそれは、飛鳥の友人でもある「橘 隆臣」だった。
◇◇◇
「あら、珍しいわねー。隆臣が、飛鳥くんと大河くん、二人一緒につれてくるなんて」
その後、隆臣の母が経営する喫茶店の中に入ると、珍しい組み合わせの三人を見て、美里がにこやかに声を上げた。
まだ買い出しの途中だと言うのに、結局、お茶をすることになってしまった飛鳥は、美里に挨拶をしたあと、しぶしぶ奥のケーブルの前まで移動すると、4人がけのテーブルの向かいに、並んで座った隆臣と茶髪の男を見つめ、眉を顰める。
「だから、俺は神木くんが困ってるとおもって助けたんだって! ヒーローのごとく登場したの!!」
「どこがだよ。どーみても、困らせてたのお前だろ? たく、ちょっと目を離したすきに、いなくなりやがって…」
「……」
目の前で仲良さげに討論をする隆臣と茶髪の男。その様子を見ると、明らかに顔見知りらしかった。
だが、先程の「ヤバイ奴」が、よもや友人の知り合いだったとは、飛鳥は目も前の光景を見て、なんとも言えない感情を抱くと、その後、乾いた笑みを浮かべた。
「あの、隆ちゃん。とりあえず、説明して……」
「あーすまん。茶髪の男は、俺がこっちに転校してくる前の小学校で一緒だった……まぁ、幼馴染みみたいなもんで」
「改めて、初めまして神木君!『武市 大河』と申します!! 橘とは、幼稚園と小学校が一緒で、今は二人と同じ桜聖大に通ってます!!」
「え? うそ、同じ大学?」
それを聞いて、飛鳥は顔をひきつらせた。つまり彼「武市くん」は、隆臣が転校してくる前の学校で一緒だった古くからの友人で、そして現在は、自分達と同じ大学に通う飛鳥のファン?……ということになるのだろうか?
「前から『神木くんに会わせろ』って大河に、言われてたんだけどな。あまり気が進まなかったから、今までずっと、無視してきたんだけど…」
「ええ!?」
向かいでため息混じりに吐いた隆臣の言葉に、大河が反応する。
「何それ、ひどくない!?」
「ひどくねーよ。大河紹介するとか、俺の汚点だわ」
「汚点!!?」
「でも、なんでそんなに俺に会いたかったの?」
隆臣の話を聞いて、飛鳥は首をかしげる。さっきの言葉攻めにも驚いたが、いくら自分の容姿が人より優れているからと言って、ただ一回すれ違っただけだで、同性のファンになったりするだろうか?
「あー……それはな、飛鳥」
すると、隆臣が飛鳥から目をそらし、頬杖をつきながら答える。
「お前、高校の文化祭で、女装したことあっただろ?」
「? あー、あれ? みんなしてノリでやった男女逆転劇のこと?」
「そうそう。俺、転校してからずっと大河と会うことはなかったんだけど、その高校の文化祭で、たまたま偶然こいつと出くわしたんだ、そしたら……」
隆臣は、再び飛鳥に視線を戻す。どこか真面目な表情。飛鳥はそれを見て、ただジッととだまったまま、その先の言葉を待った。
すると…
「なんでも、お前を『女』 と勘違いして『一目惚れ』したらしい」
「……」
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