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第3章 誕生日の夜
第23話 日常と非日常
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枕元のスマホから軽快な音楽が鳴り響くと、華は目を覚ました。
眠い目を擦りながら、ベッドのサイドボードからスマホをとると、鳴り響くアラームを、オフの方へとスライドさせる。
手で口を隠しながら、大きく欠伸をすると、ベッドからでて、窓の前に立つ。
カーテンをあけると、外は気持ちの良い快晴。昨夜の雪がキラキラと光に反射する中、朝日を浴びながら、華はうーんと背伸びをすると、ふと部屋の壁に目がいった。
一面、白の壁の一角。そこには、数十枚の写真が貼られていた。友達と撮ったものや、兄弟と撮ったものもの。そして、そのなかでも、一番古いと思われる写真に目を奪われると
「……お母さんも、天国から見てたかな?」
華はその写真をみつめ、笑みを浮かべた。
昨日は久しぶりに、家族が全員揃った。楽しげな家族の姿を見て、母は喜んでいるだろうかと、幼い頃の自分達を抱く母の写真をみつめ、ボソリと呟く。
華の母親は、飛鳥が8歳、華と蓮が2歳の時に、突然亡くなった。それは、とても急なことだったらしいが、まだ幼かったこともあり、華はその時のことは全く覚えてはいない。それどころか、その母の面影すらも、こうして写真を見ることでしか思い出せないのだ。
朧気な母の記憶。
だが、それでも父や兄は、よく母の話をしてくれていた。だからか、覚えてはいなくても、華にとって、母は大切で、大好きな存在だった。
「あ。写真とるの忘れてた」
華は、目の前の写真をみつめ、不意に、昨夜写真を撮ることを、忘れていたことを思いだすと、少しだけ残念な気持ちになった。
せっかく、兄が二十歳になったのに、この記念の写真を取り忘れるなんて。
とはいえ、今更しかたないか…と、その気持ちを切り替えると、華は部屋をでて洗面所に向かった。
廊下の突き当たりを曲がった先にある、洗面所。中は一般的な家庭と変わらない、洗面台と、洗濯機、そして、お風呂。
華は、冬の冷たい水が少しだけ暖まるのを待ち、顔を洗うと、タオルを取り丁寧に拭き取る。
すると、ふと、いつもとは違う何かに気づき、華は眉をひそめた。
「あれ? 今日まだ、洗濯機回ってない……」
いつものこの時間には、ガタガタと音を立てている洗濯機。それが、なぜか今日は、全く仕事をしていない。
「飛鳥兄ぃ、忘れてんのかな? 珍しい」
華は、あの兄にしては珍しいこともあるものだと、兄の代わりに、洗濯機にスイッチを押すと、とりあえず、兄を探しに行こうとリビングに向かった。
「飛鳥兄ぃ~今日洗濯機、まわっ──ッ、なにこの臭いっ!!」
ガチャと、リビングの戸を開けた瞬間。いつもとは違う香りがして、華は顔をしかめた。未成年しかいないこの家では、あまり感じることのないアルコールの独特な臭い。それに、いつもの朝なら、リビングからは大抵、兄がいれたコーヒーの香りがするはずなのだが
「おはよう、華!」
その声に、華がキッチンに目を向けると、声をかけてきたのは、兄ではなく、父の方だった。
いつもとは違う光景。どうやら、父の侑斗は、エプロンをして朝食の準備をしているようだった。
「おはよう、お父さん。もしかして、昨日お酒飲んだの?」
アルコールの匂いに、酒だと判断した華は父にそう問いかける。すると、侑斗は清々しい笑顔をむけて「あー飲んだ飲んだ」と悪びれもせず答える。
「もしかして、臭うか?」
「臭うよ~いつもはしない臭いだから、バレバレだよ!」
「あはは、いいだろ。たまには」
晩酌くらい許してくれよと、侑斗はいつものニコニコした笑顔を浮かべながら、冷蔵庫を開けると、卵や野菜を取り出し、朝食を作り始めた。
今日の朝食はなんだろうか、そんなことを考えながらも、華は父のそばに歩み寄ると
「ねぇ、お父さん、飛──」
「うわ、なに、この臭い…っ!?」
するとその瞬間。今度はリビングに顔をだした蓮が、華と同じような反応を示した。
蓮が、顔を顰めつつ中にはいると、華と侑斗は、いつものように「おはよう」と、蓮に声をかける。
「おはよ。父さん、昨日お酒飲んだ? あと兄貴は? 部屋に戻ってきた形跡がないんだけど?」
双子だからだろうか?それは、さっき華が父に問いかけようとしていたことだった。
だが、蓮の言いようだと、部屋にもいないらしい。では、兄は今どこにいるのか?
「あー飛鳥なら、ソコだよ、ソコ♪」
すると、兄の行方を心配する双子を見て、侑斗が笑いながら声をあげた。
ソコと言われ、華と蓮が同時に顔を向けると、リビングにある三人がけのソファーの上で、丸くなり、寝息を立てている兄の姿があった。
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