神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
25 / 509
第3章 誕生日の夜

第23話 日常と非日常

しおりを挟む

~~♪♪

枕元のスマホから軽快な音楽が鳴り響くと、華は目を覚ました。
眠い目を擦りながら、ベッドのサイドボードからスマホをとると、鳴り響くアラームを、オフの方へとスライドさせる。

手で口を隠しながら、大きく欠伸をすると、ベッドからでて、窓の前に立つ。

カーテンをあけると、外は気持ちの良い快晴。昨夜の雪がキラキラと光に反射する中、朝日を浴びながら、華はうーんと背伸びをすると、ふと部屋の壁に目がいった。

一面、白の壁の一角。そこには、数十枚の写真が貼られていた。友達と撮ったものや、兄弟と撮ったものもの。そして、そのなかでも、一番古いと思われる写真に目を奪われると

「……お母さんも、天国から見てたかな?」

華はその写真をみつめ、笑みを浮かべた。

昨日は久しぶりに、家族が全員揃った。楽しげな家族の姿を見て、母は喜んでいるだろうかと、幼い頃の自分達を抱く母の写真をみつめ、ボソリと呟く。

華の母親は、飛鳥が8歳、華と蓮が2歳の時に、突然亡くなった。それは、とても急なことだったらしいが、まだ幼かったこともあり、華はその時のことは全く覚えてはいない。それどころか、その母の面影すらも、こうして写真を見ることでしか思い出せないのだ。

朧気な母の記憶。

だが、それでも父や兄は、よく母の話をしてくれていた。だからか、覚えてはいなくても、華にとって、母は大切で、大好きな存在だった。

「あ。写真とるの忘れてた」

華は、目の前の写真をみつめ、不意に、昨夜写真を撮ることを、忘れていたことを思いだすと、少しだけ残念な気持ちになった。

せっかく、兄が二十歳になったのに、この記念の写真を取り忘れるなんて。

とはいえ、今更しかたないか…と、その気持ちを切り替えると、華は部屋をでて洗面所に向かった。

廊下の突き当たりを曲がった先にある、洗面所。中は一般的な家庭と変わらない、洗面台と、洗濯機、そして、お風呂。

華は、冬の冷たい水が少しだけ暖まるのを待ち、顔を洗うと、タオルを取り丁寧に拭き取る。

すると、ふと、いつもとは違うに気づき、華は眉をひそめた。

「あれ? 今日まだ、洗濯機回ってない……」

いつものこの時間には、ガタガタと音を立てている洗濯機。それが、なぜか今日は、全く仕事をしていない。

「飛鳥兄ぃ、忘れてんのかな? 珍しい」

華は、あの兄にしては珍しいこともあるものだと、兄の代わりに、洗濯機にスイッチを押すと、とりあえず、兄を探しに行こうとリビングに向かった。

「飛鳥兄ぃ~今日洗濯機、まわっ──ッ、なにこの臭いっ!!」

ガチャと、リビングの戸を開けた瞬間。いつもとは違う香りがして、華は顔をしかめた。未成年しかいないこの家では、あまり感じることのないアルコールの独特な臭い。それに、いつもの朝なら、リビングからは大抵、兄がいれたコーヒーの香りがするはずなのだが

「おはよう、華!」

その声に、華がキッチンに目を向けると、声をかけてきたのは、兄ではなく、父の方だった。

いつもとは違う光景。どうやら、父の侑斗は、エプロンをして朝食の準備をしているようだった。

「おはよう、お父さん。もしかして、昨日お酒飲んだの?」

アルコールの匂いに、酒だと判断した華は父にそう問いかける。すると、侑斗は清々しい笑顔をむけて「あー飲んだ飲んだ」と悪びれもせず答える。

「もしかして、臭うか?」

「臭うよ~いつもはしない臭いだから、バレバレだよ!」

「あはは、いいだろ。たまには」

晩酌くらい許してくれよと、侑斗はいつものニコニコした笑顔を浮かべながら、冷蔵庫を開けると、卵や野菜を取り出し、朝食を作り始めた。

今日の朝食はなんだろうか、そんなことを考えながらも、華は父のそばに歩み寄ると

「ねぇ、お父さん、飛──」
「うわ、なに、この臭い…っ!?」

するとその瞬間。今度はリビングに顔をだした蓮が、華と同じような反応を示した。

蓮が、顔を顰めつつ中にはいると、華と侑斗は、いつものように「おはよう」と、蓮に声をかける。

「おはよ。父さん、昨日お酒飲んだ? あと兄貴は? 部屋に戻ってきた形跡がないんだけど?」

双子だからだろうか?それは、さっき華が父に問いかけようとしていたことだった。

だが、蓮の言いようだと、部屋にもいないらしい。では、兄は今どこにいるのか?

「あー飛鳥なら、ソコだよ、ソコ♪」

すると、兄の行方を心配する双子を見て、侑斗が笑いながら声をあげた。

ソコと言われ、華と蓮が同時に顔を向けると、リビングにある三人がけのソファーの上で、丸くなり、寝息を立てている兄の姿があった。

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

下っ端妃は逃げ出したい

都茉莉
キャラ文芸
新皇帝の即位、それは妃狩りの始まりーー 庶民がそれを逃れるすべなど、さっさと結婚してしまう以外なく、出遅れた少女は後宮で下っ端妃として過ごすことになる。 そんな鈍臭い妃の一人たる私は、偶然後宮から逃げ出す手がかりを発見する。その手がかりは府庫にあるらしいと知って、調べること数日。脱走用と思われる地図を発見した。 しかし、気が緩んだのか、年下の少女に見つかってしまう。そして、少女を見張るために共に過ごすことになったのだが、この少女、何か隠し事があるようで……

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

公主の嫁入り

マチバリ
キャラ文芸
 宗国の公主である雪花は、後宮の最奥にある月花宮で息をひそめて生きていた。母の身分が低かったことを理由に他の妃たちから冷遇されていたからだ。  17歳になったある日、皇帝となった兄の命により龍の血を継ぐという道士の元へ降嫁する事が決まる。政略結婚の道具として役に立ちたいと願いつつも怯えていた雪花だったが、顔を合わせた道士の焔蓮は優しい人で……ぎこちなくも心を通わせ、夫婦となっていく二人の物語。  中華習作かつ色々ふんわりなファンタジー設定です。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...