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第3章 誕生日の夜
第20話 家族とケーキ
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「ごちそうさまでした~」
夜になり、兄の誕生日を祝う神木家では、先程まで豪勢に盛り付けられていた料理が見事に平らげられ、その終わりつげるように、華がそっと手をあわせた。
「お父さん、すごーい!まさかケーキまで作るなんて!」
父が帰宅後からせっせっとケーキを作っていたところを思い出して、華が頬を緩ませる。
料理はもちろんだが、スポンジからしっかりと焼いた父のケーキは、なかなかの出来栄えだった。
一般的だが、イチゴたっぷりのチョコレートケーキ。お店で販売しているものとしたら勿論、見劣りはするが、それでも手作りというだけあり、愛情がいっぱいつまっているのはひしひしと伝わってきた。
「また、腕上げたんじゃない?」
「そうだろう、そうだろう!」
華のその言葉に、文字通り腕を振るった侑斗は、食べ終わった皿をキッチンに運びながら、誇らしげに答える。
子供達が幼い頃は、料理なんて皆無の侑斗だったが、妻が亡くなってからは、必要に迫られ、それなりに料理をマスターし、今ではそこそこのモノを作れるようになっていた。
「ロサンゼルスでちゃんと練習したんだぞー。でも、さすがに一人じゃ食べきれないし、作る度に会社の人達に振る舞ってたら、お父さん上役二人に娘さんとのお見合い勧められちゃってねー、あれは参ったー……」
「「……」」
だが、突然飛び出してきた「お見合い」の話に、華と蓮は「またか」といった表情で父を見つめた。
今までにも何度と思ってきたことなのだが、まさに『この父にして、この兄あり!』といったところだろう。
父の侑斗は、その社交性はさることながら、人を惹き付ける魅力に溢れた人だった。上役に気に入られるばかりか、部下や取引先からの評判も良く、仕事やその人当たりの良さに感しては、華と蓮も感心するほどだ。
だが、父のその「人を魅了する要素」は、善かれ悪しかれ、兄はしっかり受け継いでしまっているようだった。
(親子そろって、人タラシって)
(ホント、騙されてるよなー)
華と蓮は、飲みかけのコーヒーのカップを同時に手に取ると、いまだケーキを食べている兄をジッと凝視する。
外見だけでなく、その人当たりの良さに騙されて、父も兄も本当によくモテるのだ。それも男女問わず。
だが、今まで一緒に暮らしてきた双子は思う。ハッキリ言って、どちらも性格に難ありだと
「それで? その話、ちゃんと断ったの?」
すると、その『お見合い』の話が気になったのか、飛鳥がキッチンにいる侑斗に声をかけた。
もし、父がお見合いなんてしたら、下手をすれば「新しい母」が出来るかもしれないわけで、そうなると息子としても、簡単に無視出来る話題ではない。
「心配しなくても、ちゃんと断ったよ。俺こう見えても、もう 46だしね。しかも思春期真っただ中の3人の子持ちって、相手可哀想すぎるでしょー」
「そうだね。不良物件すぎるよね、中身がこれだと♪」
「飛鳥、お前はもう少し、その歯に衣を着せようね!」
ニッコリと笑って毒づく飛鳥に、侑斗が皿を洗いながら反論する。だが、こんなやりとりも、約半年ぶり。そう思うと懐かしささえ感じる。
しかし、どれだけ気に入られているのから知らないが、もう46のオッサンに、娘紹介する上役もどうかと思う。
「あ。そういえば華──お前、兄貴にプレゼント用意してるんじゃなかったの?」
「ぶ…ッ!!!?」
すると、隣に座る蓮が突然、突拍子もないことを尋ねてきて、華は飲んでいたコーヒーを軽く噴き出した。
そうなのだ。実は華、先日クリスマス前に葉月と一緒に探しに行った『誕生日プレゼント』をまだ兄に渡せていなかった。
「ちょ、ちょっと、蓮!!?」
とたんに顔を赤くし慌て始める華。それをみて、飛鳥が意地悪そうな笑みを浮かべた。
「へー、プレゼントあるんだ?」
「っ~~、な、ない!そんなのないよ!///な、ないけど……その、ない、わけでもない…ような―――っ」
「どっちだよ?」
だんだんと語尾が小さくなり、顔を真っ赤にして俯いた華をみて、飛鳥は頬杖をつきながらクスリと微笑む。
すると、それを見た侑斗が、華の意思を汲み取ったのか、さりげなく助け船をだしてきた。
「華、なに恥ずかしがってるんだ。プレゼント用意してるなら、持ってきなさい。今渡さないと、一生渡せないぞ」
「……っ///」
そんな父の言葉を聞いて、華は再び兄を見据えた。
最近プレゼントなどしていなかったからか、改めて渡すとなると、どうしようもなく恥ずかしくなる。だけど……
(そうだよね。せっかく、あんなに悩んで買ってきたんだから……)
華は、意を決して渡す覚悟をすると、兄の目をみて、恐る恐る問いかける。
「あ、あの……怒らない?」
「え? 怒るようなプレゼントなの?」
その言葉に、飛鳥はきょとんを目を丸くする。すると、蓮が
「なに? エロ本?」
と、思わぬ横やりを入れてきた。
「なにそれ!!? なんでそうなるの!? おかしいでしょ!?////」
「いや、だって怒られるかもしれないんでしょ?」
「だからって、なんでエロ本!! 信じらんない!!!」
いきなり飛び出してきた卑猥な本に、華はひどく動揺し始めた。
すると、いまにも喧嘩が始まりそうな双子の姿をみて、父の侑斗が、しぶしぶ話に加わる。
「華、蓮の言うとおりだ。よく考えてみなさい。妹からエロ本のプレゼントだなんて……さすがの飛鳥も、怒るだろ?」
「いや、お父さんも何言ってんの!? てか、なんで私がエロ本あげるで前提で話すすんでんの!?」
父があたかも「やっちゃったね」と言いたげな表情をうかべると、華は再び怒号を発した。
弟も弟なら、父も父である。
「もう~二人してからかうのやめてよ!/// だいたい、飛鳥兄ぃは、そんなの貰っても、喜ばないでしょっ////」
再び信じられないと、華。
だが、その言葉には侑斗と蓮も納得がいかなかったようで、つかさず反論の言葉を返してきた。
「なに言ってるんだ華! 飛鳥だって男の子なんだから、興味あるに決まってるだろ!! エロ本の1冊や2冊、持ってて当然だろ!!」
「そうだよ!ベッドの下とか、本棚の奥とか確認してみろよ。きっと出てくるから…」
「嘘でしょ!? サイテー!!」
「……俺はいつまでこの話聞いとけばいいの? なんかの拷問なの?」
当人をまるで無視した三人の会話に、痺れを切らした飛鳥が思わずつっこむ。
なんで、プレゼントの話から、自分がエロ本を所持しているか、していないかの話になっているのか?
双子だけでも、常にバカをやっているというのに、それに父が入ると、その威力は数倍だ。
「もう、私のプレゼントは……そんな、いかがわしいものじゃないからね!///」
「!」
すると、父を弟にかわかられながらも、リビングの引き出しからプレゼントらしきものを取り出してきた華は、飛鳥の前に立ち、恥ずかしそうに何かを差し出してきた。
それは、女の子らしいラッピングが施された、キューブ型の箱だった。
夜になり、兄の誕生日を祝う神木家では、先程まで豪勢に盛り付けられていた料理が見事に平らげられ、その終わりつげるように、華がそっと手をあわせた。
「お父さん、すごーい!まさかケーキまで作るなんて!」
父が帰宅後からせっせっとケーキを作っていたところを思い出して、華が頬を緩ませる。
料理はもちろんだが、スポンジからしっかりと焼いた父のケーキは、なかなかの出来栄えだった。
一般的だが、イチゴたっぷりのチョコレートケーキ。お店で販売しているものとしたら勿論、見劣りはするが、それでも手作りというだけあり、愛情がいっぱいつまっているのはひしひしと伝わってきた。
「また、腕上げたんじゃない?」
「そうだろう、そうだろう!」
華のその言葉に、文字通り腕を振るった侑斗は、食べ終わった皿をキッチンに運びながら、誇らしげに答える。
子供達が幼い頃は、料理なんて皆無の侑斗だったが、妻が亡くなってからは、必要に迫られ、それなりに料理をマスターし、今ではそこそこのモノを作れるようになっていた。
「ロサンゼルスでちゃんと練習したんだぞー。でも、さすがに一人じゃ食べきれないし、作る度に会社の人達に振る舞ってたら、お父さん上役二人に娘さんとのお見合い勧められちゃってねー、あれは参ったー……」
「「……」」
だが、突然飛び出してきた「お見合い」の話に、華と蓮は「またか」といった表情で父を見つめた。
今までにも何度と思ってきたことなのだが、まさに『この父にして、この兄あり!』といったところだろう。
父の侑斗は、その社交性はさることながら、人を惹き付ける魅力に溢れた人だった。上役に気に入られるばかりか、部下や取引先からの評判も良く、仕事やその人当たりの良さに感しては、華と蓮も感心するほどだ。
だが、父のその「人を魅了する要素」は、善かれ悪しかれ、兄はしっかり受け継いでしまっているようだった。
(親子そろって、人タラシって)
(ホント、騙されてるよなー)
華と蓮は、飲みかけのコーヒーのカップを同時に手に取ると、いまだケーキを食べている兄をジッと凝視する。
外見だけでなく、その人当たりの良さに騙されて、父も兄も本当によくモテるのだ。それも男女問わず。
だが、今まで一緒に暮らしてきた双子は思う。ハッキリ言って、どちらも性格に難ありだと
「それで? その話、ちゃんと断ったの?」
すると、その『お見合い』の話が気になったのか、飛鳥がキッチンにいる侑斗に声をかけた。
もし、父がお見合いなんてしたら、下手をすれば「新しい母」が出来るかもしれないわけで、そうなると息子としても、簡単に無視出来る話題ではない。
「心配しなくても、ちゃんと断ったよ。俺こう見えても、もう 46だしね。しかも思春期真っただ中の3人の子持ちって、相手可哀想すぎるでしょー」
「そうだね。不良物件すぎるよね、中身がこれだと♪」
「飛鳥、お前はもう少し、その歯に衣を着せようね!」
ニッコリと笑って毒づく飛鳥に、侑斗が皿を洗いながら反論する。だが、こんなやりとりも、約半年ぶり。そう思うと懐かしささえ感じる。
しかし、どれだけ気に入られているのから知らないが、もう46のオッサンに、娘紹介する上役もどうかと思う。
「あ。そういえば華──お前、兄貴にプレゼント用意してるんじゃなかったの?」
「ぶ…ッ!!!?」
すると、隣に座る蓮が突然、突拍子もないことを尋ねてきて、華は飲んでいたコーヒーを軽く噴き出した。
そうなのだ。実は華、先日クリスマス前に葉月と一緒に探しに行った『誕生日プレゼント』をまだ兄に渡せていなかった。
「ちょ、ちょっと、蓮!!?」
とたんに顔を赤くし慌て始める華。それをみて、飛鳥が意地悪そうな笑みを浮かべた。
「へー、プレゼントあるんだ?」
「っ~~、な、ない!そんなのないよ!///な、ないけど……その、ない、わけでもない…ような―――っ」
「どっちだよ?」
だんだんと語尾が小さくなり、顔を真っ赤にして俯いた華をみて、飛鳥は頬杖をつきながらクスリと微笑む。
すると、それを見た侑斗が、華の意思を汲み取ったのか、さりげなく助け船をだしてきた。
「華、なに恥ずかしがってるんだ。プレゼント用意してるなら、持ってきなさい。今渡さないと、一生渡せないぞ」
「……っ///」
そんな父の言葉を聞いて、華は再び兄を見据えた。
最近プレゼントなどしていなかったからか、改めて渡すとなると、どうしようもなく恥ずかしくなる。だけど……
(そうだよね。せっかく、あんなに悩んで買ってきたんだから……)
華は、意を決して渡す覚悟をすると、兄の目をみて、恐る恐る問いかける。
「あ、あの……怒らない?」
「え? 怒るようなプレゼントなの?」
その言葉に、飛鳥はきょとんを目を丸くする。すると、蓮が
「なに? エロ本?」
と、思わぬ横やりを入れてきた。
「なにそれ!!? なんでそうなるの!? おかしいでしょ!?////」
「いや、だって怒られるかもしれないんでしょ?」
「だからって、なんでエロ本!! 信じらんない!!!」
いきなり飛び出してきた卑猥な本に、華はひどく動揺し始めた。
すると、いまにも喧嘩が始まりそうな双子の姿をみて、父の侑斗が、しぶしぶ話に加わる。
「華、蓮の言うとおりだ。よく考えてみなさい。妹からエロ本のプレゼントだなんて……さすがの飛鳥も、怒るだろ?」
「いや、お父さんも何言ってんの!? てか、なんで私がエロ本あげるで前提で話すすんでんの!?」
父があたかも「やっちゃったね」と言いたげな表情をうかべると、華は再び怒号を発した。
弟も弟なら、父も父である。
「もう~二人してからかうのやめてよ!/// だいたい、飛鳥兄ぃは、そんなの貰っても、喜ばないでしょっ////」
再び信じられないと、華。
だが、その言葉には侑斗と蓮も納得がいかなかったようで、つかさず反論の言葉を返してきた。
「なに言ってるんだ華! 飛鳥だって男の子なんだから、興味あるに決まってるだろ!! エロ本の1冊や2冊、持ってて当然だろ!!」
「そうだよ!ベッドの下とか、本棚の奥とか確認してみろよ。きっと出てくるから…」
「嘘でしょ!? サイテー!!」
「……俺はいつまでこの話聞いとけばいいの? なんかの拷問なの?」
当人をまるで無視した三人の会話に、痺れを切らした飛鳥が思わずつっこむ。
なんで、プレゼントの話から、自分がエロ本を所持しているか、していないかの話になっているのか?
双子だけでも、常にバカをやっているというのに、それに父が入ると、その威力は数倍だ。
「もう、私のプレゼントは……そんな、いかがわしいものじゃないからね!///」
「!」
すると、父を弟にかわかられながらも、リビングの引き出しからプレゼントらしきものを取り出してきた華は、飛鳥の前に立ち、恥ずかしそうに何かを差し出してきた。
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