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第2章 クリスマスの決意
第12話 アクシデントと笑顔
しおりを挟む突然響いたガラスの割れる音に、店内は一時騒然とした。
飛鳥と隆臣が、奥のキッチンの方を伺いみると、中から聞こえてきたのは、悲鳴とあわてふためくような声。
「大変、大丈夫!?」
その声を聞いて、隆臣は素早く思考を切り替えると、カウンターを抜け、キッチンに向かった。
中を確認すると、母の美里が、バイトの女の子を一人介抱していて、近くには、転がった鍋と割れた食器。
どうやら、注文の品をお客様に運ぶ際に、誤って、お湯の入った鍋をひっくり返してしまったようだった。
「大丈夫か!?」
「あ、すみませんっ、お皿が──」
鍋や店の皿を割ってしまったことに、バイトの女の子が申し訳なさそうに呟く。
だが隆臣は、腕に軽く熱湯を浴びてしまった女の子をみて、皿よりもこっちが大事と言わんばかりに、彼女をシンクまで移動させると、水道の水を服の上から浴びせ、直接冷やし始めた。
「店の物は気にしなくていいから、それより、跡が残るとまずいし、今すぐ病院にいったほうがいいな……」
「え、でもお店が……!」
クリスマスの忙しい時期、女の子が眉を下げ心配そうに隆臣を見上げると、その横から美里が声をかけてきた。
「大丈夫よ。それより早く診てもらわなきゃ。親御さんには私から連絡するし、隆臣、今すぐ病院に連れていってあげて」
「あぁ、分かった。とりあえず、氷と──」
キッチンから聞こえてくる慌ただしい声。飛鳥はカウンターから中の様子を伺いみると、一旦外にでて、また再び中に戻る。
すると、ちょうどそのタイミングで、隆臣が女の子を支えて、キッチンからでてきた。
「飛鳥、俺、今から病院に行ってくる」
「わかった。外にタクシー停めといたよ」
「おぉ、サンキュ! 助かる」
隆臣が女の子連れて、外に出る。すると、安心したのも束の間。今の騒ぎの間に、注文のチャイムや会計待ちの人が、わやわやと増え始めていることに気づく。
「すみませーん、注文いいですか~」
「あのー、ケーキ取りに来たんですけど…」
「店員さーん。さっきから呼んでるんだけどー」
アクシデントが起きたタイミングで、色々と忙しくなるのは、よくあることだが、この忙しいクリスマスのさなか、一気に二人も抜けたため、美里をはじめとした従業員は慌ててはじめていた。
「ちょっと、まだー?」
そして、カウンター前。飛鳥の側に立つ、30代くらいの女性客も、会計待ちをしているのだろう、顰め顔で、まだかまだかと、中にいる店員を急かしていた。
飛鳥はそれを見ると
「ねぇ──」
「!?」
その苛立つ女性客にむけ、にっこりと微笑みかけると、被っていたハットを取り、優しく語りかける。
「……順番に対応しますから、もう少しだけ、待っていただけませんか?」
「っ……は、はぃ//////」
綺麗な笑顔で、それも、とてつもなく整った顔立ちの美少年にそう言われ、女性客は顔を赤らめ黙りこむ。
すると、その女性客が落ち着いたのを確認し、飛鳥はそのままカウンターから中に入ると、キッチンにいる美里に声かけた。
「美里さーん、俺になにか手伝えることある?」
そう告げると、飛鳥は着ていたコートを脱ぎ、再びにっこりと微笑むのだった。
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