神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第2章 クリスマスの決意

第11話 喫茶店と彼女

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***


「あら、いらっしゃい飛鳥くん!」

「こんにちは。美里さん! ケーキ取りに来たよ♪」

 隆臣が働いている『喫茶店』につくと、カウンターで、一人の女性が出迎えてくれた。長くサラリとした赤毛の髪を緩く編み込み、横に流している40代くらいの女性。

 優しそうな雰囲気のその人の名は橘 美里たちばな みさと。隆臣の母であり、この店『喫茶 L'amuleラムール』のオーナーでもある。

 パティシエの資格も持っているらしく、美里みさと考案のケーキやデザートは、とても美味しいと評判で、その上、木目調でモダンな雰囲気の外観と、おしゃれなアンティーク調のテーブルやイスがバランスよく並んでいる店内は、男女どちらでも気兼ねなく入れるような、そんなセンスの良さを感じさせた。

 カウンター横のショーケースには、お持ち帰りできる定番のケーキやデザート。
 さらに、店内奥のパーティションで仕切られた空間は、半個室のような席にもなっているため、人目を避けたいサラリーマンや、勉強に専念したい学生はもちろん、何かと目立つ容姿をした飛鳥にとっても、この店は居心地がよく、よく利用しているのだ。

「夕方から雪になるって言ってたし、外、寒かったでしょう? わざわざ、ありがとうね?」

「いや、ここのケーキを美味しいか、。それに、厚着してきたから大丈夫だよ!」

 美里と話しながら、飛鳥はカウンターから客席をゆっくりと見回す。さながら人気のお店とあり、そこは、ほぼ満席状態だった。

「おい飛鳥。お前目立つんだから、もっと帽子深くかぶっとけ!」

「っ!?」

 すると、突然背後から、頭を強くを押さえつけられた。飛鳥はクリスマスの人混みを配慮し、今日は目立たないようにと、髪をまとめ、ハットを被ってきたのだが

「こら、隆臣。ダメじゃない乱暴なことしちゃ!」

「母さんも話してないで、ケーキ」

「もー」

 いきなり、友人の頭を押さえつけた息子の対応に、美里が困り顔で叱咤しったする。
 だが、それも簡単にあしらわれてしまい、美里は腑に落ちないながらも「飛鳥くん、ごめんね」といい残すと、予約をしたケーキを取りに、カウンターの奥へと消えていった。

「今、休憩中?」
「あぁ」

 飛鳥が隆臣に声をかければ、隆臣はちょうど休憩中だったらしい。

 だが、今ここにいるということは、飛鳥が店に来たのに気づいて、わざわざカウンター前まで出てきてくれたのだろう。

 バイトをしている姿は、あまり見たことがなかったが、今の隆臣は、清潔感のある白のシャツの上に黒のネクタイとベスト。そして、腰下からのサロンエプロンをして、しっかりとウェイターの格好をしていた。

「似合わないね~、それ」

「うるせー」

 珍しい姿に、飛鳥が冷やかし混じりそう言うと、隆臣が軽く受け流す。

 決して「似合ってない」訳ではないのだ。

 むしろ、その姿は誰が見ても「喫茶店で働くカッコイイお兄さん」なのだが、逆に「似合ってる」だなんて言うのも、言われるのも、長い付き合いの二人には、小っ恥ずかしいセリフだった。

「バイトどう? 忙しい?」

「見てわかんねーのか? まーまー繁盛してるよ」

「美里さん、嬉しそうだね? 隆ちゃんがいてくれて」

「子離れできてねーからな。うちの母さん」

「一人っ子だしね、仕方ないよ。うちのも早くしてくれると、いいんだけど……」

そう言って、飛鳥がほがらかに笑う。

「……のお前が、それ言うか?」

「なにそれ。ちょっと、聞き捨てならないんだけど?」

「言葉の通りですが? 

「……」

 その言葉に、飛鳥は言葉を詰まらせると、その後、不機嫌そうに隆臣を睨みつけた。

 どうやら、地雷だったらしい…

「顔、怖いぞ」

「……」

 だが、飛鳥も少し自覚しているところがあるのか、その後ふぃっと、隆臣から視線を逸らすと

「……まぁ、確かに……そう、かもね」

と、小さく呟いた。

 その声は、店の音にかき消されてしまうほどの小さな声だったが、隆臣にはしっかりと届いたようだった。

 飛鳥の言葉を聞いて、隆臣は目を細めると、カウンターにもたれかかり、ため息とついた飛鳥の言葉に、静かに耳を傾ける。

「最近、ちょっとおかしいんだよね、蓮華れんげたち。バカやってんのは、いつもと変わらないけど……」

「おかしいって?」

「いきなり『もう子供じゃないから』とか言ってきたり」

「子供扱いするからろ?」

「だって、子供だし」

「あねなぁ、華と蓮ももうすぐ高校生だろ? いつまでもお前に甘えてる訳にもいかないと思って、大人になろうとしてるんじゃないのか?」

「大人、ねぇ……」

 飛鳥は、華と蓮の姿を思い返し眉をひそめた。

 もしそうだとして、今まで散々甘えてきたのに、あの二人に一体どのような心境の変化があったのか?

「あ……そういえば、いきなり『なんで彼女作んないの?』とか聞いてきたんだよね?あと『気を使わなくていいいからとか?」

「ふーん……それって、お前が彼女作らないの、って思ってるんじゃないのか?」

「え?」

「モテるのに、彼女作らないお前が不思議で仕方ないんだろ? それにあいつら、こと知らないんだろ?なら、心配にもなるだろ。実際にここ数年、彼女いないし……なんで作らないんだよ、彼女?」

「……別に、作らないわけじゃないよ、ただ──」

「ただ?」

 飛鳥は顎に手を当て考えこむと、目を伏せ真剣な顔をした。

「……俺、女の子と付き合っても、って一切思えないんだよね」

「………」

「正直、好きになるとか、よくわかんないし、なんか色々めんどくさいし、わざわざ彼女作る気になれないって言うか……」

「………」


 ──マジかよ

 隆臣は、心の中で突っ込む。

 確かに飛鳥は、小学生の時からあまり恋愛には関心がない。告白されても、そのほとんどが「おととい来い」状態。

 だが、中身はともかく、外見はずば抜けてイイため、今まで散々、他人からを向けられ続けてきた。

 そのせいなのかは分からないが、どうやら『自分の愛情』の矛先が他人ではなく、全て『家族』に向かっているのかもしれない。

「飛鳥! お前ダメだわ!? それはヤバいわ! 完全にこじらせてるわ! とりあえずお前には、本当に好きになった子にフラれる呪いかけとくから!!」

「は?なに言ってんの!?」

「こんな兄を見てたら、そりゃ悩むわ。早く大人にならなきゃーとか思うわ」

「あのさ、さっきからなんなの? ケンカ売ってんの?」

「いやいや……だって、お前──」


ガシャーン!!!

「「!?」」

 だがその瞬間、二人の耳に突如ガラスが割れるような音が響いた。


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