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第2章 クリスマスの決意
第11話 喫茶店と彼女
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「あら、いらっしゃい飛鳥くん!」
「こんにちは。美里さん! ケーキ取りに来たよ♪」
隆臣が働いている『喫茶店』につくと、カウンターで、一人の女性が出迎えてくれた。長くサラリとした赤毛の髪を緩く編み込み、横に流している40代くらいの女性。
優しそうな雰囲気のその人の名は橘 美里。隆臣の母であり、この店『喫茶 L'amule』のオーナーでもある。
パティシエの資格も持っているらしく、美里考案のケーキやデザートは、とても美味しいと評判で、その上、木目調でモダンな雰囲気の外観と、おしゃれなアンティーク調のテーブルやイスがバランスよく並んでいる店内は、男女どちらでも気兼ねなく入れるような、そんなセンスの良さを感じさせた。
カウンター横のショーケースには、お持ち帰りできる定番のケーキやデザート。
さらに、店内奥のパーティションで仕切られた空間は、半個室のような席にもなっているため、人目を避けたいサラリーマンや、勉強に専念したい学生はもちろん、何かと目立つ容姿をした飛鳥にとっても、この店は居心地がよく、よく利用しているのだ。
「夕方から雪になるって言ってたし、外、寒かったでしょう? わざわざ、ありがとうね?」
「いや、ここのケーキを美味しいか、。それに、厚着してきたから大丈夫だよ!」
美里と話しながら、飛鳥はカウンターから客席をゆっくりと見回す。さながら人気のお店とあり、そこは、ほぼ満席状態だった。
「おい飛鳥。お前目立つんだから、もっと帽子深くかぶっとけ!」
「っ!?」
すると、突然背後から、頭を強くを押さえつけられた。飛鳥はクリスマスの人混みを配慮し、今日は目立たないようにと、髪をまとめ、ハットを被ってきたのだが
「こら、隆臣。ダメじゃない乱暴なことしちゃ!」
「母さんも話してないで、ケーキ」
「もー」
いきなり、友人の頭を押さえつけた息子の対応に、美里が困り顔で叱咤する。
だが、それも簡単にあしらわれてしまい、美里は腑に落ちないながらも「飛鳥くん、ごめんね」といい残すと、予約をしたケーキを取りに、カウンターの奥へと消えていった。
「今、休憩中?」
「あぁ」
飛鳥が隆臣に声をかければ、隆臣はちょうど休憩中だったらしい。
だが、今ここにいるということは、飛鳥が店に来たのに気づいて、わざわざカウンター前まで出てきてくれたのだろう。
バイトをしている姿は、あまり見たことがなかったが、今の隆臣は、清潔感のある白のシャツの上に黒のネクタイとベスト。そして、腰下からのサロンエプロンをして、しっかりとウェイターの格好をしていた。
「似合わないね~、それ」
「うるせー」
珍しい姿に、飛鳥が冷やかし混じりそう言うと、隆臣が軽く受け流す。
決して「似合ってない」訳ではないのだ。
むしろ、その姿は誰が見ても「喫茶店で働くカッコイイお兄さん」なのだが、逆に「似合ってる」だなんて言うのも、言われるのも、長い付き合いの二人には、小っ恥ずかしいセリフだった。
「バイトどう? 忙しい?」
「見てわかんねーのか? まーまー繁盛してるよ」
「美里さん、嬉しそうだね? 隆ちゃんがいてくれて」
「子離れできてねーからな。うちの母さん」
「一人っ子だしね、仕方ないよ。うちのも早く兄離れしてくれると、いいんだけど……」
そう言って、飛鳥がほがらかに笑う。
「……シスコンでブラコンのお前が、それ言うか?」
「なにそれ。ちょっと、聞き捨てならないんだけど?」
「言葉の通りですが? 依存気味のお兄様」
「……」
その言葉に、飛鳥は言葉を詰まらせると、その後、不機嫌そうに隆臣を睨みつけた。
どうやら、地雷だったらしい…
「顔、怖いぞ」
「……」
だが、飛鳥も少し自覚しているところがあるのか、その後ふぃっと、隆臣から視線を逸らすと
「……まぁ、確かに……そう、かもね」
と、小さく呟いた。
その声は、店の音にかき消されてしまうほどの小さな声だったが、隆臣にはしっかりと届いたようだった。
飛鳥の言葉を聞いて、隆臣は目を細めると、カウンターにもたれかかり、ため息とついた飛鳥の言葉に、静かに耳を傾ける。
「最近、ちょっとおかしいんだよね、蓮華たち。バカやってんのは、いつもと変わらないけど……」
「おかしいって?」
「いきなり『もう子供じゃないから』とか言ってきたり」
「子供扱いするからろ?」
「だって、子供だし」
「あねなぁ、華と蓮ももうすぐ高校生だろ? いつまでもお前に甘えてる訳にもいかないと思って、大人になろうとしてるんじゃないのか?」
「大人、ねぇ……」
飛鳥は、華と蓮の姿を思い返し眉を顰めた。
もしそうだとして、今まで散々甘えてきたのに、あの二人に一体どのような心境の変化があったのか?
「あ……そういえば、いきなり『なんで彼女作んないの?』とか聞いてきたんだよね?あと『気を使わなくていいいからとか?」
「ふーん……それって、お前が彼女作らないの、自分たちのせいだって思ってるんじゃないのか?」
「え?」
「モテるのに、彼女作らないお前が不思議で仕方ないんだろ? それにあいつら、昔、お前に彼女がいたこと知らないんだろ?なら、心配にもなるだろ。実際にここ数年、彼女いないし……なんで作らないんだよ、彼女?」
「……別に、作らないわけじゃないよ、ただ──」
「ただ?」
飛鳥は顎に手を当て考えこむと、目を伏せ真剣な顔をした。
「……俺、女の子と付き合っても、あいつら以上に大切にしたいって一切思えないんだよね」
「………」
「正直、好きになるとか、よくわかんないし、なんか色々めんどくさいし、わざわざ彼女作る気になれないって言うか……」
「………」
──マジかよ
隆臣は、心の中で突っ込む。
確かに飛鳥は、小学生の時からあまり恋愛には関心がない。告白されても、そのほとんどが「おととい来い」状態。
だが、中身はともかく、外見はずば抜けてイイため、今まで散々、他人から一方的な好意を向けられ続けてきた。
そのせいなのかは分からないが、どうやら『自分の愛情』の矛先が他人ではなく、全て『家族』に向かっているのかもしれない。
「飛鳥! お前ダメだわ!? それはヤバいわ! 完全にこじらせてるわ! とりあえずお前には、本当に好きになった子にフラれる呪いかけとくから!!」
「は?なに言ってんの!?」
「こんな兄を見てたら、そりゃ悩むわ。早く大人にならなきゃーとか思うわ」
「あのさ、さっきからなんなの? ケンカ売ってんの?」
「いやいや……だって、お前──」
ガシャーン!!!
「「!?」」
だがその瞬間、二人の耳に突如ガラスが割れるような音が響いた。
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