504 / 507
最終章 愛と泡沫のアヴニール
第472話 合流とシスコン
しおりを挟む夏の夕景色は、とても風流だった。
赤から紫に変わるコントラスト。それが美しく空を彩り、情緒あふれる風景を描き出す。
そして、どこからか風鈴の音が響けば、町をすり抜ける風が、夏の暑さを和らげてくれた。
「華、めちゃくちゃ綺麗になってない?」
そして、約束通り、華たちを迎えに行った神木家一行は、無事に紺野家と合流し、夏祭り会場である榊神社へ向かっていた。
そして、先導する華とエレナの後ろで、蓮がひそかに呟く。
いつもは天真爛漫で、女らしさなんて微塵も感じさせない華が、この数時間のうちに、上品なお嬢様みたいになっていたからだ。
「なんで、あんなに変わってんの? 浴衣って、すごいね」
「浴衣が凄いっていうよりは、化粧をしてるからじゃない?」
蓮の言葉に、飛鳥がさらりと答えた。
だが、平然と答えつつも、お兄ちゃんだって、これには驚いていた。
というか、予想外の事態だ。
まさか、紺野家で、化粧までしていたなんて!?
「多分、ミサさんにしてもらったと思うよ。華は、メイク下手だし」
「あー……なるほど。確かに、ミサさんって、めちゃくちゃメイク上手そう。兄貴もしてもらったことあるの?」
「ないよ。俺はまだ子供だったし。それに、撮影する時は、いつもメイクさんが……て、俺の話はいいよ」
どさくさに紛れて、モデル時代のことを聞き出され、飛鳥はとっさに言葉を噤《つぐ》んだ。
だが、昔は、話題にするのすら嫌だったが、今は、そうでもない。
これも、きっと、華と蓮に全てを打ち明けたからなのだろう。
「それより、夏祭り、大丈夫かな?」
すると、また蓮が不安げに呟き
「あんなに綺麗になって、ナンパとかされたらどうする?」
「ホント。エレナだけでも心配だってのに、何でわざわざ心配ごとを増やしてくるかな?」
「お前ら、相変わらず、シスコンだな」
すると、二人の会話を聞いていた隆臣が、呆れながら、そう言って
「いい加減、そのシスコン治せ。それに、せっかく綺麗になってるんだから、素直に褒めてやれよ」
「ダメだよ、隆臣さん! 褒めたら、華のやつ、絶対、図に乗るから!」
「そうそう。それに、ただでさえ可愛いのに、更に可愛くなったらどうすんの? 大体、隆ちゃんも知ってるでしょ。俺たちが、今まで、どんな思いで悪い虫を排除してきたか」
「……あぁ、お前らのせいで、華のことを諦めた男子が、たくさんいるのは知ってる」
なんとも気の毒な話だ。
邪魔をしなければ、華もそこそこモテただろうに、こんなにも重度のシスコン兄弟がいたせいで、華は自分は全くモテないと思い込んでいる!
「まぁ、妹(姉)が大切なのは分かるが、華も高校生なんだから、メイクくらい許してやれよ」
「えー。でも、化粧って必要? 社会人になるまではしなくていいんじゃない?」
「つーか、文句があるなら、俺じゃなくて、化粧したミサさんに言えよ!」
「……っ」
だが、突如、痛いところをつかれ、飛鳥と蓮は黙り込んだ。
あのミサさんに!?
そんなの、絶対に言えるわけない!!
だが、これは仕方ないことでもある。
なぜなら、未だにどう接するべきか、手探り状態なのだ。
余計なことを言ったら、せっかく打ち解けたこの空気ですら、あっさり壊れてしまいそう。
なにより、良かれと思ってしてくれたとこに、感謝こそすれど、文句を言うつもりはない。
妹が綺麗になるのは、決して悪いことではないのだ。
そう、これは完全に、兄と弟の心情的な問題だ!!
ちなみに、その化粧をしてくれたであろうミサは、列の後方で、侑斗と二人で歩いていた。
あれは、あれで、飛鳥には複雑な光景だった。
泥沼の離婚劇の末、最悪な別れ方をした自分の両親が、にこやかに並んで歩いているのだから──…
(……なんか、変な感じ)
前方には、化粧をして大人っぽくなった華と、浴衣を着て楽しそうに笑うエレナがいる。
そして、横には、去年より背が伸びた蓮。
更に後方には、もう二度と接触しないと思っていた侑斗とミサ。
昨年の夏祭りとは、大違いだ。
しかも、一年前は、兄妹弟《きょうだい》三人で夏祭りに来たのに対し、今回は、かなりの大所帯。
そして、それぞれ間隔をあけて、進んでいるにもかかわらず、これだけの美形集団が群れでやってきたからか、かなり人目を引いていた。
「ねぇ、あの人たち、なんの集まり?」
「芸能人か何か?」
「私、知ってる、神木さんちの子達よ。長男の飛鳥くんが、めちゃくちゃ美人で」
「あー、あの真ん中の子でしょ!」
「そうそう! でも、顔立ちが似てる女の子が二人もいるよね? 誰だろう?」
「従兄弟とか、親戚じゃない?」
「あー、そうかも!!」
街ゆく人々が、ちらほらと飛鳥たちを見て話をする。
しかも、その話の中で、ミサを飛鳥の母親だという人は誰一人としていなかった。
そして、その話を聞き、隆臣が呟く。
「飛鳥も大概だが、ミサさんもスゲーな」
「まぁ、見た目は20代だし、顔は俺とほぼ同じ作りだしね」
「つーか、お前も40代になったら、ミサさんみたいになるのか?」
「そんなわけないじゃん。もっと渋《しぶ》めの紳士になってるよ」
「どうだか? お前、けっこう童顔だし」
「っ……うるさいな! そういう隆ちゃんは、ハゲてんじゃない?」
「なんでだよ!? 俺の親父、ハゲてねーし!」
確かに、隆臣の父・昌樹は、ハゲてないし、あの親に似たとしたら、隆臣も、それなりにダンディなおじ様になるだろう。
そして、それは、線が細い飛鳥からしたら、羨ましいくらいだった。
だが、そんな感じで、賑やかに雑談を繰り返していると、飛鳥たちは、あっという間に神社に辿り着いた。
祭りの会場である榊神社は、人々で賑わい、活気にあふれていた。
赤い鳥居をくぐれば、その先は、幻想的な世界が広がる。
参道を暖かく照らすのは、ユラユラと揺らめく灯篭だ。
中のライトの色が違うのか、色とりどりの灯《あか》りが、点々と灯り、その光は、神様のいるお社まで続いていた。
「わぁ、綺麗~」
「エレナちゃん、今日は、いっぱい遊ぼう~!」
そして、初めて夏祭りに訪れたエレナが、まさに天使のような笑顔を浮かべれば、それに続き、華が意気揚々とした声を上げ、さっきまでの奥ゆかしい姿は、あっさり消え失せた。
いくら、見た目がお嬢様らしくなっても、中身は、いつもの華のまま。
だからか、飛鳥と蓮は、ちょっとだけ安心する。
((……あれなら、大丈夫そう))
「神木くーん!!」
「久しぶり~!」
するとそこに、今度は、数人の女子たちが声をかけてきた。
浴衣やオシャレな服装で、わらわらと集まって来た女子たち。
そして、彼女らは、飛鳥が通う桜聖福祉大学で、同じく教育学部を専攻している女子大生たちだった。
1
お気に入りに追加
168
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる