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第2章 クリスマスの決意
第8話 プレゼントと疑惑
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その日の放課後。
華は、自宅に帰宅し、少しだけおめかしをしたあと、友人の「葉月」と近くのショッピングモールに訪れていた。
「あー、これ可愛い~」
お気に入りの雑貨屋へ入ると、キラキラと輝くアクセサリーや、キュートなぬいぐるみなど、まさに女の子が喜びそうなアイテムが、ところ狭しと並んでいた。
「葉月はもう決まった?」
「あー決まったよ」
華が声をかけた少女の名は『中村 葉月』
華の友人であり、よき理解者でもある彼女は、華と同じ高校を受ける、現在中学3年生の受験生だ。
葉月は、自分の少し癖のあるショートヘアに似合いそうなヘアアクセを物色しながら、いくつか選び出したアイテムを華に見せながら、明るく笑う。
葉月は、とてもサバサバした性格をしており、同級生からは「姉御」とあだ名がつけられるほど、明るく頼りがいがある女の子だ。
たまに、歯に衣を着せない発言をし、怖がられることもあるが、華はその飾らない彼女らしさをよく気に入っていた。
「今日はゴメンね。買い物付き合わせちゃって」
「別にいいよ。私も買い物したかったし。で?華は決まったの?」
「う~ん」
「てかさ、お兄さんへのプレゼント探すなら、こんなファンシーなお店じゃなくて、あっちの男性向けのお店の方がいいんじゃないの?」
「……」
葉月が、向かいの男性専門の店を指差し問いかけると、華は再び考え込む。
そう。実は今朝がた兄弟に話した「プレゼント交換」とは実は口実で、華は、来月訪れる、兄の誕生日のプレゼントを探すために、今日ここへやってきたのだ。
「ねぇ、葉月はお兄さんに、いつもなにプレゼントする?」
「うちはしないなー、せいぜい『おめでとう』言うくらい?」
「だよねー」
華も例にもれず、兄への誕生日プレゼントなんて、長らくしていなかった。
最後にしたのはいつだっただろう。多分、小学校の時の『手作り貯金箱』
あれ以来だ。
神木家は、誕生日やクリスマスは、いつもみんなでお祝いするが、プレゼントを用意するという習慣は、いつしかなくなっていた。
時折、兄弟とショッピングに出掛けた際に、好みの服やほしい雑貨などがあったときには「誕生日プレゼント」と称して、兄に買ってもらうことはあるが、このようにプレゼントをあらかじめ用意することはない。
だが、来月1月12日。
誕生日がくれば、兄は20歳になるのだ。
自分だって、いつまでも子供ではない。だからこそ、兄が成人する特別な日を祝して、今年こそプレゼントしようと華はおもったのだが……
「ダメだー!? 何がいいのか全然分かんない~」
男性の趣味もだが、兄の趣味もよくわからない。
かといって、男性専門店に足を踏み入れるのはちょっと勇気がいる。
「ねえ、これってスゴイ難題じゃない!? 飛鳥兄ぃって何が好きなの!大学生って何を欲しかるの!? もう一周回って、貯金箱とかの方がいいの!!?」
「落ち着きなさいって、てか、貯金箱って何?! 絶対いらないから!……ていうか、華が選んだものなら、なんでも喜んでくれるって、あのお兄さんなら!」
「……そう、かな~」
頭がショートしそうだ。
大体、今さらプレゼントなんて、こっ恥ずかしくて笑えてくる。
だが、確かに、葉月の言う通りかもしれない。
兄は、自分達から向けられた好意は、いつも素直に喜んでくれる人だ。
「そういえば、誕生日もだけど、年末年始は、華のパパさん、帰ってくんの?」
すると、また思い出したように葉月が問いかけてきた。華は、アクセサリーを手に取りながら、葉月の質問に答える。
「……お父さん?」
「うん。毎年、年末年始帰って来てるんでしょ?」
「うん。でも、今年はどうだろ? まだなんの連絡もないし」
「ふーん。もしかしたら今年は、家族で過ごせる最後のクリスマスかもしれないのにね~」
「え?」
葉月がキャッキャと顔を赤らめながら明るい声を放つと、華は意味がわからなかったのか、きょとんと目を丸くする。
「最後?」
「だってそうでしょ~クリスマスは恋人のイベントだもん! 私らも、もうすぐ高校生だし、来年のクリスマスは、もしかしたら彼氏と過ごしてるかもしれないじゃん!」
「………」
カレシ??
考えもしなかった。だが、確かにあり得ない話でもないのだ。
普通、恋人ができれば、クリスマスは恋人と過ごしたくなるのが通説だろう。
兄だって、蓮だって、いつ、そんな日が来てもおかしくない。
むしろそれが当たり前……
(そ、そう…だよね……蓮はともかく、飛鳥兄ぃなら、彼女なんて作ろうと思えばいくらでも作れるし、いつかは──…)
──あれ?
だが華は、今までのクリスマスを思い返し、ある疑問を抱く。
そういえば、あの人気者でモテる兄が、今までクリスマスや誕生日に不在にしたことなど一度もなかった。
彼女はいなかったのかもしれないが、友人と過ごすということもなく
いつも必ず、兄は家にいて、父と共にケーキと温かい料理を用意してくれた。
(あれ、もしかして……飛鳥兄ぃが、彼女を作らないのって──)
「華、どうした?」
呆然と立ち尽くしている華の表情が微かに曇ったのを見て、葉月が心配そうに声をかける。
「あ。いや、彼氏なんて考えてなかったから、ちょっとビックリしただけ!」
「あはは。まー今は、彼氏より目の前の受験だけどね~?」
葉月はそう言って笑うと、その後、先に会計してくると選んでいたヘアアクセを手に、レジへと向かった。
華はその姿を見届けると、再び視線を落とし、目の前にあったバレッタを手に取った。
(そういえば、飛鳥兄ぃと、今朝これでケンカしたっけ?)
手にしたバレッタは、兄によく似合いそうだと思った。
まさか、そんなこと
あの兄に限ってあり得ない。
いつか、大切な人ができたら
きっと、ニコニコ笑いながら
あの家を、出ていくに違いない。
華は手にしていたバレッタをみつめると、願うように、ゆっくり目を閉じるのだった。
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