神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第2章 クリスマスの決意

第8話 プレゼントと疑惑

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***

その日の放課後。

華は、自宅に帰宅し、少しだけおめかしをしたあと、友人の「葉月」と近くのショッピングモールに訪れていた。

「あー、これ可愛い~」

お気に入りの雑貨屋へ入ると、キラキラと輝くアクセサリーや、キュートなぬいぐるみなど、まさに女の子が喜びそうなアイテムが、ところ狭しと並んでいた。

「葉月はもう決まった?」

「あー決まったよ」

華が声をかけた少女の名は『中村 葉月なかむら はづき

華の友人であり、よき理解者でもある彼女は、華と同じ高校を受ける、現在中学3年生の受験生だ。

葉月は、自分の少し癖のあるショートヘアに似合いそうなヘアアクセを物色しながら、いくつか選び出したアイテムを華に見せながら、明るく笑う。

葉月は、とてもサバサバした性格をしており、同級生からは「姉御」とあだ名がつけられるほど、明るく頼りがいがある女の子だ。

たまに、歯に衣を着せない発言をし、怖がられることもあるが、華はその飾らない彼女らしさをよく気に入っていた。

「今日はゴメンね。買い物付き合わせちゃって」

「別にいいよ。私も買い物したかったし。で?華は決まったの?」

「う~ん」

「てかさ、探すなら、こんなファンシーなお店じゃなくて、あっちの男性向けのお店の方がいいんじゃないの?」

「……」

葉月が、向かいの男性専門の店を指差し問いかけると、華は再び考え込む。

そう。実は今朝がた兄弟に話した「プレゼント交換」とは実は口実で、華は、来月訪れる、兄の誕生日のプレゼントを探すために、今日ここへやってきたのだ。

「ねぇ、葉月はお兄さんに、いつもなにプレゼントする?」

「うちはしないなー、せいぜい『おめでとう』言うくらい?」

「だよねー」

華も例にもれず、兄への誕生日プレゼントなんて、長らくしていなかった。

最後にしたのはいつだっただろう。多分、小学校の時の『手作り貯金箱』
あれ以来だ。

神木家は、誕生日やクリスマスは、いつもみんなでお祝いするが、プレゼントを用意するという習慣は、いつしかなくなっていた。

時折、兄弟とショッピングに出掛けた際に、好みの服やほしい雑貨などがあったときには「誕生日プレゼント」と称して、兄に買ってもらうことはあるが、このようにプレゼントをあらかじめ用意することはない。

だが、来月1月12日。
誕生日がくれば、兄は20歳になるのだ。

自分だって、いつまでも子供ではない。だからこそ、兄が成人する特別な日を祝して、今年こそプレゼントしようと華はおもったのだが……

「ダメだー!? 何がいいのか全然分かんない~」

男性の趣味もだが、兄の趣味もよくわからない。

かといって、男性専門店に足を踏み入れるのはちょっと勇気がいる。

「ねえ、これってスゴイ難題じゃない!? 飛鳥兄ぃって何が好きなの!大学生って何を欲しかるの!? もう一周回って、貯金箱とかの方がいいの!!?」

「落ち着きなさいって、てか、貯金箱って何?! 絶対いらないから!……ていうか、華が選んだものなら、なんでも喜んでくれるって、あのお兄さんなら!」

「……そう、かな~」

頭がショートしそうだ。

大体、今さらプレゼントなんて、こっ恥ずかしくて笑えてくる。

だが、確かに、葉月の言う通りかもしれない。

兄は、自分達から向けられた好意は、いつも素直に喜んでくれる人だ。



「そういえば、誕生日もだけど、年末年始は、華のパパさん、帰ってくんの?」

すると、また思い出したように葉月が問いかけてきた。華は、アクセサリーを手に取りながら、葉月の質問に答える。

「……お父さん?」

「うん。毎年、年末年始帰って来てるんでしょ?」

「うん。でも、今年はどうだろ? まだなんの連絡もないし」

「ふーん。もしかしたら今年は、かもしれないのにね~」

「え?」

葉月がキャッキャと顔を赤らめながら明るい声を放つと、華は意味がわからなかったのか、きょとんと目を丸くする。

「最後?」

「だってそうでしょ~クリスマスは恋人のイベントだもん! 私らも、もうすぐ高校生だし、来年のクリスマスは、もしかしたらと過ごしてるかもしれないじゃん!」

「………」

カレシ??

考えもしなかった。だが、確かにあり得ない話でもないのだ。

普通、恋人ができれば、クリスマスは恋人と過ごしたくなるのが通説だろう。

兄だって、蓮だって、いつ、そんな日が来てもおかしくない。

むしろそれが当たり前……

(そ、そう…だよね……蓮はともかく、飛鳥兄ぃなら、彼女なんて作ろうと思えばいくらでも作れるし、いつかは──…)



──あれ?

だが華は、今までのクリスマスを思い返し、を抱く。

そういえば、あの人気者でモテる兄が、今までクリスマスや誕生日に不在にしたことなど

彼女はいなかったのかもしれないが、友人と過ごすということもなく

いつも必ず、兄は家にいて、父と共にケーキと温かい料理を用意してくれた。


(あれ、もしかして……飛鳥兄ぃが、彼女を作らないのって──)




「華、どうした?」

呆然と立ち尽くしている華の表情が微かに曇ったのを見て、葉月が心配そうに声をかける。

「あ。いや、彼氏なんて考えてなかったから、ちょっとビックリしただけ!」

「あはは。まー今は、彼氏より目の前の受験だけどね~?」

葉月はそう言って笑うと、その後、先に会計してくると選んでいたヘアアクセを手に、レジへと向かった。

華はその姿を見届けると、再び視線を落とし、目の前にあったバレッタを手に取った。

(そういえば、飛鳥兄ぃと、今朝これでケンカしたっけ?)

手にしたバレッタは、兄によく似合いそうだと思った。


まさか、そんなこと

あの兄に限ってあり得ない。


いつか、大切な人ができたら

きっと、ニコニコ笑いながら



あの家を、出ていくに違いない。




華は手にしていたバレッタをみつめると、願うように、ゆっくり目を閉じるのだった。



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