神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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最終章 愛と泡沫のアヴニール

第458話 父と朗報

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「ただいまー! 愛しい愛しい、我が子達~!」

 それから暫くし、お盆を迎えた頃──

 神木家の父である侑斗が、ロサンゼルスから帰国した。

 現在47歳。年の割に若々しい侑斗の見た目は、今も健在だが、ついでに言えば、この暑苦しいテンションも、変わらないままだった。

「ほーら、華、蓮おいで! ぎゅーしよう! ギュー!」

 リビングに入るなり、大きく手を広げ、子供たちが飛び込んでくるのを待つ侑斗。

 だが、もう高校生になった双子が、飛び込んでいくはずがなく

「もう、帰ってくる度に、それするのやめてよ! エレナちゃんがいる時、めちゃくちゃ恥ずかしかったんだから!」

「そうだよ! 俺たち、もう高校生なんだけど!!」

「なんだと! 帰ってきたばかりのパパに、その反応は、ないだろ!? 飛鳥なら、素直に抱きつかせてくれるぞ!!」

「!?」

 すると、あっさり双子にあしらわれた侑斗は、その後、飛鳥に抱きついた。

 華奢な飛鳥は、侑斗の腕の中に、すっぽり収まって、長い髪から漂うフローラルな香りに包まれた瞬間、とてつもなく癒される。

 だが、毎度のごとく抱きつかれた飛鳥は、受け入れつつも、辛辣な言葉を放つ。

「父さん、暑い。それに、俺もそろそろ、やめたいかな? こーゆーの」

「!?」

 リビングは冷房が効いていて、涼しいはずなのに、父が入って来た瞬間、温度が増した気がした。

 だからか、飛鳥まで塩対応で返せば、侑斗は、あぁ…と嘆き悲しみ、よろよろと飛鳥から離れる。

「はぁ、そうだよなぁ……分かってるんだよ、俺だって、もうやめなきゃなって……でもさ、久しぶりに会ったら、やっぱり嬉しくなるじゃん。我が子だよ? いくつになっても俺の子だよ? それなのに、あーあー、みんな大きくなっちゃったなー! 俺が、ロスに行ってる間に!!」

「………」

 なんだこれは?
 いつもに増して、面倒臭いぞ。

 だが、離れ離れで、一人で暮らしている父だ。
 孤独な時間が長いだけあり、我が子に合えば、抱きしめたくもなるだろう。

 そんなわけで、三人は無言のまま父を哀れむが、その後、侑斗は、嘆いていた顔をパッと明るくして

「でもなー。お父さん、来年の春に、日本に帰れることになりました!」

「「「え?」」」

 その言葉に、3人が同時に声を上げる。

 侑斗は、双子が中学1年生、飛鳥が高校3年生の時に、ロサンゼルスへの海外転勤が決まった。

 だが、それから約4年がたち、どうやら、ロスでの海外赴任終え、日本に帰ってくることになったらしい。

「うそ! ホント!? 帰って来れるの!?」

「あぁ。先日、正式にきまったんだ。だから、春からは、また4人で暮らせるからな」

「……っ」

 父が、帰ってくる。
 それを聞いて、兄妹弟は、素直に喜んだ。

 どんなに暑苦しい父でも、自分たちにとっては、たった一人の父なのだから──

「やったー! お父さん、やっと帰ってこれるんだー」

「……!」

 瞬間、感極まった華が、侑斗に抱きついた。

 さっきは嫌だと言っておきながら、こうして抱きついてきてくれる。

 無邪気で可愛い娘に、ジーンとしながらも、侑斗は、よしよしと華の頭を撫でる。

 だが、抱きつかれたら抱きつかれたで、華の成長を感じて、しんみりしてしまう。

(華のやつ。また一段と、ゆりに似てきたなぁ…)

 背丈が伸びるにつれて、母親の面影を宿すようになった。きっと、髪が伸びだら、更に似てくるかもしれない。
 
 なにより、華はもう高校二年生。

 ゆりが、自分と結婚した年齢と、そう変わらなくなっていることに気づいて、侑斗は、無性に寂しくなった。

 なにより、こんなに可愛い娘なのだ!
 すぐにでも、彼氏を紹介されそう!!

「はぁ……お父さん、泣きそう」

「え? なんで? 」

「華に抱きつかれて、嬉しくて泣きそうになってるんじゃない?」

「うわっ! なにそれ! やっぱ、抱きつかなきゃ良かったー!!」

「いや、違うから!」

「はいはい、静かにして!」

 ギャーギャーうるさい双子と父の間に割り込み、飛鳥が静止する。

 相変わらず、賑やかな我が家だ。だが、こうして賑やかになるのも、父が帰ってくればこそ。

 飛鳥は、久しぶりに帰国した父を見つめると

「お帰り、父さん」

 そう言って、改めて微笑むと、それに続いて

「「おかえり!」」

 と、双子たちも声を合わせた。

 侑斗は、そんな子供達の笑顔を見て、我が家に帰ってきたのだと、しみじみ思ったのだった。


 ◇

 ◇

 ◇


 そして、それから、時間が過ぎ去り。
 深夜11時になった頃──

「飛鳥、ちょっと付き合え」

  双子たちが寝静まったあと、風呂上がりの飛鳥に、侑斗が声をかけた。

 金色の長い髪を下ろした飛鳥は、湿った髪をタオルで拭き取りながら、父を見つめる。

「なに?」

「何って、わかるだろ。晩酌ばんしゃく、付き合って」

「………」

 そう言ってニッコリ笑った侑斗は、飛鳥の前に、冷えたビールを差し出してきた。
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