神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

文字の大きさ
上 下
472 / 509
第11章 恋と雨音

第444話 悩み事と傘

しおりを挟む

「あかりちゃん!」

 いきなり大野に声をかけられ、あかりは震え上がった。

「お……大野さん」
 
「今日だったよね、デート!」
 
「そ、そうですね」

 本気で盗聴器でも仕掛けられてるんじゃないか?

 そう疑いたくなるほど、絶妙なタイミングでやってきた大野さん!

 オマケに、デートのことを聞かれ、あかりはじわりと汗をかいた。

 これで『ドタキャンされたから、今から一人で映画を見に行きます!』なんて言ったら、大変なことになりそう!!

「あれ? 神木くんは? 迎えには来ないの?」

「え!? あ、えと、今日は、駅で待ち合わせをしてるんです!」

「待ち合わせ? しかも、駅?」

「は、はい。隣町の映画館まで行くので」

「隣町!? なんで!? 映画館なら、こっちにもあるよ!」

「そ、そうなんですが……私たち、付き合ってることを、内緒にしてるので」

「……へー」

 なんだ、その意味深な「へー」は。

 できるなら、もう何も聞かないでほしい!
 じゃなきゃ、いつか墓穴を掘りそうだ!

「やっぱり、人気者と付き合うのって大変なんだね」

「え?」

「だって、デートするのに、隣町までいかなきゃいけないんでしょ? 大学では、トップクラスのイケメンだろうし、夏祭りでは、女子に囲まれてたし、隠れて付き合うって、やっぱ大変なんだなって」

「そ……そうですね」

 そんなの、分かってはいたことだった。
 ずっと前から、彼は雲の上にいるような人だと。

(本当……どうして、そんな人が、私なんか好きになってるんだろう?)

 酷く現実ばなれした話だ。
 まるで、アイドルや芸能人と付き合うようなもの。

 でも、その誰もが憧れる位置に、何故か今、私が立ってる。

(私なんかが、神木さんとデートなんてしてたら、きっと、顰蹙《ひんしゅく》ものだよね?)

 ある意味、デートがなくなって、良かったのかもしれない。

 どう見たって、彼に、選ばれるべき相手は──私じゃないから。

「あかりちゃん?」

「え?」

「なにか思い詰めてる? 悩みがあるなら、俺、いつでも」

「いいえ! ありません!! じゃぁ、私は行きますね! デートに遅刻するといけないので」

 すると、あかりは、スタスタと大野から逃げ、アパートから去った。

 パタパタと小走りで、待ち合わせ場所である駅を目指す。

 だが、その足取りは、ゆっくりと速度が落ち、その後、ピタリととまった。

(また、雨が降りそう……っ)

 空を見上げれば、晴れていた空が、すこし霞みがかっているのに気づいた。

 雲がかかり始めた空は、雨を連れてきそうな嫌な空。

(降らなきゃいいな……雨)

 そんなことを思いながら、あかりは、再び歩き出す。

 たった一人で、映画を見るために──



 ◇

 ◇

 ◇



(あ……しまったッ)

 そして、昼食時間に差し掛かった桜聖高校では、兄にずっとメッセージを送りつづけていた華は、教室の中で青ざめていた。

(どうしよう……私、傘、忘れてる!)

 二階の窓から外を見れば、パラパラと雨が降っていた。そして、それを見て、気づいたのだ。

 鞄の中に、折り畳み傘が入れていなかったということに!!

(うそでしょ! 私、昨日、蓮に注意したばかっかりなのに~!)

 なんとも見本にならない姉である。

 しかも、これで、蓮と同じような濡れて帰ったりしたら、兄から、なにをいわれるか!?

(どうか、帰りに雨が降りませんように!)

 すると、華は今後の天気をいのりつつ、兄が作ったお弁当を鞄から取り出した。

 帰りに降らなければ、傘を使わない。
 だから、ギリギリセーフだろう。

 そんなことを考えつつ、華は、お弁当を広げた。

(お兄ちゃん、デート行ったかな?)

 そして、お弁当を見て思い出したのは、やはり兄のことだった。

 あの後、デートはいっただろうか?
 
 午前中の授業を終え、今は、お昼時間。

 デートにいったとしたら、今頃、兄も、あかりさんとお昼をたべている頃だろう。

(うーん……気にはなるけど、これ以上、水を差すわけにはいかないし)

 どうなったのか、すごく気になる。

 だが、デート中に、LIMEを送りまくって、兄の邪魔をするわけにはいかない。

 そして、心配事は更に続いた。

(蓮の熱も下がったかな? ご飯も、ちゃんと食べれてればいいけど)

 双子の弟のことも、やはり心配で仕方なくて、こんな調子だからか、華は、朝から、ずっとため息ばかりついていた。

 なにより、双子の片割れが、一緒にいないのは、どうにも落ち着かない。

 そして、コロコロと百面相を繰り返す華の表情は、まるで、今日の空模様のように不安定だった。

「華。アンタ、まだ、飛鳥さんのこと悩んでるの?」

 すると、そこに、友人の葉月が声をかけてきた。

 いつものように、一緒にお弁当を食べていた葉月は、兄の恋のことを知っていて、尚且つ、一緒に兄の女装服を選びに行ってくれた、唯一の理解者。

 華にとっては、まさに女神のような親友だ。

「だって、うちのお兄ちゃんが、今まで彼女作らなかったの、私たちのせいだよ」

 そして、葉月の言葉に、華は、より深いため息をついた。

 と言っても、隆臣さんの話だと、彼女はいたらしい。

 でも、それも、自分たちを優先してたから、うまくいかなかったってことだろう。

「このままじゃ、お兄ちゃん、一生、結婚できないよ」

「結婚ねぇ……でも、飛鳥さんと結婚したい女子なら、山のようにいるでしょ」

「そうだけど! でも、誰でもいいって訳じゃないでしょ! お兄ちゃんが、幸せになれる人じゃなきゃ許さない!」

「華って、ほんと、ブラコンだよね?」

「ブラコンじゃないし!」

「いやいや、ブラコンだって。それよりさ、華の方は、どうなの?」

「え? 私?」

「うん。さかきと、あれから、どうなったの?」
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

真夜中の仕出し屋さん~料理上手な狛犬様と暮らすことになりました~

椿蛍
キャラ文芸
「結婚するか、化け物屋敷を管理するか」 仕事を辞めた私に、父は二つの選択肢を迫った。 料亭『吉浪』に働いて六年。 挫折し、料理を作れなくなってしまった―― 結婚を断り、私が選んだのは、化け物屋敷と父が呼ぶ、亡くなった祖父の家へ行くことだった。 祖父が亡くなって、店は閉まっているはずだったけれど、なぜか店は開いていて―― 初出:2024.5.10~ ※他サイト様に投稿したものを大幅改稿しております。

クラスメイトの美少女と無人島に流された件

桜井正宗
青春
 修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。  高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。  どうやら、漂流して流されていたようだった。  帰ろうにも島は『無人島』。  しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。  男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

裏切りの代償

中岡 始
キャラ文芸
かつて夫と共に立ち上げたベンチャー企業「ネクサスラボ」。奏は結婚を機に経営の第一線を退き、専業主婦として家庭を支えてきた。しかし、平穏だった生活は夫・尚紀の裏切りによって一変する。彼の部下であり不倫相手の優美が、会社を混乱に陥れつつあったのだ。 尚紀の冷たい態度と優美の挑発に苦しむ中、奏は再び経営者としての力を取り戻す決意をする。裏切りの証拠を集め、かつての仲間や信頼できる協力者たちと連携しながら、会社を立て直すための計画を進める奏。だが、それは尚紀と優美の野望を徹底的に打ち砕く覚悟でもあった。 取締役会での対決、揺れる社内外の信頼、そして壊れた夫婦の絆の果てに待つのは――。 自分の誇りと未来を取り戻すため、すべてを賭けて挑む奏の闘い。復讐の果てに見える新たな希望と、繊細な人間ドラマが交錯する物語がここに。

我が家の家庭内順位は姫、犬、おっさんの順の様だがおかしい俺は家主だぞそんなの絶対に認めないからそんな目で俺を見るな

ミドリ
キャラ文芸
【奨励賞受賞作品です】 少し昔の下北沢を舞台に繰り広げられるおっさんが妖の闘争に巻き込まれる現代ファンタジー。 次々と増える居候におっさんの財布はいつまで耐えられるのか。 姫様に喋る犬、白蛇にイケメンまで来てしまって部屋はもうぎゅうぎゅう。 笑いあり涙ありのほのぼの時折ドキドキ溺愛ストーリー。ただのおっさん、三種の神器を手にバトルだって体に鞭打って頑張ります。 なろう・ノベプラ・カクヨムにて掲載中

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

処理中です...