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第11章 恋と雨音
第433話 デートと最終手段
しおりを挟むゴールデンウィークが過ぎ去った頃。
あかりは、自宅でスマホを見つめながら、頭を悩ませていた。
ベッドの上で、壁に持たれかかりながら見ていたのは、引越や賃貸物件などが載った情報のサイトだ。
先日の大野の件で、さらに危機感を高めたあかりは、早く引っ越したいをばかりに、ネットの情報を読み漁っていた。
だが、やはり引っ越すとなると、それなりにお金がかかる。
アルバイトを始めたはいいが、まだ働き始めたばかりのため、引越し費用が貯めるには、まだしばらくかかりそうだった。
「うーん……シフトを増やせば、もう少し早く貯まるだろうけど、それで、勉強がおろそかになったら、まずいし……はぁ~~」
深~~~い溜息が漏れる。
今は、飛鳥が、彼氏のフリをしているから、大野も、あの程度で(それでもヤバいくらいが)済んでいる。
だが、だからと言って、いつまでも飛鳥に頼るわけにはいかない。
なぜなら──
(早くなんとかしなきゃ……これ以上、神木さんの傍にいたら、どうにかなっちゃいそう……っ)
頬を赤らめながら、あかりは、ここ最近の飛鳥の言動や行動を思い出した。
両思いだと気づかれてから、触れてくる指先も、囁かれる声も、何もかもが甘すぎるのだ。
しかも、顔面偏差値が、異常に高すぎるせいで、今となっては、目をあわせるだけで、ドキドキしてしまう。
昔は、あの顔をみても、なんの感情も抱かなかったのに、どうして、こうなってしまったのか!?
「はぁ……せめて、あの顔が、カボチャにでもなってくれたらいいのに……っ」
こんなことを言ったら、彼のファンに刺されそうだが、千年に一度の美男子と言われるほどの外見と、イケボの最強コンボ!
そして、そんな王子様のような煌びやかな美男子に、会う度に口説かれるのだ。
もう、首から上が、苦手なカボチャにでもなってくれなければ、身が持たない!
というか、普通は、フラれたら距離をおきたくなるものでは?
それなのに、フラれてからの立ち直りが早すぎた!
てか、イケメンて、あんなに立ち直りが早いの!?
もはや、見た目だけじゃなく、メンタルも最強なの!?
(あ……でも、メンタルは最強ではないか…ミサさんに、あんなに脅えてたし)
だが、ふと昔のことを思い出した。
初めて、飛鳥が、あかりの家にきた時のこと。
ミサを見て過呼吸を起こし倒れた飛鳥を、あかりは、家に招き入れ、介抱した。
あの時の彼は、すごく弱々しくて、見ていられなかった。それに──
『もう大丈夫……』
そう言って、笑った彼を見て、このまま帰してはいけないと思った。
ほっとけなかった。
なにより、怖くなった。
大丈夫じゃないのに『大丈夫』だと笑う彼を見て、あや姉のことを、思い出してしまった。
あの日、私に『大丈夫』といって
その日の夜に、命をたってしまった
あや姉を──…
──ピロン!
瞬間、スマホが音を立てた。
アプリを変え、受信したばかりのLIMEを見れば
【来週のデートだけど、待ち合わせは、10時に桜聖駅でいい?】
と、飛鳥のメッセージが表示されていて、あかりは、またもや頬を赤らめる。
「デ、デート……」
そして、その言葉に、酷く動揺する。
確かに、デートの約束をした。
先日、大野さんに粘着され、口裏をあわせるためにもデートをしておこうと、とりつけられた約束。
そして、ゴールデンウィークは人がごった返すためやめておこうと、連休開けに行くことなり、来週の木曜日に、隣町の映画館に二人で行くと話をまとめた。
そして、これが、その待ち合わせ場所を確認するメッセージなのだが……
「ほ、本当に、行くんだ……っ」
約束をしたのだから、今更、嫌とは言わないが、デートなどと言われると、否応なしに意識させられてしまう。
「っ……神木さん、あなたにとっては、デートなんてたいしたことじゃないでしょうけど……私にとっては、初めてのことなんですよ」
スマホを握りしめながら、小さく呟く。
何人も彼女がいた(らしい)神木さんにとっては、デートなんて、たいしたことではないかもしれない。
だけど、男性と付き合った経験がないあかりにとって、デートをするのは初めてのことだった。
いや、デートだけじゃない。
男の人を家にあげたのも
手を繋ないだのも
抱きしめられたのも
全部全部、初めてのことで
気がつけば、自分の初めてを、根こそぎ、彼が奪っていく。
その上、デートだなんて──
「どうしよう……っ」
本当に、デートなんてして大丈夫なのか?
飛鳥からのメッセージを見て、あかりは不安になる。
お互いに、両思いだと自覚したからか、飛鳥は、必要以上に、あかりを甘やかしてくる。
そして、甘やかさればされるほど、この気持ちが、どんどん大きくなっていくのが分かる。
だが、この気持ちを、受け入れてはいけないからこそ、あかりは苦悩していた。
(なんとかしなきゃ……このままじゃ、いつか流さるままに、OKしてしちゃいそう……!)
そう、気がつけば、言葉巧みに誘導されているのだ。
そのせいで、先日は、キスまでしそうになった!
何を血迷っていたのか!?
バカなのか、私は!!
しかも、それだけでなく、デートの約束までしてしまい、あかりは、完全に飛鳥に流されていた。
そう、このままでは、いつか『付き合う』とまで、いわされてしまいそうだ!!
「あーー、ダメダメ! それだけは、絶っっ対にダメ! もう、こうなったら、最終手段にでるしか……!」
すると、あかりは、それを回避すべく、新たな方法を考えついた。
このまま、流される訳にはいかない!
なにより、彼は『待つ』と言ったが、待たせるつもりすらないのだ!
だって、この先、雨が降ろうが、槍が降ろうが、私が神木さんと付き合うことは、一生ないのだから──!
***
そして、そうと決めたあかりは、次の日のバイト終わりに、また隆臣に泣きついていた。
「橘さん! 折り入って、ご相談があるのですが! 良かったら私に、神木さんの嫌いな女の子のタイプを教えていただけませんか!?」
「…………」
そして、そんなあかりと飛鳥の間に、板挟みになってしまった隆臣は、この先、更に悩まされることになるのだった。
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