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番外編
ミサさんとBL②
しおりを挟む「……はぁ」
仕事中、ミサはデスクに向かったまま、ため息を吐いた。
今朝は、とんでもない所を目撃してしまった。もう、あれは完全に恋人同士だった。
(あんな人目のつくところで、堂々と……飛鳥ったら、よっぽど隆臣君のことが好きなのね)
ちょっと驚いた。飛鳥は美人だから、隆臣くんの方が飛鳥にメロメロなのかと思っていたが、まさか飛鳥の方が隆臣にゾッコンだったとは!
だが、今さら何を慌てる必要があるのか。
昨日、隆臣に『飛鳥のことを頼みます』と託した後なのだから、もう、やるべき事は一つしかない!
そう、今すべきことは、飛鳥の恋を応援すること!!
(…………あ、でも私、男同士の恋愛って、あまりよくわからないのよね)
だが、そう決意しつつも、ミサはふむ考える。
息子の事は、しっかり理解したいが、あいにく自分の周りに、男同士って付き合ってる人はいなかった。
男同士……いや、同性を好きになるのは、一体、どういう感覚なのだろう。男女の恋愛しか知らないミサには、その気持ちがハッキリと分からない。
(小学校から付き合ってるみたいだけど、なにか、きっかけとかあったのかしら?)
「紺野さん、どうしたんですか?」
「え!?」
すると、隣のデスクにいた女子社員が、突然話しかけてきた。どうやら、気難しい顔をしていたからか、心配になったらしい。
そして、その声がきっかけになったのか、他の社員たちも、ワラワラとミサの周りに集まってきた。
「紺野さん、大丈夫ですか? 悩みがあるなら相談にのりますよ!」
「そうっすよ! 困ったことがあれば、俺たち力になりますから!」
「みんな……っ」
優しく声をかける同僚たちに、ミサの心はじわりと熱くなる。
確かに、みんなに相談すれば、解決するかもしれない。これだけ人がいるのだ、男同士の恋愛に詳しい人も、きっといるに違いない!
「あの、実は……」
するとミサは、縋るように見つめた。飛鳥と同じく澄んだ美しい瞳が、同僚たちに向けられる。
その瞳は、少し潤んでいて、どこか儚げで、それは、今にも心臓を射抜かれてさしまうほどに美しい。
だが、軽く悩殺しつつも、ミサは押し黙った。そう、ミサはまだ、自分に息子がいることを伝えていなかった!!
(そうだわ。飛鳥のこと話してないし)
それなのに、いきなり21歳の息子がいると打ち明け、その上、その息子が、男と付き合っていると話したら、みんな混乱するのでは??
(ど、どうしよう。きっと、驚かせてしまうわよね……?)
「紺野さん?」
「あ、えっと、ごめんなさい! なんでもないの!」
するとミサは、咄嗟に話をそらし、相談するのを踏みとどまった。
◇
そして、それから数時間後、仕事が終わったミサは、帰り際に、本屋によっていた。
飛鳥のためにもしっかりとした知識を身につけておきたい。そう思って、同性愛についての本を買いにきたのだ。
(やっぱり、LGBTに関する本は、読んでおくべきよね)
ちなみに『LGBT』とは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーの頭文字をとった言葉で、いわゆる、セクシャルマイノリティを表す言葉だ。
やはり、勉強するなら本に限る。朝の飛鳥と隆臣な姿を思いつかべつつ、その関連書を2冊ほど手にしたミサは、足早にレジに向かった。
だが、その道中、ふと『ボーイズラブ』と書かれた棚が目に入った。
(ボーイズラブ?……って、確か男の子同士の恋愛を描いた作品のことよね?)
そう、まさに今の飛鳥と隆臣くんだ!
そう思うと、ミサは、まるで吸い寄せられるようにボーイズラブの棚の前に立った。
2スパン、本棚2つ分のスペースに、漫画や小説など、BLに関する本が、ぎっしりと並んでいる。
ミサは、その量に圧倒されながらも、資料は一つでも多い方がいいだろうと、目の前にある漫画を手に取った。
表紙を見れば、イケメンの男の子が二人、少し際どい姿で描かれていた。背の高い男子が、服を乱だされた女顔の男の子を、後ろから抱き込むような表紙だ。
そして、その二人は、どことなく飛鳥と隆臣くんに似ているようにも見えた。しかし……
(あれ? これR指定? でも、そんな表記はないし……)
思ったより官能的な表紙に、軽く戸惑った。中身は健全なのかもしれないだが、この表紙の漫画をレジに持って行くのは、少々恥ずかしい。
(ど、どうしよう……っ)
真面目な本と本の間に隠して、レジまで持っていこうか?いや、なんだその思春期の男子みたいな隠し方!?
しかも、隠したところで、本屋の店員には見られてしまう!
だが、しかし、これも全て飛鳥ためだ!!
なにより、今の自分は、母親として最下層!
これ以上、飛鳥に嫌われないためにも、しっかりとBLについて学んでおきたい!!
(何を躊躇ってるの? 飛鳥の恋を応援するってきめたじゃない! それに、私、もう42なのよ? AVだろうが、エロ本だろうが、堂々とレジに持っていっても許される年齢なのよ!)
そうです。見た目は20代だが、もういい歳です。いわゆるオバチャンです。
若い子じゃあるまいし、結婚も出産も経験している女が、何を恥ずかしかっているのか!?
(ちょっと表紙は際どいけど、恥ずかしがることはないわ。堂々レジに持っていけばいいのよ。だいたい、これだけ店にあるなら、みんな買ってるってことだわ)
するとミサは、ついにBL漫画を買う決意を固めた!
だが、その時──
「ねぇ、あのお姉さん、めっちゃ美人じゃない?」
「ハーフ? モデルさんみたい」
「……!」
瞬間、背後からコソコソと話し声が聞こえてきた。
③に続く
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