神木さんちのお兄ちゃん!

雪桜

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第10章 お兄ちゃんの失恋

第419話 逃亡と二人きり

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「おはよう、あかり♪」

 そう言って、ニッコリと笑った人物に、あかりは目を見開いた。

 眩いばかりの金色の髪と天使のような笑顔を浮べた、この人物を、知らないわけがない。

 だが、この状況は、どうしても理解できなかった!

(な、なんで?)

 ただただ面を食らい、言葉をなくす。

 だって、先日があったのだ。だからこそ、もう二度と声をかけられることはないと思っていた。

 それなのに、なぜ今! よりにもよって、大学で、声をかけられているのか!?

「ちょっと、あかり。神木先輩と知り合いだったの!?」

 すると、あかりの隣にいた安藤が、驚きつつ話しかけてきた。あかりは、その言葉に酷く動揺しながら

「あ、えっと……っ」

「あかりは、俺のと仲がいいんだよ」

 すると、そんなあかりに代わり、飛鳥が颯爽と答えた。

 見惚れてしまうほどの美しい表情と、心地の良い声。それを真っ向から浴びせられ、安藤が頬を染めながら、飛鳥に言葉を返す。

「い、妹さんと……ですか?」

「うん、近所に住んでて、よく遊んでくれてるみたいなんだ。俺の妹も、あかりのことが大好きみたいで……それより、あかり。この前、俺があかりの家に行っ」

「人違いです!!!」

 瞬間、あかりが叫んだ。

 その妹が、エレナのことを言っているは、もちろんわかっている!
 だが、飛鳥は、あろうことか安藤の前で、とんでもないことを口走ろうとして、あかりは叫ぶと同時に、まるで逃げるように、その場から駆け出した。

 いや、逃げるじゃない。
 完全に

 すると、いきなり駆け出したあかりと、逃げられた飛鳥を見て、安藤が困惑気味に問いかける。

「あの……人違いって、言ってますけど?」

「うーん、人違いだったのかなー? もしかしたら、あかりちゃんだったのかも?」

「え?」

「また妹に確認してみるよ。ごめんね、人騒がせなことして!」

「え!? いえ、大丈夫です!」

 どうやら、本当に人違いかだったのか?

 お茶目な反応を返す飛鳥を見て『何だこの人、可愛いな!』などと安藤が思っていると、飛鳥は、明るく謝罪の言葉を伝え、あかりが向かった方に走って行った。

 そして安藤は、そんな飛鳥を見送りながら

(……やっぱり神木先輩は、そこら辺の男たちとは違うなー)

 こんなに間近で見たのも、話をしたのも初めてだった。
 だが、抜群の容姿に、人なっこい笑顔、更に人違いなんてしてしまう、人間味のある愛らしさ!

 それはまさに、一瞬で人を魅了してしまうほどの人気者だ!──と、安藤は、しみじみ思ったのだった。



 ◇

 ◇

 ◇


「はぁ……はぁ……っ」

 その後、あかりは、荷物を抱えたまま走り回り、人けのない校舎裏に逃げ込んでいた。

 人目につかない場所まで来たからか、ここなら大丈夫だろうと、足を止め壁に手をつくと、あかりは、乱れた呼吸を必死なって整える。

 だが、頭の中は、もうパニックだった。
 何が起こったか、よく分からない!!

(な、なに、どういうこと? しかも、神木さん、私の家に来た時の話をしようとしてた!?)

 オマケに、とんでもない話を暴露されそうになり、あかりは震え上がった。

 なぜなら、あかりは一人暮らしだ。
 しかも、そのことを安藤も知っている。

 それなのに、一人暮らしの女の家に、大学一の人気者が来ていたなんて知られたら、一体どうなってしまうのか!?

 というか、下手をすれば、友達以上の関係では!?と疑われてしまうのでは!?

(か、神木さん、なに考えてるの?)

 行動が読めず、あかりは困り果てた。
 もしかして、嫌がらせか?

 あんなに酷いフリ方をしたのだ。ありえない話ではない。だが──

(フラれた腹いせに、嫌がらせをするなんて、神木さんが、そんなに器の小さいことするかな?)

「あかり!」

「ひぃ!?!」

 だが、その瞬間、背後から声をかけられた。

 ビクッと跳ね上がり、あかりが、恐る恐る振り返ると、そこには案の定、飛鳥がいて

「きゃああああああああああ!! な、なんなんですか、さっきから!!」

「あー、待って。あんまり大きな声出さないで。俺、今日は二日酔いで頭痛いんだよね」

「知りませんよ、そんなこと!!」

 二日酔い!? だったら、大人しく講義室に向かうか、家で休んでいた方がいいのでは!?

 あかりは、心の中でツッコんだ。

 だが、二日酔いといいつつも、額に手を当て、気だるそうにする姿が、思いのほか色っぽく、二日酔いで頭が痛い男というよりは、むしろ、悩み多き美青年!

「そ、それより、大学では声をかけないでと、前にいったはずですが……っ」

 だが、そんな色気にも一切ひるまず、あかりが抗議する。
 これまで、大学では他人のフリを貫いてきた。
 それなのに……

「じゃぁ、電話すればでてくれたの?」

「う……っ」

 だが、その抗議も、あっさり飲み込まされた。
 もし、電話が来たら?

(で、でない気がする……っ)

「多分、と思ったから、直接話しかけたんだけど」

 見抜かれてる!
 なんか、完全に見抜かれてる!?

「だからって、あんな人の多い場所で」

「じゃぁ、どこならよかったの? ここみたいに、なら、よかった?」

「……ッ」

 瞬間、一気に脈拍が跳ね上がった。

 二人っきり──そう言われ、辺りを見やれば、人は誰もいなかった。

 無理もない。人けのない場所を、わざわざ選んで逃げてきたのだから。だが、計らずともあかりは、今、飛鳥と二人っきりになってしまったわけで……

「それとも、俺と二人っきりになりたかったとか?」

「な、なにいってるんですか!?」

「ていうか、さっきの『人違い』って、なに。どう誤魔化そうか、悩んだんだけど」

「し、仕方ないじゃないですか! 神木さんと、仲がいいなんて知られたら」

「知られたら何? 別にいいんじゃない? 実際に、仲がいいわけだし。それに、仮に何か言われたとしても──俺が守るよ」

「……っ」

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