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第10章 お兄ちゃんの失恋
第417話 ため息と本気
しおりを挟む「あ、飛鳥! お前、酒のペース、早くなってないか!?」
落ち込んでいるかと思いきや、突然、愚痴り出した飛鳥を見て、隆臣が慌てて声を上げた。
なぜなら、愚痴りだした途端、飲むペースが、格段に上がったからだ!!
だが、隆臣が停めるのも聞かず、それでも飛鳥は、飲み続け
「はぁ? さっき、たくさん飲めって言ったの誰?」
「いや、明日講義があるから、あまり飲まないっていったの、誰!」
飛鳥を心配し、隆臣が更に反論をするが、飛鳥は、そんな隆臣には目もくれず、グラスに入ったお酒をグビっと飲み干した。
なんてことだ!
これは、思ってたのと違った!?
てっきり、落ちこみまくって、食事も喉を通らないレベルだとおもっていたら
めっちゃ食うし!
めっちゃ飲むし!!
しかし、それ以上に、気になったのは、あかりさんのこと!
まさか、あのあかりさんが──
「ほ、本当なのか? あかりさんが、飛鳥のことが好きって……っ」
予期せぬ事実を知り、隆臣はゴクリと息を飲んだ。
昨日は、なんの進展もなく終わったのかと思っていた。だが、飛鳥はフラれたといいながらも、あかりさんの気持ちを自覚していた。
だが、それが本当だとするなら、飛鳥とあかりさんは、両思いになるわけで……
「すみませーん。ソルティ・ドッグ、一つくださーい!」
「て、聞けよ!?」
だが、その後、個室の外に顔を覗かせ、ニコニコと追加の酒を注文した飛鳥に、隆臣は、またもや、つっこんだ。
「お前、そんなに飲んで、大丈夫か!?」
「そんなにって、まだ二杯目だよ」
「いや、お前二杯でも酔うだろ!? しばらくしたら、スイッチ切れて、子鹿になるだろ!!」
「だから、その子鹿ってなんなの? てか、なんの話だっけ? あー、あかりが俺を好きかって話だよね。好きだよ、あの様子は、絶対」
「ぜ、絶対って……っ」
そこまで言い切れる?
いや、言いきれるほどの確信があるのか?
まぁ、飛鳥は顔がいいし、今まで、モテまくってきたし、いやいや、でも、あかりさんは、飛鳥の顔には靡かないよな!?
ていうか、フラれたんだよな!?
それなのに好きって、どういうこと!?
「ほ、本当なのか? お前、ふられたショックで、やばい妄想してるんじゃ」
「なにそれ。完全にヤバいやつじゃん。本当だよ」
「そ、そうか。でも、好きなら、なんで……っ」
頭がこんがらがり、隆臣が更に問いつめれば、飛鳥は、再び真面目な顔をして考え込んだ。
正直にいえば、昨日から、ずっとそればかり考えていた。
なぜ、あかりは、自分を拒むのか?
もちろん、さっき言ったことに、嘘偽りはない。愛情で縛り付けて、あかりを苦しめたいなんて、一切思わないし、嫌がってるなら、離れるべきなのもわかってる。
だけど、正しい答えはでていても、いつまでたっても、それを納得できないのは、あの時のあかりの表情が、消えないからだ。
『やめてください……それ以上は……言わ…ないで……っ』
自分の告白を、必死に聞きたくないと泣いていた、あの時の弱々しい姿が──…
(はぁ……なんなんだよ、本当)
どうにも理解に苦しみ、飛鳥は、くしゃりと前髪をかきあげた。
サラサラの長い髪は、それにより肩から滑り落ち、飛鳥の色気をさらに引き立てる。
その悩ましい姿は、一枚の絵になりそうなほど。
だが、それからひたすら悩み抜いたあと──
「……もう、やめよ」
「え?」
飛鳥が不意にそう言って、隆臣が反応する。
「え? やめる?」
「うん。もう、ごちゃごちゃ考えるのは、やめる」
すると、ストンとスイッチが切り替わったみたいに、飛鳥が冷静に声を発した。
悩みに悩み抜いて、もう考えることを放棄したのか?
だが、顔を上げた飛鳥は、どこか曇りのない表情をしていた。
「あ……飛鳥?」
「ねぇ、隆ちゃん。両思いなら、もう遠慮する必要ないよね?」
「は?」
そのハッキリとした口調に、隆臣は首を傾げる。
(何、言ってるんだ?)
飛鳥の言葉の意味がわからない。
だが、返事にこまっている隆臣を見つめ、飛鳥は、にっこりと微笑むと
「だから、あかりが俺を好きだっていうなら、もう遠慮なく口説いていいってことだよね?」
「!?」
遠慮なく、口説く!?
まさかの言葉に、隆臣は戦慄する。
てか、さっきと言ってることが違くない!?
「いやいやいや、お前、フラれたんだろ!? てか、さっきは」
「うん、わかってるよ。あかりが俺に、一切気がないっていうなら、潔く諦めてる。だけど、今の状況は、全く理解できないんだよね。両思いなのに、何がダメなのか。なら、もう遠慮なく口説いて、とことん追い詰めてみようかなって。あかりの本心を聞きだすまで──」
そう言った飛鳥は、まるで悪魔のように微笑んだ。
その姿は、いつも以上に、美しく妖艶で、ドキリというよりは、ゾクリとした。
(あ、あかりさん……大丈夫だろうか?)
そして、そんな飛鳥をみて、隆臣は口元を引きつらせた。
どうやら、あかりの対応は、このめんどくさい友人を本気にさせてしまったらしい。
そして、こんなにも愛情深い男に好かれてしまった、あかりの身を酷く案じたのだった。
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