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第9章 恋と別れのリグレット
第410話 恋と別れのリグレット⑪ ~恋~
しおりを挟む「あかりちゃん! 心配してたんだよ!」
それから数日、食事をとれるようになった私は、学校にも行るようになった。
残り少ない中学生活。一週間後に、私たちは卒業する。だからか、あのまま引きこもりにならずに過ごせたのは、よかったと思う。
そして、教室に行けば、案の定、友達の一織ちゃんが、心配そうに駆け寄ってきた。
「よかったー、学校これて!」
「ごめんね、一織ちゃん。LIMEの返事もあまりきなくて」
「うんん! いいんだよ、そんなことは! でも、会えてよかった。あかりちゃん、色々大変だったね。本当に、もう大丈夫なの?」
「………」
大丈夫だったのかは、今でもよく分からない。けど、これ以上、家族にも友達にも、心配はかけたくなかった。
だから、私は笑顔で答えた。
「うん、大丈夫だよ」
でも、そうして笑っている時も、あや姉のことは、片時も離れなかった。
今も胸の奥で、あの日の自分が悲鳴を上げる。
辛い、悲しい。
そして、それと同時に深く後悔する。
どうして私は、あの時、あや姉の言葉を拒絶してしまったのだろう。
あの日、私が気付いていれば、あや姉は、死ななかったかもしれない。
その後悔だけは、どんな慰めの言葉をかけられても、決して消えることはなかった。
いや、消してはいけない。
忘れてはいけない。
忘れたくても、どんなに辛くても、私は忘れてはいけない。
だから、絶対に許さない。
あの日の自分を、絶対に――…
「そういえば、受験はどうなるの?」
「え?」
すると、また一織ちゃんが、問いかけてきて、私は、また笑顔で答えた。
「えーと、追試験を受けられるみたい。だから、あさって受けてくる」
「ホント! よかったー。受験できなかったら、同じ高校いけなくなっちゃうし!」
「いけなくなるって、まだ受かってもいないのに」
「でも、受けられなかったら、それ以前も問題でしょ!」
明るい一織ちゃんと話していると、少しは気分が紛れた。
それを思えば、学校に来たのはよかったのかもしれない。
だって、家の中は、文字通りお通夜状態だったから。
あや姉が亡くなって、私はずっと引きこもってばかりで、父も母も理久も、悲しみと不安でいっぱいだったことだろう。
だからこそ、早急に、立ち上がらなきゃいけなかった。
これ以上、悲しませちゃいけない。
これ以上、家族を不安にさせちゃいけない。
私は、あや姉みたいになっちゃいけない。
だから、立ち上がった。
家族のために。
雪の中に蹲っていたら、いつか雪に埋もれてしまう。
早く、立ち上がらないと、降りつもる雪に押しつぶされて、二度と立ちあがれなくなる。
だから、早く、立ちあがって。
早く、早く、早く――
窒息して死んでしまう前に、前を向かないと――…
「倉色さん……!」
瞬間、男子生徒に声をかけられた。
どこから聞こえたのか分からず、私はあたりをみまわす。
「山野くん……」
すると、それは、前に私に告白してきた山野君だった。
そして、その瞬間『受験が終わったら、連絡先を聞く』と、あや姉と話していたのを思いだした。
(そうだった。ずっと、待たせたままだった……っ)
告白の返事は、まだしていなかった。
ずっと待たせてしまっているのに、それでも山野君は、私を心配して、声をかけてきてくれた。
「も、もう、体調は大丈夫?」
「……うん、大丈夫」
滅多に話しかけてこない山野君の声は、少しぎこちなくて、好きな女の子に話しかける時って、こうなっちゃうものなのかな?
でも、私には、恋というものが、まだよくわからなかった。
好きな人と話して高鳴る感情も、恋をしてトキメク感覚も、何もかも知らない。
でも、きっと、私はそれを知ることなく、人生を終えるのだと思った。
恋への憧れも、女の子らしい些細な夢も、あや姉の死と同時に、どこかへ消え失せてしまった。
だって、あの二人の姿を見て、この先、どうやって、恋なんてできるだろう。
「山野君」
その後、山野くんを見つめて、私は、声を上げていた。
冷えた教室は、みんなの声で騒がしくて、でも、私は山野君の声を聞き逃さないように、真っ直ぐ、その顔をみつめた。
「放課後、話したいことがあって……よかったら、裏庭に来てくれない」
「え……?」
これまでは緊張して、ずっと言えなかった言葉が、今は、はっきりと出てきた。
だって、これ以上、時間を割きべきじゃない。
これ以上、引き伸ばしちゃいけない。
「う、うん! わかった。待ってるから!」
「うん、ありがとう……」
放課後、また裏庭で会う約束をすると、山野君は顔を赤くして走りさった。
そして、それを見て、一織ちゃんが、ちゃかすように耳打ちしてくる。
「ねぇねぇ、ついに、IDきいちゃうの!」
「うんん、聞かない」
「え?」
興奮気味の一織ちゃんに、冷静に言葉を返せば、一織ちゃんは少し驚いた顔をしていた。
「え、なんで? 前は、連絡先交換するって……」
「うん、前はお友達から始めるなんて言ったけど、やっぱりやめる。お付き合いとか考えられないし」
「えー、なんで! 山野くん、いい人じゃん」
「うん。そうだよ、山野君は、いい人……」
だからこそ、もっといい人と巡り合える。
私なんかより、ずっとずっと素敵な人。
だから、今ここで、私なんかに無駄な時間をつかわせる訳にはいかない。
「ごめんね、一織ちゃん。前にダブルデートしたいって言ってたけど、諦めてね」
「えー、なにそれー!」
一織ちゃんが、前に言っていた言葉。
私に彼氏が出来たら『一緒にダブルデートしようね』って。
でも、私は、穏やかに笑いながら、それは、一生叶わないことだと、心の中で謝った。
人は、何のために恋をするのだろう?
何のために、人を愛するのだろう?
それは、いつか
家族を持つためだろうか?
結婚をして
命をつないでいくためだろうか?
なら、私に──もう、恋は必要ない。
この先、ずっと、恋もせず結婚もせず
一人で生きていく。
だって、そうすれば
誰も悲しませずにすむ。
ねぇ、あや姉。
きっと、これが、一番『幸せ』なことだよね?
普通じゃない私たちは
普通の家庭なんて、望むべきじゃなかったんだ。
だから、私は
絶対に、恋はしない。
一生、誰も好きにならない。
だって、恋をしなければ
絶対に、傷つくことはないんだから――…
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